不動産の相続税評価額とは?固定資産税評価額との違い
親の不動産を相続する際、「相続税評価額はどう計算するのか」「固定資産税評価額とは何が違うのか」と疑問を感じる方は少なくありません。
この記事では、不動産の相続税評価額の計算方法(土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額)、小規模宅地等の特例による大幅な評価減の方法を、国税庁の公式情報を元に解説します。
土地と建物で評価方法が異なること、小規模宅地等の特例で評価額を大幅に減額できることが理解できます。
この記事のポイント
- 不動産の相続税評価額は土地と建物で別々に計算する
- 土地は路線価方式(市街地)または倍率方式(郊外)で評価
- 建物は固定資産税評価額をそのまま使用(貸家は30%控除)
- 小規模宅地等の特例で、居住用土地は330㎡まで80%減額可能
- 路線価方式の補正率は複雑で、正確な計算には税理士への相談が必要
不動産の相続税評価額は、固定資産税評価額とは異なります。固定資産税評価額は市区町村が固定資産税を課税するために決定する評価額で、土地・建物ともに使用されます。
一方、相続税評価額は、土地は路線価または評価倍率で計算し、建物は固定資産税評価額をそのまま使用します。土地の評価方法が異なるため、固定資産税評価額を相続税評価額として使うことはできません。
執筆時点(2025年)の路線価を使用: 路線価は毎年7月に国税庁が公表します。相続が発生した年の路線価を使用して評価額を計算します。常に最新の路線価を確認してください。
土地の相続税評価額の計算方法
土地の相続税評価額は、路線価方式または倍率方式で計算します。
路線価方式(市街地)
路線価方式は、国税庁が毎年7月に公表する路線価(道路に面する土地1㎡あたりの評価額)を使って計算する方法です。市街地で使用されます。
計算式: 路線価 × 面積 × 補正率
例えば、路線価が30万円/㎡、面積が100㎡、補正率が1.0の場合、評価額は3000万円(30万円×100㎡×1.0)となります。
路線価図は国税庁の財産評価基準書で確認できます。住所を入力すれば、該当する路線価が表示されます。
倍率方式(郊外・農村部)
倍率方式は、路線価が定められていない地域(郊外・農村部)で使用される方法です。固定資産税評価額に国税庁が定める評価倍率を乗じて計算します。
計算式: 固定資産税評価額 × 評価倍率
例えば、固定資産税評価額が1500万円、評価倍率が1.1の場合、相続税評価額は1650万円(1500万円×1.1)となります。
評価倍率表も国税庁の財産評価基準書で確認できます。
補正率(形状・間口・奥行き)
路線価方式では、土地の形状(不整形地、間口狭小、奥行長大など)に応じて補正率を適用します。補正率は、奥行価格補正率、不整形地補正率、側方路線影響加算率など多岐にわたり、計算が複雑です。
概算の評価額は路線価×面積で試算できますが、正確な計算には補正率の適用が必要です。税理士への相談が推奨されます。
建物の相続税評価額の計算方法
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額をそのまま使用します。
自用家屋(固定資産税評価額をそのまま使用)
自分が住んでいる家屋(自用家屋)の相続税評価額は、固定資産税評価額と同じです。固定資産税評価額は、毎年4〜5月に市区町村から郵送される固定資産税課税明細書で確認できます。
例: 固定資産税評価額1000万円の建物
- 相続税評価額: 1000万円
貸家(借家権割合30%を控除)
賃貸用の建物(貸家)は、財産評価基本通達により、借家権割合30%(全国一律)を控除して評価額を計算します。
計算式: 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合0.3)
例: 固定資産税評価額1000万円の貸家
- 相続税評価額: 1000万円 × (1 - 0.3) = 700万円
賃貸用かどうかで評価額が大きく変わるため、賃貸経営を活用した節税対策も検討できます。
小規模宅地等の特例で評価額を大幅に減額
小規模宅地等の特例は、被相続人の居住用・事業用・貸付用の宅地を相続した場合、一定の面積まで評価額を大幅に減額できる制度です(国税庁)。
居住用宅地(330㎡まで80%減額)
被相続人の自宅の敷地(居住用宅地)は、330㎡まで評価額が80%減額されます。
計算式: 評価額 × (1 - 0.8)
例: 評価額3000万円の居住用土地(200㎡)
- 減額後の評価額: 3000万円 × (1 - 0.8) = 600万円
- 2400万円の評価減
貸付用宅地(200㎡まで50%減額)
賃貸アパート・マンションの敷地(貸付用宅地)は、200㎡まで評価額が50%減額されます。
計算式: 評価額 × (1 - 0.5)
例: 評価額2000万円の貸付用土地(150㎡)
- 減額後の評価額: 2000万円 × (1 - 0.5) = 1000万円
- 1000万円の評価減
適用要件(配偶者・同居親族・家なき子)
小規模宅地等の特例を受けるには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
居住用宅地の場合:
- 配偶者が取得: 配偶者が取得する場合は無条件で適用
- 同居親族が取得: 相続開始前から同居し、相続後も引き続き居住・保有
- 家なき子が取得: 持ち家のない親族(家なき子)が取得し、相続後も保有
要件を満たさない場合は特例が適用されず、評価減できません。「必ず80%減額できる」わけではない点に注意が必要です。
不動産の相続税評価額の計算例
具体的な計算例で、土地と建物の評価額、小規模宅地等の特例適用前後の比較を示します。
土地3000万円、建物1000万円のケース
前提条件:
- 土地: 路線価方式で評価額3000万円(面積200㎡、路線価15万円/㎡)
- 建物: 固定資産税評価額1000万円(自用家屋)
- 被相続人の自宅として使用
小規模宅地等の特例適用前後の比較
特例適用前:
- 土地: 3000万円
- 建物: 1000万円
- 合計: 4000万円
特例適用後(居住用宅地330㎡まで80%減額):
- 土地: 3000万円 × (1 - 0.8) = 600万円
- 建物: 1000万円(変更なし)
- 合計: 1600万円
評価減: 2400万円
小規模宅地等の特例を活用することで、評価額を大幅に減額でき、相続税の負担も大きく軽減されます。
貸家・貸家建付地のケース
賃貸用の建物・土地の場合、さらに評価が下がります。
前提条件:
- 土地: 路線価方式で評価額3000万円、借地権割合60%(借地権割合は地域により30%〜90%の範囲で異なる)
- 建物: 固定資産税評価額1000万円(貸家)
- 賃貸アパートとして使用
貸家の評価額:
- 建物: 1000万円 × (1 - 0.3) = 700万円
貸家建付地の評価額:
- 土地: 3000万円 × (1 - 0.6 × 0.3) = 2460万円
小規模宅地等の特例適用後(貸付用200㎡まで50%減額):
- 土地: 2460万円 × (1 - 0.5) = 1230万円
- 建物: 700万円
- 合計: 1930万円
賃貸経営を活用することで、自用地・自用家屋より評価額を抑えられます。
まとめ
不動産の相続税評価額は、土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で計算します。土地と建物で評価方法が異なるため、固定資産税評価額を相続税評価額として使うことはできません。
小規模宅地等の特例を活用すれば、居住用土地は330㎡まで80%減額、貸付用土地は200㎡まで50%減額され、評価額を大幅に減らすことができます。ただし、配偶者・同居親族・家なき子などの適用要件を満たす必要があります。
路線価方式の補正率は複雑で、素人が正確に計算するのは困難です。正確な評価額を知りたい場合は、税理士に相談することをおすすめします。
