土地を国に返す費用は?相続土地国庫帰属制度を解説

公開日: 2025/11/6

土地を国に返す費用はいくらかかるのか?

相続した土地の管理に困り、「国に返せないか」と考える方が増えています。2023年4月に施行された相続土地国庫帰属制度により、一定の要件を満たせば土地を国に返すことが可能になりました。

この記事では、相続土地国庫帰属制度の費用(審査手数料・負担金)、申請要件、却下されるケース、代替手段まで、法務省の公式情報を元に解説します。

「無料で処分できる」という誤解を解消し、現実的な選択肢を判断できるようになります。

この記事のポイント

  • 土地を国に返すには審査手数料14,000円+負担金20万円以上が必要
  • 建物がある土地、担保権設定、境界不明な土地は却下される
  • 申請から承認まで半年~1年かかり、その間も管理責任が残る
  • 制度利用が難しい場合は、隣地への売却、自治体への寄付などの代替手段を検討

相続土地国庫帰属制度とは

相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈で取得した土地を一定要件下で国庫に帰属させる制度です。2023年4月27日に施行されました。

制度の背景:所有者不明土地問題

全国で約410万ヘクタールの所有者不明土地が存在し、公共事業や土地取引の障害となっています。国土交通省は、人口減少時代における土地政策の一環として、相続土地の放棄を認める制度を創設しました。

2023年4月施行の新制度

対象となる土地:

  • 相続または遺贈で取得した土地のみ
  • 購入した土地は対象外

重要な注意点:

  • 厳格な要件があり、「必ず国が引き取る」わけではない
  • 承認率は93%(法務省2024年統計)だが、却下・不承認も存在する

費用の内訳

土地を国に返すために必要な費用は、以下の2つです。

項目 金額 支払時期 返還の可否
審査手数料 1筆あたり14,000円 申請時 却下・不承認でも返還なし
負担金 原則20万円 承認後 面積・地目により変動

審査手数料:1筆あたり14,000円

申請時に法務局に納付します。1筆ごとに14,000円が必要です。

重要: 却下・不承認の場合でも審査手数料は返還されません。事前に要件を確認し、却下リスクが高い場合は申請を控える判断も必要です。

負担金:原則20万円(10年分の管理費)

承認後に納付する負担金は、10年分の管理費相当額として法務省が算定します。

地目別の負担金:

  • 宅地・農地: 原則20万円
  • 森林: 面積に応じて算定(例:面積が広いと20万円超)
  • 都市部の宅地: 管理コストが高い場合、20万円超

却下されるケース

申請段階で却下される主な要件を法務省が明示しています。

建物がある土地

却下要件: 更地のみが対象。建物が存在する土地は却下されます。

対処方法:

  • 建物を解体して更地にする必要がある
  • 解体費用は数十~数百万円かかる場合がある
  • 負担金と合わせると高額になるため、費用対効果を慎重に判断

担保権が設定されている土地

却下要件: 抵当権、地上権などの担保権が設定されている土地は却下されます。

対処方法:

  • 担保権を抹消するには債務を完済する必要がある
  • 完済後、抹消登記を行ってから申請

境界が不明な土地

却下要件: 隣地との境界が確定していない土地は却下されます。

対処方法:

  • 土地家屋調査士に依頼して境界確定測量を実施
  • 費用は数十万円以上かかる場合がある

その他の却下要件

  • 通路等として隣地所有者が使用している土地
  • 土壌汚染がある土地
  • 廃棄物が混入している土地
  • 崖地など災害リスクが高い土地

手続きの流れ

法務省が示す手続きの流れは以下の通りです。

申請から承認まで半年~1年

  1. 法務局への申請: 審査手数料14,000円を納付
  2. 法務局による要件審査: 半年~1年かかる
  3. 承認通知: 承認された場合のみ次のステップへ
  4. 負担金納付: 20万円以上
  5. 国庫帰属: 所有権が国に移転

審査期間中も管理責任あり

重要: 申請から承認まで半年~1年かかり、その間も所有者として管理責任が継続します。

管理責任の内容:

  • 草刈り
  • 境界保全
  • 不法投棄の防止

適切な管理を怠ると、承認後に問題となる可能性があります。

国庫帰属が難しい場合の代替手段

制度利用が難しい場合、以下の選択肢を検討します。

隣地への売却

メリット: 現金化できる

条件:

  • 境界が明確であること
  • 隣地所有者が購入を希望すること

注意点: 売却価格は交渉次第。買い手がつかないケースも多い。

自治体への寄付

メリット: 管理責任から解放される

条件:

  • 公益利用(公園、道路等)が見込まれる土地のみ
  • 自治体が受け入れを承認すること

注意点: 自治体のハードルは高く、受け入れられないケースが多い。

土地バンク・空き地バンク

メリット: 移住希望者とマッチングできる可能性

条件:

  • 自治体が運営する土地バンクに登録
  • 利用希望者が現れること

注意点: 過疎地では利用希望者が少なく、成約率は低い。

専門家への相談

いずれも困難なケースが多いため、弁護士、司法書士、土地家屋調査士への相談が推奨されます。

まとめ:土地を国に返すには厳格な要件と費用が必要

相続土地国庫帰属制度により土地を国に返すことは可能ですが、審査手数料14,000円+負担金20万円以上が必要です。建物がある土地、担保権設定、境界不明な土地は却下され、事前に解決が必要です。

申請から承認まで半年~1年かかり、その間も管理責任が残ります。代替手段(隣地への売却、自治体への寄付、土地バンク登録)も検討し、専門家への相談を推奨します。

「無料で処分できる」という誤解を持たず、現実的な費用と要件を理解した上で判断しましょう。

よくある質問

Q1建物がある土地はどうすればいいですか?

A1建物を解体して更地にする必要があります。解体費用は数十~数百万円かかる場合があり、負担金と合わせると高額になります。解体費用を考慮して、制度利用の可否を判断してください。解体せずに申請した場合は却下されます。

Q2審査期間中も土地の管理責任はありますか?

A2はい、あります。申請から承認まで半年~1年かかり、その間も所有者として管理責任が継続します。草刈りや境界保全、不法投棄の防止など、適切な管理が必要です。管理を怠ると、承認後に問題となる可能性があります。

Q3相続放棄と相続土地国庫帰属制度の違いは?

A3相続放棄は相続開始から3ヶ月以内に全財産を放棄する手続きです。国庫帰属制度は相続後に土地のみを国に返す制度です。既に相続した土地には相続放棄は使えないため、国庫帰属制度を検討することになります。

Q4購入した土地も国に返せますか?

A4いいえ、返せません。国庫帰属制度の対象は「相続または遺贈で取得した土地」のみです。購入した土地は対象外なので、売却や寄付などの代替手段を検討してください。

Q5審査手数料は却下されても返還されませんか?

A5はい、返還されません。却下・不承認の場合でも審査手数料14,000円は返還されないため、事前に要件(建物の有無、担保権設定、境界確定)を確認し、却下リスクが高い場合は申請を控える判断も必要です。