土地相続を放棄する手続きと注意点|メリット・デメリットを解説

公開日: 2025/10/26

土地相続の放棄とは|基本的な仕組みを理解する

親族から土地を相続する際、「遠方で管理できない」「負債があるかもしれない」といった理由で放棄を検討する方は少なくありません。しかし、相続放棄は全財産が対象であり、土地だけを選択的に放棄することはできません。

この記事では、相続放棄の手続き方法、メリット・デメリット、そして2023年施行の相続土地国庫帰属制度を、裁判所法務省の公式情報を元に解説します。

自分のケースで放棄すべきか判断するための実用的な情報を、初めての方でも理解できるように提示します。

この記事のポイント

  • 相続放棄は全財産(プラスもマイナスも)が対象、土地だけの放棄は不可能
  • 期限は相続を知った日から3ヶ月以内で、家庭裁判所への申述が必要
  • 相続放棄後も次順位の相続人が決まるまで管理義務が残る
  • 2023年施行の相続土地国庫帰属制度では、土地のみを国に帰属させることが可能
  • どちらを選ぶかは状況により異なるため、弁護士への相談を推奨

相続放棄の手続き方法|期限・必要書類・費用

相続放棄の期限と手続き

相続放棄の期限は、相続を知った日から3ヶ月以内です。この期限は厳格で、期限を過ぎると原則として相続放棄できなくなり、自動的に相続人になります。

手続きの流れ:

  1. 家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出
  2. 必要書類を添付(下記参照)
  3. 裁判所から照会書が届き、回答する
  4. 相続放棄の受理通知を受け取る(通常1-2週間)

必要書類

  • 戸籍謄本: 被相続人の出生から死亡まで
  • 住民票の除票: 被相続人の最後の住所地
  • 申述人の戸籍謄本: 相続人であることを証明
  • 収入印紙800円: 申述手数料
  • 郵便切手: 裁判所との連絡用(数百円程度)

費用は合計で1,000-2,000円程度と比較的低コストです。

(出典: 裁判所)

期限超過のリスク

期限を過ぎると相続放棄できず、債務も相続することになります。ただし、「相続財産の存在を知らなかった」等の正当な理由があれば、家庭裁判所が期限延長を認める場合があります。期限が迫っている場合は、速やかに弁護士に相談しましょう。

相続放棄のメリットとデメリット|判断材料を提供

メリットとデメリットの比較

メリット デメリット
債務を相続しない(借金、税金滞納等から解放) プラス財産も全て放棄(預金、不動産、有価証券等)
土地の管理負担から解放(固定資産税、維持費等) 一度放棄すると取り消し不可
費用が低額(1,000-2,000円程度) 次順位の相続人に影響が及ぶ

放棄すべきケース・すべきでないケース

放棄すべきケース:

  • 債務が財産を明らかに上回る場合
  • 遠方で管理できず、売却も困難な土地の場合
  • 他の相続人との関係を断ちたい場合

放棄すべきでないケース:

  • プラス財産が債務を上回る場合
  • 土地のみ手放したいが、他の財産は保持したい場合
  • 3ヶ月の期限を過ぎた場合(相続土地国庫帰属制度を検討)

相続放棄後の管理義務|放棄しても終わりではない

管理義務は継続する

相続放棄後も、次順位の相続人が管理を始めるまで管理義務が残ります(民法940条)。「放棄すれば全て終わり」という誤解は禁物です。

次順位の相続人:

  1. 第1順位: 子(または孫)
  2. 第2順位: 直系尊属(父母、祖父母)
  3. 第3順位: 兄弟姉妹(または甥姪)

第1順位が全員放棄すると、第2順位に相続権が移ります。全順位が放棄した場合、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。

相続財産清算人の選任

全員が相続放棄した場合、相続財産清算人(旧称:相続財産管理人)を家庭裁判所に申し立てます。清算人が選任されるまで管理義務が続き、選任には数十万円の費用がかかります。

(出典: 相続弁護士ALG)

相続土地国庫帰属制度とは|2023年施行の新制度を解説

相続放棄との違い

2023年4月27日施行の「相続土地国庫帰属制度」は、相続・遺贈で取得した土地を国に帰属させる制度です。相続放棄との主な違いは以下の通りです。

項目 相続放棄 相続土地国庫帰属制度
対象 全財産(プラスもマイナスも) 土地のみ
期限 相続を知った日から3ヶ月 なし(いつでも申請可能)
プラス財産 全て放棄 保持可能
費用 1,000-2,000円程度 審査手数料1.4万円+負担金20万円程度

申請要件

以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 建物がない: 更地であること
  • 担保権がない: 抵当権等が設定されていないこと
  • 境界が明確: 隣地との境界が明確であること
  • 崖地・汚染地でない: 管理に過分な費用・労力がかからないこと

要件を満たさない土地は審査に落ちる可能性があります。事前に法務局で相談し、要件を満たすか確認しましょう。

(出典: 法務省政府広報オンライン)

相続放棄と相続土地国庫帰属制度の使い分け|状況別の選択肢

状況別の選択ガイド

状況 おすすめの選択肢
債務が財産を上回る 相続放棄(全財産を放棄して債務を回避)
土地のみ手放したい 相続土地国庫帰属制度(他の財産は保持可能)
3ヶ月の期限を過ぎた 相続土地国庫帰属制度(期限なし)
プラス財産は保持したい 相続土地国庫帰属制度
全財産を放棄したい 相続放棄(3ヶ月以内)

専門家への相談を推奨

どちらを選ぶかは個々の状況(債務の有無、財産の内訳、期限までの日数)により異なります。判断に迷う場合は、弁護士または司法書士に相談することを強く推奨します。

まとめ|土地相続の放棄は慎重に判断を

土地相続の放棄には、以下の3つの重要なポイントがあります。

  1. 相続放棄は全財産が対象: 土地だけを選択的に放棄することは不可能
  2. 期限は3ヶ月: 相続を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述
  3. 放棄後も管理義務が残る: 次順位の相続人が決まるまで管理義務が継続

2023年施行の相続土地国庫帰属制度は、土地のみを国に帰属させる新しい選択肢です。期限がなく、プラス財産を保持できる点で相続放棄と異なります。

自分の状況に最適な方法を選ぶために、期限内に弁護士・司法書士に相談し、慎重に判断しましょう。

よくある質問

Q1土地だけ相続放棄することはできますか?

A1できません。相続放棄は全財産(プラスもマイナスも含む)が対象です。土地のみ手放したい場合は、2023年施行の相続土地国庫帰属制度を利用します。こちらは期限なし、土地のみ手放せます。

Q2相続放棄の期限(3ヶ月)を過ぎたらどうなりますか?

A2原則として相続放棄できず、自動的に相続人になります。ただし、「相続財産の存在を知らなかった」等の正当な理由があれば、家庭裁判所が期限延長を認める場合があります。速やかに弁護士に相談してください。

Q3相続放棄した後、管理義務はいつまで続きますか?

A3次順位の相続人(直系尊属、兄弟姉妹)が管理を始めるまで続きます。全員が放棄した場合、相続財産清算人が選任されるまで義務が残ります。清算人の選任には数十万円の費用がかかります。

Q4相続土地国庫帰属制度の審査に落ちることはありますか?

A4あります。建物が残っている、担保権が設定されている、境界が不明確、崖地・汚染地等の要件を満たさない土地は審査に落ちます。事前に法務局で相談し、要件を満たすか確認すべきです。

Q5相続放棄と相続土地国庫帰属制度、どちらを選ぶべきですか?

A5債務が多く全財産を放棄したい場合は相続放棄(3ヶ月以内)。土地のみ手放したい、期限を過ぎた、プラス財産は保持したい場合は相続土地国庫帰属制度。状況により異なるため、弁護士に相談を推奨します。