変動金利とは何か、なぜ人気なのか
住宅購入を検討する際、「変動金利は金利が低くて魅力的だけど、将来の金利上昇が不安」と感じる方は少なくありません。
変動金利型住宅ローンは、市場金利の動向により半年ごとに金利が見直されるタイプです。国土交通省の令和5年度調査によると、住宅ローン利用者の84.3%が変動金利型を選択しており、圧倒的な人気を誇ります。
この記事では、変動金利の仕組み、現状、メリット・デメリット、今後の見通し、リスク対策まで、国土交通省・金融庁・住宅金融支援機構の公式情報を元に解説します。
初めて住宅ローンを利用する方でも、変動金利のリスクを正しく理解し、自分に合った判断ができるようになります。
この記事のポイント
- 変動金利型住宅ローンは84.3%の利用率を誇り、低金利(0.6~0.7%台)が魅力
- 金利は半年ごとに見直されるが、返済額は5年間据え置き(5年ルール)、見直し後も前回の1.25倍が上限(125%ルール)
- 金利上昇時には未払利息が発生する可能性があり、総返済額が減るわけではない
- 2025年以降は日銀の追加利上げが予想されており、金利上昇リスクを正しく理解する必要がある
- 繰上返済、固定金利への借り換え、貯蓄による備えが有効なリスク対策となる
変動金利の仕組み
半年ごとの金利見直し
変動金利型住宅ローンは、短期プライムレート(金融機関が優良企業に対して短期で貸し出す際の最優遇金利)に連動し、半年ごと(通常4月・10月)に金利が見直されます。
短期プライムレートは、日本銀行の政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)の影響を受けます。2025年1月時点で政策金利は0.5%となっています。
金利が上昇した場合、返済額のうち利息部分が増え、元金返済部分が減ります。金利が下落した場合は逆に、利息部分が減り、元金返済部分が増えます。
5年ルール・125%ルールとは
変動金利型住宅ローンには、借り手を保護するための「5年ルール」と「125%ルール」があります。
5年ルール
金利が上昇しても、5年間は毎月の返済額を据え置く措置です。金利見直しは半年ごとに行われますが、返済額は5年間固定されます。
例えば、月10万円の返済額であれば、金利が上昇しても5年間は月10万円のままです。
125%ルール
5年経過後に返済額を見直す際、前回の返済額の125%(1.25倍)を上限とする措置です。
例えば、月10万円の返済額であれば、見直し後は最大12.5万円までしか増えません。
未払利息の発生リスク
5年ルール・125%ルールは返済額の急激な増加を抑える仕組みですが、金利が大きく上昇した場合、未払利息が発生する可能性があります。
未払利息とは、毎月の返済額で利息を支払いきれず、未払いとなった利息のことです。返済期間終了時に一括返済が必要となるため、注意が必要です。
重要な注意点
一部の金融機関(SBI新生銀行等)は5年ルール・125%ルールを採用していません。また、固定金利期間選択型(当初固定型)が変動金利に切り替わった後は5年ルール・125%ルールが適用されないケースが多いため、契約前に必ず確認してください。
変動金利の現状(2025年10月)
主要金融機関の金利水準
2025年10月時点で、主要金融機関の変動金利は0.6~0.7%台が中心となっています。
執筆時点の金利水準であり、金利は毎月変動するため、最新情報は各金融機関の公式サイトでご確認ください。
日銀の政策金利と変動金利の関係
日本銀行は2025年1月に政策金利を0.25%から0.5%へ引き上げました。
変動金利は短期プライムレートに連動するため、政策金利の引き上げが短期プライムレートに波及すれば、変動金利も上昇する可能性があります。
ただし、政策金利が引き上げられても、短期プライムレートが即座に大きく上昇するわけではないため、変動金利への影響は段階的に現れると考えられます。
変動金利のメリット・デメリット
メリット:低金利で返済負担が軽い
変動金利の最大のメリットは、固定金利より低い金利水準で借りられることです。
2025年10月時点で、変動金利は0.6~0.7%台、10年固定金利は1.7~2.2%台、フラット35は1.89%となっており、変動金利の低さが際立ちます。
初期の返済負担を軽くしたい方、短期間で完済予定の方にとって、低金利は大きな魅力です。
デメリット:金利上昇リスク
変動金利の最大のデメリットは、金利上昇時に返済額が増加するリスクです。
金利が上昇すれば、返済額のうち利息部分が増え、総返済額も増加します。5年ルール・125%ルールにより返済額の急激な増加は抑えられますが、未払利息が発生する可能性があります。
長期的な返済計画を立てにくいことも、デメリットの一つです。
変動金利の今後の見通し
エコノミストの金利予測
専門家の間では、2025年以降も日銀の追加利上げが予想されています。
エコノミスト約40名の調査では、政策金利が2026年末までに約1.1%へ上昇するとの予測もあります。
ただし、将来の金利動向は不確実であり、「必ず上昇する」と断定することはできません。経済状況や日銀の政策判断により変わる可能性があるため、複数の専門家の見解を参考にしながら判断することが重要です。
金利上昇シナリオと影響
変動金利が0.25%上昇した場合、年間約4.7万円の負担増(ニッセイ基礎研究所試算)となる可能性があります。
例えば、3,000万円を35年ローンで借りた場合、金利が0.5%から0.75%へ上昇すると、月々の返済額が約1,500円増加し、年間で約1.8万円の負担増となります。
金利がさらに上昇すれば、負担増も大きくなるため、リスクを正しく理解しておくことが重要です。
変動金利のリスクと対策
繰上返済で元金を減らす
繰上返済は、毎月の返済とは別に元金の一部または全額を返済する方法です。
繰上返済した金額は全額元金の返済に充当されるため、金利負担を軽減できます。金利上昇時にも、元金が少なければ利息の増加を抑えられます。
繰上返済には「期間短縮型」(返済期間を短くする)と「返済額軽減型」(毎月の返済額を減らす)の2種類があります。金利上昇リスクへの対策としては、期間短縮型が有効です。
固定金利への借り換え
金利が大きく上昇した場合、固定金利への借り換えを検討することも有効です。
借り換えにより、今後の金利上昇リスクを避けることができます。ただし、借り換え時には手数料(事務手数料、登記費用等)がかかるため、総返済額を比較して判断しましょう。
借り換えを検討する目安は、「借入残高が1,000万円以上」「残りの返済期間が10年以上」「金利差が1%以上」とされています。
貯蓄で金利上昇に備える
金利上昇時に返済額が増加しても対応できるよう、貯蓄を確保しておくことも重要です。
一般的には、月々の返済額の3~6ヶ月分を緊急資金として確保しておくことが推奨されています。
金利が上昇した際には、貯蓄から繰上返済を行うことで、利息負担を軽減できます。
まとめ
変動金利型住宅ローンは、低金利が魅力で84.3%の利用率を誇りますが、金利上昇リスクを正しく理解することが重要です。
5年ルール・125%ルールは返済額を一時的に抑える仕組みですが、未払利息が発生する可能性があり、総返済額が減るわけではありません。
2025年以降は日銀の追加利上げが予想されており、金利上昇リスクに備える必要があります。繰上返済、固定金利への借り換え、貯蓄による備え等の対策を検討し、自分のリスク許容度に応じて判断しましょう。
変動金利か固定金利かは、リスク許容度と収入安定性により異なります。一概にどちらが得とは言えないため、複数の金融機関を比較し、信頼できる専門家に相談しながら、慎重に判断することをおすすめします。
