不動産を使った相続税対策とは?評価減の仕組みを理解する
将来の相続に備え、「現金で保有するより不動産で保有した方が相続税が安くなる」と聞いたことがある方は多いでしょう。しかし、不動産による相続税対策は仕組みとリスクの両方を正しく理解した上で実行しないと、かえって資産価値を損なう可能性があります。
この記事では、不動産を活用した相続税対策の基本的な仕組み、小規模宅地等の特例などの重要な制度、2024年の税制改正による変更点、そしてリスクと注意点を、国税庁の公式情報を元に解説します(2025年時点の情報)。
相続税対策を検討している方が、専門家に相談する前に基礎知識を身につけ、自分に合った対策を判断できるようになります。
この記事のポイント
- 不動産は現金と比べて相続税評価額が低くなる(土地は時価の約80%、建物は時価の50-70%で評価)
- 小規模宅地等の特例により、住居用宅地は最大330㎡まで80%減額、貸付事業用宅地は最大200㎡まで50%減額可能
- 2024年1月の税制改正で分譲マンションの評価が時価の最低60%に引き上げられ、タワーマンション節税の効果が縮小
- 不動産には流動性リスク・賃貸不動産の空室リスク・遺産分割トラブルのリスクがある
- 相続税対策は相続発生の3年以上前から準備し、相続専門の税理士に相談することが重要
不動産による相続税評価減の3つの仕組み
不動産の相続税評価額が現金より低くなる理由は、以下の3つの仕組みによります。
土地は路線価で評価(時価の約80%)
土地の相続税評価額は、国税庁が毎年7月に公表する路線価を基準に計算されます。路線価は市場価格(時価)の約80%水準に設定されているため、現金1億円で土地を購入すると、相続税評価額は約8000万円となります。
具体例:
- 現金で保有: 1億円 → 相続税評価額 1億円
- 土地で保有: 1億円 → 相続税評価額 約8000万円(20%減)
路線価は国税庁の財産評価基準書で確認できます。
建物は固定資産税評価額で評価(時価の50-70%)
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額(市町村が決定)を使用します。固定資産税評価額は市場価格の50-70%程度に設定されているため(市町村や築年数により異なる場合があります)、建物も現金と比べて評価が低くなります。
具体例:
- 現金で保有: 5000万円 → 相続税評価額 5000万円
- 建物で保有: 5000万円 → 相続税評価額 約3000万円(40%減)
賃貸不動産はさらに評価減(貸家建付地)
賃貸物件が建つ土地(貸家建付地)は、国税庁の定める計算式により、さらに評価が減額されます。
計算式: 貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借地権割合は地域により30-90%、借家権割合は全国一律30%です。賃貸割合が100%(満室)の場合、約20-30%の評価減となります。
具体例:
- 自用地(自分で使う土地): 評価額 1億円
- 貸家建付地(賃貸物件の土地): 評価額 約7000万円~8000万円(20-30%減)
小規模宅地等の特例で最大80%減額
不動産を使った相続税対策で最も重要な制度が「小規模宅地等の特例」です。国税庁によると、一定の要件を満たす宅地は大幅に評価額を減額できます。
住居用宅地は最大330㎡まで80%減額
被相続人(亡くなった方)の自宅の土地について、配偶者または同居親族が相続する場合、最大330㎡まで評価額を80%減額できます。
具体例:
- 自宅土地の評価額: 5000万円(200㎡)
- 特例適用後: 5000万円 × 20% = 1000万円(4000万円減額)
適用要件:
- 配偶者が相続する場合: 無条件で適用
- 同居親族が相続する場合: 相続開始前から同居し、相続後も居住継続
- 別居親族が相続する場合: 被相続人に配偶者・同居親族がいない等の一定要件
貸付事業用宅地は最大200㎡まで50%減額
賃貸不動産(アパート・駐車場等)の土地について、相続人が貸付事業を継続する場合、最大200㎡まで評価額を50%減額できます。
具体例:
- 賃貸アパートの土地評価額: 4000万円(200㎡)
- 特例適用後: 4000万円 × 50% = 2000万円(2000万円減額)
重要な注意点(3年ルール): 2018年4月以降に貸付を開始した土地は、相続開始まで3年未満の場合、特例が適用されません。相続税対策は早めの準備が必要です。
適用要件と注意点
小規模宅地等の特例は強力な節税効果がありますが、適用要件を満たさないと認められません。
主な適用要件:
- 相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに遺産分割が確定していること
- 特例の適用を受ける宅地を相続税申告書に明記すること
- 住居用宅地の場合、相続後も居住継続(または事業継続)すること
相続後3年以内に不動産を売却すると、節税目的と見なされる可能性があり、特例が否認されるリスクがあります。
債務控除とローンを活用した対策
不動産購入時のローンを活用することで、相続税評価額をさらに圧縮できます。
借入金は相続財産から差し引ける
国税庁によると、住宅ローン等の借入金は相続財産から債務控除として差し引けます。
債務控除の仕組み: 相続税の課税対象 = 相続財産 - 債務(借入金)
具体的な節税効果の計算例
国税庁の債務控除規定に基づき、現金1億円と、借入5000万円+不動産1億円のケースを比較します。
ケース1: 現金で保有
- 相続財産: 1億円
- 相続税評価額: 1億円
ケース2: 借入+不動産で保有
- 相続財産: 不動産1億円(路線価評価で8000万円) - 借入5000万円
- 相続税評価額: 3000万円
このケースでは、7000万円の評価減となり、相続税額を大幅に削減できます。
注意点:
- 借入金利の支払いが発生するため、トータルコストを考慮する必要がある
- 相続人が返済を継続できるか確認が必要
- 過度な借入は資産価値を損なうリスクがある
2024年税制改正とタワーマンション節税の規制強化
相続税対策として利用されてきたタワーマンション節税は、2024年の税制改正で規制が強化されました。
分譲マンション評価が時価の最低60%に変更
国税庁は、2024年1月から分譲マンション(特にタワーマンション)の相続税評価方法を変更しました。
変更内容:
- 従来: 固定資産税評価額をそのまま使用(時価の30-50%程度)
- 2024年以降: 評価額が時価の最低60%に引き上げ
これにより、高層階のタワーマンションなど、時価と固定資産税評価額の乖離が大きい物件の節税効果が大幅に縮小しました。
過度な節税スキームは否認リスクあり
相続後3年以内に不動産を売却した場合や、相続直前に多額の不動産を購入した場合は、税務調査で「節税目的」と見なされ、小規模宅地等の特例が否認されるリスクがあります。
税務調査で問題視されやすいケース:
- 相続開始直前(1年以内)の不動産購入
- 相続後すぐに不動産を売却
- 極端に市場価格と評価額が乖離した物件
バランスの取れた対策を心がけ、専門家(税理士)のアドバイスを受けることが重要です。
不動産を使った相続税対策のリスクと失敗事例
不動産による相続税対策には節税効果がある一方、リスクも存在します。
流動性リスク(すぐに現金化できない)
不動産は現金と違い、すぐに売却して現金化することが困難です。相続税の納税期限(相続開始から10か月以内)までに納税資金が不足するリスクがあります。
対策:
- 納税資金として一定の現金を確保しておく
- 生命保険を活用して納税資金を準備する
賃貸不動産の空室・修繕費リスク
賃貸不動産は空室リスクや修繕費負担があり、資産価値が下落する可能性があります。特に築年数が経過すると、修繕費が増加し、収益性が低下します。
対策:
- 立地条件の良い物件を選ぶ
- 長期修繕計画を立てる
- 管理会社に委託し、空室対策を徹底する
遺産分割トラブルのリスク
不動産は現金と違い分割が困難です。相続人間で不公平感が生じ、遺産分割トラブルに発展するリスクがあります。
対策:
- 生前に遺言書を作成し、不動産の相続人を明確にする
- 代償分割(不動産を相続した人が他の相続人に現金を支払う)を検討
- 生前贈與で段階的に財産移転する
税務調査で否認されるケース
過度な節税は税務調査で否認され、追徴課税される可能性があります。
否認されやすいケース:
- 相続直前の多額の不動産購入
- 相続後すぐの売却
- 実態のない賃貸(親族間の形式的な賃貸契約)
これらのリスクを避けるため、相続専門の税理士に相談し、適切な対策を講じることが重要です。
まとめ:専門家に相談し、バランスの取れた対策を
不動産を使った相続税対策は、正しく活用すれば大きな節税効果があります。土地は路線価(時価の約80%)、建物は固定資産税評価額(時価の50-70%)で評価されるため、現金と比べて相続税評価額が低くなります。小規模宅地等の特例により、住居用宅地は最大80%、貸付事業用宅地は最大50%減額できます。
一方で、2024年の税制改正によりタワーマンション節税の効果は縮小しており、流動性リスク・賃貸不動産の空室リスク・遺産分割トラブルのリスクも存在します。
相続税対策は相続発生の3年以上前から準備し、相続専門の税理士や不動産鑑定士に相談することが重要です。過度な節税は税務調査で否認されるリスクがあるため、バランスの取れた対策を心がけましょう。
次のアクションとして、まず自分の相続財産を棚卸しし、相続税の試算を行ってください。その上で、相続専門の税理士に相談し、自分に合った対策を検討しましょう。
