住宅ローンを多めに借りるのはアリ?リスクと認められる範囲
住宅購入を検討する際、「物件価格に加えて諸費用や家具代も住宅ローンで賄いたい」と考える方は少なくありません。しかし、「多めに借りる」という方法には、認められる範囲と大きなリスクが存在します。
この記事では、住宅ローンを多めに借りることの是非、合法的な借入範囲、リスク、そして正しい方法を金融庁や住宅金融支援機構等の公式情報を元に解説します。
読者の皆様が合法的に諸費用を賄う方法を理解し、違法行為のリスクを回避できるようになります。
この記事のポイント
- 住宅ローンを多めに借りるには、合法的な「諸費用ローン」と違法な「虚偽申告・目的外使用」の2種類がある
- 認められる諸費用は登記費用・仲介手数料・保証料等で、家具・家電・車等への流用は契約違反
- 虚偽申告は詐欺罪に該当する可能性があり、金融機関から一括返済請求・違約金請求のリスク
- 借入額増加により返済負担率が上昇し、転職・収入減時に返済困難に陥る可能性がある
- 合法的に諸費用を借りる場合は、金融機関に正式に申請し、返済計画をシミュレーションすることが重要
住宅ローンを多めに借りるとはどういうことか
住宅ローンを「多めに借りる」とは、物件価格以上の金額を借り入れることで、一般に「オーバーローン」と呼ばれます。オーバーローンには、合法的な借入と違法な借入の2種類があり、両者の違いを正確に理解することが重要です。
オーバーローンの定義
オーバーローンは、物件価格を上回る金額を住宅ローンとして借り入れることを指します。例えば、3,000万円の物件に対して3,200万円を借り入れるケースが該当します。
この超過分をどのように使うかが、合法か違法かの分かれ目となります。
合法的な借入と違法な借入の違い
合法的なオーバーローンは、住宅購入に付随する諸費用(登記費用・仲介手数料・保証料・火災保険料等)を住宅ローンに組み込む方法です。これは「諸費用ローン」として金融機関が正式に提供しており、金融機関に申請し、必要書類(見積書・契約書等)を提出することで利用できます。
一方、違法なオーバーローンは、以下の2つのパターンがあります。
- 虚偽申告: 売買契約書の金額を実際より高く偽造し、金融機関を欺く行為。詐欺罪に該当する可能性があります。
- 目的外使用: 住宅ローンとして借りた資金を、家具・家電・車・投資等の住宅購入以外の目的に流用する行為。契約違反となります。
住宅金融支援機構では、投資目的等の不適正利用について明確に警告しています。
住宅ローンで認められる借入範囲
住宅ローンで借り入れが認められる範囲は、金融機関や商品により異なります。ここでは、一般的に認められる諸費用と、認められない目的外使用を明確に区別します。
諸費用として認められる項目
以下の諸費用は、多くの金融機関で住宅ローンに組み込むことが認められています。
| 項目 | 内容 | 目安額 |
|---|---|---|
| 登記費用 | 所有権移転登記・抵当権設定登記の費用 | 10-30万円 |
| 仲介手数料 | 不動産会社への手数料(物件価格×3%+6万円+消費税) | 100-150万円 |
| 保証料 | 保証会社への手数料(金融機関により不要な場合あり) | 50-100万円 |
| 火災保険料 | 住宅の火災保険(10年一括払い等) | 20-30万円 |
| 印紙税 | 売買契約書・金銭消費貸借契約書に貼付 | 2-6万円 |
| 引越費用 | 一部金融機関で認められる場合あり | 10-20万円 |
(出典: 住宅金融支援機構)
金融機関により対応可否・金利・限度額が異なるため、事前に確認が必要です。特にフラット35等では、諸費用部分の金利が通常の住宅ローン金利より高く設定される場合があります。
認められない目的外使用の例
以下の用途は、住宅ローンの目的外使用となり、契約違反に該当します。
- 家具・家電の購入
- 自動車の購入
- 投資(株式・不動産等)
- 生活費の補填
- 既存借金の返済
- 旅行・娯楽費用
住宅金融支援機構では、これらの不適正利用について「契約違反であり、発覚時には期限の利益喪失(一括返済請求)のリスクがある」と明記しています。
金融機関による対応の違い
諸費用ローンの取扱条件は、金融機関により大きく異なります。
- メガバンク: 諸費用込みの借入に対応している場合が多いが、金利が通常より高くなる
- 地方銀行: 一部で諸費用込みの借入が可能だが、審査が厳しい傾向
- フラット35: 諸費用部分の金利が通常の住宅ローン金利より高い(2025年時点)
- ネット銀行: 諸費用込みの借入に柔軟に対応する商品が増えている
金融機関に諸費用込みの借入を申請する際は、諸費用の見積書・契約書等の証拠書類の提出が求められます。
多めに借りる場合のリスクとデメリット
住宅ローンを多めに借りることには、法的リスク・返済負担の増加・金利上昇リスク等、複数のリスクが伴います。
違法なオーバーローンの法的リスク
虚偽申告(物件価格を水増しした契約書作成)や目的外使用は、以下の法的リスクを伴います。
- 詐欺罪のリスク: 虚偽の契約書で金融機関を欺く行為は、詐欺罪(刑法246条)に該当する可能性があります。
- 期限の利益喪失: 契約違反が発覚すると、分割払いの権利を失い、残債全額を即座に返済しなければならなくなります。
- 違約金請求: 金融機関から違約金を請求される可能性があります。
- 信用情報への記録: 一括返済請求や滞納は信用情報機関に記録され、将来のローン審査に影響します。
ダイヤモンド不動産研究所では、「金融機関は売買契約書・重要事項説明書・登記簿等で物件価格を照合しており、不正利用の検知体制を強化している」と報じています。
返済負担の増加リスク
借入額が増加すると、返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)が上昇します。一般的に返済負担率は25-35%以内が目安とされており、これを超えると以下のリスクが高まります。
- 審査が厳しくなる: 金融機関の住宅ローン審査で返済能力が不足していると判断される
- 転職・収入減時の返済困難: 読者アンケート(出典: my-best.com)によると、利用者の39%が転職や収入減時の返済不安を経験しています
- 家計の圧迫: 月々の返済額が増え、生活費・教育費等への影響が出る可能性
例えば、3,000万円の借入(金利1.0%、35年)の場合、月々の返済額は約84,000円ですが、3,200万円に増額すると約90,000円となり、年間で約7万円の負担増となります。
金利上昇リスク
変動金利で住宅ローンを借りている場合、金利上昇により返済額が増加するリスクがあります。
日本銀行が今後利上げを実施した場合、返済額増加の影響を受ける可能性があります。借入額が多いほど、金利上昇時の返済額増加の影響を受けやすくなります。
例えば、3,200万円の借入(変動金利)で金利が1.0%から1.5%に上昇した場合、月々の返済額は約90,000円から約98,000円に増加します。
合法的に多めに借りる正しい方法
住宅購入時の諸費用を賄うには、合法的な方法を選択することが重要です。ここでは、諸費用ローンの正式利用、返済計画のシミュレーション、自己資金準備の代替案を解説します。
諸費用ローンを正式に利用する
諸費用ローンを正式に利用する手順は以下の通りです。
- 金融機関に相談: 諸費用込みの借入が可能か、金利・限度額・必要書類を確認
- 諸費用の見積書・契約書を準備: 登記費用・仲介手数料等の証拠書類を用意
- 住宅ローン審査申込: 諸費用込みの借入額を正直に申告
- 審査承認後に金銭消費貸借契約を締結: 契約内容を確認し、署名・押印
- 融資実行: 物件引渡時に諸費用分も含めて借入
金融機関により対応可否・必要書類が異なるため、複数の金融機関に事前相談することをおすすめします。
返済計画をシミュレーションする
諸費用込みで借入額が増える場合、返済計画を事前にシミュレーションすることが重要です。
住宅金融支援機構では、無料の返済シミュレーションツールを提供しており、以下の項目を試算できます。
- 月々の返済額
- 総返済額
- 返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)
- 金利上昇時の返済額シミュレーション
シミュレーションの結果、返済負担率が35%を超える場合は、借入額の減額や頭金の増額を検討すべきです。
自己資金を準備する代替案
諸費用を全額借り入れるのではなく、自己資金で賄う代替案も検討しましょう。
- 親族からの援助: 贈与税の非課税枠(年間110万円)を活用して、親族から援助を受ける
- 頭金を減らして諸費用に充当: 頭金を減らし、その分を諸費用に回す(ただし借入額は増加)
- 購入時期を遅らせて貯蓄増額: 数ヶ月~1年購入時期を遅らせ、諸費用分を貯蓄
自己資金を準備することで、借入額を抑え、返済負担を軽減できます。
注意点とよくある誤解
住宅ローンを多めに借りる際には、よくある誤解やリスクを正しく理解しておくことが重要です。
「バレなければOK」は危険
「虚偽申告や目的外使用はバレなければ問題ない」という考えは非常に危険です。
金融機関は以下の方法で不正利用を検知しています。
- 売買契約書・重要事項説明書・登記簿の照合
- 融資実行後の資金使途の確認(領収書提出要求等)
- 不正利用の通報窓口設置
発覚時には期限の利益喪失(残債の一括返済請求)・違約金請求・信用情報への記録等のペナルティが科されます。リスクを考えれば、虚偽申告や目的外使用は絶対に避けるべきです。
諸費用部分の金利は高くなる場合あり
フラット35等の一部商品では、諸費用部分の金利が通常の住宅ローン金利より高く設定される場合があります。
例えば、物件価格部分が金利1.0%、諸費用部分が金利1.5%となるケースがあり、総返済額が増加します。諸費用ローンを利用する際は、金利の内訳を必ず確認しましょう。
住宅ローン控除への影響
諸費用部分も借入額に含まれれば、住宅ローン控除の対象となります。住宅ローン控除は、年末ローン残高の0.7%を所得税・住民税から最大13年間控除する制度です(2025年時点)。
ただし、借入額が増えることで返済負担も増加するため、住宅ローン控除のメリットと返済負担のデメリットを比較する必要があります。
まとめ:合法的な方法で無理のない借入を
住宅ローンを多めに借りることは、諸費用を正式に組み込む方法(諸費用ローン)なら合法です。しかし、虚偽申告や目的外使用は契約違反であり、詐欺罪のリスクや一括返済請求等の重大なペナルティが科される可能性があります。
諸費用ローンを利用する場合は、金融機関に正直に相談し、見積書・契約書等の証拠書類を提出することが重要です。返済負担率・金利上昇リスクを考慮し、住宅金融支援機構の返済シミュレーションツール等で返済計画を試算しましょう。
自己資金準備や親族援助等の代替案も検討し、無理のない借入額を設定することが、長期的な家計の安定につながります。金融機関や税理士に相談しながら、慎重に判断してください。
