相続した土地・建物で最初にやるべきこと
親や親族が亡くなり、土地や建物を相続した際、「何から始めればいいのか分からない」と不安を感じる方は少なくありません。2024年4月からは相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があるため、早めの対応が必要です。
この記事では、相続した土地・建物の手続きの流れ、相続税の計算方法、税金を減らす特例、注意すべきポイントを、法務省・国税庁の公式情報を元に解説します。
初めて相続を経験する方でも、必要な手続きを正確に理解し、適切に対応できるようになります。
この記事のポイント
- 相続登記は2024年4月から義務化され、相続発生から3年以内の登記が必要(過去の相続は2027年3月31日までの猶予期間)
- 手続きは①遺産分割協議→②必要書類の収集→③登記申請→④相続税申告の順で進める
- 相続税は基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に発生し、10ヶ月以内に申告が必要
- 小規模宅地等の特例(評価額80%減)や空き家特例(譲渡所得3000万円控除)で税負担を軽減できる場合がある
- 共有名義は将来的な売却困難・意見の不一致を招くため避けるべき
相続登記義務化で何が変わったのか
2024年4月施行の相続登記義務化とは
2024年4月から、不動産登記法の改正により相続登記が義務化されました。これにより、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行う必要があります。
正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。ただし、悪質でない限り即座に罰則が科されるわけではなく、まずは法務局から登記を促す通知が来る仕組みです。
相続登記と相続税申告の期限の違い
混同しやすい点として、相続登記の期限と相続税申告の期限は異なります。
| 項目 | 期限 | 罰則 | 
|---|---|---|
| 相続登記 | 相続発生から3年以内 | 10万円以下の過料 | 
| 相続税申告 | 相続発生から10ヶ月以内 | 無申告加算税・延滞税 | 
相続登記は3年と比較的長い猶予期間がありますが、相続税申告は10ヶ月以内と短いため、まずは相続税の申告期限を意識して手続きを進める必要があります。
2024年以前に発生した相続についても、2027年3月31日までに登記する必要があります(経過措置)。既に相続した不動産がある方も、この期限までに対応を完了させましょう。
相続登記の手続きの流れ
相続登記は以下の4つのステップで進めます。
ステップ1:遺産分割協議
相続人が複数いる場合、誰がどの財産を相続するかを決める「遺産分割協議」を行います。相続人全員の合意が必要で、協議の結果を「遺産分割協議書」にまとめます。
遺産分割協議書には、相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付する必要があります。この協議書は登記申請の必要書類となります。
ステップ2:必要書類の収集
法務局での登記申請には、以下の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(本籍地の市区町村役場で取得)
- 相続人全員の戸籍謄本(各相続人の本籍地で取得)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 固定資産評価証明書(不動産所在地の市区町村役場で取得)
- 遺産分割協議書(相続人全員が実印で押印)
戸籍謄本の収集は時間がかかる場合があるため、早めに着手することをおすすめします。
ステップ3:登記申請
必要書類が揃ったら、不動産の所在地を管轄する法務局に登記申請を行います。申請書は法務局のウェブサイトからひな形をダウンロードできます。
登記申請には登録免許税(固定資産評価額の0.4%)を納付する必要があります。申請から1〜2週間程度で登記が完了します。
相続人申告登記(遺産分割協議が長引く場合)
遺産分割協議がまとまらず3年以内に登記できない場合、2024年に新設された「相続人申告登記」を利用できます。これは簡易的な登記方法で、「相続人である」ことを申告するだけで義務を果たしたことになります。
ただし、正式な相続登記ではないため、遺産分割協議が成立した後には改めて本登記を行う必要があります。
相続税の計算方法
相続税の基礎控除額
相続税は、遺産総額が基礎控除額を超える場合に発生します。基礎控除額は以下の計算式で求めます。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が配偶者と子2人の計3人の場合:
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税は発生せず、申告も不要です。
相続税の税率(10%-55%の8段階)
基礎控除を超える部分には、国税庁の定める税率が適用されます。税率は10%〜55%の8段階で、遺産額が多いほど高い税率が適用されます。
| 課税価格 | 税率 | 控除額 | 
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - | 
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 | 
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 | 
| 1億円以下 | 30% | 700万円 | 
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 | 
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 | 
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 | 
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 | 
(出典: 国税庁)
不動産の評価方法(路線価・固定資産税評価額)
不動産は以下の方法で評価します。
- 土地: 路線価(国税庁が毎年7月に公表する1㎡あたりの評価額)× 土地面積
- 建物: 固定資産税評価額(市区町村が決定する評価額)
路線価は国税庁のウェブサイトで確認できます。路線価が設定されていない地域は、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。
相続税を減らす特例
小規模宅地等の特例(評価額80%減)
小規模宅地等の特例は、居住用または事業用の宅地について、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
居住用宅地の場合:
- 適用面積: 330㎡まで
- 減額割合: 80%
- 主な要件: 配偶者または同居親族が相続し、引き続き居住すること
例えば、評価額4,000万円の土地(200㎡)の場合:
4,000万円 × 80% = 3,200万円の減額 → 評価額800万円
この特例により、相続税を大幅に減らせる可能性があります。ただし、適用要件は個別の状況により異なるため、税理士に相談することをおすすめします。
空き家の3000万円特例
昭和56年5月31日以前に建築された家屋を相続し、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円(相続人3人以上の場合は2,000万円)を控除できます。
主な要件:
- 昭和56年5月31日以前建築(旧耐震基準)
- 相続発生から3年以内の売却
- 耐震改修または建物取壊しを実施
- 売却価格が1億円以下
詳細は国税庁のウェブサイトで確認できます。
特例の併用可否と優先順位
小規模宅地等の特例と空き家特例は、原則として併用できません。どちらを適用するかは、以下の観点で判断します。
- 相続税を減らしたい: 小規模宅地等の特例を優先
- 売却を予定している: 空き家特例を検討
どちらが有利かは個別の状況により異なるため、税理士に試算を依頼することをおすすめします。
相続した土地・建物の活用と注意点
共有名義のリスク
複数の相続人で不動産を相続する場合、安易に共有名義にすることは避けるべきです。共有名義には以下のリスクがあります。
- 売却時に全員の同意が必要: 1人でも反対すると売却できない
- 管理責任が不明確: 修繕費用の負担割合で揉める
- 次の相続でさらに複雑化: 共有者が亡くなると持分がさらに細分化される
遺産分割協議では、以下の方法を検討しましょう。
- 単独名義: 1人が不動産を相続し、他の相続人は預金等を相続
- 代償分割: 1人が不動産を相続し、他の相続人に現金を支払う
売却・賃貸・空き家管理の選択肢
相続後の不動産の活用方法には、主に以下の選択肢があります。
| 選択肢 | メリット | デメリット | 
|---|---|---|
| 売却 | 現金化できる、管理不要 | 譲渡所得税が発生する場合がある | 
| 賃貸 | 継続的な収入を得られる | 管理コスト、空室リスク | 
| 空き家管理 | 将来的な活用の余地を残せる | 固定資産税・管理費用が継続 | 
| 国庫帰属 | 管理責任から解放される | 管理費10年分の負担金が必要 | 
2023年4月からは「相続土地国庫帰属制度」が施行され、一定の要件を満たせば土地を国に引き渡すことも可能になりました。ただし、管理費10年分相当の負担金が必要です。
専門家(司法書士・税理士)への相談タイミング
以下のタイミングで専門家への相談を検討しましょう。
- 遺産分割協議前: 税理士に相続税の概算を試算してもらう
- 登記申請前: 司法書士に必要書類や手続きの流れを確認
- 相続税申告前: 税理士に特例の適用可否を確認
特に、遺産総額が基礎控除を超える場合や、小規模宅地等の特例を適用する場合は、税理士への早期相談を強く推奨します。自己判断で誤った手続きを進めると、後から修正が困難になる場合があります。
まとめ:相続した土地・建物で損をしないために
相続した土地・建物の手続きは、①相続登記義務化と期限の理解、②遺産分割協議と必要書類の準備、③相続税計算と特例の活用、④共有名義のリスク認識、⑤専門家への相談という5つのステップで進めます。
2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内の登記が必要になりました。期限を過ぎると過料が科される可能性があるため、早めに手続きを開始しましょう。
相続税の計算や特例の適用は複雑で、個別の状況により最適な対応が異なります。まずは司法書士・税理士に相談し、正確な情報を得てから手続きを進めることをおすすめします。
