不動産特定共同事業とは何か
「不動産投資に興味があるが、多額の資金が必要で手が出せない」と感じている方は少なくありません。不動産特定共同事業は、少額(数万円〜)から不動産投資に参加できる仕組みです。
この記事では、不動産特定共同事業の仕組み、REITとの違い、メリット・リスクを、国土交通省・金融庁の公式情報を元に解説します。
少額から不動産投資を始めたい方が、安全に投資判断できるようになります。
この記事のポイント
- 不動産特定共同事業は、複数の投資家が出資し不動産運用の利益を分配する仕組み
- 1号事業(事業者が直接保有)と3号事業(SPC経由で倒産隔離)の2つが主要
- REITとの違いは、上場の有無、流動性、価格変動リスク
- 元本保証はなく、元本割れ、流動性リスク、事業者倒産リスクがある
- 国土交通省の許可業者一覧で事業者の許可番号を確認することが重要
不動産特定共同事業の仕組み
不動産特定共同事業は、複数の投資家が出資し、不動産の運用益(賃料収入、売却益等)を分配する仕組みです。不動産特定共同事業法に基づき、国土交通省の許可を受けた事業者のみが提供できます。
1号事業:自ら不動産を保有
1号事業は、事業者が不動産を直接取得・運用し、投資家と直接契約を結ぶ形態です。
特徴:
- 資本金要件: 1億円以上
- 倒産リスク: 事業者が倒産した場合、投資家の出資金が保全されない可能性がある
- 運用方法: 事業者が不動産の管理・運用を行う
国土交通省によると、1号事業は事業者の信用力が重要であり、事業者の財務状況、過去の配当実績を確認することが推奨されます。
3号事業:SPC経由で倒産隔離
3号事業は、SPC(特別目的会社)が不動産を保有し、3号事業者が運用を受託する形態です。
特徴:
- 資本金要件: 5,000万円以上
- 倒産隔離: SPCが不動産を保有するため、3号事業者が倒産してもSPCの資産は保護される
- 運用方法: 3号事業者がSPCから委託を受けて不動産を管理・運用
SPC(特別目的会社)とは、特定の不動産を保有するために設立される会社です。事業者本体が倒産してもSPCの資産は保護されるため、投資家保護が強化されます。
優先劣後システムによる投資家保護
多くの不動産特定共同事業では、「優先劣後システム」を採用しています。これは、一般投資家を「優先出資者」、事業者を「劣後出資者」とすることで、一定範囲の損失を事業者が負担し、投資家を保護する仕組みです。
例:
- 総出資額: 1億円(優先出資8,000万円、劣後出資2,000万円)
- 損失発生: 運用終了時に1,500万円の損失
- 損失負担: 劣後出資2,000万円から1,500万円を負担→優先出資は全額保全
優先劣後システムがあっても、損失が劣後出資を超えた場合は優先出資も元本割れする可能性があります。
注意: 不動産クラウドファンディングは、不動産特定共同事業の一形態です。インターネットを通じて少額(数万円〜)から投資できる点が特徴です。
REITとの違いと投資判断のポイント
不動産特定共同事業とREIT(不動産投資信託)は、どちらも少額から不動産投資に参加できる仕組みですが、大きな違いがあります。
上場の有無と流動性
| 項目 | REIT | 不動産特定共同事業 | 
|---|---|---|
| 上場 | 上場(証券取引所で売買可能) | 非上場 | 
| 流動性 | 高い(市場でいつでも売買可能) | 低い(運用期間中は原則解約不可) | 
| 換金性 | 数日で換金可能 | 運用期間終了まで換金不可 | 
トモタクによると、REITは流動性が高い一方、市場の影響で価格が変動するリスクがあります。不動産特定共同事業は流動性が低い一方、価格変動リスクは限定的です。
最低投資額の違い
| 項目 | REIT | 不動産特定共同事業 | 
|---|---|---|
| 最低投資額 | 数万円〜(1口単位) | 数万円〜(案件により異なる) | 
| 分散投資 | 1口で複数物件に投資 | 案件ごとに投資判断 | 
両者とも少額投資が可能ですが、REITは1口で複数物件に分散投資できる一方、不動産特定共同事業は案件ごとに投資判断が必要です。
価格変動リスクの違い
- REIT: 証券取引所で売買されるため、市場の需給により価格が変動します。リーマンショック時(2008年)には、REITの価格が50%以上下落した銘柄もありました。
- 不動産特定共同事業: 運用期間中は解約できませんが、市場の影響を受けにくく、予定分配率が維持される傾向があります。ただし、物件の収益性が低下した場合は分配金が減少する可能性があります。
投資判断のポイント:
- 流動性重視: REIT(いつでも換金可能)
- 価格変動を抑えたい: 不動産特定共同事業(運用期間固定、価格変動リスク限定的)
- 分散投資: REIT(1口で複数物件)
- 個別物件選択: 不動産特定共同事業(案件ごとに選択)
不動産特定共同事業のメリット
不動産特定共同事業には、以下のメリットがあります。
少額投資が可能
現物不動産投資には数千万〜数億円の資金が必要ですが、不動産特定共同事業は数万円〜数十万円から投資できます。これにより、資金が限られている方でも不動産投資に参加できます。
専門家による運用
不動産の取得、管理、運用は事業者(専門家)が行うため、投資家は物件管理の手間がかかりません。現物不動産投資では、入居者募集、家賃回収、修繕対応等の手間がかかりますが、不動産特定共同事業ではこれらの業務は事業者が行います。
複数物件への分散投資
複数の不動産特定共同事業案件に投資することで、リスク分散が可能です。1つの物件の収益性が低下しても、他の物件でカバーできる可能性があります。
優先劣後システムによる保護
前述の通り、優先劣後システムを採用している案件では、一定範囲の損失を事業者が負担するため、投資家の元本割れリスクが軽減されます。
REITより価格変動が少ない傾向
REITは市場で売買されるため価格が変動しますが、不動産特定共同事業は運用期間固定で予定分配率が維持される傾向があります。ただし、物件の収益性が低下した場合は分配金が減少する可能性があります。
リスクと注意点
不動産特定共同事業には、以下のリスクがあります。
元本保証はない
重要: 不動産特定共同事業は元本保証のない投資商品です。物件の収益性が低下したり、売却価格が想定を下回ったりした場合、元本割れする可能性があります。
「元本保証」「必ず配当」と謳う勧誘は、不動産特定共同事業法違反です。そのような勧誘を受けた場合は、無許可業者の違法勧誘である可能性が高いため、契約しないでください。
流動性リスク
運用期間中は原則として解約できません。例えば、運用期間3年の案件に投資した場合、3年間は資金を引き出せません。急な資金需要が発生しても対応できないため、余裕資金で投資することが重要です。
一部の事業者は買取制度を設けていますが、手数料(投資額の3〜10%程度)がかかる場合が多く、元本を下回る可能性があります。
事業者倒産リスク
1号事業の場合、事業者が倒産すると投資家の出資金が保全されない可能性があります。3号事業の場合は、SPCが不動産を保有するため、3号事業者が倒産してもSPCの資産は保護されますが、運用が停止し、分配金が減少する可能性があります。
無許可業者に注意
不動産特定共同事業を提供できるのは、国土交通省の許可を受けた事業者のみです。無許可業者による違法勧誘の被害が報告されています。
確認方法: 国土交通省の許可業者一覧で事業者の許可番号を確認してください。許可番号が記載されていない業者からの勧誘は、違法勧誘の可能性が高いため、契約しないでください。
金融庁によると、契約前に重要事項説明書面の交付が義務付けられています。この書面でリスク、手数料、運用方針を確認してください。
まとめ:不動産特定共同事業は少額投資の選択肢
不動産特定共同事業は、少額(数万円〜)から不動産投資に参加できる仕組みです。1号事業(事業者が直接保有)と3号事業(SPC経由で倒産隔離)があり、投資家保護の仕組みが異なります。
REITとの違いは、上場の有無、流動性、価格変動リスクです。流動性重視ならREIT、価格変動を抑えたいなら不動産特定共同事業が選択肢となります。
元本保証はなく、元本割れ、流動性リスク、事業者倒産リスクがあることを理解してください。国土交通省の許可業者一覧で事業者の許可番号を確認し、過去の配当実績、優先劣後システムの有無を事前に確認することが重要です。
複数の事業者を比較し、少額から試してみることをおすすめします。
