相続税の土地評価額の計算方法|路線価・倍率方式を解説

公開日: 2025/10/26

相続税の土地評価額とは

親の土地を相続する際、「相続税はいくらかかるのか」「土地の評価額はどう計算されるのか」と不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、相続税の土地評価額の計算方法(路線価方式・倍率方式)、小規模宅地等の特例による評価減、土地と建物を合わせた評価方法を、国税庁の公式情報を元に解説します(2025年時点の情報に基づく)。

初めて相続税を申告する方でも、自分で土地評価額を試算できるようになります。

この記事のポイント

  • 相続税の土地評価額は路線価方式または倍率方式で計算する
  • 路線価方式は市街地の土地(全国の約60%)で使用し、路線価×面積×補正率で算出
  • 倍率方式は郊外・農地等で使用し、固定資産税評価額×評価倍率で算出
  • 小規模宅地等の特例により、居住用宅地330㎡まで評価額を80%減額できる可能性がある
  • 建物は固定資産税評価額をそのまま使用し、土地評価額と合算して不動産全体の評価額とする

路線価方式と倍率方式の違い

相続税の土地評価には、路線価方式と倍率方式の2つの方法があります。国税庁によると、どちらの方式を使用するかは、対象地に路線価が設定されているかどうかで決まります。

路線価方式が適用される土地(市街地)

路線価方式は、路線価が設定されている市街地の土地に適用されます。路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額で、国税庁が毎年7月に公表します。全国の約60%の土地が路線価方式の対象です。

計算式は以下の通りです。

土地評価額 = 路線価 × 土地面積 × 補正率

路線価は国税庁の路線価図で確認でき、単位は「千円/㎡」で表示されます。例えば、路線価「300」と記載されていれば、1㎡あたり300千円(30万円)という意味です。

倍率方式が適用される土地(郊外・農地)

倍率方式は、路線価が設定されていない郊外・農地等に適用されます。固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価額を算出する方法です。

計算式は以下の通りです。

土地評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率

固定資産税評価額は、市区町村から毎年送付される固定資産税の納税通知書で確認できます。評価倍率は国税庁の評価倍率表で地域ごとに設定されており、通常1.1倍前後です。

路線価方式の計算方法(ステップバイステップ)

路線価方式での土地評価額の計算手順を具体的に解説します。

路線価図の見方と路線価の確認

  1. 国税庁の路線価図にアクセス
  2. 都道府県・市区町村を選択
  3. 対象地の所在地を地図上で特定
  4. 対象地が面している道路に記載された数字(路線価)を確認

路線価は「300D」のように、数字とアルファベットで表示されます。数字が路線価(千円/㎡)、アルファベットは借地権割合を示します。土地評価の場合、数字のみを使用します。

面積の確認と補正率の適用

土地面積は、登記簿謄本または測量図で確認します。

補正率は、土地の形状や接道状況により評価額を調整するための係数です。主な補正率は以下の通りです。

  • 奥行価格補正率: 土地の奥行が標準的な奥行と異なる場合に適用
  • 不整形地補正率: 土地の形状が不整形(三角形、台形等)の場合に適用
  • 間口狭小補正率: 道路に面する間口が狭い場合に適用

補正率の詳細は財産評価基本通達で確認できます。国税庁のサイトで補正率表を確認でき、標準的な形状の土地であれば補正率は1.0となります。

計算例(具体的な数値)

条件:

  • 路線価: 300千円/㎡(30万円/㎡)
  • 土地面積: 100㎡
  • 補正率: 1.0(標準的な形状)

計算: 土地評価額 = 30万円/㎡ × 100㎡ × 1.0 = 3,000万円

この土地の相続税評価額は3,000万円となります。

倍率方式の計算方法

倍率方式は路線価方式に比べて計算が簡単です。

固定資産税評価額の確認方法

固定資産税評価額は、以下のいずれかの方法で確認できます。

  • 市区町村から送付される固定資産税の納税通知書(毎年4-6月頃送付)
  • 市区町村の税務課窓口で固定資産税評価証明書を取得

納税通知書には「課税標準額」と「評価額」が記載されていますが、相続税評価に使用するのは「評価額」の方です。

評価倍率表の見方

国税庁の評価倍率表にアクセスし、対象地の所在地(都道府県・市区町村・町名)を選択します。

評価倍率は「1.1」「1.2」のように表示されます。「路線」と表示されている地域は、路線価方式を使用すべきことを示しています。

計算例

条件:

  • 固定資産税評価額: 1,000万円
  • 評価倍率: 1.1

計算: 土地評価額 = 1,000万円 × 1.1 = 1,100万円

この土地の相続税評価額は1,100万円となります。

小規模宅地等の特例(最大80%減額)

小規模宅地等の特例は、相続税法で定められた評価減の制度です。被相続人の居住用または事業用の宅地を相続した場合、一定の要件を満たせば評価額を大幅に減額できます。

適用要件(居住用・事業用)

特定居住用宅地等(居住用):

  • 減額割合: 80%
  • 適用面積: 330㎡まで
  • 要件:
    • 被相続人の自宅として使用されていた土地であること
    • 相続人が被相続人と同居していた、または「家なき子特例」の要件を満たすこと
    • 申告期限(相続開始から10ヶ月)まで所有・居住を継続すること

特定事業用宅地等(事業用):

  • 減額割合: 80%
  • 適用面積: 400㎡まで
  • 要件:
    • 被相続人の事業用地として使用されていたこと
    • 相続人が事業を継続すること

減額の計算例

条件:

  • 土地評価額: 3,000万円
  • 土地面積: 200㎡(全て居住用)
  • 小規模宅地等の特例を適用

計算: 減額額 = 3,000万円 × 80% = 2,400万円 特例適用後の評価額 = 3,000万円 - 2,400万円 = 600万円

評価額が3,000万円から600万円に減額されます。

重要: 国税庁によると、小規模宅地等の特例は自動的に適用されません。相続税申告書に特例の適用を明記し、要件を満たす証明書類を添付する必要があります。

土地と建物を合わせた評価

相続税では、土地と建物は別々に評価します。

建物の評価方法(固定資産税評価額)

建物の相続税評価額は、国税庁によると、固定資産税評価額をそのまま使用します。

固定資産税評価額は、市区町村が決定する建物の評価額で、納税通知書で確認できます。路線価での評価は行わない点に注意が必要です。

不動産全体の評価額の計算:

不動産全体の評価額 = 土地の評価額 + 建物の評価額

計算例:

  • 土地の評価額: 3,000万円
  • 建物の評価額(固定資産税評価額): 1,500万円

不動産全体の評価額 = 3,000万円 + 1,500万円 = 4,500万円

注意点と税理士への相談

路線価の公表時期(毎年7月)

国税庁によると、路線価は毎年7月1日に公表されます。令和6年分は2024年7月に公表済みで、令和7年分は2025年7月公表予定です。

相続税申告には、相続開始年(被相続人が亡くなった年)の1月1日時点の路線価を使用します。例えば、2025年5月に相続が開始した場合、2025年1月1日時点の路線価(2025年7月公表)を使用します。

補正率の適用が難しいケース

以下のようなケースでは、補正率の適用が複雑になります。

  • 不整形地(三角形、台形、L字型等)
  • 間口が極端に狭い土地
  • 奥行が極端に長い土地
  • 複数の道路に面している土地
  • 広大地(市街化区域で500㎡以上等)

このような場合、補正率の適用を誤ると、過大評価・過小評価のリスクがあります。過大評価すれば相続税を多く支払うことになり、過小評価すれば税務調査で追徴課税されるリスクがあります。

個別具体的な相続税額の試算や複雑なケースの評価は、税理士の業務領域です。不安がある場合は、相続税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。

まとめ:まずは路線価図で評価方法を確認

相続税の土地評価額は、路線価方式(市街地)と倍率方式(郊外・農地)の2つの方法で計算します。国税庁の路線価図・評価倍率表で自分の土地の評価方法を確認し、基本的な評価額を算出できます。

小規模宅地等の特例を適用できれば、評価額を最大80%減額できる可能性があります。ただし、特例の適用には要件があり、相続税申告書への明記と証明書類の添付が必要です。

複雑なケースや正確な相続税額を知りたい場合は、税理士への相談を推奨します。まずは国税庁のサイトで路線価を確認し、概算の評価額を把握することから始めましょう。

よくある質問

Q1路線価と固定資産税評価額の違いは何ですか?

A1路線価は国税庁が定める相続税・贈与税用の評価基準で、市場価格の約80%水準です。毎年7月に公表され、相続税評価に使用します。一方、固定資産税評価額は市区町村が定める固定資産税用の評価基準で、市場価格の約70%水準です。3年ごとに評価替えが行われます。用途が異なるため、同じ土地でも評価額が異なります。

Q2路線価が設定されていない土地はどう評価しますか?

A2路線価が設定されていない土地は倍率方式を使用します。固定資産税評価額に国税庁の評価倍率表で確認できる倍率を乗じて計算します。計算式は「固定資産税評価額×評価倍率」です。郊外・農地等が対象で、路線価方式に比べて計算が簡単です。評価倍率表で対象地域が「路線」と表示されている場合は、路線価方式を使用すべきことを示しています。

Q3小規模宅地等の特例は自動的に適用されますか?

A3いいえ、自動的には適用されません。相続税申告書に特例の適用を明記し、要件を満たす証明書類(戸籍謄本、住民票、遺産分割協議書等)を添付する必要があります。申告しないと特例は適用されず、減額を受けられません。また、被相続人との同居要件や申告期限まで所有・居住継続する要件など、適用要件が厳格に定められているため、詳しくは税理士に相談することをおすすめします。

Q4マンション(区分所有建物)の土地評価はどうなりますか?

A4マンションの土地評価は、敷地権(共有持分)の割合に応じて計算します。計算式は「路線価×敷地全体面積×持分割合×補正率」です。敷地権割合は、マンションの登記簿謄本または管理組合の資料で確認できます。例えば、敷地全体が1,000㎡、路線価が30万円/㎡、持分割合が1/100の場合、土地評価額は30万円×1,000㎡×1/100=300万円となります。