不動産相続とは?基本の流れを理解しよう
親が亡くなり不動産を相続することになった方、または将来相続する予定の方にとって、「手続きはどうすればいいのか」「相続税はどれくらいかかるのか」と不安に感じることは多いでしょう。
この記事では、不動産相続の全体の流れ、相続登記の義務化(2024年4月施行)、相続税の計算方法、遺産分割の方法を、法務省・国税庁の公式情報を元に解説します。
この記事を読めば、不動産相続の手続きを正しく進め、期限内に完了できるようになります。
この記事のポイント
- 不動産相続の流れは、遺言確認→相続人確定→遺産分割協議→相続登記→相続税申告・納付の順
- 相続登記の義務化(2024年4月施行)により、相続を知った日から3年以内の登記が必要(正当な理由なく怠ると10万円以下の過料)
- 相続税の基礎控除は3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数で、小規模宅地等の特例により居住用宅地の評価額を80%減額できる
- 遺産分割の方法は現物分割・代償分割・換価分割の3種類があり、それぞれメリット・デメリットがある
- 個別具体的な法律判断・税務判断は専門家(弁護士・税理士・司法書士)に相談すること
不動産相続の流れ(相続発生から登記完了まで)
遺言の確認
相続が発生したら、まず遺言の有無を確認します。遺言がある場合は、原則として遺言に従って相続します。遺言がない場合は、法定相続分に従って相続します。
法務省によると、遺言には以下の3種類があります。
| 遺言種別 | 特徴 | 
|---|---|
| 自筆証書遺言 | 遺言者が全文を自筆で作成。保管場所は自宅または法務局(2020年7月以降) | 
| 公正証書遺言 | 公証役場で公証人が作成。原本は公証役場に保管 | 
| 秘密証書遺言 | 遺言者が作成し、公証人が存在を証明。内容は秘密 | 
遺言が自宅保管の場合、家庭裁判所で検認手続きが必要です(公正証書遺言は不要)。
相続人の確定
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得し、相続人を確定します。法定相続人の範囲は以下の通りです。
| 順位 | 相続人 | 法定相続分 | 
|---|---|---|
| 常に相続人 | 配偶者 | 配偶者1/2 + 子1/2 | 
| 第1順位 | 子(子が死亡している場合は孫) | 子が複数なら均等分割 | 
| 第2順位 | 親(子がいない場合) | 配偶者2/3 + 親1/3 | 
| 第3順位 | 兄弟姉妹(子・親がいない場合) | 配偶者3/4 + 兄弟姉妹1/4 | 
遺産分割協議
相続人全員で遺産の分け方を話し合います。全員の合意が必要で、協議書には全員の署名・押印(実印)が必要です。
遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所で調停・審判を行います。詳細は弁護士に相談してください。
相続登記
法務省によると、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記が必要で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。
過去に相続した不動産(2024年4月1日以前)も義務化の対象で、2027年3月31日までに登記が必要です。
相続登記は自分で行うことも可能ですが、司法書士に依頼する場合の報酬相場は5-10万円程度です。
相続税の申告・納付
相続税の申告期限は、相続開始から10ヶ月以内です。基礎控除を超える場合は、税務署に申告・納付が必要です。
相続登記の期限(3年以内)と相続税の申告期限(10ヶ月以内)を混同しないよう注意してください。
相続登記の義務化(2024年4月施行)
義務化の内容と期限
相続登記の義務化は、所有者不明土地の発生を防ぐために導入されました。国土交通省の調査では、全体の20.1%が所有者不明土地であり、社会問題化していました。
義務化の内容は以下の通りです。
- 開始日: 2024年4月1日
- 期限: 相続を知った日から3年以内
- 対象: すべての不動産(土地・建物)
- 罰則: 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料
罰則(10万円以下の過料)
正当な理由なく3年以内に登記しない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。「正当な理由」には、相続人が多数で遺産分割協議に時間がかかる場合等が含まれますが、詳細は法務局に確認してください。
過去の相続への適用(2027年3月31日まで)
2024年4月1日以前に相続した不動産も義務化の対象です。この場合、2027年3月31日までに登記が必要です。
例:
- 2020年に父が死亡し、不動産を相続したが未登記の場合
- 2027年3月31日までに登記が必要
相続人申告登記(暫定的な登記制度)
遺産分割協議が長引く場合、「相続人申告登記」という暫定的な登記制度を利用できます(2024年4月新設)。「自分が相続人である」と申告するだけで義務を果たせる簡易な手続きです。
ただし、最終的には遺産分割協議を完了し、正式な相続登記が必要です。
相続税の計算と申告
相続税の基礎控除
国税庁によると、相続税の基礎控除は以下の計算式で算出します。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
例:
- 法定相続人3人(配偶者・子2人)の場合
- 基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
- 遺産総額が4,800万円以下であれば相続税は非課税
相続税の計算方法
相続税の計算は以下の手順で行います。
- 遺産総額を算出(不動産評価額 + 預金 + 株式等)
- 基礎控除を差し引く
- 法定相続分で分割したと仮定して各相続人の相続税を計算
- 実際の相続割合で按分
具体的な計算は複雑なため、税理士に相談することをおすすめします。
申告期限と納付期限
相続税の申告期限と納付期限は、相続開始から10ヶ月以内です。期限を過ぎると延滞税・無申告加算税が課される可能性があります。
小規模宅地等の特例
国税庁によると、小規模宅地等の特例により、相続した土地の評価額を大幅に減額できます。
| 用途 | 上限面積 | 減額割合 | 
|---|---|---|
| 居住用宅地 | 330㎡ | 80% | 
| 事業用宅地 | 400㎡ | 80% | 
| 貸付事業用宅地 | 200㎡ | 50% | 
例:
- 自宅の土地300㎡、評価額6,000万円の場合
- 特例適用後の評価額 = 6,000万円 × (1 - 80%) = 1,200万円
- 4,800万円の減額
特例の適用には一定の要件(配偶者または同居親族が相続、相続税の申告書を提出等)があるため、詳細は税理士に確認してください。
遺産分割の方法
現物分割(不動産をそのまま相続人の1人が取得)
現物分割は、不動産をそのまま相続人の1人が取得する方法です。シンプルですが、他の相続人との公平性を保つために代償金の支払いが必要になることが多いです。
メリット:
- 不動産を分割せずに済む
- 手続きがシンプル
デメリット:
- 他の相続人との公平性を保ちにくい
- 代償金の資金準備が必要な場合がある
代償分割(不動産を1人が取得し、他の相続人に代償金を支払う)
代償分割は、不動産を相続人の1人が取得し、他の相続人に代償金を支払う方法です。不動産を分割せずに済みますが、代償金の資金準備が必要です。
メリット:
- 不動産を分割せずに済む
- 公平に分けやすい
デメリット:
- 代償金の資金準備が必要
- 代償金の金額で揉める可能性がある
換価分割(不動産を売却して現金化し、相続人間で分ける)
換価分割は、不動産を売却して現金化し、相続人間で分ける方法です。公平に分けやすいですが、売却に時間がかかることや、譲渡所得税が発生する可能性があります。
メリット:
- 公平に分けやすい
- 代償金の資金準備が不要
デメリット:
- 売却に時間がかかる
- 譲渡所得税が発生する可能性がある
- 思い出の家を手放すことになる
まとめ:専門家に相談して円満に相続しよう
不動産相続の流れは、遺言確認→相続人確定→遺産分割協議→相続登記→相続税申告・納付の順です。相続登記の義務化(2024年4月施行)により、3年以内の登記が必要で、過去の相続も2027年3月31日までに登記が必要です。
相続税の基礎控除は3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数で、小規模宅地等の特例により居住用宅地の評価額を80%減額できます。遺産分割の方法は現物分割・代償分割・換価分割の3種類があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
個別具体的な法律判断・税務判断は、弁護士・税理士・司法書士に相談してください。専門家に相談すれば、円満に相続を完了できます。
