譲渡所得税とは|不動産売却時に課される税金の仕組み
不動産売却を検討している方にとって、「譲渡所得税がどれくらいかかるか分からず不安」「どのように計算するのか知りたい」という疑問は少なくありません。
この記事では、譲渡所得税の仕組み、計算方法、税率、特例を国税庁の公式情報を元に、初心者向けに解説します。
不動産売却が初めての方でも、税金の概算を把握し、確定申告の必要性を理解できるようになります。
この記事のポイント
- 譲渡所得税は売却価格ではなく、取得費・譲渡費用を差し引いた「譲渡所得」に課税される
- 税率は所有期間により大きく異なる(長期5年超20.315%、短期5年以下39.63%)
- 居住用財産(マイホーム)の3000万円特別控除を活用すれば、譲渡所得が3000万円以下なら税金はゼロ
- 所有期間の判定は「譲渡した年の1月1日時点」で5年超か否かで判定(取得日・譲渡日ではない)
- 譲渡所得が発生した場合、翌年2月16日~3月15日に確定申告が必要
譲渡所得の定義(分離課税)
譲渡所得とは、土地・建物・株式・ゴルフ会員権等の資産を譲渡(売却)することで生じる所得です。不動産の譲渡所得は、他の所得(給与所得等)と分離して課税されます。これを分離課税と呼びます。
重要: 「売却価格=課税額」ではありません。売却価格から取得費・譲渡費用を差し引いた「譲渡所得」に課税されます。
譲渡所得税の構成要素(所得税・住民税・復興特別所得税)
譲渡所得税は以下の3つで構成されます。
- 所得税: 国に納める税金
- 住民税: 都道府県・市区町村に納める税金
- 復興特別所得税: 東日本大震災復興のための税金(2037年まで)
復興特別所得税は基準所得税額の2.1%が上乗せされます。そのため、「長期20%、短期39%」という表現は不正確で、正確には「長期20.315%、短期39.63%」です。
譲渡所得の計算方法|3ステップで理解する
譲渡所得の計算を3ステップで段階的に解説します。
ステップ1:譲渡所得の算出(売却価格-取得費-譲渡費用)
譲渡所得は以下の計算式で算出します。
譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
取得費とは
取得費は、売却した不動産を取得するためにかかった費用です。
取得費に含まれるもの:
- 購入代金
- 購入時の仲介手数料
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 改良費(リフォーム費用等)
建物は減価償却後の金額です。建物は経年劣化するため、購入代金から減価償却費を差し引いた金額を取得費とします。
譲渡費用とは
譲渡費用は、売却のために直接支出した費用です。
譲渡費用に含まれるもの:
- 売却時の仲介手数料
- 印紙税
- 測量費
- 建物解体費
重要: 固定資産税、修繕費、維持管理費は譲渡費用に含まれません。
取得費が不明な場合
古い不動産で購入時の契約書等が残っていない場合、概算取得費(売却価格の5%)を使用できます。
例: 売却価格3000万円の場合、概算取得費は150万円(3000万円 × 5%)
ただし、実際の取得費が5%以上の場合は不利になるため、購入時の契約書等を探すことをおすすめします。見つからない場合は税理士に相談してください。
ステップ2:特別控除の適用(居住用3000万円等)
譲渡所得から特別控除を差し引きます。最も活用されるのが居住用財産の3000万円特別控除です。
居住用財産の3000万円特別控除: 居住用財産(マイホーム)を売却した場合、譲渡所得から最高3000万円を控除できます。所有期間を問わず適用可能です。
この控除により、譲渡所得が3000万円以下なら税金はゼロになります。
ステップ3:税率の適用(短期39.63%、長期20.315%)
特別控除を差し引いた後の譲渡所得に税率を適用します。税率は所有期間により異なります。
| 所有期間 | 区分 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 15% | 0.315% | 5% | 20.315% |
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 30% | 0.63% | 9% | 39.63% |
(出典: 国税庁)
税率の種類|長期譲渡所得と短期譲渡所得の違い
長期譲渡所得(5年超、税率20.315%)
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える場合、長期譲渡所得となります。税率は20.315%です。
税率の内訳:
- 所得税: 15%
- 復興特別所得税: 0.315%(所得税15% × 2.1%)
- 住民税: 5%
短期譲渡所得(5年以下、税率39.63%)
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合、短期譲渡所得となります。税率は39.63%です。
税率の内訳:
- 所得税: 30%
- 復興特別所得税: 0.63%(所得税30% × 2.1%)
- 住民税: 9%
所有期間の判定基準(譲渡した年の1月1日時点)
所有期間の判定基準は「譲渡した年の1月1日時点」で5年超か否かで判定されます。取得日・譲渡日ではありません。
例: 2019年7月に購入、2024年12月に売却した場合
- 実際の所有期間: 5年5ヶ月
- 判定基準: 2024年1月1日時点で所有期間4年7ヶ月 → 短期譲渡所得(39.63%)
例: 2019年7月に購入、2025年2月に売却した場合
- 実際の所有期間: 5年7ヶ月
- 判定基準: 2025年1月1日時点で所有期間5年7ヶ月 → 長期譲渡所得(20.315%)
このように、わずか2ヶ月の売却タイミングの差で税率が約2倍異なります。売却を急がない場合は、所有期間5年超を待つことで大幅に節税できる可能性があります。
特別控除の種類|居住用財産の3000万円控除を中心に
居住用財産の3000万円特別控除(マイホーム売却時)
居住用財産(マイホーム)を売却した場合、譲渡所得から最高3000万円を控除できます。所有期間を問わず適用可能です。
適用要件:
- 自己が居住していた住宅であること
- 居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 売却相手が配偶者・親子等の特別な関係でないこと
詳細は国税庁のウェブサイトで確認してください。
その他の特別控除(公共事業等)
その他、以下の特別控除も存在します。
- 公共事業のための売却: 5000万円控除
- 特定土地区画整理事業等: 2000万円控除
- 特定住宅地造成事業等: 1500万円控除
計算例とシミュレーション|具体的な数値で理解する
3つの具体的なケースで計算例を提示します。
ケース1:長期譲渡所得(5年超、3000万円控除適用)
前提:
- 売却価格: 5000万円
- 取得費: 3000万円
- 譲渡費用: 200万円
- 所有期間: 6年
- 居住用財産
計算:
- 譲渡所得 = 5000万円 - 3000万円 - 200万円 = 1800万円
- 特別控除適用後 = 1800万円 - 3000万円 = 0円(3000万円控除により課税なし)
- 税額 = 0円
ケース2:短期譲渡所得(5年以下、控除なし)
前提:
- 売却価格: 3000万円
- 取得費: 2000万円
- 譲渡費用: 100万円
- 所有期間: 4年
- 非居住用
計算:
- 譲渡所得 = 3000万円 - 2000万円 - 100万円 = 900万円
- 税額 = 900万円 × 39.63% = 約357万円
ケース3:取得費不明の場合(概算取得費5%適用)
前提:
- 売却価格: 2000万円
- 取得費: 不明(概算取得費5%適用)
- 譲渡費用: 100万円
- 所有期間: 10年
- 非居住用
計算:
- 概算取得費 = 2000万円 × 5% = 100万円
- 譲渡所得 = 2000万円 - 100万円 - 100万円 = 1800万円
- 税額 = 1800万円 × 20.315% = 約366万円
重要: 取得費が不明の場合、概算取得費5%を使用すると譲渡所得が大きくなり、税額が高額になります。購入時の契約書等を探すことで大幅に節税できる可能性があります。
確定申告の手続き|必要書類と申告期限
確定申告の期限(2月16日~3月15日)
譲渡所得が発生した場合、翌年2月16日~3月15日に確定申告が必要です。
例: 2025年中に売却した場合、2026年2月16日~3月15日に確定申告
必要書類(売買契約書、登記事項証明書等)
確定申告に必要な書類は以下の通りです。
必須書類:
- 売買契約書(売却時・購入時)
- 登記事項証明書
- 仲介手数料等の領収書
特別控除適用の場合:
- 住民票の写し(居住用財産の3000万円控除)
- 戸籍の附票の写し(居住しなくなった日を証明)
詳細は国税庁の令和6年分譲渡所得の申告のしかたを参照してください。
税理士への相談タイミング
以下のケースでは税理士への相談を推奨します。
- 取得費が不明な場合
- 相続した不動産を売却する場合
- 共有持分を売却する場合
- 複数の特別控除を組み合わせる場合
売却前に税理士に相談することで、節税対策や売却タイミングの判断材料を得られます。
まとめ|売却前に税金の概算を把握しよう
譲渡所得税は売却価格ではなく、取得費・譲渡費用を差し引いた譲渡所得に課税されます。税率は所有期間により大きく異なり、長期(5年超)は20.315%、短期(5年以下)は39.63%です。
居住用財産(マイホーム)の3000万円特別控除を活用すれば、譲渡所得が3000万円以下なら税金はゼロになります。
所有期間の判定は「譲渡した年の1月1日時点」で5年超か否かで判定されるため、売却タイミングの判断材料として重要です。売却を急がない場合は、所有期間5年超を待つことで大幅に節税できる可能性があります。
次のアクション:
- 国税庁の計算シミュレーションツールで税金の概算を確認
- 購入時の契約書等を探し、取得費を正確に把握
- 売却タイミングを検討(所有期間5年超を待つメリット)
- 複雑なケースの場合は税理士に相談
信頼できる税理士に相談しながら、無理のない売却計画を立てましょう。
