不動産契約書とは何か
不動産売買を控えている方にとって、契約書の内容が難しく、「どこを重点的に確認すべきか分からない」と不安に感じることは少なくありません。
この記事では、不動産契約書(売買契約書)の記載内容と確認ポイントを、重要事項説明書との違い、必須記載事項、手付金・違約金条項、契約不適合責任の期間とともに解説します。国土交通省や不動産流通推進センターの公式情報を元に、トラブルを避けるための実務的な知識を提供します。
契約前に理解を深めたい方、契約書のどこをチェックすべきか知りたい方が、安心して契約を締結できるようになります。
この記事のポイント
- 不動産契約書は売買契約の合意内容を証明する書類で、重要事項説明書(契約前の判断資料)とは別物
- 必須記載事項は物件の表示、売買代金、手付金の額、引渡し時期、所有権移転時期、契約不適合責任、ローン特約など
- 手付金は売買代金の5-10%が相場で、解約手付として扱われ、買主は手付放棄、売主は倍返しで契約解除が可能
- 契約不適合責任は2020年民法改正で「瑕疵担保責任」から変更され、買主の権利(追完請求・代金減額請求)が拡充
- 特約条項は個別の取り決めが記載されるため、期限・免責期間・費用負担を重点的に確認すべき
不動産契約書と重要事項説明書の違い
不動産取引では、「重要事項説明書」と「契約書」という2つの書類が登場しますが、役割が異なります。
重要事項説明書とは
重要事項説明書は、契約前に宅地建物取引士が買主に交付・説明する書類です。宅地建物取引業法第35条により、以下の内容を記載することが義務付けられています。
- 物件の権利関係: 所有権、抵当権、地役権等の登記事項
- 法令上の制限: 都市計画法、建築基準法等による建築制限
- 設備の状況: 給排水施設、電気・ガス設備の状況
- 契約解除に関する事項: 手付金の額、ローン特約の期限等
重要事項説明は、買主が契約を締結するかどうか判断するための材料であり、契約前に行われます。
不動産契約書(売買契約書)とは
不動産契約書は、売主と買主が売買の合意内容を証明する書類で、契約時に締結されます。宅地建物取引業法第37条により、以下の事項を記載することが義務付けられています。
- 売買物件の表示(所在・地番・面積)
- 売買代金・支払方法
- 手付金の額・種類
- 引渡し時期
- 所有権移転時期
契約書は売主・買主双方が署名・押印し、それぞれが1通ずつ保管します。
重要事項説明書と契約書の違い
| 項目 | 重要事項説明書 | 契約書 |
|---|---|---|
| タイミング | 契約前(判断材料) | 契約時(合意証明) |
| 説明者 | 宅地建物取引士 | 売主・買主双方 |
| 役割 | 契約するか判断するための情報提供 | 契約成立の証拠 |
| 法的根拠 | 宅建業法第35条 | 宅建業法第37条 |
(出典: 国土交通省)
「説明を受けた=契約した」と誤解しないよう、両者の違いを理解しておくことが重要です。
不動産契約書の必須記載事項
不動産契約書には、宅地建物取引業法第37条により以下の事項を記載することが義務付けられています。
売買物件の表示
- 所在: 土地・建物の所在地(地番まで記載)
- 地番・家屋番号: 登記簿上の番号
- 面積: 土地面積(実測または公簿)、建物延床面積
- 構造: 木造・鉄筋コンクリート造等
物件の表示が登記簿と一致しているか確認してください。特に土地面積は、「公簿売買」(登記簿上の面積)と「実測売買」(実際に測量した面積)で扱いが異なります。実測売買の場合、測量結果により売買代金が増減する可能性があります。
売買代金と支払方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 売買代金 | 総額(税込) |
| 手付金 | 契約時に支払う金額(売買代金の5-10%が相場) |
| 中間金 | 引渡し前に支払う金額(ある場合) |
| 残代金 | 引渡し時に支払う金額 |
| 支払方法 | 現金・銀行振込・ローン |
(出典: 国土交通省標準様式)
手付金の額と種類
手付金には、解約手付・違約手付・証約手付の3種類がありますが、一般的には「解約手付」として扱われます。
- 解約手付: 買主は手付を放棄、売主は倍返しすることで契約を解除できる
- 相場: 売買代金の5-10%
- 解除期限: 「相手方が契約の履行に着手するまで」が一般的
手付金の額は交渉可能ですが、売主が不動産業者の場合、売買代金の20%を超えることはできません(宅地建物取引業法第39条)。
引渡し時期と所有権移転時期
- 引渡し時期: 買主が物件の占有を取得する日(通常は残代金支払日)
- 所有権移転時期: 所有権が売主から買主に移転する日(通常は残代金支払日)
引渡し時期と所有権移転時期が異なる場合、その期間の固定資産税・都市計画税の負担や、火災保険の加入時期を明確にする必要があります。
契約不適合責任の期間と範囲
2020年4月の民法改正により、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変更されました。
契約不適合責任とは
契約不適合責任は、契約内容と目的物(不動産)が適合しない場合に売主が負う責任です。買主は以下の権利を行使できます。
- 追完請求権: 修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しを請求
- 代金減額請求権: 相当な期間を定めて追完を催告し、応じない場合に代金減額を請求
- 損害賠償請求権: 契約不適合により生じた損害の賠償を請求
- 契約解除権: 契約の目的を達成できない場合に契約を解除
(出典: 民法第562条〜第564条)
旧民法の「瑕疵担保責任」との違い
| 項目 | 旧民法(瑕疵担保責任) | 新民法(契約不適合責任) |
|---|---|---|
| 対象 | 隠れた瑕疵 | 契約内容との不適合 |
| 買主の権利 | 損害賠償請求、契約解除 | 追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除 |
| 期間 | 瑕疵発見から1年以内 | 不適合を知った時から1年以内に通知 |
新民法では、買主の権利が拡充され、追完請求権と代金減額請求権が追加されました。
契約書における契約不適合責任の記載
契約書では、契約不適合責任の期間を特約で定めることが一般的です。
- 新築住宅: 引渡しから2年間(構造耐力上主要な部分・雨水の侵入を防止する部分は10年間が法定義務)
- 中古住宅: 引渡しから3ヶ月〜1年間(個別に交渉)
- 免責特約: 中古住宅で売主が個人の場合、「契約不適合責任を負わない」とする免責特約が付されることがある
免責特約が付されている場合、引渡し後に不具合が見つかっても売主に責任を追及できないため、契約前に物件の状態を入念に確認する必要があります。
特約条項のチェックポイント
特約条項は、標準的な契約書に含まれない個別の取り決めを記載する部分です。トラブルを避けるため、以下の点を重点的に確認してください。
ローン特約
ローン特約は、住宅ローンの審査が通らなかった場合に契約を解除できる条項です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 融資承認期限 | ローン審査の結果が出る期限(契約から1ヶ月程度) |
| 融資金額 | 必要な融資金額 |
| 解除条件 | 融資未承認の場合に契約を無条件で解除できる |
融資承認期限が短すぎると、審査が間に合わない可能性があります。金融機関の審査期間を確認し、余裕を持った期限を設定してください。
公租公課の分担
公租公課(固定資産税・都市計画税)は、1月1日時点の所有者に1年分が課税されます。契約書では、引渡し日を基準に日割り計算で分担することが一般的です。
- 起算日: 1月1日または4月1日(地域により異なる)
- 分担方法: 引渡し日の前日までは売主負担、引渡し日以降は買主負担
設備の引渡し条件
エアコン、給湯器、照明器具等の設備について、以下を確認してください。
- 付帯設備: 引渡し時に残す設備(エアコン、照明器具等)
- 故障・不具合: 設備の動作状況、故障時の修理費用負担
- 撤去設備: 引渡し前に売主が撤去する設備
付帯設備表で設備の有無と状態を確認し、引渡し時に現況と一致しているか立ち会い確認を行ってください。
契約解除と違約金
契約解除の条件と違約金の額を確認してください。
- 違約金の額: 売買代金の10-20%が一般的
- 解除条件: 手付解除期限を過ぎた後に解除する場合、違約金が発生
- 損害賠償: 違約金とは別に、実損害の賠償を請求できる場合がある
違約金の額が過大な場合、消費者契約法により無効となる可能性があります。
契約書の印紙税と保管
印紙税の納付
不動産売買契約書には、印紙税法により印紙税が課税されます。
| 売買金額 | 印紙税額(軽減措置適用時) |
|---|---|
| 500万円超〜1,000万円以下 | 5,000円(本則10,000円) |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 10,000円(本則20,000円) |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30,000円(本則60,000円) |
(出典: 国税庁)
軽減措置は2027年3月末までの時限措置です。契約書は売主・買主それぞれが1通ずつ保管するため、各自が印紙税を負担します。
契約書の保管
契約書は以下の理由で長期間保管してください。
- 契約不適合責任の期間: 引渡しから数年間は売主に責任を追及できる可能性がある
- 税務調査: 不動産取得税、譲渡所得税の申告で契約書が必要
- 将来の売却: 次に売却する際、購入時の契約書が必要
原本をファイリングし、コピーをデジタル化して保管することをおすすめします。
不動産契約書のまとめと次のアクション
不動産契約書は、売買の合意内容を証明する重要な書類です。重要事項説明書(契約前の判断資料)とは別物で、契約時に締結されます。
必須記載事項は、物件の表示、売買代金、手付金の額、引渡し時期、所有権移転時期、契約不適合責任、ローン特約などです。手付金は売買代金の5-10%が相場で、解約手付として扱われます。契約不適合責任は2020年民法改正で買主の権利が拡充され、追完請求権と代金減額請求権が追加されました。
特約条項は個別の取り決めが記載されるため、ローン特約の期限、契約不適合責任の免責期間、設備の引渡し条件、違約金の額を重点的に確認してください。
契約書は専門的な内容が多く、理解が難しい部分もあります。契約前に宅地建物取引士、司法書士、弁護士等の専門家に相談し、疑問点を解消することをおすすめします。契約書の内容を十分に理解した上で、署名・押印を行ってください。
