住宅ローン一括返済とは|基礎知識とメリット・デメリット
住宅ローンを返済中に、まとまった資金ができて「一括返済すべきか」と悩む方は少なくありません。
この記事では、一括返済のメリット・デメリット、手数料、住宅ローン控除との関係、最適なタイミングを、国税庁や金融機関の公式情報を元に解説します。
低金利時代の今、一括返済が必ずしも得ではないケースも多いため、判断基準を正確に把握することが重要です。
この記事のポイント
- 一括返済のメリットは総利息削減と精神的安心感だが、低金利時代は削減額が少ない
- デメリットは住宅ローン控除の喪失、団信保障の終了、手元資金の枯渇リスク
- 手数料は金融機関により0〜55,000円と大きく異なる(ネット銀行は無料〜数千円、店舗型銀行は数万円)
- 住宅ローン控除終了後が損をしにくいタイミング
- 金利0.5%程度の低金利では、控除率0.7%の方が大きいため一括返済すると損になるケースが多い
住宅ローン一括返済とは
住宅ローン一括返済(全額繰上返済)とは、住宅ローンの残債を一度に全額返済することです。
これにより、以下の効果が期待できます。
- 総利息の削減: 残期間分の利息を支払わずに済む
- 精神的な安心感: 「ローンがなくなる」という心理的な解放感
一方で、後述するデメリットやコストも発生するため、一括返済が必ずしも得策とは限りません。
民法では、借主は「期限の利益」を放棄して早期に返済する権利があります。一括返済はこの権利を行使する形です。
一括返済のメリット|総利息削減と精神的安心感
総利息削減額の試算
一括返済の最大のメリットは、残期間分の利息を支払わずに済む点です。
ただし、低金利時代の今、削減額は意外と少ないケースが多くなっています。
試算例(借入残高2,000万円、残期間15年、金利0.5%の場合)
| 項目 | 金額 | 
|---|---|
| 一括返済する場合の支払総額 | 2,000万円 | 
| 一括返済しない場合の支払総額 | 約2,077万円 | 
| 削減額 | 約77万円 | 
金利0.5%の場合、15年で削減できる利息は77万円程度です。後述する住宅ローン控除(年間最大14万円)や手数料を考慮すると、一括返済しない方が得になるケースもあります。
精神的な安心感
「ローンがなくなる」という精神的な解放感も、一括返済の大きなメリットです。
- 毎月の返済がなくなり、家計管理がシンプルになる
- 定年後の生活で返済負担がなくなる安心感
- 万が一の収入減少時にも返済義務がない
こうした心理的なメリットは、数値では測れない価値があります。
一括返済のデメリット・リスク|住宅ローン控除・団信・手元資金
一括返済には、見落としがちなデメリットやリスクがあります。
住宅ローン控除の喪失
住宅ローン控除は、年末残高の0.7%が所得税・住民税から控除される制度です(2025年時点)。
一括返済すると、残期間分の控除が受けられなくなります。
控除喪失額の試算例(年末残高2,000万円、控除期間残り3年の場合)
| 年 | 年末残高 | 控除額(0.7%) | 
|---|---|---|
| 1年目 | 2,000万円 | 14万円 | 
| 2年目 | 1,900万円 | 13.3万円 | 
| 3年目 | 1,800万円 | 12.6万円 | 
| 合計 | 約40万円 | 
控除期間中に一括返済すると、約40万円の控除を失うことになります。利息削減額(前述の試算で77万円)と比較すると、実質的なメリットは37万円程度に減少します。
(参考: 国税庁 - 住宅借入金等特別控除)
団信保障の終了
住宅ローン契約時に加入する団体信用生命保険(団信)は、契約者が死亡・高度障害になった場合、残債が保険金で完済される保障です。
一括返済すると、この保障が終了します。
- 死亡・高度障害時の保障がなくなる
- 別途生命保険に加入する場合、保険料が発生
- 健康状態により生命保険に加入できないリスクもある
特に、家族がいる場合や健康不安がある場合は、慎重に判断すべきです。
手元資金の枯渇リスク
一括返済により手元の現金が大幅に減少すると、以下のリスクがあります。
- 教育費: 子供の進学費用が不足
- 医療費: 突発的な病気・ケガの治療費
- 介護費: 親の介護費用
- 失業・収入減: 緊急時の生活費
一般的に、生活費の6か月〜1年分は緊急資金として手元に残しておくことが推奨されます。
一括返済の手数料と手続き|金融機関別の相場
一括返済時には、金融機関に手数料を支払う必要があります。
金融機関別の手数料相場
手数料は金融機関により大きく異なります。
| 金融機関タイプ | 手数料の目安 | 備考 | 
|---|---|---|
| ネット銀行 | 無料〜数千円 | 住信SBIネット銀行、楽天銀行など | 
| 店舗型銀行 | 16,500〜55,000円 | 三菱UFJ銀行、三井住友銀行など | 
| フラット35 | 無料 | 住宅金融支援機構 | 
(参考: 三井住友銀行 - 繰上返済)
オンライン手続きと店舗手続きの違い
オンラインで手続きすると、手数料が無料または割安になる金融機関が多くあります。
- オンライン手続き(SMBC Direct等): 手数料無料
- 店舗手続き: 33,000円程度
手続き前に、金融機関の公式サイトで手数料を確認することをおすすめします。
一括返済の最適なタイミングと判断基準
一括返済の最適なタイミングは、住宅ローン控除の有無や金利水準によって異なります。
住宅ローン控除終了後
控除期間中に一括返済すると控除を失うため、控除終了後が損をしにくいタイミングです。
- 控除期間: 新築住宅は13年、中古住宅は10年(2025年時点)
- 控除終了後は、利息削減のメリットを最大化できる
相続等でまとまった資金ができた時
以下のような場合も、一括返済を検討するタイミングです。
- 相続: 親の遺産でまとまった資金を得た
- 退職金: 定年退職で退職金を受け取った
- 不動産売却: 自宅以外の不動産を売却した
ただし、緊急資金を確保した上で判断することが重要です。
残返済期間が短い場合の注意点
残返済期間が短い場合、手数料が利息削減額を上回るケースがあります。
損益分岐点の例(手数料33,000円、金利0.5%の場合)
- 残債500万円、残期間3年 → 利息削減額約3.8万円 → 損益分岐点ぎりぎり
- 残債300万円、残期間2年 → 利息削減額約1.5万円 → 手数料が上回り損
残期間が短い場合は、手数料と利息削減額を試算してから判断しましょう。
(参考: モゲチェック - 一括返済のタイミング)
低金利時代の一括返済は得?損?|控除率との比較
低金利時代の今、一括返済が必ずしも得ではないケースが増えています。
利息削減額と控除額の比較
金利0.5%の場合
- 残債2,000万円、残期間10年 → 利息削減額約52万円
- 控除期間残り5年 → 控除額約65万円(年末残高×0.7%)
→ 一括返済すると約13万円損
金利1.5%の場合
- 残債2,000万円、残期間10年 → 利息削減額約160万円
- 控除期間残り5年 → 控除額約65万円
→ 一括返済すると約95万円得
低金利(0.5%程度)の場合、住宅ローン控除(0.7%)の方が大きいため、一括返済しない方が得になるケースが多いです。
資金運用との比較
一括返済せず、手元資金を運用した場合の比較も重要です。
試算例(2,000万円を運用、年利3%の場合)
- 10年後の運用益: 約690万円
- 同期間の利息支払額: 約52万円(金利0.5%)
→ 運用した方が約638万円得
低金利時代は、住宅ローンをそのまま返済しながら、手元資金を運用する方が資産を増やせる可能性があります。
ただし、運用にはリスクが伴うため、リスク許容度を考慮して判断することが重要です。
(参考: ゼロリノベジャーナル - 一括返済は得とは限らない)
まとめ|一括返済を成功させるために
住宅ローン一括返済は、総利息削減と精神的安心感というメリットがある一方、低金利時代は住宅ローン控除の喪失や手数料を考慮すると損になるケースも多くあります。
一括返済を検討する際は、以下のポイントを確認しましょう。
- 住宅ローン控除終了後が損をしにくいタイミング
- 金利0.5%程度の低金利では、控除率0.7%の方が大きいため一括返済すると損になる可能性が高い
- 手数料は金融機関により大きく異なる(無料〜55,000円)
- 緊急資金(生活費の6か月〜1年分)を確保した上で判断する
- ファイナンシャルプランナーへの相談も検討
金融機関の公式サイトで手数料を確認し、試算ツールで利息削減額と控除額を比較してから、最適なタイミングを判断することをおすすめします。
