不動産登記法とは
不動産の購入・売却・相続を控えている方は、登記が必要と聞いたことがあるかもしれません。しかし、登記の種類や手続きを詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、不動産登記法の目的、登記の種類、手続きの流れ、自己申請と司法書士依頼の比較を、法務省・法務局の公式情報を元に解説します。
2024年4月施行の相続登記義務化についても言及し、放置リスクを明確に伝えます。
この記事のポイント
- 不動産登記法は不動産の権利関係を公示し、取引の安全と円滑を図る法律
- 登記は対抗要件(第三者に権利を主張するために必要)であり、権利の発生要件ではない
- 主要な登記は表示の登記(義務)と権利の登記(任意だが実務上必須)に分類される
- 2024年4月から相続登記が義務化され、相続から3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象
- 2026年4月から住所・氏名変更登記も義務化される予定
不動産登記法の目的と登記の効力
不動産登記法の目的は、不動産の権利関係を公示し、取引の安全と円滑を図ることです。法務省によると、登記簿に記録された情報は誰でも閲覧できるため、不動産取引の際に権利関係を確認できます。
登記の効力(対抗要件)
登記は対抗要件です。民法177条により、不動産の物権変動は登記をしなければ第三者に対抗できません。
例えば、AさんがBさんに土地を売却した後、Aさんが同じ土地をCさんにも売却した場合(二重譲渡)、BさんとCさんのどちらが所有権を取得するかは、どちらが先に登記したかで決まります。
登記がなくても所有権は取得できますが、第三者に対抗できないため、実務上は登記が必須です。
登記の種類|表示の登記と権利の登記
不動産登記は、表示の登記と権利の登記に分類されます。
表示の登記
表示の登記は、土地・建物の物理的状況(所在、地番、地目、地積等)を記録する登記です。法務省によると、表示の登記は義務で、土地家屋調査士が申請代理を行います。
新築建物の表題登記は、建物完成から1ヶ月以内に申請が必要です。正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料の対象となります。
権利の登記
権利の登記は、所有権・抵当権等の権利関係を記録する登記です。権利の登記は原則として任意ですが、実務上は必須です。
権利の登記は、権利部甲区(所有権)と権利部乙区(所有権以外の権利)に分かれます。
| 区分 | 記録内容 | 主な登記 | 
|---|---|---|
| 権利部甲区 | 所有権に関する事項 | 所有権保存登記、所有権移転登記(売買・相続・贈与) | 
| 権利部乙区 | 所有権以外の権利 | 抵当権設定登記、抵当権抹消登記、地上権、地役権 | 
(出典: 法務省)
主要な登記の種類と手続き
所有権保存登記(新築時)
新築建物の所有権を初めて登記簿に記録する登記です。建物の表題登記完了後に申請します。住宅ローンを利用する場合は、所有権保存登記が必須です。
所有権移転登記(売買・相続・贈与)
不動産の所有者が変わったことを記録する登記です。取得原因(売買・相続・贈与)により必要書類が異なります。
法務省によると、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記が必要で、正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料の対象となります。
過去の相続(2024年3月31日以前)も対象で、2027年3月31日までに登記する必要があります。
抵当権設定登記(住宅ローン利用時)
住宅ローンを利用して不動産を購入する場合、金融機関が不動産に抵当権を設定します。抵当権設定登記により、金融機関は不動産を担保として確保します。
抵当権抹消登記(ローン完済時)
住宅ローンを完済した場合、抵当権を抹消する登記が必要です。金融機関から抵当権抹消に必要な書類が交付されるため、速やかに登記申請することを推奨します。
登記手続きの基本的な流れ
登記手続きは以下の4ステップで進みます。
ステップ1: 必要書類の準備
登記の種類により必要書類が異なりますが、共通書類として以下が必要です。
- 登記識別情報(旧・登記済権利証)
- 固定資産税評価証明書(登録免許税の計算基準)
- 住民票または印鑑証明書
ステップ2: 登記申請書の作成
登記申請書は法務局の公式サイトからダウンロードできます。記載事項は、不動産の所在地・地番、登記の目的、原因、権利者・義務者の氏名・住所等です。
ステップ3: 法務局への申請
登記申請書と必要書類、登録免許税の収入印紙を法務局に提出します。郵送または窓口持参が可能です。オンライン申請も可能ですが、添付書類は郵送または持参が必要です。
ステップ4: 登記完了
申請から1-2週間で登記が完了します。登記識別情報通知(12桁の英数字)が交付されます。この情報は次回の登記申請時に必要なため、大切に保管してください。
自己申請と司法書士依頼の比較
登記申請は本人による自己申請も可能ですが、司法書士に依頼することもできます。それぞれのメリット・デメリットを比較しました。
自己申請のメリット・デメリット
メリット:
- 司法書士報酬(所有権移転登記5-10万円、抵当権設定登記3-5万円)を節約できる
- 簡単な登記(抵当権抹消等)は自己申請が可能
デメリット:
- 書類作成・法務局訪問の手間がかかる
- 書類不備で申請が却下される可能性がある
- 相続関係が複雑な場合は時間がかかる
司法書士依頼のメリット・デメリット
メリット:
- 書類作成の確実性が高い
- 法務局との調整を任せられる
- トラブル防止(書類不備、記載ミス等)
デメリット:
- 報酬(所有権移転登記5-10万円、抵当権設定登記3-5万円)が必要
司法書士法により、登記申請代理業務は司法書士のみが行えます。相続関係が複雑な場合や、不動産の権利関係にトラブルがある場合は、司法書士への依頼を推奨します。
法務局の無料相談(事前予約制)を活用することで、自己申請のハードルを下げることも可能です。
2024年4月施行の相続登記義務化
法務省によると、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。主な内容は以下の通りです。
- 相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記が必要
- 正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料の対象
- 過去の相続(2024年3月31日以前)も対象で、2027年3月31日までに登記が必要
相続人申告登記制度
遺産分割協議が整わない場合は、相続人申告登記制度を利用することで、自分が相続人であることを法務局に申告するだけで義務を履行したとみなされます。遺産分割協議が整った後に正式な相続登記を行います。
2026年4月予定の住所変更登記義務化
法務省によると、2026年4月1日から住所・氏名変更登記も義務化される予定です。
- 住所・氏名変更日から2年以内に登記が必要
- 正当な理由なく期限を過ぎると5万円以下の過料の対象
住所変更登記の手続きを簡素化するため、2025年4月21日から検索用情報(氏名フリガナ・生年月日・メールアドレス等)の提出が義務化されました。
登記を放置するリスク
登記を放置すると、以下のリスクがあります。
- 売却・担保設定ができない: 登記がないと所有権を第三者に主張できないため、不動産の売却や担保設定ができません
- 相続手続きが複雑化: 相続人が死亡してさらに相続が発生すると、相続人が増えて手続きが複雑化します
- 過料のリスク: 相続登記(10万円以下)、住所変更登記(5万円以下)の義務を履行しないと過料の対象となります
まとめ
不動産登記法は不動産の権利関係を公示し、取引の安全を守る重要な法律です。登記は対抗要件であり、第三者に権利を主張するために必要です。
2024年4月から相続登記が義務化され、相続から3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象となります。過去の相続も対象で、2027年3月31日までに登記が必要です。
自己申請も可能ですが、相続関係が複雑な場合や不動産の権利関係にトラブルがある場合は、司法書士への依頼を推奨します。法務局の無料相談を活用しながら、早めに手続きを進めましょう。
