60歳から住宅ローンは組めるのか?基本条件を理解する
60歳を超えてから住宅購入や建て替えを検討する際、「この年齢でも住宅ローンは借りられるのか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、60歳以降の住宅ローン審査基準、返済計画の立て方、リスクと対策を、住宅金融支援機構や金融庁の公式情報を元に解説します。
定年後の収入や退職金を踏まえた無理のない借入計画を立てられるようになります。
この記事のポイント
- 60歳以降でも住宅ローンの申込は可能だが、完済時年齢(多くは80歳未満)により返済期間が10-20年に制限される
- 年金収入でも審査は通るが、給与所得に比べて借入可能額が制限される傾向にある
- フラット35やリ・バース60などの選択肢があり、それぞれにメリットとデメリットがある
- 返済計画は年金収入と老後資金のバランスを考慮し、専門家への相談を推奨
60歳以降の住宅ローン審査基準と注意点
60歳以降でも住宅ローンの申込は可能ですが、若年層とは異なる審査基準が適用されます。りそなグループによると、完済時年齢を審査基準として重視する金融機関は98.7%に上ります。
完済時年齢と返済期間の制限
多くの金融機関では、完済時年齢の上限を80歳未満としています。60歳で借入する場合、返済期間は最長でも20年以内に制限されることになります。
返済期間が短くなると、月々の返済額が高額になるため、年金収入での返済負担が大きくなるリスクがあります。例えば、2,000万円を金利1.5%(2024-2025年時点の変動金利の目安)で借入する場合:
| 返済期間 | 月々の返済額(金利1.5%) | 
|---|---|
| 35年 | 約6.1万円 | 
| 20年 | 約9.7万円 | 
| 15年 | 約12.4万円 | 
返済期間が短いほど、月々の返済負担が増えることが分かります。
年金収入での審査は可能か
多くの金融機関は年金収入を安定収入として認めていますが、給与所得に比べて審査が厳しくなる傾向があります。りそなグループによると、返済比率(年収に対する年間返済額の割合)は35%以内が目安とされています。
年金収入で計算すると、借入可能額が制限されるケースが多いため、頭金を多めに用意することが審査通過のポイントとなります。
団体信用生命保険(団信)への加入条件
団体信用生命保険(団信)は、住宅ローン契約者が死亡または高度障害になった場合に、ローン残債が保険で完済される仕組みです。多くの金融機関では団信への加入を融資条件としています。
60歳以降は持病や健康リスクが高まるため、団信への加入が困難になる場合があります。加入できない場合、融資を受けられないリスクがあるため、健康状態の確認と改善が重要です。
60歳以降向けの住宅ローン商品と選択肢
60歳以降でも利用できる住宅ローン商品には、通常の住宅ローンのほか、シニア向けの特別な商品があります。
フラット35の利用条件
住宅金融支援機構が提供するフラット35は、申込時の年齢が満70歳未満であることが条件です。返済期間は15年以上35年以下(完済時年齢80歳まで)で、固定金利のため計画的な返済が可能です。
フラット35のメリット:
- 固定金利のため、金利上昇リスクがない
- 団信への加入が任意(加入しなくても融資可能)
- 返済期間を35年まで設定できる場合がある
リ・バース60(リバースモーゲージ型)の仕組み
住宅金融支援機構が提供するリ・バース60は、60歳以上向けの住宅ローンで、毎月の支払いは利息のみ、死亡後に自宅売却で元金を一括返済する仕組みです。
リ・バース60のメリット:
- 毎月の支払いが利息のみで、返済負担が軽い
- 元金返済は死亡後に自宅売却で行う
リ・バース60のデメリット:
- 相続時に自宅を売却する必要があり、相続人への負担がある
- 金利上昇リスクがある(変動金利型が多い)
- 自宅の評価額が下がると、追加担保を求められる可能性がある
リフォームローンとの違い
建て替えではなくリフォームを検討する場合、リフォームローンという選択肢もあります。リフォームローンは無担保で借入可能ですが、金利が住宅ローンより高く(年2-5%程度)、借入可能額も500-1,000万円程度に制限されます。
年金・退職金を踏まえた無理のない返済計画
60歳以降の住宅ローンでは、返済計画の立て方が特に重要です。年金収入と老後資金のバランスを慎重に検討する必要があります。
返済比率の計算方法(年収の35%以内)
返済比率は、年収に対する年間返済額の割合で、一般的に35%以内が審査の目安とされています。例えば、年金収入が年240万円(月20万円)の場合:
年間返済可能額 = 240万円 × 35% = 84万円 月々の返済可能額 = 84万円 ÷ 12ヶ月 = 7万円
この計算から、月々7万円以内の返済額に抑えることが推奨されます。
退職金を頭金に充てるべきか
退職金を頭金に充てることで、借入額を減らし、審査が有利になる可能性があります。ただし、老後資金が不足するリスクとのバランスを慎重に検討する必要があります。
退職金の使い方:
- 一部を頭金に: 退職金の30-50%程度を頭金に充て、残りを老後資金として確保
- 全額を老後資金に: 頭金を最小限に抑え、退職金は老後資金として温存
どちらの選択が適切かは、年金収入、生活費、健康状態によって異なります。ファイナンシャルプランナー(FP)に相談することをおすすめします。
老後資金とのバランスの取り方
住宅ローンの返済により、老後資金が圧迫されないよう注意が必要です。総務省の家計調査によると、65歳以上の夫婦の平均生活費は月約26万円とされています。
年金収入と生活費のシミュレーション例:
- 年金収入: 月20万円
- 生活費: 月26万円
- 不足分: 月6万円
この場合、住宅ローンの返済額を月7万円とすると、月13万円の不足が生じます。老後資金(退職金、貯蓄)から毎月13万円を取り崩すことになり、20年間で3,120万円が必要となります。
無理のない返済計画を立てるためには、年金収入、生活費、住宅ローン返済額のバランスを綿密にシミュレーションすることが重要です。
60歳以降の住宅ローンで失敗しないためのポイント
60歳以降で住宅ローンを組む際には、いくつかの対策を講じることで、審査通過の可能性を高め、返済リスクを抑えることができます。
審査通過のための対策
リクルート運営サイトによると、以下の対策が有効とされています:
- 頭金を多めに用意する: 物件価格の20-30%を頭金として用意することで、借入額を減らし、審査が有利になる
- 配偶者との収入合算を検討する: 配偶者にも収入がある場合、収入合算により借入可能額が増える
- 健康診断で異常値があれば改善する: 団信への加入が融資条件の場合、健康状態の改善が重要
- 返済期間を現実的に設定する: 80歳完済を前提とせず、75歳完済など余裕を持った期間設定をする
専門家(FP・銀行)への相談
60歳以降の住宅ローンは、若年層とは異なる複雑な要素が絡むため、専門家への相談を推奨します。
相談先:
- ファイナンシャルプランナー(FP): 年金収入と老後資金のバランスを踏まえたライフプランニング
- 銀行の住宅ローン相談窓口: 審査基準や商品の詳細、具体的なシミュレーション
- 住宅金融支援機構: フラット35やリ・バース60の詳細情報
借入前に確認すべきこと
住宅ローンを借入する前に、以下の点を必ず確認しましょう:
- 相続人への影響: リバースモーゲージ型の場合、相続時に自宅を売却する必要があり、相続人への負担がある
- 金利上昇リスク: 変動金利型の場合、金利上昇により返済額が増える可能性がある
- 繰上返済の可否: 繰上返済により総返済額を減らせるか、手数料はいくらか
- 団信の保障内容: 死亡・高度障害以外にがん保障等が付いているか
まとめ:60歳からの住宅ローンは計画的に
60歳以降でも住宅ローンは組めますが、完済時年齢(多くは80歳未満)により返済期間が10-20年に制限され、月々の返済額が高額になる点に注意が必要です。
年金収入でも審査は通りますが、給与所得に比べて借入可能額が制限される傾向にあります。フラット35やリ・バース60などの選択肢がありますが、それぞれにメリットとデメリットがあるため、自身の状況に合った商品を選ぶことが重要です。
退職金を頭金に充てる際には、老後資金とのバランスを慎重に検討し、無理のない返済計画を立てましょう。専門家(FP、銀行)に相談しながら、年金収入と生活費のシミュレーションを行い、老後資金を圧迫しない借入額を見極めることをおすすめします。
