住宅ローン一括返済は得?損?メリット・デメリットと手数料を解説

公開日: 2025/10/26

住宅ローン一括返済とは|基礎知識とメリット・デメリット

住宅ローンを返済中に、まとまった資金ができて「一括返済すべきか」と悩む方は少なくありません。

この記事では、一括返済のメリット・デメリット、手数料、住宅ローン控除との関係、最適なタイミングを、国税庁や金融機関の公式情報を元に解説します。

低金利時代の今、一括返済が必ずしも得ではないケースも多いため、判断基準を正確に把握することが重要です。

この記事のポイント

  • 一括返済のメリットは総利息削減と精神的安心感だが、低金利時代は削減額が少ない
  • デメリットは住宅ローン控除の喪失、団信保障の終了、手元資金の枯渇リスク
  • 手数料は金融機関により0〜55,000円と大きく異なる(ネット銀行は無料〜数千円、店舗型銀行は数万円)
  • 住宅ローン控除終了後が損をしにくいタイミング
  • 金利0.5%程度の低金利では、控除率0.7%の方が大きいため一括返済すると損になるケースが多い

住宅ローン一括返済とは

住宅ローン一括返済(全額繰上返済)とは、住宅ローンの残債を一度に全額返済することです。

これにより、以下の効果が期待できます。

  • 総利息の削減: 残期間分の利息を支払わずに済む
  • 精神的な安心感: 「ローンがなくなる」という心理的な解放感

一方で、後述するデメリットやコストも発生するため、一括返済が必ずしも得策とは限りません。

民法では、借主は「期限の利益」を放棄して早期に返済する権利があります。一括返済はこの権利を行使する形です。

一括返済のメリット|総利息削減と精神的安心感

総利息削減額の試算

一括返済の最大のメリットは、残期間分の利息を支払わずに済む点です。

ただし、低金利時代の今、削減額は意外と少ないケースが多くなっています。

試算例(借入残高2,000万円、残期間15年、金利0.5%の場合)

項目 金額
一括返済する場合の支払総額 2,000万円
一括返済しない場合の支払総額 約2,077万円
削減額 約77万円

金利0.5%の場合、15年で削減できる利息は77万円程度です。後述する住宅ローン控除(年間最大14万円)や手数料を考慮すると、一括返済しない方が得になるケースもあります。

精神的な安心感

「ローンがなくなる」という精神的な解放感も、一括返済の大きなメリットです。

  • 毎月の返済がなくなり、家計管理がシンプルになる
  • 定年後の生活で返済負担がなくなる安心感
  • 万が一の収入減少時にも返済義務がない

こうした心理的なメリットは、数値では測れない価値があります。

一括返済のデメリット・リスク|住宅ローン控除・団信・手元資金

一括返済には、見落としがちなデメリットやリスクがあります。

住宅ローン控除の喪失

住宅ローン控除は、年末残高の0.7%が所得税・住民税から控除される制度です(2025年時点)。

一括返済すると、残期間分の控除が受けられなくなります。

控除喪失額の試算例(年末残高2,000万円、控除期間残り3年の場合)

年末残高 控除額(0.7%)
1年目 2,000万円 14万円
2年目 1,900万円 13.3万円
3年目 1,800万円 12.6万円
合計 約40万円

控除期間中に一括返済すると、約40万円の控除を失うことになります。利息削減額(前述の試算で77万円)と比較すると、実質的なメリットは37万円程度に減少します。

(参考: 国税庁 - 住宅借入金等特別控除

団信保障の終了

住宅ローン契約時に加入する団体信用生命保険(団信)は、契約者が死亡・高度障害になった場合、残債が保険金で完済される保障です。

一括返済すると、この保障が終了します。

  • 死亡・高度障害時の保障がなくなる
  • 別途生命保険に加入する場合、保険料が発生
  • 健康状態により生命保険に加入できないリスクもある

特に、家族がいる場合や健康不安がある場合は、慎重に判断すべきです。

手元資金の枯渇リスク

一括返済により手元の現金が大幅に減少すると、以下のリスクがあります。

  • 教育費: 子供の進学費用が不足
  • 医療費: 突発的な病気・ケガの治療費
  • 介護費: 親の介護費用
  • 失業・収入減: 緊急時の生活費

一般的に、生活費の6か月〜1年分は緊急資金として手元に残しておくことが推奨されます。

一括返済の手数料と手続き|金融機関別の相場

一括返済時には、金融機関に手数料を支払う必要があります。

金融機関別の手数料相場

手数料は金融機関により大きく異なります。

金融機関タイプ 手数料の目安 備考
ネット銀行 無料〜数千円 住信SBIネット銀行、楽天銀行など
店舗型銀行 16,500〜55,000円 三菱UFJ銀行、三井住友銀行など
フラット35 無料 住宅金融支援機構

(参考: 三井住友銀行 - 繰上返済

オンライン手続きと店舗手続きの違い

オンラインで手続きすると、手数料が無料または割安になる金融機関が多くあります。

  • オンライン手続き(SMBC Direct等): 手数料無料
  • 店舗手続き: 33,000円程度

手続き前に、金融機関の公式サイトで手数料を確認することをおすすめします。

一括返済の最適なタイミングと判断基準

一括返済の最適なタイミングは、住宅ローン控除の有無や金利水準によって異なります。

住宅ローン控除終了後

控除期間中に一括返済すると控除を失うため、控除終了後が損をしにくいタイミングです。

  • 控除期間: 新築住宅は13年、中古住宅は10年(2025年時点)
  • 控除終了後は、利息削減のメリットを最大化できる

相続等でまとまった資金ができた時

以下のような場合も、一括返済を検討するタイミングです。

  • 相続: 親の遺産でまとまった資金を得た
  • 退職金: 定年退職で退職金を受け取った
  • 不動産売却: 自宅以外の不動産を売却した

ただし、緊急資金を確保した上で判断することが重要です。

残返済期間が短い場合の注意点

残返済期間が短い場合、手数料が利息削減額を上回るケースがあります。

損益分岐点の例(手数料33,000円、金利0.5%の場合)

  • 残債500万円、残期間3年 → 利息削減額約3.8万円 → 損益分岐点ぎりぎり
  • 残債300万円、残期間2年 → 利息削減額約1.5万円 → 手数料が上回り損

残期間が短い場合は、手数料と利息削減額を試算してから判断しましょう。

(参考: モゲチェック - 一括返済のタイミング

低金利時代の一括返済は得?損?|控除率との比較

低金利時代の今、一括返済が必ずしも得ではないケースが増えています。

利息削減額と控除額の比較

金利0.5%の場合

  • 残債2,000万円、残期間10年 → 利息削減額約52万円
  • 控除期間残り5年 → 控除額約65万円(年末残高×0.7%)

一括返済すると約13万円損

金利1.5%の場合

  • 残債2,000万円、残期間10年 → 利息削減額約160万円
  • 控除期間残り5年 → 控除額約65万円

一括返済すると約95万円得

低金利(0.5%程度)の場合、住宅ローン控除(0.7%)の方が大きいため、一括返済しない方が得になるケースが多いです。

資金運用との比較

一括返済せず、手元資金を運用した場合の比較も重要です。

試算例(2,000万円を運用、年利3%の場合)

  • 10年後の運用益: 約690万円
  • 同期間の利息支払額: 約52万円(金利0.5%)

運用した方が約638万円得

低金利時代は、住宅ローンをそのまま返済しながら、手元資金を運用する方が資産を増やせる可能性があります。

ただし、運用にはリスクが伴うため、リスク許容度を考慮して判断することが重要です。

(参考: ゼロリノベジャーナル - 一括返済は得とは限らない

まとめ|一括返済を成功させるために

住宅ローン一括返済は、総利息削減と精神的安心感というメリットがある一方、低金利時代は住宅ローン控除の喪失や手数料を考慮すると損になるケースも多くあります。

一括返済を検討する際は、以下のポイントを確認しましょう。

  • 住宅ローン控除終了後が損をしにくいタイミング
  • 金利0.5%程度の低金利では、控除率0.7%の方が大きいため一括返済すると損になる可能性が高い
  • 手数料は金融機関により大きく異なる(無料〜55,000円)
  • 緊急資金(生活費の6か月〜1年分)を確保した上で判断する
  • ファイナンシャルプランナーへの相談も検討

金融機関の公式サイトで手数料を確認し、試算ツールで利息削減額と控除額を比較してから、最適なタイミングを判断することをおすすめします。

よくある質問

Q1一括返済の手数料は住宅ローン控除の対象になりますか?

A1なりません。住宅ローン控除は借入金の年末残高に対する控除であり、一括返済手数料は対象外です。手数料は通常、銀行に支払う事務手数料として扱われ、控除の対象にはなりません。また、一括返済すると住宅ローン残高がゼロになるため、控除自体が受けられなくなります。

Q2変動金利で未払利息がある場合、一括返済できますか?

A2できますが、未払利息も含めて返済する必要があります。未払利息とは、変動金利で金利上昇時、月々の返済額が利息額を下回った場合に発生する利息です。一括返済時には、借入残高に加えて未払利息も別途支払いが必要になるため、事前に金融機関に未払利息額を確認してから手続きを進めることをおすすめします。

Q3一括返済後、再び住宅ローンを組むことは可能ですか?

A3可能ですが、新規借入として審査を受ける必要があります。一括返済により住宅ローン契約は終了するため、再度借入する場合は新規の住宅ローン審査が必要です。年齢、収入、勤続年数、信用情報などの条件を満たせば再度借入できますが、年齢が高い場合や収入が減少している場合は審査が厳しくなる可能性があります。

Q4フラット35の一括返済手数料は本当に無料ですか?

A4はい、フラット35(住宅金融支援機構)の繰上返済手数料は無料です。ただし、フラット35を取り扱う金融機関によっては、事務手数料がかかる場合があるため確認が必要です。多くの金融機関ではフラット35の繰上返済手数料は無料ですが、一部の金融機関では独自の事務手数料を設定している場合があります。詳細は、借入先の金融機関にご確認ください。