譲渡所得税の計算方法を徹底解説|不動産売却時の税金シミュレーション

公開日: 2025/10/27

譲渡所得税の計算方法とは

不動産を売却する際、「譲渡所得税がいくらかかるのか」「計算方法が分からない」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、譲渡所得税の計算式(譲渡価額-取得費-譲渡費用=譲渡所得)を数値例で分かりやすく解説し、長期・短期の税率の違いと、3,000万円特別控除などの節税対策を、国税庁の公式情報を元に紹介します。

不動産売却時の税金シミュレーションができるようになり、確定申告の手続きもスムーズに進められます。

この記事のポイント

  • 譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)で計算
  • 所有期間5年超=長期譲渡(税率20.315%)、5年以下=短期譲渡(税率39.63%)
  • 所有期間は「譲渡した年の1月1日時点」で判定(実際に5年超でも短期扱いになる場合あり)
  • 居住用財産の3,000万円特別控除で、マイホーム売却時に譲渡所得から最高3,000万円を控除可能
  • 確定申告は譲渡の翌年2月16日~3月15日、期限後申告は無申告加算税15%が課される

譲渡所得税の計算式の3ステップ

譲渡所得税は、不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対して課される税金です。計算は以下の3ステップで行います。

ステップ1: 譲渡価額の確認

譲渡価額は、不動産の売却価格です。

ステップ2: 取得費の計算

取得費は、不動産を購入した際の費用です。

取得費の計算式: 取得費 = 購入価格 + 購入時諸費用 - 減価償却費

購入時諸費用に含まれるもの:

  • 仲介手数料
  • 登録免許税・不動産取得税
  • 測量費・解体費
  • 印紙税

減価償却費:

  • 建物は経年劣化により価値が減少するため、減価償却費を差し引く
  • 土地は減価償却しない

取得費不明の場合: 取得費が分からない場合(相続で取得、契約書紛失等)は、概算取得費として「譲渡価額 × 5%」を使用できます。

例: 譲渡価額5,000万円の場合、概算取得費 = 5,000万円 × 5% = 250万円

ステップ3: 譲渡費用の計算

譲渡費用は、不動産を売却する際にかかった費用です。

譲渡費用に含まれるもの:

  • 仲介手数料
  • 測量費
  • 建物解体費
  • 印紙税
  • 売却のための広告費

譲渡所得の計算式: 譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)

(出典: No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)|国税庁

税率|長期譲渡所得(5年超)と短期譲渡所得(5年以下)

譲渡所得税の税率は、所有期間によって「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に区分されます。

長期譲渡所得(5年超)

所有期間が5年超の場合、長期譲渡所得として税率20.315%が適用されます。

税目 税率
所得税 15%
復興特別所得税 0.315%(所得税×2.1%)
住民税 5%
合計 20.315%

(出典: No.3208 長期譲渡所得の税額の計算|国税庁

短期譲渡所得(5年以下)

所有期間が5年以下の場合、短期譲渡所得として税率39.63%が適用されます。

税目 税率
所得税 30%
復興特別所得税 0.63%(所得税×2.1%)
住民税 9%
合計 39.63%

(出典: No.3211 短期譲渡所得の税額の計算|国税庁

所有期間の判定基準

重要: 所有期間は「譲渡した年の1月1日時点」で判定します。

例:

  • 2019年6月1日に取得、2024年7月1日に譲渡した場合
  • 実際の所有期間: 5年1ヶ月
  • 判定: 2024年1月1日時点では所有期間4年7ヶ月 → 短期譲渡(39.63%)

長期譲渡として扱われるには、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えている必要があります。

特別控除|居住用財産の3,000万円控除

居住用財産(マイホーム)を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。

適用要件

居住用財産の3,000万円特別控除の適用要件は以下の通りです。

  • 自分が住んでいた家を売却(投資用不動産・別荘は対象外)
  • 売却先が配偶者・直系血族でない
  • 前年・前々年にこの特例を受けていない
  • 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡

10年超所有軽減税率との併用

所有期間10年超の居住用財産を売却する場合、3,000万円控除と併用して軽減税率を適用できます。

10年超所有軽減税率:

  • 6,000万円以下の部分: 14.21%(所得税10% + 復興特別所得税0.21% + 住民税4%)
  • 6,000万円超の部分: 20.315%(通常の長期譲渡と同じ)

(出典: No.3223 譲渡所得の特別控除の種類|国税庁

計算例|具体的な数値でシミュレーション

具体的な数値例で譲渡所得税を計算します。

例1: 長期譲渡・3,000万円控除適用

条件:

  • 譲渡価額: 5,000万円
  • 取得費: 3,000万円(購入価格2,800万円 + 購入時諸費用200万円)
  • 譲渡費用: 180万円(仲介手数料等)
  • 所有期間: 6年(長期譲渡)
  • 居住用財産(3,000万円控除適用)

計算:

  1. 譲渡所得 = 5,000万円 - 3,000万円 - 180万円 = 1,820万円
  2. 3,000万円控除適用: 1,820万円 - 3,000万円 = 0円(控除により非課税)
  3. 譲渡所得税: 0円

例2: 長期譲渡・3,000万円控除なし

条件:

  • 譲渡価額: 5,000万円
  • 取得費: 3,000万円
  • 譲渡費用: 180万円
  • 所有期間: 6年(長期譲渡)
  • 投資用不動産(3,000万円控除なし)

計算:

  1. 譲渡所得 = 5,000万円 - 3,000万円 - 180万円 = 1,820万円
  2. 譲渡所得税 = 1,820万円 × 20.315% = 約370万円

例3: 短期譲渡

条件:

  • 譲渡価額: 5,000万円
  • 取得費: 4,000万円
  • 譲渡費用: 180万円
  • 所有期間: 4年(短期譲渡)
  • 投資用不動産(3,000万円控除なし)

計算:

  1. 譲渡所得 = 5,000万円 - 4,000万円 - 180万円 = 820万円
  2. 譲渡所得税 = 820万円 × 39.63% = 約325万円

例4: 取得費不明

条件:

  • 譲渡価額: 5,000万円
  • 取得費: 不明(概算取得費5%を使用)
  • 譲渡費用: 180万円
  • 所有期間: 30年(長期譲渡)
  • 居住用財産(3,000万円控除適用)

計算:

  1. 概算取得費 = 5,000万円 × 5% = 250万円
  2. 譲渡所得 = 5,000万円 - 250万円 - 180万円 = 4,570万円
  3. 3,000万円控除適用: 4,570万円 - 3,000万円 = 1,570万円
  4. 譲渡所得税 = 1,570万円 × 20.315% = 約319万円

確定申告の手続きと必要書類

譲渡所得税は、確定申告で納税します。

申告期限

確定申告の期限は、譲渡の翌年2月16日~3月15日です。

例: 2025年中に譲渡した場合、2026年2月16日~3月15日に申告・納税

必要書類

確定申告に必要な書類は以下の通りです。

  • 確定申告書第一表・第二表
  • 確定申告書第三表(分離課税用)
  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書の写し(売却時・購入時)
  • 仲介手数料等の領収書
  • 登記事項証明書
  • 居住用財産の特例を適用する場合: 住民票の写し

(出典: 令和6年分譲渡所得の申告のしかた|国税庁

延滞税のリスク

申告期限を過ぎると、無申告加算税15%(50万円までは15%、50万円超は20%)と延滞税が課されます。期限内に申告することが重要です。

まとめ|譲渡所得税の計算と節税対策

譲渡所得税は、「譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)= 譲渡所得」で計算します。所有期間5年超=長期譲渡(税率20.315%)、5年以下=短期譲渡(税率39.63%)であり、判定は「譲渡した年の1月1日時点」で行います。

居住用財産を売却する場合、3,000万円特別控除を活用することで、譲渡所得から最高3,000万円を控除でき、大幅な節税が可能です。所有期間10年超なら軽減税率(14.21%)も併用できます。

確定申告は譲渡の翌年2月16日~3月15日に行い、期限を過ぎると無申告加算税15%が課されます。取得費が不明な場合は概算取得費(譲渡価額×5%)を使用できますが、税負担が大きくなる可能性があるため、早めに税理士へ相談することをおすすめします。

よくある質問

Q1所有期間5年ちょうどの場合、長期譲渡ですか?

A1所有期間の判定は「譲渡した年の1月1日時点」で行います。例えば、2019年6月1日に取得し2024年6月1日に譲渡した場合、実際の所有期間は5年ちょうどですが、2024年1月1日時点では4年7ヶ月のため短期譲渡(39.63%)となります。長期譲渡として扱われるには、譲渡した年の1月1日時点で5年超が必要です。

Q2取得費が分からない場合はどうすればいいですか?

A2取得費が不明な場合(相続で取得、契約書紛失等)は、概算取得費として「譲渡価額 × 5%」を使用できます。例えば、譲渡価額5,000万円の場合、概算取得費は250万円です。ただし、実際の取得費より低くなる可能性が高く、税負担が増えます。契約書や領収書を探すか、金融機関の記録を確認することをおすすめします。

Q33,000万円控除は投資用不動産にも使えますか?

A3いいえ、使えません。3,000万円特別控除は「居住用財産」(マイホーム)を売却した場合のみ適用されます。投資用不動産や別荘は対象外です。また、売却先が配偶者・直系血族でないこと、前年・前々年にこの特例を受けていないこと等の要件も満たす必要があります。

Q4確定申告を忘れた場合どうなりますか?

A4確定申告の期限(譲渡の翌年2月16日~3月15日)を過ぎると、無申告加算税15%(50万円までは15%、50万円超は20%)と延滞税が課されます。例えば、譲渡所得税100万円の場合、無申告加算税15万円 + 延滞税が追加で課されます。気づいた時点で速やかに申告(期限後申告)を行うことが重要です。

Q5減価償却費の計算方法は?

A5建物の減価償却費は「建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数」で計算します。償却率は建物の構造により異なり、木造は0.031、鉄筋コンクリート造は0.015等です。例えば、木造建物2,000万円を10年所有した場合、減価償却費 = 2,000万円 × 0.9 × 0.031 × 10年 = 約558万円となります。詳細は国税庁の「減価償却資産の償却率表」を参照してください。