相続した山林を国庫帰属制度で手放すには
山林を相続したものの、管理負担や固定資産税の支払いが重く、「手放したい」と考える方は少なくありません。2023年4月に施行された相続土地国庫帰属制度を使えば、一定の要件を満たす土地を国に引き取ってもらうことが可能です。
しかし、山林は農地と並んで承認のハードルが高い地目とされています。この記事では、法務省の公式情報を元に、山林特有の承認要件、手続きの流れ、費用、代替案を具体的に解説します。
この記事のポイント
- 相続土地国庫帰属制度は2023年4月施行、山林も対象だが承認要件が厳しい
- 保安林指定・土砂災害警戒区域・境界不明・管理不良などで不承認となるケースが多い
- 審査手数料14,000円(返還なし)+負担金(面積に応じて数十万円以上)が必要
- 2025年7月時点で山林申請640件、承認116件(承認率約18%)
- 承認されない場合は自治体・森林組合への寄付、隣地への売却、管理委託などの代替案も検討
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈により取得した土地を、一定の要件を満たした場合に国庫に帰属させることができる制度です。所有者不明土地問題への対策として、2023年4月27日に施行されました。
制度の概要
制度の目的は、管理が困難な土地の所有者負担を軽減し、所有者不明土地の発生を予防することです。法務省が所管し、各地方法務局が申請窓口となっています。
土地の種類(地目)に関わらず申請できますが、建物が存在する土地や担保権が設定された土地は対象外です。また、管理コストが過大と判断される土地は承認されません。
山林も対象になる
山林も制度の対象ですが、承認要件は宅地や雑種地と比べて厳しく設定されています。法務省の統計(2025年7月時点)によると、全体の申請件数4,134件のうち山林は640件、承認されたのは116件(承認率約18%)にとどまっています。
これは、山林の管理には専門的な知識と継続的なコストが必要で、国が引き取った後の管理負担が大きいためです。
山林特有の承認要件と不承認リスク
山林の国庫帰属申請では、以下の要件を満たす必要があります。法務省のQ&Aでも詳しく説明されています。
保安林指定・土砂災害警戒区域
保安林(森林法に基づき水源涵養・土砂流出防備等の公益目的で指定された森林)や土砂災害警戒区域に指定されている山林は、管理コストが過大と判断され、不承認となるリスクが高いです。
保安林の確認方法:
都道府県の林務担当部署や森林組合に問い合わせることで、保安林指定の有無を確認できます。指定されている場合、伐採制限などの規制があり、国が管理を引き受けるコストが大きくなります。
土砂災害警戒区域の確認方法:
都道府県が公開している「土砂災害ハザードマップ」で確認できます。指定されている場合、災害リスクが高く、国が引き取ることは困難です。
境界が不明な山林
山林は境界が不明確なケースが多く、申請時に「境界明示」が求められます。隣地所有者との境界を現地で確認し、合意する必要があります。
境界明示の要件:
- 隣地所有者との立会いによる境界確認
- 境界確認書の作成(測量図の添付は義務ではないが推奨される)
境界確定には測量士や土地家屋調査士への依頼が必要で、費用は数十万円以上かかるケースもあります。この費用負担が国庫帰属申請のボトルネックになることが多いです。
適切な管理が実施されていない山林
人工林(スギ・ヒノキ等の植林)の場合、適切な間伐・保育が実施されていないと不承認となります。天然林の場合も、標準伐期齢(樹種ごとに定められた標準的な伐採時期の目安年齢)に達していないと不承認です。
確認すべきポイント:
- 人工林: 過去10年以内に間伐が実施されているか
- 天然林: 標準伐期齢に達しているか(スギ40年、ヒノキ45年等)
これらの情報は、森林組合や林業事業体に相談することで確認できます。
共有持分の山林:
共有者全員の同意が必要です。相続人間での調整が難航し、申請に至らないケースも多いです。
手続きの流れ(事前確認→申請→審査)
国庫帰属制度の手続きは、以下の流れで進みます。
事前確認:要件を満たすか
まず、自分の山林が制度の対象かを確認します。
確認事項:
- 保安林指定・土砂災害警戒区域に該当しないか
- 境界が明確か(隣地所有者と合意できるか)
- 適切な管理が実施されているか
- 建物や担保権が存在しないか
不明な点があれば、申請前に管轄の法務局に相談することを強くおすすめします。法務省のウェブサイトには、各地方法務局の相談窓口が掲載されています。
法務局への申請
要件を満たしていることを確認したら、管轄の法務局に申請します。
必要書類:
- 申請書(法務局の指定様式)
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 境界確認書(隣地所有者との合意書)
- 固定資産税評価証明書
- 森林の状況を示す資料(間伐記録、森林経営計画等)
審査手数料:
1筆あたり14,000円を納付します。この手数料は、却下・不承認となった場合でも返還されません。
審査期間:半年~1年
法務局が書類審査と現地調査を実施します。審査期間は半年~1年程度で、申請内容や土地の状況によって異なります。
現地調査では、境界の確認、管理状態のチェック、災害リスクの評価などが行われます。調査の結果、承認要件を満たさないと判断されると不承認となります。
承認通知後の流れ:
- 承認通知を受領
- 負担金を納付(10年分の管理費相当額)
- 国庫帰属の完了
費用の内訳と負担金の算定
国庫帰属制度の利用には、審査手数料と負担金の2つの費用が必要です。
審査手数料:14,000円
申請時に1筆あたり14,000円を納付します。複数の筆がある場合、それぞれに手数料が必要です。
重要: この手数料は、申請が却下・不承認となった場合でも返還されません。そのため、事前確認を十分に行い、承認の見込みがあるかを慎重に判断することが重要です。
負担金:面積に応じて算定
承認後、国庫帰属を完了させるためには負担金を納付する必要があります。負担金は、国が土地を引き取った後の10年分の管理費相当額として算定されます。
法務省の負担金算定基準によると、山林の負担金は面積に応じて算定されます(宅地の原則20万円とは異なる)。
山林の負担金の目安:
- 面積が小さい場合: 数万円~数十万円
- 面積が大きい場合: 数十万円以上(面積に比例)
広大な山林では負担金が高額になる可能性があるため、事前に法務局で見積もりを確認することが推奨されます。
承認されない場合の代替案
国庫帰属制度で承認されない場合、以下の代替案を検討します。
自治体・森林組合への寄付
一部の自治体や森林組合では、公益利用が見込まれる山林の寄付を受け入れています。ただし、受け入れ基準は厳しく、以下のような条件があります。
- 公園・緑地として整備予定の土地
- 水源涵養など公益性が高い土地
- 自治体の財政負担が少ない土地
多くの自治体は財政難のため、寄付の受け入れに消極的です。事前に自治体の担当部署に相談し、受け入れ可能性を確認しましょう。
隣地への売却
隣地所有者が拡大を希望している場合、売却交渉が成立する可能性があります。
売却のメリット:
- 所有権を完全に手放せる
- 売却代金を受け取れる(ただし山林の売却価格は低い)
売却の課題:
- 境界が明確でないと交渉が難航
- 隣地所有者が購入を希望しない場合が多い
売却を検討する場合、不動産会社や森林組合に相談し、仲介を依頼することも選択肢です。
森林組合への管理委託
所有権を保持したまま、森林組合に管理を委託する方法もあります。
管理委託のメリット:
- 間伐・保育などの管理を専門家に任せられる
- 森林経営計画に基づく補助金を活用できる場合がある
管理委託のデメリット:
- 所有権は残るため、固定資産税は引き続き負担
- 管理費用が発生する
ただし、森林組合も受け入れ基準があり、すべての山林を引き受けてくれるわけではありません。
まとめ:山林の国庫帰属は要件が厳しい
相続土地国庫帰属制度は、山林も対象ですが、保安林指定、境界不明、管理不良などの理由で不承認となるリスクが高いです。2025年7月時点での山林の承認率は約18%にとどまっており、申請しても承認される保証はありません。
費用は審査手数料14,000円(返還なし)+負担金(面積に応じて数十万円以上)が必要です。境界確定費用も含めると、トータルで数十万円~100万円以上の負担になる可能性があります。
申請前には、管轄の法務局に事前相談し、承認の見込みがあるかを確認することが重要です。承認されない場合は、自治体・森林組合への寄付、隣地への売却、管理委託などの代替案も検討しましょう。
山林の相続でお困りの場合は、弁護士、司法書士、土地家屋調査士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。
