不動産の手付金とは?相場・返還ルール・注意点

公開日: 2025/10/27

不動産の手付金とは?契約成立の証と解約時の損害賠償予定

不動産の売買契約を控えている方にとって、「手付金とは何か」「いくら支払うのか」「返還されるのか」は重要な疑問です。

この記事では、不動産売買における手付金の意味、相場、返還ルール、注意点を、法務省国土交通省の公式情報を元に詳しく解説します。

手付金を正しく理解することで、後々のトラブルを防止できます。

この記事のポイント

  • 手付金は「契約成立の証」であり、「解約時の損害賠償予定」としての性格を持つ
  • 相場は売買代金の5-10%程度、宅建業法で上限は20%以内
  • 解約手付では、買主は手付放棄、売主は倍返しで契約解除できる(相手方が履行に着手する前まで)
  • 未完成物件1000万円超・完成物件1000万円超で手付金保全措置が義務

手付金の基礎知識

手付金は、不動産売買契約締結時に買主が売主に支払う金銭です。契約成立の証であり、解約時の損害賠償予定としての性格を持ちます。

手付金の種類

民法では、手付金を以下の3種類に分類しています。

種類 意味 適用場面
解約手付 契約解除の権利を持つ手付(民法第557条) 不動産売買で最も一般的
違約手付 債務不履行時の損害賠償予定 契約書で特約を設ける場合
証約手付 契約成立の証 全ての手付に該当

不動産売買では「解約手付」が原則

HOME4Uの解説によると、不動産売買では、特約がない限り「解約手付」として扱われます。これは、民法第557条で「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、解約手付により契約を解除できる」と定められているためです。

手付金と頭金の違い

手付金と頭金は混同されがちですが、性格が異なります。

項目 手付金 頭金
性格 契約成立の証、解約時の損害賠償予定 住宅ローン借入額を減らすための自己資金
支払時期 契約締結時 決済時(引渡時)
返還 解約時は買主が放棄(返還されない) 売主の債務不履行時は全額返還
代金への充当 最終的に売買代金に充当される 売買代金の一部として支払う

永大ハウス工業の解説によると、手付金は「解約時の損害賠償予定」としての性格があるため、買主都合の解除では返還されません。一方、頭金は「単なる代金の一部」であり、解約時の扱いは異なります。

手付金の相場と上限

手付金の金額は、売買代金により異なります。

手付金の相場は5-10%程度

ホームズの調査によると、不動産売買の手付金は売買代金の5-10%程度が一般的です。

具体例

売買代金 手付金(5%) 手付金(10%)
3,000万円 150万円 300万円
5,000万円 250万円 500万円
1億円 500万円 1,000万円

手付金が高額になるほど、買主の解約リスクは低くなります(手付放棄の金額が大きいため)。一方、売主にとっては、買主が解約した場合に手付金を取得できるため、安心材料となります。

宅建業法の上限規制(20%以内)

宅地建物取引業法第39条により、宅建業者が売主の場合、手付金は売買代金の20%以内に制限されています。

上限規制の理由

  • 買主の過大な負担を防止
  • 手付金を理由とした不当な契約拘束を防止

上限規制の適用

売主 買主 上限規制
宅建業者 一般消費者 適用あり(20%以内)
一般個人 一般個人 適用なし(当事者間の合意による)

個人間売買(仲介業者を介さない)の場合、上限規制はありませんが、一般的には5-10%程度が相場です。

解約手付による解除のルール

解約手付により、一定の条件下で契約を解除できます。

買主は手付放棄、売主は倍返し

買主が解除する場合

買主は、手付金を放棄(返還を受けない)することで契約を解除できます。

例: 手付金300万円を支払った買主が解除する場合、300万円を放棄し、売主に返還を求めない。

売主が解除する場合

売主は、受け取った手付金を返還し、同額を追加で支払う(手付倍返し)ことで契約を解除できます。

例: 手付金300万円を受け取った売主が解除する場合、300万円を返還し、さらに300万円を支払う(合計600万円)。

相手方が履行に着手した後は解除不可

重要な制限

解約手付による解除は、「相手方が履行に着手する前まで」に限られます(民法第557条第1項)。

「履行に着手」とは

HOME4Uの解説によると、履行に着手とは「契約の内容を実現するための準備行為を開始すること」を指します。

履行に着手の具体例

当事者 履行に着手の例
買主 住宅ローンの本申込、決済日の調整、引越業者の手配
売主 引渡しに向けた荷物の搬出、引越業者の手配、測量・境界確定の実施

相手方が履行に着手した後は、解約手付による解除はできず、債務不履行による解除(損害賠償請求)または合意解除(当事者間の話し合い)しか方法がありません。

手付金保全措置とは

宅建業者が売主の場合、一定額以上の手付金を受領する際は、保全措置を講じる義務があります。

保全措置の適用条件

国土交通省の手付金等保証事業によると、以下の条件で保全措置が必要です。

物件の状態 保全措置が必要な金額
未完成物件 手付金等が1000万円超 または 売買代金の5%超
完成物件 手付金等が1000万円超 または 売買代金の10%超

「手付金等」とは

手付金のほか、中間金等、契約締結後~引渡し前に支払う金銭も含みます。

保全措置の方法

宅建資格サイトの解説によると、保全措置には以下の3種類があります。

  1. 銀行等の保証: 銀行・信託銀行が保証書を発行
  2. 保険会社の保証: 損害保険会社が保証保険を提供
  3. 指定保管機関による保管: 指定された機関が手付金を保管

保全措置のメリット

  • 宅建業者が倒産しても、買主は手付金を取り戻せる
  • 消費者保護の仕組み

保全措置が不要な場合

以下の場合、保全措置は不要です。

  • 手付金等が1000万円以下(未完成物件で売買代金の5%以下、完成物件で売買代金の10%以下)
  • 売主が一般個人(宅建業者でない)
  • 所有権移転登記が完了している

手付金に関するよくあるトラブルと対処法

手付金に関するトラブル事例と対処法を紹介します。

トラブル1: 手付金が返還されない

買主都合の解除では、手付金は返還されません(解約手付の原則)。ただし、売主の債務不履行や、ローン特約による解除の場合は全額返還されます。

対処法: 契約書で「ローン特約」「瑕疵担保責任」等の特約を確認し、返還条件を理解してから契約する。

トラブル2: 手付金保全措置がない

未完成物件1000万円超・完成物件1000万円超で保全措置がない場合、宅建業法違反の可能性があります。

対処法: 契約前に保全措置の有無を確認し、不明な場合は都道府県の宅建業指導担当課に相談する。

トラブス3: 手付金の金額が高すぎる

宅建業者が売主の場合、手付金は売買代金の20%以内に制限されています。20%超の手付金を要求された場合、宅建業法違反の可能性があります。

対処法: 宅建業法の上限規制(20%以内)を確認し、不当に高額な手付金を要求された場合は都道府県の宅建業指導担当課に相談する。

まとめ:手付金を正しく理解して不動産売買をスムーズに

不動産売買の手付金は、「契約成立の証」であり、「解約時の損害賠償予定」としての性格を持ちます。相場は売買代金の5-10%程度、宅建業法で上限は20%以内です。

解約手付では、買主は手付放棄、売主は倍返しで契約解除できますが、相手方が履行に着手した後は解除不可となります。また、未完成物件1000万円超・完成物件1000万円超で手付金保全措置が義務付けられています。

手付金と頭金の違いを理解し、契約書の特約(ローン特約、瑕疵担保責任等)を確認してから契約することを推奨します。不明な点があれば、不動産会社や弁護士に相談しましょう。

よくある質問

Q1手付金は必ず支払う必要がありますか?

A1契約成立の証として一般的に支払いますが、法律上の義務ではありません。売主との合意により手付金ゼロでの契約も可能です。ただし、手付金がない場合、買主が簡単に契約を破棄できるため、売主にとってリスクが高く、契約を拒否される可能性があります。一般的には売買代金の5-10%程度の手付金を支払うことが慣例です。

Q2手付金は住宅ローンに含められますか?

A2基本的には含められません。手付金は契約締結時に現金で支払う必要があります。一部金融機関では「諸費用ローン」として別途借入が可能ですが、住宅ローンよりも金利が高く(年3-5%程度)設定されることが多いため、注意が必要です。手付金は自己資金で用意することを推奨します。詳細は金融機関にご確認ください。

Q3手付金が返還されるケースはありますか?

A3売主の債務不履行(引渡不能、契約内容と異なる等)や、ローン特約による解除の場合は全額返還されます。ローン特約とは、住宅ローンが不成立の場合に契約を無条件で解除できる特約です。一方、買主都合の解除(転勤、気が変わった等)は手付放棄となり、返還されません。契約書でローン特約の有無を必ず確認してください。

Q4手付金が保全されていない場合はどうすればいいですか?

A4未完成物件1000万円超・完成物件1000万円超で保全措置がない場合、宅建業法違反の可能性があります。契約前に保全措置の有無を確認し、保全措置証明書の交付を受けてください。不明な場合は、都道府県の宅建業指導担当課に相談することを推奨します。保全措置がない場合、売主が倒産すると手付金を取り戻せないリスクがあります。