相続した不動産を売却する際の税金完全ガイド

公開日: 2025/10/31

相続した不動産を売却する際の税金:相続税と譲渡所得税を理解する

親や親族から不動産を相続した際、「売却したらどんな税金がかかるのか」「税負担はどれくらいになるのか」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、相続不動産を売却する際に関わる相続税と譲渡所得税の仕組み、計算方法、節税制度を、国税庁法務省の公式情報を元に解説します。

初めて相続不動産を扱う方でも、税金の全体像と必要な手続きを正確に把握できるようになります。

この記事のポイント

  • 相続税は相続時に課税され、譲渡所得税は売却時の利益に課税される別の税金
  • 相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月以内、相続登記は3年以内が義務
  • 取得費加算の特例を使えば相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減可能
  • 空き家3,000万円控除も選択肢だが取得費加算の特例と併用不可のため税理士への相談が必須
  • 被相続人の購入価額が不明な場合、売却価格の5%を取得費とみなすため税負担が大幅に増える

相続税の仕組みと申告期限

相続税は、相続財産が基礎控除額を超える場合に課税される税金です。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人数」で計算されます。

例えば、法定相続人が3人の場合、4,800万円まで非課税です。相続財産(不動産・預貯金等)の合計がこの金額を超えた部分に対して相続税が課されます。

申告期限は相続開始から10ヶ月以内

国税庁によると、相続税の申告・納税は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。期限を過ぎると、延滞税や加算税が課されるため注意が必要です。

2024年4月から相続登記が義務化

2024年4月1日から、相続した不動産の登記(名義変更)が義務化されました。法務省によると、相続を知った日から3年以内に申請しないと、10万円以下の過料が課される可能性があります。

不動産を売却するには相続登記が必須ですので、早期に手続きを進めましょう。

譲渡所得税の計算方法:取得費と譲渡費用の算定

譲渡所得税は、不動産を売却して得た利益に対して課される税金です。利益(譲渡所得)は以下の式で計算されます。

譲渡所得 = 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用

短期譲渡(5年以内)と長期譲渡(5年超)の税率

譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間により異なります。

所有期間 税率(所得税+住民税)
短期譲渡(5年以内) 39.63%
長期譲渡(5年超) 20.315%

相続不動産の場合、所有期間は被相続人が取得した日から計算されます。

取得費の考え方(被相続人の購入価額を引き継ぐ)

国税庁によると、相続した不動産の取得費は、被相続人が購入した際の価額(購入代金+購入時の諸費用)を引き継ぎます。

ただし、購入時の契約書や領収書が見つからない場合、売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費5%」が適用されます。この場合、譲渡所得が95%となり、長期譲渡税率20.315%が適用されると売却価格の約19%(95% × 20.315%)が課税されるため、税負担が非常に重くなります。

取得費加算の特例で相続税の一部を取得費に加算

取得費加算の特例は、相続税の一部を譲渡資産の取得費に加算できる制度です。これにより譲渡所得税を軽減できます。

相続開始から3年10ヶ月以内が期限

国税庁によると、この特例を受けるには相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があります。

不動産の売却には通常3-6ヶ月かかるため、相続発生後すぐに売却活動を開始することが重要です。

計算方法と節税効果

取得費加算額は以下の式で計算されます。

取得費加算額 = 相続税額 × (譲渡資産の相続税評価額 ÷ 相続財産の合計額)

この特例により、数百万円〜数千万円の節税効果が期待できる場合があります。

空き家3,000万円控除の活用(2027年12月31日まで)

被相続人の居住用財産(空き家)を一定の条件下で売却すると、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度があります(2025年時点の制度)。

適用要件:被相続人の居住用財産

国税庁によると、以下の要件を満たす必要があります。

  • 被相続人が一人暮らしだった
  • 1981年5月31日以前に建築された建物
  • 耐震リフォーム済みまたは更地で売却
  • 相続開始から3年以内の売却
  • 2027年12月31日までに売却

取得費加算の特例と併用不可

この空き家控除は、取得費加算の特例と併用できません。どちらが有利かは個別の状況により異なるため、必ず税理士に相談して試算してもらうことをおすすめします。

相続不動産売却のタイムラインと注意点

相続発生後のタイムラインを把握し、期限内に手続きを進めることが重要です。

いつまでに何をすべきか

期限 手続き
3ヶ月以内 相続放棄の判断
10ヶ月以内 相続税申告・納税
3年以内 相続登記
3年10ヶ月以内 取得費加算の特例または空き家控除を使った売却

遺産分割協議未完了のリスク

遺産分割協議が未完了の状態で売却すると、後の分割確定時に更正請求や修正申告が必要になり、手続きが複雑化します。一般的には、遺産分割協議を完了させてから売却する方が手続きがスムーズです。

税理士への相談タイミング

相続税と譲渡所得税の計算は複雑で、特例の適用判断には専門知識が必要です。相続発生後すぐに、相続専門の税理士に相談することをおすすめします。

まとめ:専門家に相談し、節税制度を最大限活用する

相続した不動産を売却する際には、相続税と譲渡所得税の両方を考慮する必要があります。取得費加算の特例や空き家3,000万円控除を活用することで、数百万円〜数千万円の節税が期待できる場合があります。

ただし、これらの特例には厳しい期限や要件があるため、早期の相談と行動が必須です。

次のアクションとして、以下をおすすめします。

  • 相続専門の税理士に相談し、最適な売却時期と特例を検討する
  • 国土交通省の不動産情報ライブラリで売却価格の相場を確認する
  • 不動産会社3社以上に査定を依頼し、適正価格を把握する

信頼できる専門家のサポートを受けながら、無理のない売却計画を立てましょう。

よくある質問

Q1相続税と譲渡所得税は両方払う必要がありますか?

A1相続財産が基礎控除額を超える場合は相続税が課税され、さらに不動産を売却して利益が出れば譲渡所得税も課税されます。ただし、取得費加算の特例を使えば相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。節税効果は数百万円以上になる場合もあるため、税理士に相談することをおすすめします。

Q2取得費加算の特例と空き家3,000万円控除はどちらが有利ですか?

A2併用不可のため、個別の状況により有利な方が異なります。一般的には、相続税が高額な場合は取得費加算の特例、譲渡所得が大きい場合は空き家控除が有利です。必ず税理士に相談して試算してもらってください。誤った判断をすると数百万円の損失につながる可能性があります。

Q3被相続人の購入価額が不明な場合どうなりますか?

A3売却価格の5%を取得費とみなす概算取得費5%ルールが適用されます。この場合、譲渡所得が95%となり税負担が非常に重くなる(売却価格の約20%が課税)ため、購入時の契約書や領収書を徹底的に探してください。見つからない場合でも、固定資産税の評価証明書や住宅ローンの契約書等で代用できる場合があります。

Q4相続登記をしないで売却できますか?

A4できません。不動産を売却するには相続人名義への登記(相続登記)が必須です。2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に申請しないと10万円以下の過料が課されるため、早期に手続きしてください。登記手続きは司法書士に依頼するのが一般的で、費用は5-10万円程度です。

Q5遺産分割協議が終わっていない状態で売却できますか?

A5可能ですが推奨しません。遺産分割協議が未完了の状態で売却すると、後の分割確定時に更正請求・修正申告が必要になり手続きが複雑化します。また、共同相続人全員の同意が必要で、後のトラブルの原因にもなります。一般的には、遺産分割協議を完了させてから売却する方が手続きがスムーズです。