土地相続税の計算方法とは
土地を相続した際、「相続税がいくらかかるのか」「どのように計算すればよいのか」と不安を感じる方は少なくありません。
この記事では、土地相続税の計算方法を4つのステップに分けて解説します。国税庁の公式情報を基に、土地評価額の調べ方、基礎控除の適用、小規模宅地等の特例による節税対策まで、初めて相続を経験する方でも正確に理解できるようにご案内します。
相続税は複雑ですが、計算手順を理解すれば、ご自身のケースでどの程度の税負担が発生するか把握できるようになります。
この記事のポイント
- 相続税計算は「土地評価額の算出→遺産総額の計算→基礎控除の適用→相続税額の計算」の4ステップで進める
- 土地評価額は路線価方式または倍率方式で算出。国税庁の路線価図で調べられる
- 基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人数」で計算され、遺産総額が基礎控除以下なら相続税はかからない
- 小規模宅地等の特例を使えば、居住用宅地は330㎡まで評価額を80%減額できる
- 申告期限は相続開始から10ヶ月以内。期限を過ぎると延滞税や特例の適用不可リスクがある
ステップ1: 土地評価額の算出方法
相続税計算の第一歩は、相続した土地の評価額を算出することです。土地の評価方法には「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があります。
路線価方式と倍率方式の違い
路線価方式は、市街地など路線価が定められている地域で使用します。路線価とは、国税庁が毎年7月に公表する、道路に面した土地の1㎡あたりの評価額です。相続税や贈与税の計算に使用され、一般的に時価の約80%とされています。
路線価方式の計算式は以下の通りです。
土地評価額 = 路線価 × 地積 × 補正率
一方、倍率方式は、路線価が定められていない地域(主に郊外や農村部)で使用します。固定資産税評価額に国税庁が定める倍率を乗じて評価額を算出します。
土地評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
倍率は国税庁のウェブサイトで確認できます。
国税庁の路線価図の使い方
路線価は、国税庁の路線価図で調べることができます(2024年・令和6年分が最新)。
- 国税庁のウェブサイトにアクセス
- 都道府県・市区町村を選択
- 該当する地番の道路を探す
- 路線価(単位: 千円/㎡)を確認
例えば、路線価が「300」と表示されていれば、1㎡あたり30万円という意味です。
計算例(具体的なケース)
ケース: 路線価30万円/㎡、200㎡の土地を相続した場合
土地評価額 = 30万円 × 200㎡ × 1.0(補正率なし)
           = 6,000万円
補正率は、土地の形状、接道状況、角地などの条件により変動します。詳細は国税庁の財産評価基本通達を参照してください。
ステップ2: 遺産総額の計算と基礎控除の適用
土地評価額が算出できたら、次は遺産総額を計算し、基礎控除を適用します。
遺産総額の算出(土地+現金+その他財産)
遺産総額は、相続財産の合計から債務・葬式費用を差し引いた金額です。
遺産総額 = 土地評価額 + 現金 + その他財産(預金、有価証券、建物等)- 債務・葬式費用
例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。
| 項目 | 金額 | 
|---|---|
| 土地評価額 | 6,000万円 | 
| 現金・預金 | 2,000万円 | 
| 建物評価額 | 1,000万円 | 
| 債務 | -500万円 | 
| 遺産総額 | 8,500万円 | 
基礎控除額の計算式
基礎控除は、相続税がかからない金額の範囲です。計算式は以下の通りです。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことで、配偶者や子などが該当します。
例: 配偶者と子2人の場合
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 3人
         = 3,000万円 + 1,800万円
         = 4,800万円
遺産総額が基礎控除以下であれば、相続税はかかりません。
注意: 養子がいる場合、基礎控除の計算に含められる養子の数には制限があります。実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人までです。
ステップ3: 法定相続分に応じた相続税額の計算
遺産総額が基礎控除を超える場合、相続税が発生します。ここでは、課税遺産総額を法定相続分で按分し、各人の相続税額を計算します。
法定相続分での按分計算
まず、課税遺産総額を算出します。
課税遺産総額 = 遺産総額 - 基礎控除
先ほどの例(遺産総額8,500万円、基礎控除4,800万円)の場合:
課税遺産総額 = 8,500万円 - 4,800万円
             = 3,700万円
次に、課税遺産総額を法定相続分で按分します。法定相続分とは、民法で定められた相続人ごとの相続割合です。
| 相続人 | 法定相続分 | 按分額 | 
|---|---|---|
| 配偶者 | 1/2 | 1,850万円 | 
| 子1 | 1/4 | 925万円 | 
| 子2 | 1/4 | 925万円 | 
相続税率と速算表
各人の按分額に対して、国税庁の相続税率を適用します。相続税は累進課税で、税率は10%~55%です。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 | 
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - | 
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 | 
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 | 
| 1億円以下 | 30% | 700万円 | 
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 | 
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 | 
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 | 
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 | 
(出典: 国税庁)
計算例(配偶者と子2人のケース)
配偶者: 1,850万円 × 15% - 50万円 = 227.5万円
子1: 925万円 × 10% = 92.5万円
子2: 925万円 × 10% = 92.5万円
相続税の総額: 227.5万円 + 92.5万円 + 92.5万円 = 412.5万円
この総額を、実際の相続割合で按分して、各人の納税額が確定します。
ステップ4: 小規模宅地等の特例による減額
小規模宅地等の特例は、相続税を大幅に軽減できる重要な制度です。一定要件を満たす宅地を相続した場合、評価額を大幅に減額できます。
特例の適用要件と減額率
小規模宅地等の特例には、主に以下の3種類があります。
| 種類 | 減額率 | 適用面積 | 
|---|---|---|
| 居住用宅地 | 80% | 330㎡まで | 
| 貸付事業用宅地 | 50% | 200㎡まで | 
| 事業用宅地 | 80% | 400㎡まで | 
(出典: 国税庁)
居住用宅地(330㎡まで80%減額)
居住用宅地の特例は、配偶者または同居親族が相続した場合に適用されます。
適用要件:
- 被相続人の居住用宅地であること
- 配偶者が相続する、または同居親族が相続し申告期限まで居住継続すること
- 相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告を行うこと
計算例: 路線価30万円/㎡、200㎡の居住用宅地を相続した場合
通常の評価額: 30万円 × 200㎡ = 6,000万円
特例適用後: 6,000万円 × (1 - 0.8) = 1,200万円
減額額: 4,800万円
このように、評価額を80%減額できるため、節税効果は非常に大きくなります。
貸付事業用宅地(200㎡まで50%減額)
賃貸アパートや駐車場などの貸付事業用宅地は、200㎡まで評価額を50%減額できます。
適用要件:
- 被相続人が貸付事業を営んでいた宅地であること
- 相続人が事業を継続すること
- 相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告を行うこと
申告期限と注意点
相続税の申告には厳格な期限があり、期限を過ぎると大きなリスクが発生します。
申告期限と納税期限の厳守
相続税の申告期限・納税期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です(国税庁)。
期限を過ぎると、以下のリスクが発生します。
- 延滞税: 年率最大14.6%
- 無申告加算税: 5-20%
- 小規模宅地等の特例が適用不可: 大幅な税負担増
特に小規模宅地等の特例は、申告期限までに申告しないと適用を受けられないため、必ず期限を守りましょう。
路線価と時価の違い
路線価は相続税・贈与税計算用の評価額で、一般的に時価の約80%です。
注意点: 遺産分割では時価を基準にすべきです。路線価で遺産分割を決めると、実際の市場価値と乖離し、相続人間で不公平が生じる可能性があります。
税理士への早期相談を推奨
土地の評価は複雑です。以下のような要素が評価額に影響します。
- 補正率(形状、接道状況、角地など)
- 地積の測量誤差
- 利用制限(都市計画法等)
評価を誤ると、過大納付または過少申告のリスクがあります。相続が発生したら、できるだけ早く税理士に相談することを強くおすすめします。
まとめ
土地相続税の計算は、「土地評価額の算出→遺産総額の計算→基礎控除の適用→相続税額の計算」の4ステップで進めます。
土地評価額は路線価方式または倍率方式で算出し、国税庁の路線価図で確認できます。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人数」で計算され、遺産総額が基礎控除以下なら相続税はかかりません。
小規模宅地等の特例は、居住用宅地なら330㎡まで評価額を80%減額できる強力な節税手段ですが、適用要件と申告期限(相続開始から10ヶ月以内)を厳守する必要があります。
本記事は2025年1月時点の制度に基づいており、今後の制度改正の可能性があります。最新情報は国税庁のウェブサイトで確認し、税理士に早期相談することで、正確な計算と効果的な節税対策を実現しましょう。
