いらない土地を国に返す方法は?相続土地国庫帰属制度を解説

公開日: 2025/10/31

いらない土地を国に返す方法は?相続土地国庫帰属制度を解説

相続した土地を「維持費がかかるのに売れない」「固定資産税の負担が重い」と悩んでいる方は少なくありません。2023年4月に施行された「相続土地国庫帰属制度」により、一定の要件を満たせば、土地を国に返すことが可能になりました。

この記事では、相続土地国庫帰属制度の基礎、申請要件、手続きの流れ、費用、却下されるケースを、法務省の公式情報を元に解説します。また、制度を利用できない場合の代替案も紹介します。

初めて土地の処分を検討する方でも、現実的な選択肢を理解し、実践的な判断ができるようになります。

この記事のポイント

  • 2023年4月施行の相続土地国庫帰属制度により、相続・遺贈で取得した土地を国に返すことが可能になった
  • 申請要件は厳しく、建物なし・境界明確・担保権なし等を満たす必要があり、却下率が高い
  • 審査料は土地一筆あたり14,000円、承認後の負担金は原則20万円だが、面積に応じて変動する
  • 却下される土地は、建物あり・境界不明・土壌汚染・崖地・通路として利用されている土地等
  • 制度を利用できない場合は、売却・自治体への寄附・隣地への譲渡・相続放棄等の代替案を検討

相続土地国庫帰属制度とは?背景と目的

相続土地国庫帰属制度は、2023年4月27日に施行された新しい制度です。相続または遺贈で取得した土地を、一定の要件のもとで国に引き取ってもらうことができます。

制度の背景:所有者不明土地の増加

国土交通省によると、所有者不明土地は全国で約410万ヘクタール(九州の面積に相当)に及びます。相続登記がされず、所有者が誰かわからない土地が増加し、公共事業や災害復旧の妨げになっています。

相続土地国庫帰属制度は、所有者不明土地の発生を予防し、土地の適切な管理を促進することを目的としています。

対象者:相続・遺贈で土地を取得した人

制度を利用できるのは、相続または遺贈で土地を取得した人に限られます。購入した土地や贈与で取得した土地は対象外です。

また、共有名義の土地の場合、共有者全員の同意が必要です。一部の共有者だけが申請することはできません。

相続土地国庫帰属制度の申請要件と却下される土地

相続土地国庫帰属制度には、厳しい申請要件があります。以下の要件を満たさない土地は、申請段階で却下されます。

申請段階で却下される5つの要件

法務省によると、以下の5つの却下事由のいずれかに該当する土地は、申請自体ができません。

却下事由 内容
建物がある 建物、工作物(フェンス、擁壁等)がある土地
担保権等が設定されている 抵当権、地上権、地役権等が設定されている土地
他人の利用が予定されている 通路、墓地等、他人が使用している土地
土壌汚染がある 土壌汚染対策法に基づく特定有害物質で汚染されている土地
境界が明らかでない 隣地との境界が明確でない土地

重要: これらの要件を満たさない場合、審査料14,000円を支払っても申請が却下され、返金されません。事前に要件を確認することが重要です。

審査段階で不承認となる要件

申請が受理されても、審査段階で以下の不承認事由に該当すると判断された場合、国庫帰属が認められません。

  • 崖地: 勾配30度以上、高さ5m以上の崖があり、管理に過分な費用がかかる土地
  • 管理に過分な費用がかかる土地: 土地の管理・処分に通常以上の費用や労力がかかる土地
  • 鳥獣・病害虫の被害がある土地: 管理に特別な措置が必要な土地
  • その他の事情: 隣地との争いがある、不法投棄されている等

審査は法務局の審査官が行い、現地調査も実施されます。

却下率が高い現実

相続土地国庫帰属制度は、申請要件が厳しく、却下率が高いのが現実です。「どんな土地でも国に返せる」という誤解は危険です。特に、境界不明、建物あり、通路として利用されている土地は、多くのケースで却下されます。

相続土地国庫帰属制度の手続きの流れ

相続土地国庫帰属制度の手続きは、以下の流れで進みます。申請から承認まで半年~1年かかることを想定してください。

ステップ1: 法務局に事前相談

申請前に、管轄の法務局に事前相談することをおすすめします。土地の状況を説明し、申請可能かどうかアドバイスを受けられます。

法務局の公式サイトで、管轄の法務局を確認できます。

ステップ2: 申請書類の準備

申請に必要な書類は以下の通りです。

  • 国庫帰属申請書
  • 登記事項証明書(登記簿謄本)
  • 地積測量図(境界を明確にする図面)
  • 境界確認書(隣地所有者との境界確認)
  • 相続を証明する書類(戸籍謄本、遺言書等)
  • その他、法務局が求める書類

境界確認書は、隣地所有者の署名・押印が必要です。隣地所有者が多数いる場合や、連絡が取れない場合は、準備が困難になります。

ステップ3: 審査料の納付

申請時に、土地一筆あたり14,000円の審査料を納付します。複数筆の土地を申請する場合、筆数×14,000円が必要です。

注意: 申請が却下・不承認の場合も、審査料は返金されません。

ステップ4: 法務局による審査

法務局の審査官が、申請書類を審査し、現地調査を実施します。審査期間は通常数ヶ月~1年程度です。

ステップ5: 承認後の負担金納付

審査に合格し、承認の通知を受けたら、負担金を納付します。負担金は、国庫帰属後の土地管理費用の10年分相当額です。

ステップ6: 国庫帰属の完了

負担金の納付が確認されると、土地の所有権が国に移転し、国庫帰属が完了します。

相続土地国庫帰属制度の費用:審査料と負担金

相続土地国庫帰属制度は無料ではありません。審査料と負担金が必要です。

審査料:土地一筆あたり14,000円

審査料は、土地一筆あたり14,000円です。例えば、3筆の土地を申請する場合、14,000円 × 3 = 42,000円の審査料が必要です。

注意: 申請が却下・不承認の場合も、審査料は返金されません。事前に要件を確認し、却下される可能性が高い土地は申請しない方が賢明です。

負担金:原則20万円、面積に応じて変動

承認後に納付する負担金は、土地の種類と面積により異なります。

土地の種類 負担金
原則(市街化区域外の宅地、田、畑、雑種地等) 20万円
市街化区域内または用途地域が指定されている宅地 面積に応じて算定(例:200㎡で80万円程度)
優良農地(田、畑) 面積に応じて算定(例:1,000㎡で40万円程度)
森林 面積に応じて算定(例:10,000㎡で20万円程度)

(出典: 法務省

負担金の詳細な計算方法は、法務省の公式サイトで確認できます。

総費用の目安

最小ケース(1筆、市街化区域外の宅地):
審査料14,000円 + 負担金20万円 = 214,000円

高額ケース(3筆、市街化区域内の宅地200㎡):
審査料42,000円 + 負担金80万円×3 = 2,442,000円

土地の状況により費用が大きく変動するため、事前に法務局に確認することが重要です。

相続土地国庫帰属制度を利用できない場合の代替案

相続土地国庫帰属制度の要件を満たさない場合や、却下された場合は、以下の代替案を検討しましょう。

1. 売却:不動産会社・買取業者

土地を売却できれば、費用をかけずに手放せます。以下の方法を試してみましょう。

  • 複数の不動産会社に査定依頼
  • 土地の買取専門業者に相談
  • 隣地所有者に打診(隣地所有者は利用価値を見出しやすい)

売却価格が低くても、国庫帰属の費用(審査料+負担金)よりも有利な場合があります。

2. 自治体への寄附

一部の自治体は、公共目的で利用できる土地に限り、寄附を受け入れています。ただし、受け入れ要件は厳しく、多くの場合は断られます。

市区町村の管財課・企画課に相談してみましょう。

3. 隣地所有者への譲渡

隣地所有者は、土地を利用する価値を見出しやすいため、無償または低額での譲渡を打診する価値があります。境界に接している土地を統合できれば、隣地所有者にもメリットがあります。

4. 相続放棄との違い

相続放棄は、相続人の地位を全て放棄する制度です。全財産・債務を放棄するため、特定の土地だけを手放すことはできません。

相続土地国庫帰属制度との違いを理解し、自身の状況に合った選択をしましょう。

項目 相続放棄 相続土地国庫帰属制度
対象 全財産・債務 特定の土地のみ
期限 相続を知った日から3ヶ月以内 期限なし
手続き 家庭裁判所に申述 法務局に申請
費用 約1万円 審査料14,000円+負担金20万円~

相続放棄は、他に相続したい財産がない場合の選択肢です。

まとめ:いらない土地を国に返すには要件を確認

2023年4月施行の相続土地国庫帰属制度により、相続・遺贈で取得した土地を国に返すことが可能になりました。ただし、申請要件は厳しく、建物なし・境界明確・担保権なし等を満たす必要があります。

審査料14,000円+負担金20万円~(面積により変動)が必要で、申請が却下されても審査料は返金されません。事前に法務局に相談し、要件を満たしているか確認することが重要です。

制度を利用できない場合は、売却・自治体への寄附・隣地所有者への譲渡・相続放棄等の代替案を検討しましょう。まずは複数の選択肢を比較し、自身の状況に最適な方法を選択することをおすすめします。

よくある質問

Q1どんな土地でも国に返せますか?

A1いいえ、厳しい要件があります。建物がある、境界不明、担保権が設定されている、他人が利用している、土壌汚染がある土地は申請段階で却下されます。また、崖地や管理に過分な費用がかかる土地は審査段階で不承認となります。申請要件を満たす土地に限られるため、事前に法務局に相談することをおすすめします。

Q2相続土地国庫帰属制度の費用はいくらですか?

A2審査料は土地一筆あたり14,000円、承認後の負担金は原則20万円です。ただし、市街化区域内の宅地や優良農地は面積に応じて負担金が変動し、数十万円~数百万円になる場合があります。申請が却下・不承認の場合も審査料は返金されないため、事前に要件を確認し、費用を把握することが重要です。

Q3申請が却下される場合はどんなケースですか?

A3以下のケースで却下されます。①建物・工作物がある、②抵当権等の担保権が設定されている、③通路・墓地等で他人が利用している、④土壌汚染がある、⑤境界が明らかでない。これらの却下事由に該当する場合、申請自体ができません。審査料14,000円を支払っても却下され、返金されないため、事前確認が必要です。

Q4相続土地国庫帰属制度以外の選択肢はありますか?

A4はい、以下の代替案があります。①売却(不動産会社・買取業者、隣地所有者への打診)、②自治体への寄附(公共目的に限り受け入れ可能)、③隣地所有者への無償または低額譲渡、④相続放棄(全財産・債務を放棄、相続を知った日から3ヶ月以内)。複数の選択肢を比較し、自身の状況に最適な方法を選択することをおすすめします。