不動産権利書とは?紛失時の対処法と登記識別情報の違い

公開日: 2025/11/1

不動産権利書とは何か - 基本的な役割と2005年の制度変更

不動産を相続したり売却したりする際、「権利書が見つからない」と不安になっていませんか。

この記事では、権利書の役割、2005年の制度変更、紛失時の対処法を、法務省日本司法書士会連合会の公式情報を元に解説します。

権利書がなくても不動産取引は可能であること、代替手段が法的に認められていることを理解できます。

この記事のポイント

  • 権利書は所有権を証明する書類ではなく、本人確認の手段である
  • 2005年以前の「登記済証」と2005年以降の「登記識別情報」は役割が同じ
  • 権利書を紛失しても再発行はできないが、3つの代替手段がある
  • 本人確認情報(司法書士による本人確認)が最も確実な対処法

登記済証と登記識別情報の違い - 旧制度と新制度の完全比較

2005年(平成17年)の不動産登記法改正により、権利書の形式が変わりました。

項目 登記済証(旧制度) 登記識別情報(新制度)
形式 紙の原本(赤い登記済印) 12桁の英数字コード
発行時期 2005年以前 2005年以降
紛失時のリスク 原本性喪失 パスワード漏洩リスク
保管方法 金庫・貸金庫等 目隠しシール付き、厳重保管
役割 本人確認手段 本人確認手段(同じ)

(出典: 法務省

両者の役割は同じで、登記申請時に登記名義人本人であることを確認する手段です。「権利書=登記済証の通称」と理解してください。

登記済証(2005年以前)の特徴と赤い登記済印

登記済証は紙の原本で、法務局の赤い登記済印が押印されています。明治時代から使われてきた形式で、多くの方が「権利書」としてイメージするのがこの形式です。

登記識別情報(2005年以降)の特徴とパスワード形式

登記識別情報は12桁の英数字コード(例:ABCD1234EFGH)で、目隠しシールが貼付されています。パスワード形式のため、紙の原本性はなく、第三者に見られないよう厳重に保管する必要があります。

どちらを持っているか確認する方法

不動産を取得した時期で判断します。2005年以前に取得した場合は登記済証、2005年以降に取得した場合は登記識別情報が発行されています。ただし、法務局によっては2005年以降も登記済証を発行していた期間があるため、書類の形式で確認してください。

権利書の役割と必要な場面 - いつ使うのか

権利書が必要になる場面は主に3つです。

売却時の本人確認

不動産を売却する際、所有権移転登記の申請時に権利書(または登記識別情報)が必要です。買主が真の所有者から購入していることを確認するため、法務局が登記名義人本人であることを確認します。

抵当権設定時の本人確認

住宅ローンを組む際、金融機関が不動産に抵当権を設定します。この際も権利書が必要で、登記名義人本人が抵当権設定に同意していることを確認します。

所有権の移転登記時

相続・贈与による所有権移転の際も、権利書が必要です。被相続人の権利書が見つからない場合でも、代替手段(後述)を使用すれば手続き可能です。

重要: 権利書がなくても所有権は失われません。所有権の証明は登記簿謄本(登記事項証明書)で行います。権利書は登記申請時の本人確認手段であり、所有権を証明する書類ではありません。

権利書を紛失した場合の3つの対処法

権利書は再発行できません。ただし、法律で認められた3つの代替手段があり、権利書がなくても不動産取引は可能です。

本人確認情報制度(司法書士による本人確認)

司法書士が本人と面談し、本人確認を行った上で「本人確認情報」という書類を作成します。この書類を法務局に提出することで、権利書の代わりとして認められます。

  • 手順: 司法書士に依頼 → 面談・本人確認 → 本人確認情報の作成 → 登記申請
  • 費用: 5-10万円(司法書士報酬)
  • 所要期間: 1-2週間程度
  • メリット: 最も確実、急いでいる場合に適している
  • デメリット: 費用がかかる

事前通知制度(法務局からの本人確認通知)

法務局が登記名義人宛に本人確認の通知を限定送達郵便で送り、2週間以内に返送することで本人確認を行う制度です。

  • 手順: 登記申請 → 法務局からの通知 → 2週間以内に返送 → 登記完了
  • 費用: 安価(郵送費のみ)
  • 所要期間: 2週間以上
  • メリット: 費用が安い
  • デメリット: 時間がかかる、住所が変わっている場合は通知が届かない

公証人による認証(限定的な場面で使用可能)

公証人が本人確認を行い、私文書の署名の真正を証明する制度です。ただし、対応できる範囲が限定的で、全ての登記申請に使用できるわけではありません。

  • 手順: 公証役場で本人確認 → 認証を受ける → 登記申請
  • 費用: 約3,500円
  • 所要期間: 即日
  • メリット: 費用が安い、即日対応可能
  • デメリット: 対応範囲が限定的

(出典: 法務省日本司法書士会連合会

各対処法の費用・手間・リスク比較 - どれを選ぶべきか

3つの代替手段を比較し、どの方法を選ぶべきか解説します。

項目 本人確認情報 事前通知制度 公証人認証
費用 5-10万円 安価(郵送費) 約3,500円
所要期間 1-2週間 2週間以上 即日
手間 司法書士との面談 郵便の返送 公証役場で手続き
信頼性 最も確実 確実 限定的

選択基準:

  • 急いでいる場合: 本人確認情報(費用5-10万円、1-2週間)
  • 時間に余裕があり費用を抑えたい場合: 事前通知制度(安価、2週間以上)
  • 限定的な登記申請: 公証人認証(約3,500円、即日)

司法書士への相談タイミング:

  • 売却が決まった時点で相談
  • 相続発生時点で被相続人の権利書が見つからない場合、早めに相談

権利書の保管と取り扱い - 紛失を防ぐために

権利書を紛失しないために、以下の4つの注意点を守ってください。

  1. 金庫・銀行の貸金庫に保管: 自宅の金庫または銀行の貸金庫で厳重に保管
  2. 登記識別情報の目隠しシールを剥がさない: 一度剥がすと再貼付できず、12桁のコードが漏洩するリスク
  3. コピーでは代替できない: 権利書の原本性が重要なため、コピーは無効
  4. 第三者に見せない・渡さない: 詐欺や不正登記を防ぐため、信頼できる司法書士以外には見せない

紛失に気づいたらすぐに司法書士に相談し、本人確認情報の作成等の準備を進めることをおすすめします。

まとめ - 権利書紛失でも不動産取引は可能

権利書がなくても不動産売却・取引は可能です。本人確認情報制度、事前通知制度、公証人認証という3つの代替手段が法的に認められています。

権利書紛失に気づいたら早めに司法書士に相談し、売却や相続の予定がある場合は事前に準備することをおすすめします。所有権の証明は登記簿謄本(登記事項証明書)で行うため、権利書がなくても所有権は失われません。

信頼できる司法書士に相談し、自分の状況に合った対処法を選択しましょう。法務局で登記簿謄本を取得し、最新の権利関係を確認することも有効です。

よくある質問

Q1権利書を紛失すると不動産は売却できなくなりますか?

A1いいえ、売却可能です。本人確認情報制度や事前通知制度といった代替手段が法律で認められており、司法書士に依頼すれば権利書なしでも登記手続きを進められます。本人確認情報の作成費用は5-10万円、事前通知制度は安価ですが2週間以上かかります。

Q2権利書は再発行できますか?

A2いいえ、再発行はできません。2005年以前の登記済証も、2005年以降の登記識別情報も、一度紛失すると再発行されません。ただし代替手段(本人確認情報制度、事前通知制度、公証人認証)があるため、不動産取引は可能です。

Q3登記識別情報の目隠しシールを剥がしてしまいましたが大丈夫ですか?

A312桁のコードが漏洩していなければ問題ありません。ただし第三者に見られないよう厳重に保管してください。コピーを作成する場合はコード部分を隠して複写することを推奨します。詐欺や不正登記を防ぐため、信頼できる司法書士以外には見せないでください。

Q4権利書がないと所有権を証明できませんか?

A4いいえ、所有権の証明は登記簿謄本(登記事項証明書)で行います。権利書は所有権を証明する書類ではなく、登記申請時に本人確認を行うための手段です。登記簿謄本は法務局で誰でも取得できます(手数料480-600円)。

Q5相続した不動産の権利書が見つかりません。どうすればよいですか?

A5相続登記(名義変更)の際に本人確認情報制度を利用すれば、権利書がなくても手続き可能です。司法書士に相談し、被相続人の権利書が見つからない旨を伝えてください。本人確認情報の作成費用は5-10万円程度です。