不動産契約書の書き方と注意点|売買契約の重要事項チェックリスト

公開日: 2025/11/4

不動産契約書とは何か

不動産売買を控えている方にとって、契約書の内容が難しく、「どこを重点的に確認すべきか分からない」と不安に感じることは少なくありません。

この記事では、不動産契約書(売買契約書)の記載内容と確認ポイントを、重要事項説明書との違い、必須記載事項、手付金・違約金条項、契約不適合責任の期間とともに解説します。国土交通省不動産流通推進センターの公式情報を元に、トラブルを避けるための実務的な知識を提供します。

契約前に理解を深めたい方、契約書のどこをチェックすべきか知りたい方が、安心して契約を締結できるようになります。

この記事のポイント

  • 不動産契約書は売買契約の合意内容を証明する書類で、重要事項説明書(契約前の判断資料)とは別物
  • 必須記載事項は物件の表示、売買代金、手付金の額、引渡し時期、所有権移転時期、契約不適合責任、ローン特約など
  • 手付金は売買代金の5-10%が相場で、解約手付として扱われ、買主は手付放棄、売主は倍返しで契約解除が可能
  • 契約不適合責任は2020年民法改正で「瑕疵担保責任」から変更され、買主の権利(追完請求・代金減額請求)が拡充
  • 特約条項は個別の取り決めが記載されるため、期限・免責期間・費用負担を重点的に確認すべき

不動産契約書と重要事項説明書の違い

不動産取引では、「重要事項説明書」と「契約書」という2つの書類が登場しますが、役割が異なります。

重要事項説明書とは

重要事項説明書は、契約前に宅地建物取引士が買主に交付・説明する書類です。宅地建物取引業法第35条により、以下の内容を記載することが義務付けられています。

  • 物件の権利関係: 所有権、抵当権、地役権等の登記事項
  • 法令上の制限: 都市計画法、建築基準法等による建築制限
  • 設備の状況: 給排水施設、電気・ガス設備の状況
  • 契約解除に関する事項: 手付金の額、ローン特約の期限等

重要事項説明は、買主が契約を締結するかどうか判断するための材料であり、契約前に行われます。

不動産契約書(売買契約書)とは

不動産契約書は、売主と買主が売買の合意内容を証明する書類で、契約時に締結されます。宅地建物取引業法第37条により、以下の事項を記載することが義務付けられています。

  • 売買物件の表示(所在・地番・面積)
  • 売買代金・支払方法
  • 手付金の額・種類
  • 引渡し時期
  • 所有権移転時期

契約書は売主・買主双方が署名・押印し、それぞれが1通ずつ保管します。

重要事項説明書と契約書の違い

項目 重要事項説明書 契約書
タイミング 契約前(判断材料) 契約時(合意証明)
説明者 宅地建物取引士 売主・買主双方
役割 契約するか判断するための情報提供 契約成立の証拠
法的根拠 宅建業法第35条 宅建業法第37条

(出典: 国土交通省

「説明を受けた=契約した」と誤解しないよう、両者の違いを理解しておくことが重要です。

不動産契約書の必須記載事項

不動産契約書には、宅地建物取引業法第37条により以下の事項を記載することが義務付けられています。

売買物件の表示

  • 所在: 土地・建物の所在地(地番まで記載)
  • 地番・家屋番号: 登記簿上の番号
  • 面積: 土地面積(実測または公簿)、建物延床面積
  • 構造: 木造・鉄筋コンクリート造等

物件の表示が登記簿と一致しているか確認してください。特に土地面積は、「公簿売買」(登記簿上の面積)と「実測売買」(実際に測量した面積)で扱いが異なります。実測売買の場合、測量結果により売買代金が増減する可能性があります。

売買代金と支払方法

項目 内容
売買代金 総額(税込)
手付金 契約時に支払う金額(売買代金の5-10%が相場)
中間金 引渡し前に支払う金額(ある場合)
残代金 引渡し時に支払う金額
支払方法 現金・銀行振込・ローン

(出典: 国土交通省標準様式

手付金の額と種類

手付金には、解約手付・違約手付・証約手付の3種類がありますが、一般的には「解約手付」として扱われます。

  • 解約手付: 買主は手付を放棄、売主は倍返しすることで契約を解除できる
  • 相場: 売買代金の5-10%
  • 解除期限: 「相手方が契約の履行に着手するまで」が一般的

手付金の額は交渉可能ですが、売主が不動産業者の場合、売買代金の20%を超えることはできません(宅地建物取引業法第39条)。

引渡し時期と所有権移転時期

  • 引渡し時期: 買主が物件の占有を取得する日(通常は残代金支払日)
  • 所有権移転時期: 所有権が売主から買主に移転する日(通常は残代金支払日)

引渡し時期と所有権移転時期が異なる場合、その期間の固定資産税・都市計画税の負担や、火災保険の加入時期を明確にする必要があります。

契約不適合責任の期間と範囲

2020年4月の民法改正により、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変更されました。

契約不適合責任とは

契約不適合責任は、契約内容と目的物(不動産)が適合しない場合に売主が負う責任です。買主は以下の権利を行使できます。

  • 追完請求権: 修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しを請求
  • 代金減額請求権: 相当な期間を定めて追完を催告し、応じない場合に代金減額を請求
  • 損害賠償請求権: 契約不適合により生じた損害の賠償を請求
  • 契約解除権: 契約の目的を達成できない場合に契約を解除

(出典: 民法第562条〜第564条

旧民法の「瑕疵担保責任」との違い

項目 旧民法(瑕疵担保責任) 新民法(契約不適合責任)
対象 隠れた瑕疵 契約内容との不適合
買主の権利 損害賠償請求、契約解除 追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除
期間 瑕疵発見から1年以内 不適合を知った時から1年以内に通知

新民法では、買主の権利が拡充され、追完請求権と代金減額請求権が追加されました。

契約書における契約不適合責任の記載

契約書では、契約不適合責任の期間を特約で定めることが一般的です。

  • 新築住宅: 引渡しから2年間(構造耐力上主要な部分・雨水の侵入を防止する部分は10年間が法定義務)
  • 中古住宅: 引渡しから3ヶ月〜1年間(個別に交渉)
  • 免責特約: 中古住宅で売主が個人の場合、「契約不適合責任を負わない」とする免責特約が付されることがある

免責特約が付されている場合、引渡し後に不具合が見つかっても売主に責任を追及できないため、契約前に物件の状態を入念に確認する必要があります。

特約条項のチェックポイント

特約条項は、標準的な契約書に含まれない個別の取り決めを記載する部分です。トラブルを避けるため、以下の点を重点的に確認してください。

ローン特約

ローン特約は、住宅ローンの審査が通らなかった場合に契約を解除できる条項です。

項目 内容
融資承認期限 ローン審査の結果が出る期限(契約から1ヶ月程度)
融資金額 必要な融資金額
解除条件 融資未承認の場合に契約を無条件で解除できる

融資承認期限が短すぎると、審査が間に合わない可能性があります。金融機関の審査期間を確認し、余裕を持った期限を設定してください。

公租公課の分担

公租公課(固定資産税・都市計画税)は、1月1日時点の所有者に1年分が課税されます。契約書では、引渡し日を基準に日割り計算で分担することが一般的です。

  • 起算日: 1月1日または4月1日(地域により異なる)
  • 分担方法: 引渡し日の前日までは売主負担、引渡し日以降は買主負担

設備の引渡し条件

エアコン、給湯器、照明器具等の設備について、以下を確認してください。

  • 付帯設備: 引渡し時に残す設備(エアコン、照明器具等)
  • 故障・不具合: 設備の動作状況、故障時の修理費用負担
  • 撤去設備: 引渡し前に売主が撤去する設備

付帯設備表で設備の有無と状態を確認し、引渡し時に現況と一致しているか立ち会い確認を行ってください。

契約解除と違約金

契約解除の条件と違約金の額を確認してください。

  • 違約金の額: 売買代金の10-20%が一般的
  • 解除条件: 手付解除期限を過ぎた後に解除する場合、違約金が発生
  • 損害賠償: 違約金とは別に、実損害の賠償を請求できる場合がある

違約金の額が過大な場合、消費者契約法により無効となる可能性があります。

契約書の印紙税と保管

印紙税の納付

不動産売買契約書には、印紙税法により印紙税が課税されます。

売買金額 印紙税額(軽減措置適用時)
500万円超〜1,000万円以下 5,000円(本則10,000円)
1,000万円超〜5,000万円以下 10,000円(本則20,000円)
5,000万円超〜1億円以下 30,000円(本則60,000円)

(出典: 国税庁

軽減措置は2027年3月末までの時限措置です。契約書は売主・買主それぞれが1通ずつ保管するため、各自が印紙税を負担します。

契約書の保管

契約書は以下の理由で長期間保管してください。

  • 契約不適合責任の期間: 引渡しから数年間は売主に責任を追及できる可能性がある
  • 税務調査: 不動産取得税、譲渡所得税の申告で契約書が必要
  • 将来の売却: 次に売却する際、購入時の契約書が必要

原本をファイリングし、コピーをデジタル化して保管することをおすすめします。

不動産契約書のまとめと次のアクション

不動産契約書は、売買の合意内容を証明する重要な書類です。重要事項説明書(契約前の判断資料)とは別物で、契約時に締結されます。

必須記載事項は、物件の表示、売買代金、手付金の額、引渡し時期、所有権移転時期、契約不適合責任、ローン特約などです。手付金は売買代金の5-10%が相場で、解約手付として扱われます。契約不適合責任は2020年民法改正で買主の権利が拡充され、追完請求権と代金減額請求権が追加されました。

特約条項は個別の取り決めが記載されるため、ローン特約の期限、契約不適合責任の免責期間、設備の引渡し条件、違約金の額を重点的に確認してください。

契約書は専門的な内容が多く、理解が難しい部分もあります。契約前に宅地建物取引士、司法書士、弁護士等の専門家に相談し、疑問点を解消することをおすすめします。契約書の内容を十分に理解した上で、署名・押印を行ってください。

よくある質問

Q1重要事項説明書と契約書はどう違いますか?

A1重要事項説明書は契約前に宅地建物取引士が買主に交付・説明する書類で、契約するか判断するための情報提供が目的です。契約書は契約時に売主・買主双方が署名・押印し、売買の合意内容を証明する書類です。タイミング(契約前 vs 契約時)、役割(判断材料 vs 合意証明)が異なります。「説明を受けた=契約した」ではないため、両者の違いを理解してください。

Q2手付金を放棄すればいつでも契約解除できますか?

A2「相手方が契約の履行に着手するまで」は、買主は手付を放棄することで契約を解除できます。ただし、売主が契約の履行に着手した後(例:測量開始、リフォーム着工等)は、手付解除できません。手付解除期限は契約書に明記されているため、必ず確認してください。期限を過ぎた後に解除すると、違約金(売買代金の10-20%)が発生します。

Q3中古住宅の「契約不適合責任を負わない」という特約は有効ですか?

A3売主が個人の場合、「契約不適合責任を負わない」とする免責特約は有効です。この場合、引渡し後に不具合が見つかっても売主に責任を追及できません。ただし、売主が不具合を知りながら故意に告げなかった場合は、免責特約が無効となる可能性があります。免責特約がある場合は、契約前にホームインスペクション(住宅診断)を受けることをおすすめします。

Q4ローン特約の融資承認期限はどのくらいが適切ですか?

A4一般的には契約から1ヶ月程度が目安です。金融機関の審査期間は通常2〜3週間ですが、書類不備や追加資料の提出で遅れる可能性があります。余裕を持って1ヶ月〜1ヶ月半程度に設定することをおすすめします。期限が短すぎると審査が間に合わず、融資未承認でも契約解除できないリスクがあるため、金融機関に事前確認してください。

Q5契約書は何年間保管すべきですか?

A5契約不適合責任の期間(引渡しから数年間)、税務調査の対象期間(5〜7年)、将来の売却時の証拠として、最低でも10年間は保管することをおすすめします。特に、譲渡所得税の計算では購入時の契約書が必要になるため、次に売却するまで保管が必要です。原本をファイリングし、コピーをデジタル化して保管してください。