住宅ローンの共同名義とは|夫婦で借入額を増やす方法
住宅購入を検討する際、「夫婦で収入を合算して借入額を増やせないか」と考える方は少なくありません。
この記事では、共同名義(共有名義)の住宅ローンの仕組み、メリット・デメリット、特に離婚時のリスクと対処法を、国税庁・住宅金融支援機構の公式情報を元に解説します。
ペアローン・連帯債務・連帯保証の違いや、持分割合の決め方、贈与税リスクも具体例で説明します。
この記事のポイント
- 共同名義は夫婦の収入を合算して借入額を増やす仕組み
 - ペアローン・連帯債務・連帯保証の3つの形式があり、それぞれメリット・デメリットが異なる
 - メリットは借入額増加、住宅ローン控除2人分(最大70万円)、団信2人加入
 - デメリットは離婚時の対処が複雑、片方退職時の負担、贈与税リスク
 - 離婚時は売却・買取・共有継続の3択、放置すると差押えリスクあり
 
ペアローンと連帯債務・連帯保証の違い|契約形態による特徴の比較
共同名義の住宅ローンには、ペアローン・連帯債務・連帯保証の3つの形式があります。それぞれの違いを理解することが重要です。
ペアローン(2本の契約、互いに連帯保証人)
ペアローンは、夫婦それぞれが別々の住宅ローン契約を結び、互いに連帯保証人となる形式です。
- 契約本数:2本
 - 団信加入:両者とも可能
 - 住宅ローン控除:両者とも受けられる
 - 諸費用:事務手数料・印紙代・登記費用が2倍になる
 
連帯債務(1本の契約、共同で返済責任)
連帯債務は、1本の住宅ローン契約に対し、主債務者と連帯債務者が共同で返済責任を負う形式です。
- 契約本数:1本
 - 団信加入:フラット35では連帯債務者も可能、民間ローンでは主債務者のみが一般的
 - 住宅ローン控除:両者とも受けられる
 - 諸費用:ペアローンより抑えられる
 
連帯保証(主債務者のみローン、保証人は控除なし)
連帯保証は、主債務者が返済できなくなった場合に、連帯保証人が代わりに返済義務を負う形式です。
- 契約本数:1本
 - 団信加入:主債務者のみ
 - 住宅ローン控除:主債務者のみ
 - 諸費用:最も抑えられる
 
連帯保証は共同名義のメリット(住宅ローン控除2人分等)が限定的なため、収入合算を目的とする場合はペアローンまたは連帯債務が推奨されます。
| 項目 | ペアローン | 連帯債務 | 連帯保証 | 
|---|---|---|---|
| 契約本数 | 2本 | 1本 | 1本 | 
| 団信加入 | 両者とも可能 | フラット35:両者可能 民間:主債務者のみ  | 
主債務者のみ | 
| 住宅ローン控除 | 両者とも可能 | 両者とも可能 | 主債務者のみ | 
| 諸費用 | 高い(2倍) | 中程度 | 低い | 
(出典: 住宅金融支援機構)
共同名義のメリット|借入額増加とローン控除2人分
共同名義の住宅ローンには、3つの主要なメリットがあります。
借入可能額が増える(夫婦の収入合算)
夫婦の収入を合算することで、単独名義より借入可能額が増えます。例:夫の年収500万円、妻の年収400万円の場合、合計900万円の収入で借入可能額を計算できます。
これにより、希望の物件を購入できる可能性が高まります。
住宅ローン控除を2人分受けられる(最大70万円)
住宅ローン控除は、年末時点の住宅ローン残高の0.7%を所得税・住民税から控除できる制度です。
ペアローンまたは連帯債務の場合、夫婦それぞれが住宅ローン控除を受けられます。
- 控除額:年間最大35万円×2人=70万円
 - 控除期間:10-13年間
 - 総額:最大700-910万円の税負担軽減
 
国税庁の質疑応答事例でも、連帯債務で共有名義の住宅を取得した場合の住宅ローン控除の計算方法が明示されています。
団体信用生命保険に2人とも加入可能(ペアローン・フラット35連帯債務)
ペアローンまたはフラット35の連帯債務では、夫婦2人とも団信に加入できます。
どちらかが死亡・高度障害状態になった場合、その人のローン残高が0になります。これにより、残された配偶者の返済負担が軽減されます。
共同名義のデメリット・リスク|離婚時の複雑さと贈与税
共同名義には、以下の4つの主要なリスクがあります。
離婚時の対処が複雑(売却・買取・共有継続)
離婚時は、共同名義の住宅ローンの処理が非常に複雑になります。売却・買取・共有継続のいずれも手続きが煩雑で、贈与税リスクもあります。
詳細は後述の「離婚時の共同名義住宅ローンの対処法」で解説します。
片方が退職・収入減少時の負担とローン控除喪失
夫婦のどちらかが退職・専業主婦(夫)になった場合、収入がなくなり住宅ローン控除も受けられなくなります。
ただし、住宅ローンの支払い義務は継続するため、収入減少リスクを考慮してペアローン・連帯債務を選択すべきです。
出産・育児で一時的に退職する可能性がある場合は、単独名義も検討してください。
登記持分と実際の負担割合が異なると贈与税が発生
登記持分(登記簿上の所有権割合)と実際の負担割合(頭金・ローン負担額)が異なると、差額が贈与とみなされ贈与税が課税されます。
国税庁の公式サイトでも、この点が明確に説明されています。
ペアローンは諸費用が増加(事務手数料・印紙代・登記費用が2倍)
ペアローンは契約が2本になるため、事務手数料・印紙代・登記費用が単独名義より増加します。
例:物件価格5000万円、ローン借入額4500万円の場合
- 事務手数料(0.55%):約25万円×2本=50万円
 - 印紙代:2万円×2本=4万円
 - 登記費用:約15万円×2本=30万円
 - 合計:約84万円(単独名義なら約42万円)
 
離婚時の共同名義住宅ローンの対処法|3つの選択肢と手続き
離婚時の共同名義住宅ローンには、3つの選択肢があります。
選択肢①:売却して清算(ローン残債より高く売れる場合)
ローン残債より高く売れる場合、売却代金でローンを完済し、残金を財産分与します。
手続き:
- 不動産査定を依頼
 - ローン残債を確認
 - 売却代金でローン完済(金融機関の抵当権抹消)
 - 残金を財産分与
 
オーバーローン(ローン残債>売却価格)の場合は、任意売却も検討してください。
選択肢②:一方が買い取る(ローン借り換えと名義変更)
住み続ける側が単独名義でローン借り換えを行い、相手の持分を買い取ります。
手続き:
- 金融機関に借り換え審査を申し込む(審査が厳しい)
 - 相手の持分を買い取る(財産分与または売買)
 - 登記名義を単独に変更
 
持分譲渡時は贈与税に注意してください。財産分与として適正価格で買い取る場合、原則として贈与税は課税されません。ただし、時価より著しく低い価格で譲渡すると贈与とみなされるリスクがあります。
選択肢③:共有名義を継続(支払いトラブルのリスク大)
離婚後も共有名義を継続する選択肢もありますが、非推奨です。
理由:
- 一方が支払いを怠ると、他方に債務が集中
 - 最悪の場合、競売にかけられる
 - 将来的な売却・名義変更が困難になる
 
離婚時は必ず売却・買取のいずれかで共有名義を解消してください。
共同名義で注意すべき贈与税リスク|持分割合の決め方
共同名義で最も注意すべきなのが、贈与税リスクです。
登記持分と実際の負担割合を一致させる
登記持分(登記簿上の所有権割合)と実際の負担割合(頭金・ローン負担額)を一致させることが原則です。
国税庁の公式サイトによると、負担比率と持分が異なると贈与税が課税されます。
頭金・ローン返済額の負担比率で持分を決定
例:物件価格4000万円、頭金1000万円、ローン3000万円
| 項目 | 夫 | 妻 | 合計 | 
|---|---|---|---|
| 頭金 | 500万円 | 500万円 | 1000万円 | 
| ローン | 2500万円 | 500万円 | 3000万円 | 
| 負担合計 | 3000万円 | 1000万円 | 4000万円 | 
| 持分 | 3/4 (75%) | 1/4 (25%) | 100% | 
この場合、登記持分を夫3/4・妻1/4とすべきです。
贈与税が発生するケースの具体例
上記の例で、持分を夫1/2・妻1/2で登記すると、妻が750万円の贈与を受けたとみなされます。
贈与税の計算:
- (750万円 - 基礎控除110万円)× 税率30% - 控除額65万円 = 約127万円
 
持分割合は実際の負担額に一致させ、贈与税リスクを回避してください。不安な場合は税理士に相談することを推奨します。
まとめ|共同名義はメリット大きいが、離婚リスクを考慮して慎重に判断
共同名義のメリット(借入額増、住宅ローン控除2人分)は大きいですが、離婚時の対処が複雑でリスクも高いです。
特に離婚の可能性を少しでも考慮する場合は、慎重に判断してください。ペアローン・連帯債務・連帯保証の違いを理解し、自分たちに最適な形式を選択することが重要です。
持分割合は実際の負担額に一致させ、贈与税リスクを回避してください。金融機関や税理士への相談を推奨します。
