不動産権利書(登記済証)とは何か
不動産を所有している方の中には、「権利書を紛失した」「売却時に権利書が必要か分からない」と不安を感じる方がいらっしゃいます。権利書の重要性や紛失時の対応を正しく理解していないと、不必要に不安を抱いたり、詐欺被害に遭ったりするリスクがあります。
この記事では、不動産権利書(登記済証)の役割、登記識別情報との違い、紛失した場合の対処法、保管方法を、法務省・法務局の公式情報を元に解説します(2025年時点の情報)。
権利書の正しい知識を身につけ、適切に管理・対応できるようになります。
この記事のポイント
- 権利書(登記済証)は2005年以前に発行された紙の証書で、現在は発行されていない(既存のものは有効)
- 2005年の不動産登記法改正により、登記済証から登記識別情報(12桁の英数字)へ移行
- 権利書は「所有権の証明書」ではなく「登記申請時の本人確認書類」であり、紛失しても所有権は失われない
- 紛失した場合は、事前通知制度、司法書士による本人確認情報の提供(費用3-10万円)、公証人による認証で対応可能
- 権利書・登記識別情報は他人に見せない・コピーを取らせない(不正登記のリスク)
不動産権利書(登記済証)とは
権利書の正式名称と役割
一般に「権利書」と呼ばれるものの正式名称は「登記済証」です。2005年以前に不動産の所有権を取得した際、法務局から交付された紙の証書で、法務局の赤いスタンプが押されています。
重要な理解: 権利書は「所有権の証明書」ではありません。権利書の役割は、登記申請時に本人であることを確認するための書類です。
所有権は登記簿に記録されており、権利書を紛失しても所有権は失われません。この点を誤解すると、「権利書を紛失したら所有権を失う」という不安を抱いたり、詐欺被害に遭ったりするリスクがあります。
2005年の不動産登記法改正
2005年の不動産登記法改正により、登記済証(権利書)から「登記識別情報」へ移行しました。
- 2005年以前: 登記済証(紙の証書)を交付
- 2005年以降: 登記識別情報(12桁の英数字)を通知
2005年以降に不動産を取得した方には、権利書ではなく登記識別情報が通知されます。既に持っている権利書は引き続き有効ですが、新たに発行されることはありません。
登記識別情報との違い
形式・発行時期の違い
登記済証(権利書)と登記識別情報の違いを比較表で整理します。
| 項目 | 登記済証(権利書) | 登記識別情報 | 
|---|---|---|
| 形式 | 紙の証書(法務局の赤いスタンプ) | 12桁の英数字 | 
| 発行時期 | 2005年以前 | 2005年以降 | 
| 通知方法 | 登記完了時に交付 | 登記完了時に通知(目隠しシール付き) | 
| 再発行 | 不可 | 不可(失効申出は可能) | 
| 役割 | 登記申請時の本人確認書類 | 登記申請時の本人確認書類 | 
(出典: 法務省)
登記識別情報の通知方法
登記識別情報は、12桁の英数字からなる情報で、登記完了時に通知されます。2015年2月からは、QRコード付きの通知に変更されました。
登記識別情報は、目隠しシールで覆われた状態で通知されます。シールをはがすと12桁の英数字が見えますが、一度はがすと戻せないため、必要な時まではがさないことをおすすめします。
本人確認書類としての役割
権利書(登記済証)も登記識別情報も、役割は同じです。不動産を売却したり、抵当権を設定したりする際に、「登記申請する人が本当の所有者か」を確認するための書類です。
重要: 所有権の証明書ではありません。所有権は登記簿に記録されており、権利書や登記識別情報を紛失しても所有権は失われません。
権利書が必要な場面
権利書(登記済証)または登記識別情報が必要になるのは、以下の場面です。
売却時
不動産を売却する際、所有権移転登記の申請に権利書または登記識別情報が必要です。買主側の司法書士が、売主が本当の所有者かを確認するために提示を求めます。
抵当権設定時
住宅ローンを借りる際、金融機関が不動産に抵当権を設定します。抵当権設定登記の申請に、権利書または登記識別情報が必要です。
贈与・相続時
不動産を贈与する際、または相続で名義変更する際にも、権利書または登記識別情報が必要になる場合があります。
権利書がなくても登記できる
重要: 権利書を紛失しても、代替手段を使えば登記申請は可能です。詳細は次のセクションで説明します。
紛失した場合の対処法
権利書を紛失しても、所有権は失われません。また、以下の代替手段を使えば登記申請が可能です。
事前通知制度
権利書を紛失した場合の最も一般的な代替手段は「事前通知制度」です。
仕組み:
- 権利書なしで登記申請を行う
- 法務局が登記名義人(所有者)の住所に郵送で本人確認の通知を送る
- 登記名義人が2週間以内に「間違いない」旨を返送する
- 返送を確認後、法務局が登記を実行
事前通知制度を利用すれば、費用をかけずに登記申請ができます。ただし、登記完了までに通常より2週間程度余分に時間がかかります。
司法書士による本人確認情報の提供
司法書士が本人確認を行い、「この人が本当の所有者である」という本人確認情報を作成して法務局に提出する方法です。
費用: 一般的な目安として3-10万円程度(司法書士報酬は事務所により異なります)
メリット: 事前通知制度のような待ち時間がなく、通常の登記と同じスピードで完了する
デメリット: 費用がかかる
売却を急いでいる場合や、住所変更により事前通知が届かない可能性がある場合は、この方法を検討します。
公証人による認証
公証役場で公証人が本人確認を行い、認証を行う方法です。
費用: 一般的な目安として3,500円程度(比較的安価)
手続き: 公証役場に出向き、本人確認を受ける
この方法は費用が安い一方、手続きに手間がかかります。
不正登記防止申出
権利書を紛失した際、法務局に「不正登記防止申出」を届け出ることができます。
効果: 3ヶ月間、登記申請があった際に法務局が本人に通知して確認を行う
目的: 紛失した権利書を悪用した不正登記を防止
この届出は、権利書を紛失したことに気づいたら速やかに行うことをおすすめします。
登記識別情報の失効申出
登記識別情報(12桁の英数字)が他人に知られた可能性がある場合、法務局に「失効申出」を届け出ることができます。
効果: 登記識別情報が無効になり、悪用を防止
注意: 一度失効すると復活できない
第三者に登記識別情報を見せてしまった場合や、盗難・紛失の可能性がある場合は、速やかに失効申出を行いましょう。
保管方法と注意点
安全な保管場所
権利書・登記識別情報は、以下のような安全な場所に保管しましょう。
- 銀行の貸金庫: 最も安全(年間数千円-数万円の費用がかかる)
- 自宅の金庫: 耐火性・防盗性の高い金庫
- 司法書士への預託: 司法書士事務所で保管を依頼(費用は事務所により異なる)
他人に見せない・コピーを取らせない
重要な注意点: 権利書や登記識別情報を他人に見せたり、コピーを取らせたりしてはいけません。
理由:
- 権利書や登記識別情報を悪用すると、不正な登記(勝手に売却、抵当権設定等)が可能になる
- 実印や印鑑証明書と組み合わせると、所有者に成りすまして登記申請ができる
万が一不正登記された場合は、速やかに弁護士に相談し、登記の無効を求める法的手続きを取る必要があります。
特に、以下のような場面で注意が必要です。
- 不動産会社や金融機関から「権利書のコピーを提出してください」と言われても、本当に必要か確認する
- 知人に「ちょっと見せて」と言われても断る
- 登記識別情報の目隠しシールは、本当に必要な時まではがさない
定期的に所在確認
権利書や登記識別情報は、売却時や抵当権設定時にしか使わないため、長期間保管したままになりがちです。
定期的(年1回程度)に所在を確認し、紛失していないか確認することをおすすめします。引越しや書類整理の際に紛失するケースが多いため、注意が必要です。
紛失に気づいたら
紛失に気づいたら、以下の対応を検討しましょう。
- 不正登記防止申出: 法務局に届け出て、3ヶ月間監視してもらう
- 登記識別情報の失効申出: 登記識別情報が他人に知られた可能性がある場合
- 司法書士に相談: 売却予定がある場合は、事前に対処法を確認
まとめ:権利書の正しい理解と適切な管理
不動産権利書(登記済証)は、2005年以前に発行された紙の証書で、現在は発行されていません(2005年以降は登記識別情報に移行)。権利書の役割は「所有権の証明書」ではなく「登記申請時の本人確認書類」であり、紛失しても所有権は失われません。
紛失した場合は、①事前通知制度(無料、2週間余分にかかる)、②司法書士による本人確認情報の提供(費用3-10万円)、③公証人による認証(費用3,500円程度)の代替手段で登記申請が可能です。
権利書・登記識別情報は他人に見せない、コピーを取らせない、安全な場所に保管する、定期的に所在確認するという基本ルールを守り、適切に管理しましょう。紛失に気づいたら、不正登記防止申出を速やかに行うことをおすすめします。
