不動産の相続税評価額とは何か
不動産を相続する際、「相続税がいくらかかるのか」「評価額はどう計算するのか」と不安に感じる方は少なくありません。
相続税評価額は、税法上の評価であり、実際の売却価格(実勢価格)とは異なります。この記事では、国税庁や国土交通省の公式情報を元に、土地・建物の評価方法と小規模宅地等の特例による節税対策を解説します。
評価額の計算方法を理解することで、相続税額を正確に把握し、適切な対策を講じることができます。
この記事のポイント
- 相続税評価額は市場価格とは異なる税法上の評価である
- 土地は路線価方式または倍率方式で評価し、建物は固定資産税評価額をそのまま使用
- 路線価は公示地価の約80%で設定されており、実勢価格より低い
- 小規模宅地等の特例で居住用土地は330㎡まで80%減額可能
- 評価額の計算ミスや特例の適用漏れは税理士への相談で防げる
評価額と実勢価格(市場価格)の違い
相続税評価額は、相続税・贈与税を計算するために税法で定められた評価方法です。実際に不動産を売却する際の価格(実勢価格)とは異なります。
国土交通省の資料によると、土地の価格には以下の4種類があります。
| 価格の種類 | 評価主体 | 目的 | 実勢価格との関係 | 
|---|---|---|---|
| 実勢価格 | 市場 | 実際の取引価格 | 100% | 
| 公示地価 | 国土交通省 | 土地取引の指標 | 100%程度 | 
| 路線価 | 国税庁 | 相続税・贈与税 | 公示地価の約80% | 
| 固定資産税評価額 | 市区町村 | 固定資産税 | 公示地価の約70% | 
相続税評価額は路線価(公示地価の約80%)で算出されるため、実勢価格より低くなります。
なぜ評価額を知る必要があるのか
相続税には基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)があり、遺産総額がこれを超える場合に申告・納税が必要です。不動産の評価額を正確に把握しないと、以下のリスクがあります。
- 過少申告:税務署から指摘を受け、追徴課税や加算税が課される
- 過大納税:本来払わなくて良い税金を支払ってしまう
- 特例の適用漏れ:小規模宅地等の特例を使えば評価額を大幅に減額できるが、申告時に適用しないと使えない
土地の相続税評価方法:路線価方式と倍率方式
路線価方式(路線価 × 面積 × 補正率)
路線価方式は、国税庁が毎年7月に公表する路線価を使用する方法です。路線価は、道路に面した宅地1㎡あたりの評価額を示します。
計算式:評価額 = 路線価 × 面積 × 補正率
補正率には以下のようなものがあります。
- 奥行価格補正率:土地の奥行が標準と異なる場合の調整
- 不整形地補正率:土地の形が不整形な場合の減額
- 間口狭小補正率:道路に面する部分が狭い場合の減額
- がけ地補正率:がけ地の場合の減額
複雑な土地(不整形地、複数の補正率適用が必要等)の評価は専門的な知識が必要です。税理士への相談を推奨します。
倍率方式(固定資産税評価額 × 倍率)
路線価が設定されていない地域(主に郊外や地方)では、倍率方式で評価します。
計算式:評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
倍率は国税庁の財産評価基準書の「評価倍率表」で確認できます。例えば、倍率が1.1なら、固定資産税評価額の1.1倍が相続税評価額となります。
路線価の調べ方
路線価は国税庁の財産評価基準書で確認できます。
- 国税庁「財産評価基準書」にアクセス
- 評価する年(相続開始年)を選択
- 都道府県→市区町村→町名を選択
- 地図上で該当する道路の路線価を確認
路線価は「1㎡あたり千円単位」で表示されます。例えば「300D」なら、1㎡あたり30万円です。
建物の相続税評価方法
固定資産税評価額をそのまま使用
建物の相続税評価額は、市区町村が決定した固定資産税評価額がそのまま使用されます。
固定資産税評価額は、毎年送付される「固定資産税納税通知書」に記載されています。通知書を紛失した場合は、市区町村の資産税課で「固定資産評価証明書」を取得できます(手数料300円程度)。
固定資産税評価額は3年に1度の評価替えが行われます。相続税の計算では、相続開始年度の評価額を使用する原則があります。
賃貸物件の評価減(借家権30%減額)
賃貸物件(アパート、マンション等)の建物は、借家権を考慮して評価額が減額されます。
賃貸建物の評価額 = 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合)
借家権割合は全国一律30%とされているため、賃貸建物の評価額は固定資産税評価額の70%となります。
例:固定資産税評価額1,000万円の賃貸アパート → 相続税評価額 = 1,000万円 × 0.7 = 700万円
小規模宅地等の特例による評価減
小規模宅地等の特例を使うと、相続した土地の評価額を大幅に減額できます。この特例は相続税申告時に適用を選択する必要があり、自動適用ではありません。
居住用宅地(330㎡まで80%減額)
被相続人が居住していた土地について、以下の要件を満たすと330㎡まで80%減額できます。
主な要件:
- 配偶者が取得する場合:無条件で適用
- 同居親族が取得する場合:相続開始から相続税申告期限(10ヶ月)まで継続居住・所有
- 別居親族が取得する場合:「家なき子特例」の要件を満たす必要がある
例:評価額5,000万円の土地(250㎡) → 特例適用後 = 5,000万円 × 0.2 = 1,000万円
事業用宅地(400㎡まで80%減額)
被相続人が事業を行っていた土地について、相続人が事業を継続する場合、400㎡まで80%減額できます。
貸付用宅地(200㎡まで50%減額)
賃貸アパート・マンションの敷地は、200㎡まで50%減額できます。
特例の適用には、相続税申告書に適用要件を満たすことを証明する書類(住民票、賃貸借契約書等)を添付する必要があります。
評価額を知った後の相続税計算と手続き
相続税の基礎控除(3000万円 + 600万円 × 法定相続人数)
評価額を算出後、相続税の基礎控除額を計算します。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
例:法定相続人が配偶者と子2人の計3人 → 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
遺産総額(不動産評価額 + 預貯金 + その他財産)が基礎控除額を超える場合、相続税申告・納税が必要です。
相続税申告の期限と必要書類
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。期限内に申告・納税しないと、延滞税や無申告加算税(最大20%)が課される可能性があります。
主な必要書類:
- 戸籍謄本(被相続人・相続人全員)
- 固定資産評価証明書
- 路線価図・評価倍率表のコピー
- 小規模宅地等の特例を適用する場合:住民票、賃貸借契約書等
注意点とよくある失敗
補正率の適用を省略して評価額を誤る
路線価方式では、補正率の適用が評価額を大きく左右します。奥行が長い土地、不整形地、間口が狭い土地等は補正率で減額されますが、これを見落とすと過大評価となります。
複雑な土地の評価は税理士への相談が必須です。
小規模宅地等の特例の要件を満たさない
小規模宅地等の特例は要件が細かく、誤解して適用すると税務署から指摘を受けます。
- 同居親族の継続居住要件:相続開始から申告期限まで継続して居住・所有が必要
- 事業継続要件:相続開始から申告期限まで事業を継続する必要がある
- 家なき子特例:別居親族が適用を受けるには、過去3年以内に持ち家に住んでいないこと等の要件がある
適用要件は複雑なため、税理士に確認することを推奨します。
親族間低額譲渡のみなし贈与課税リスク
相続税評価額で不動産を売買すれば安全と考える方がいますが、親族間での低額譲渡(時価より著しく低い価格での売買)は「みなし贈与課税」の対象となる可能性があります。
時価の80%未満での売買は贈与とみなされるリスクが高いため、適正価格での取引を心がけましょう。
遺産分割での評価額選択でトラブル
相続税評価額と遺産分割時の評価額が異なる点で、相続人間のトラブルが発生することがあります。
- 相続税評価額:税金計算用(路線価ベース)
- 遺産分割時の評価額:実勢価格ベースで評価されることが多い
遺産分割協議では、不動産鑑定士による鑑定や、複数の不動産会社の査定を参考にすることが推奨されます。
まとめ:評価額計算後の次のアクション
不動産の相続税評価額は、土地(路線価方式・倍率方式)と建物(固定資産税評価額)で計算方法が異なります。小規模宅地等の特例を活用すれば、評価額を大幅に減額できる可能性があります。
評価額を把握した後の推奨アクションは以下の通りです。
- 国税庁サイトで路線価を調べる:財産評価基準書で該当する土地の路線価を確認
- 小規模宅地等の特例の適用要件を確認:居住用330㎡・80%減額等の要件を満たすか確認
- 基礎控除を超える場合は税理士に相談:複雑なケースは専門家の判断が必要
個別具体的な税務判断は税理士法で税理士のみが行えるため、一般論を参考に、個別のケースは必ず税理士に相談しましょう。
