不動産相続の税金は?相続税・登録免許税・譲渡所得税を解説

公開日: 2025/10/27

不動産相続にかかる税金の全体像

不動産を相続する際、「税金がいくらかかるのか」「どんな手続きが必要なのか」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、不動産相続にかかる3種類の税金(相続税・登録免許税・譲渡所得税)の仕組み、計算方法、節税対策を、国税庁法務局の公式情報を元に解説します。

初めて不動産を相続する方でも、必要な税金と手続きを正確に把握できるようになります。

この記事のポイント

  • 不動産相続では相続税・登録免許税・譲渡所得税の3種類の税金が発生する
  • 相続税は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えた部分に課税
  • 登録免許税は相続登記時に固定資産税評価額の0.4%が課される
  • 2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと過料10万円以下が科される可能性がある
  • 小規模宅地等の特例や取得費加算の特例で大幅な節税が可能な場合がある

不動産相続にかかる税金の種類と発生タイミング

不動産を相続すると、以下の3種類の税金が発生します。

税金の種類 発生タイミング 概要
相続税 相続時 相続財産の合計が基礎控除を超えた場合に課税
登録免許税 相続登記時 不動産の名義変更時に課される国税
譲渡所得税 売却時 相続した不動産を売却した際に課税

相続税と登録免許税は不動産を相続した時点で必ず検討が必要です。譲渡所得税は、相続後に不動産を売却する場合にのみ発生します。

それぞれの税金には異なる計算方法と軽減措置があるため、全体像を把握することが重要です。

相続税:基礎控除と小規模宅地等の特例

基礎控除の計算方法(3,000万円+600万円×法定相続人数)

相続税は、相続財産の合計額が基礎控除額を超えた部分に課税されます。基礎控除額は以下の計算式で算出されます。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数

例えば、法定相続人が配偶者と子2人の場合:

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

この場合、相続財産の合計が4,800万円以下であれば、相続税は課税されず、申告も不要です。

法定相続人には、配偶者(常に相続人)、第1順位(子)、第2順位(直系尊属)、第3順位(兄弟姉妹)があります。

小規模宅地等の特例で最大80%減額

小規模宅地等の特例は、被相続人の居住用または事業用宅地を相続した場合、一定面積まで評価額を大幅に減額できる制度です。

宅地の種類 減額率 適用面積
特定居住用宅地等(自宅) 80% 330㎡まで
特定事業用宅地等(事業用地) 80% 400㎡まで
貸付事業用宅地等(賃貸用地) 50% 200㎡まで

(出典: 国税庁

例えば、評価額5,000万円の自宅敷地(330㎡以下)を配偶者が相続する場合、80%減額で評価額は1,000万円(5,000万円×20%)となります。

ただし、この特例の適用には以下の要件があります。

  • 配偶者または同居親族が相続すること
  • 居住を継続すること(配偶者の場合は継続要件なし)
  • 申告期限(相続開始から10ヶ月以内)までに申告すること

重要な注意点: 小規模宅地等の特例を適用する場合、基礎控除以下になったとしても相続税の申告が必須です。申告しないと特例が適用されません。

相続税の税率と申告期限(10ヶ月以内)

相続税の税率は、基礎控除を超えた部分に対して10%~55%の累進課税が適用されます。

法定相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

(出典: 国税庁

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。期限を過ぎると、延滞税(年7.3~14.6%)や無申告加算税(15~20%)が課される可能性があるため、注意が必要です。

登録免許税:相続登記の期限と罰則

登録免許税の税率(固定資産税評価額の0.4%)

相続した不動産の名義を変更(相続登記)する際には、登録免許税が課されます。

登録免許税 = 固定資産税評価額 × 0.4%

例えば、固定資産税評価額が3,000万円の不動産の場合:

3,000万円 × 0.4% = 12万円

固定資産税評価額は、市町村が決定する評価額で、実勢価格の約70%程度が目安です。毎年送付される固定資産税納税通知書で確認できます。

2024年4月施行の相続登記義務化(3年以内)

2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。これは、所有者不明土地問題の解消を目的とした不動産登記法の改正によるものです。

義務化の主な内容:

  • 相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行う必要がある
  • 2024年4月1日より前に相続した不動産も対象(猶予期間は2027年3月31日まで)
  • 遺産分割が成立した場合は、成立日から3年以内に登記が必要

(出典: 法務局

正当な理由がない場合の過料(10万円以下)

正当な理由なく3年以内に相続登記を行わなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

ただし、以下のような「正当な理由」がある場合は、救済制度があります。

  • 相続人が極めて多数で調査に時間がかかる場合
  • 遺言の有効性や遺産の範囲に争いがある場合
  • 相続人自身が重病等の事情がある場合

このような場合、「相続人申告登記」という簡易的な申告制度を利用することで、義務違反を回避できます。

譲渡所得税:相続不動産を売却する場合の税金

短期・長期の税率の違い(短期39.63%、長期20.315%)

相続した不動産を売却すると、譲渡所得税が課されます。税率は所有期間によって異なります。

所有期間 税率 内訳
5年以下(短期) 39.63% 所得税30% + 住民税9% + 復興特別所得税0.63%
5年超(長期) 20.315% 所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%

(出典: 国税庁

重要な注意点: 相続した不動産の所有期間は、被相続人の取得日を引き継ぎます。相続直後に売却しても、被相続人が5年超所有していれば長期譲渡所得(20.315%)となります。

取得費加算の特例(相続税申告期限から3年10ヶ月以内)

相続税申告期限(相続開始から10ヶ月)から3年以内、つまり相続開始から3年10ヶ月以内に相続不動産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。

これにより、譲渡所得が減少し、譲渡所得税を軽減できる場合があります。

計算式:

取得費加算額 = 相続税額 × (譲渡した不動産の相続税評価額 ÷ 相続財産総額)

(出典: 国税庁

空き家の3,000万円特別控除

被相続人の居住用財産(空き家)を売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(2025年時点では2027年12月31日まで適用)。

主な要件:

  • 1981年5月31日以前に建築された家屋であること
  • 被相続人が一人で居住していたこと
  • 相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却すること
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 耐震基準を満たすよう改修するか、家屋を取り壊して売却すること

(出典: 国税庁

この特例を活用すれば、譲渡所得税を大幅に軽減できる可能性があります。

節税対策と手続きの流れ

小規模宅地等の特例の適用要件

小規模宅地等の特例は大幅な節税効果がありますが、適用要件が厳格です。

特定居住用宅地等(自宅)の要件:

  • 配偶者が相続する場合:無条件で適用
  • 同居親族が相続する場合:相続開始前から申告期限まで居住・所有を継続
  • 別居の子が相続する場合(家なき子特例):相続開始前3年以内に持ち家に居住していないこと等の要件を満たす必要がある

特定事業用宅地等の要件:

  • 被相続人の事業(不動産貸付業を除く)を相続税申告期限まで継続すること
  • 宅地を申告期限まで保有すること

特例の適用には、必ず相続税の申告が必要です。基礎控除以下でも申告しないと特例が適用されないため、注意が必要です。

取得費加算の特例と空き家特例の選択

取得費加算の特例と空き家の3,000万円特別控除は、併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。

選択の目安:

  • 相続税が多額の場合:取得費加算の特例が有利な場合がある
  • 譲渡所得が多額の場合:空き家の3,000万円特別控除が有利な場合がある

どちらが有利かは、相続税額・譲渡所得・取得費等によって異なります。税理士に試算を依頼し、より節税効果の高い方を選択することをおすすめします。

税理士への相談を推奨

不動産相続にかかる税金は、個別の財産状況・相続人の関係・不動産の評価額等により大きく異なります。

以下のような場合は、税理士への相談を強くおすすめします。

  • 相続財産の合計が基礎控除を超える可能性がある場合
  • 小規模宅地等の特例を適用したい場合
  • 不動産を売却する予定がある場合
  • 相続税申告期限が迫っている場合

税理士に依頼することで、適切な評価額の算定、特例の適用判断、申告書の作成等を任せることができ、税務調査のリスクも軽減できます。

まとめ:不動産相続の税金は専門家に相談を

不動産相続では、相続税・登録免許税・譲渡所得税の3種類の税金が発生します。相続税は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えた部分に課税され、小規模宅地等の特例で最大80%減額できる可能性があります。

2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと過料10万円以下が科される可能性があるため、早めの手続きが必要です。

相続不動産を売却する場合は、取得費加算の特例や空き家の3,000万円特別控除を活用することで、譲渡所得税を大幅に軽減できる場合があります。

個別の財産状況により適用要件や節税効果が異なるため、税理士や司法書士等の専門家に相談しながら、適切な手続きを進めることをおすすめします。

よくある質問

Q1相続税の基礎控除を超えない場合、申告は不要ですか?

A1基礎控除以下なら原則として相続税申告は不要です。ただし、小規模宅地等の特例を適用する場合は、基礎控除以下であっても申告が必須です。特例の適用には申告が条件となっており、申告しないと特例が受けられず、相続税が課税される可能性があります。不安な場合は税理士に相談することをおすすめします。

Q2相続登記を3年以内にしないと必ず過料10万円が科されますか?

A2正当な理由がない場合に過料が科される可能性があります。相続人が極めて多数で調査に時間がかかる、遺言の有効性に争いがある等の事情があれば、「相続人申告登記」という簡易的な申告制度を利用することで義務違反を回避できます。ただし、正当な理由の判断は個別のケースにより異なるため、早めに司法書士に相談することをおすすめします。

Q3取得費加算の特例と空き家の3,000万円特別控除は併用できますか?

A3併用はできません。どちらか一方を選択する必要があります。取得費加算の特例は相続税が多額の場合に有利で、空き家特例は譲渡所得が多額の場合に有利な傾向があります。どちらが有利かは個別の状況により異なるため、税理士に試算を依頼し、より節税効果の高い方を選択することをおすすめします。

Q4相続不動産の所有期間はいつから計算しますか?

A4被相続人の取得日を引き継ぎます。相続直後に売却しても、被相続人が5年超所有していれば長期譲渡所得(20.315%)となります。逆に、被相続人の所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得(39.63%)となるため、税率が高くなります。売却時期を検討する際には、被相続人の取得日を確認することが重要です。