相続した不動産を売却する手順とは
親の不動産を相続したものの、「使い道がなく売却したいが、何から始めればいいか分からない」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、相続不動産の売却手順、税金の種類、節税対策、注意点を、国税庁・法務局の公式情報を元に解説します。
2024年4月から相続登記が義務化されたことで、放置するリスクが高まっています。正しい手順を理解し、スムーズに売却を進められるようになります。
この記事のポイント
- 2024年4月から相続登記が義務化(3年以内に登記しないと過料10万円)
- 売却の流れは「相続登記→査定→媒介契約→売却活動→売買契約→引き渡し→確定申告」の7ステップ
- 相続空き家の3000万円特別控除、取得費加算の特例で税負担を軽減可能
- 相続人が複数の場合、遺産分割協議で全員の同意が必要
- 取得費不明の場合、概算取得費(売却額の5%)しか使えず税額が高額に
ステップ1:相続登記を完了させる
相続不動産を売却する前に、必ず相続登記を完了させる必要があります。
相続登記の義務化(2024年4月〜)
法務省によると、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。
また、登記しないと不動産を売却できず、固定資産税の支払い義務も続きます。早期の手続きが重要です。
必要書類と手続きの流れ
相続登記に必要な主な書類は以下の通りです。
| 書類名 | 取得先 | 
|---|---|
| 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで) | 本籍地の市区町村役場 | 
| 相続人全員の戸籍謄本 | 各自の本籍地の市区町村役場 | 
| 遺産分割協議書 | 相続人が作成 | 
| 相続人全員の印鑑証明書 | 各自の住所地の市区町村役場 | 
| 固定資産評価証明書 | 不動産所在地の市区町村役場 | 
| 登記申請書 | 法務局の公式サイトからダウンロード | 
手続きは、法務局窓口またはオンライン申請で行えます。登録免許税は固定資産評価額の0.4%です。
相続人が複数の場合の遺産分割協議
相続人が複数の場合、誰がどの財産を相続するかを話し合う遺産分割協議が必要です。協議書には相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付する必要があります。
1人でも反対すると売却できないため、事前に合意形成を図ることが重要です。協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停または審判を申し立てる方法もありますが、時間がかかるため早期の話し合いを推奨します。
ステップ2:不動産の査定と媒介契約
相続登記が完了したら、不動産会社に査定を依頼します。
査定の種類(机上査定・訪問査定)
査定には以下の2種類があります。
- 机上査定(簡易査定): 物件情報をもとに、過去の取引事例等から簡易的に価格を算出。無料で数時間〜1日程度で結果が出る。
- 訪問査定(詳細査定): 不動産会社が現地を訪問し、物件の状態を詳しく確認して価格を算出。無料で数日〜1週間程度で結果が出る。
複数社に依頼して相場を把握することをおすすめします。
媒介契約の選び方
不動産会社と結ぶ媒介契約には、以下の3種類があります。
| 契約形態 | 複数社との契約 | 自己発見取引 | 特徴 | 
|---|---|---|---|
| 専属専任媒介 | 不可 | 不可 | 1社に専任。売却活動を積極的に行う義務あり。 | 
| 専任媒介 | 不可 | 可 | 1社に専任。自分で買主を見つけることも可能。 | 
| 一般媒介 | 可 | 可 | 複数社と契約可能。競争原理が働く。 | 
売却期限が決まっている場合は専属専任媒介または専任媒介、時間に余裕がある場合は一般媒介を選択することが一般的です。
ステップ3:売却活動から引き渡しまで
媒介契約を結んだら、不動産会社が売却活動を開始します。
売却活動の流れ
不動産会社が以下の活動を実施します。
- 物件情報をポータルサイトに掲載
- チラシ・広告の作成
- 内覧対応(購入希望者が物件を見学)
- 価格交渉
購入希望者が見つかったら、売買条件(価格、引き渡し時期等)を交渉します。
売買契約と引き渡し
条件が合意できたら、売買契約を締結します。契約時に買主から手付金(売却価格の5〜10%程度)を受領し、引き渡し日を決定します。
引き渡し時に残代金を受領し、所有権移転登記を実施します。このとき、以下の諸費用が発生します。
| 費用項目 | 目安額 | 
|---|---|
| 仲介手数料 | 売却価格の3%+6万円+消費税 | 
| 登録免許税(所有権移転) | 固定資産評価額の2%(買主負担が一般的) | 
| 印紙税 | 売買契約書に貼付(数千円〜数万円) | 
| 抵当権抹消費用 | 住宅ローン残債がある場合のみ | 
仲介手数料は成功報酬のため、契約成立時に支払います。
相続不動産売却にかかる税金の種類
相続不動産を売却すると、譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税は以下の計算式で求められます。
譲渡所得税=(売却価格−取得費−譲渡費用)× 税率
- 取得費: 被相続人(親)が購入したときの価格。国税庁によると、相続不動産の取得費は被相続人の購入価格を引き継ぎます。
- 譲渡費用: 仲介手数料、測量費、解体費等、売却にかかった費用。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い
保有期間により税率が異なります。
| 保有期間 | 税率 | 内訳 | 
|---|---|---|
| 5年以下(短期譲渡所得) | 39.63% | 所得税30.63%+住民税9% | 
| 5年超(長期譲渡所得) | 20.315% | 所得税15.315%+住民税5% | 
重要: 相続の場合、保有期間は被相続人の取得時から計算します。親が購入した時期を確認してください。
取得費不明の場合の概算取得費
親の購入時の契約書が見つからない場合、概算取得費(売却価格の5%)しか使えません。
例えば、売却価格が3,000万円の場合、概算取得費は150万円です。実際の購入価格が2,000万円でも、概算取得費150万円しか認められないため、譲渡所得が大きくなり税額が高額になります。
購入時の売買契約書、領収書、通帳の履歴等を探すことが重要です。見つからない場合、税理士に相談して他の証拠書類で取得費を証明できる可能性を検討してください。
節税対策:使える特例と控除
相続不動産の売却では、以下の節税特例を活用できます。
相続空き家の3000万円特別控除
国税庁によると、昭和56年5月31日以前に建築された被相続人の居住用家屋を相続し、相続開始から3年後の年末までに売却すると、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
主な要件:
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋
- 被相続人が1人で居住していた
- 相続開始から3年後の年末まで売却
- 売却価格が1億円以下
- 耐震基準に適合、または更地にして売却
この特例を使うと、譲渡所得が3,000万円以下の場合、譲渡所得税が0円になります。
取得費加算の特例
国税庁によると、相続税を支払った人が、相続税申告期限から3年以内に不動産を売却すると、取得費に相続税の一部を加算できます。
計算式:
- 加算できる相続税額=相続税額×(売却不動産の相続税評価額/相続財産総額)
この特例により、譲渡所得を圧縮し、譲渡所得税を軽減できます。
どちらの特例を選ぶべきか
相続空き家の3000万円特別控除と取得費加算の特例は、原則として併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。
判断の目安:
- 空き家要件(昭和56年以前の建物等)を満たす場合 → 3000万円控除が有利なケースが多い
- 空き家要件を満たさない場合 → 取得費加算の特例のみ使用可能
個々の状況により有利な選択肢が異なるため、税理士に相談することを推奨します。
相続不動産売却の注意点とよくあるトラブル
相続不動産売却でよくあるトラブルと対処法を紹介します。
相続人全員の同意が必要
相続人が複数の場合、1人でも反対すると売却できません。事前に遺産分割協議で合意形成を図ることが重要です。
協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停または審判を申し立てる方法もありますが、時間がかかるため早期の話し合いを推奨します。弁護士または司法書士に相談することも検討してください。
売却期限を意識する
節税特例を使う場合、期限(相続開始から3年後の年末、または相続税申告期限から3年以内)を意識する必要があります。期限を過ぎると控除が使えず、税負担が大幅に増加します。
売却活動は余裕を持って開始し、期限に間に合うよう計画的に進めてください。
確定申告を忘れずに
不動産を売却した翌年の2月16日〜3月15日に、確定申告が必須です。申告漏れは延滞税・無申告加算税の対象となります。
特例を使う場合も確定申告が必要です。税理士に相談して正確に申告することを推奨します。
まとめ:相続不動産はスムーズに売却しよう
相続登記の義務化(2024年4月〜)により、3年以内の登記が必須となりました。売却の流れ(登記→査定→契約→引き渡し→確定申告)を把握し、節税特例(3000万円控除、取得費加算)を活用することで税負担を軽減できます。
相続人が複数の場合は早期の合意形成が重要です。取得費不明の場合、概算取得費(売却額の5%)しか使えず税額が高額になるため、購入時の契約書を探すことが重要です。
不明点は税理士または不動産会社に相談することをおすすめします。まずは複数社への査定依頼から始めましょう。
