「隣の土地は借金してでも買え」は本当?格言の背景を解説
隣地が売りに出された際、「隣の土地は借金してでも買え」という不動産格言を聞いたことがある方は少なくないでしょう。しかし、本当に借金してまで買うべきなのか、迷う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、この格言の背景、隣地購入のメリット・デメリット、買うべきケース・見送るべきケースの判断基準を、不動産専門家の見解を元に解説します。
資金計画・活用計画を立ててから冷静に判断できるようになります。
この記事のポイント
- 「隣の土地は借金してでも買え」は敷地拡張・境界トラブル回避のメリットから生まれた格言だが、全てのケースで当てはまるわけではない
- メリットは敷地の有効活用(建ぺい率・容積率の余裕)、境界トラブルの解消、袋地の解消、資産価値の向上等
- デメリットは資金負担、固定資産税の増加、不要な土地を買うリスク、借入返済不能リスク等
- 買うべきケースは袋地解消・建築制限緩和・トラブル解消、見送るべきケースは資金不足・活用困難・返済困難
- 資金計画・活用計画を立ててから慎重に判断し、複数の金融機関・不動産会社に相談することを推奨
隣の土地購入の背景:なぜ「借金してでも買え」と言われるのか
「隣の土地は借金してでも買え」という格言には、不動産特有の理由があります。
敷地拡張のメリット
インベスターKによると、隣地を購入して敷地が広くなることで、建ぺい率・容積率の余裕ができ、増築等の建築の自由度が高まります。
増分価値: 隣地を購入することで生まれる土地全体の価値増加分を「増分価値」と呼びます。例えば、50㎡の土地を500万円で購入しても、隣接する自分の土地と合わせて100㎡になることで、土地全体の価値が1,200万円に上昇する場合があります(購入前の自分の土地600万円+隣地500万円=1,100万円より100万円増)。
境界トラブル回避のメリット
ナカジツによると、隣地との境界トラブル(境界標紛失・越境・日照・騒音等)を根本的に解消できる点も、隣地購入のメリットとされています。
境界確定測量には30-100万円程度の費用がかかり、隣地所有者の立会いも必要ですが、隣地を購入すれば境界そのものが消滅するため、将来的なトラブルを防げます。
ただし全てのケースで当てはまるわけではない
この格言はメリットが大きいケースを前提としていますが、全てのケースで当てはまるわけではありません。資金計画・活用計画を立ててから慎重に判断する必要があります。
隣地購入のメリット
隣地を購入することで得られる具体的なメリットを見ていきましょう。
敷地の有効活用(建ぺい率・容積率の余裕)
敷地が広くなることで、建ぺい率・容積率の余裕ができ、増築等が可能になる場合があります。
建ぺい率: 敷地面積に対する建築面積の割合。例えば、建ぺい率60%の地域で敷地100㎡の場合、建築面積は60㎡まで。隣地50㎡を購入して敷地150㎡になると、建築面積90㎡まで可能(30㎡の増築余地)。
容積率: 敷地面積に対する延床面積の割合。例えば、容積率200%の地域で敷地100㎡の場合、延床面積は200㎡まで。隣地50㎡を購入して敷地150㎡になると、延床面積300㎡まで可能(100㎡の増築余地)。
境界トラブルの解消
リロクラブによると、境界トラブルの典型例として、境界標紛失・越境・日照・騒音等があります。
隣地を購入することで、これらのトラブルを根本的に解消できます。境界確定測量(30-100万円)や筆界特定制度(数十万円)、ADR(裁判外紛争解決手続き)、訴訟等の費用・時間・精神的負担を回避できる点は大きなメリットです。
袋地の解消(接道義務を満たす)
イエイによると、袋地(他の土地に囲まれて公道に接していない土地)は、接道義務(幅員4m以上の道路に2m以上接道)を満たさず、原則として建物を建てられません。
隣地を購入して公道への接道を確保できれば、建築が可能になります。
囲繞地通行権と接道義務の違い:
- 囲繞地通行権(民法第210条):袋地所有者が公道に出るために周囲の土地を通行できる権利
- 接道義務(建築基準法):建物を建てるために必要な道路への接道(幅員4m以上の道路に2m以上接道)
囲繞地通行権があっても、接道義務を満たさなければ建築不可のため、隣地購入による接道確保が重要です。
資産価値の向上
敷地が広くなることで、土地全体の資産価値が向上する場合があります。ナカジツによると、増分価値(前述)により、購入費用以上の価値増加が期待できるケースもあります。
隣地購入のデメリット・注意点
隣地購入にはデメリット・注意点もあります。
資金負担(購入費用・諸費用・借入金利)
隣地の購入費用は、周辺相場より高額になりがちです。隣地所有者が「隣地プレミアム」を期待して高値を提示するケースが多いためです。
諸費用:
- 登記費用(登録免許税・司法書士報酬):10-30万円
- 不動産取得税:固定資産税評価額の3%(軽減措置あり)
- 仲介手数料(不動産会社経由の場合):物件価格×3%+6万円+消費税
借入金利:
- 住宅ローンではなく、フリーローンや不動産担保ローンを利用する場合、金利が高くなる可能性がある(3-10%程度)
固定資産税の増加
土地が増えることで、固定資産税・都市計画税が増加します。
例:
- 隣地50㎡、固定資産税評価額1,000万円
- 固定資産税:年14万円(1,000万円×1.4%)
- 都市計画税:年3万円(1,000万円×0.3%)
- 年間17万円の税負担増
不要な土地を買うリスク
形状が悪い、用途がない、活用が困難な隣地を買ってしまうリスクがあります。
例:
- 三角形の土地で活用しにくい
- 傾斜地で整地費用がかかる
- 用途地域の制限で活用できない
借入返済不能リスク
IEDEPAによると、借入返済が困難になると、担保(自宅・購入した隣地)を失うリスクがあります。
借入返済計画を十分に検討し、家計収支バランスを確認してから判断することが重要です。
買うべきケース・見送るべきケースの判断基準
隣地を買うべきか、見送るべきかの判断基準を整理します。
買うべきケース(袋地解消・建築制限緩和・トラブル解消)
以下のケースでは、隣地購入を積極的に検討する価値があります。
1. 袋地を解消できる
- 現在の土地が袋地(接道義務を満たさない)で建築不可
- 隣地を購入して接道を確保できれば建築可能に
- イエイによると、袋地の評価額は通常の土地の50-70%程度に下がるため、接道確保による資産価値向上が期待できる
2. 建ぺい率・容積率の制限で建築できない状況を解消できる
- 増築したいが建ぺい率・容積率の上限に達している
- 隣地を購入して敷地を広げることで増築が可能に
3. 隣地トラブル(境界・日照・騒音等)を解消できる
- 境界トラブルで境界確定測量・訴訟等の費用・時間・精神的負担が大きい
- 隣地を購入することでトラブルを根本的に解消できる
見送るべきケース(資金不足・活用困難・返済困難)
以下のケースでは、隣地購入を見送るべきです。
1. 資金に余裕がない
- 購入費用・諸費用・借入金利の負担が家計を圧迫する
- 借入返済計画が不明確、返済不能リスクが高い
2. 借入返済が困難
- IEDEPAによると、家計収支バランスを確認し、月々の返済額が家計の25-30%以内に収まるかを確認すべき
- 返済困難になると担保(自宅・購入した隣地)を失うリスクがある
3. 隣地の用途・形状が悪く活用できない
- 三角形・傾斜地等で活用が困難
- 用途地域の制限で活用できない
- 隣地プレミアムで周辺相場より高額すぎる
隣地購入の手順と価格交渉のポイント
隣地購入を検討する際の具体的な手順を見ていきましょう。
価格相場の調査(路線価・不動産情報サイト)
HOME4Uによると、隣地の価格相場を調べる方法は以下の通りです。
国税庁の路線価:
- 道路に面した土地の1㎡あたりの評価額
- 公示地価の約80%が目安
- 国税庁のウェブサイトで確認可能
不動産情報サイト:
- SUUMO、HOME4U、at home等で近隣の取引事例を確認
不動産会社に査定依頼:
- 複数の不動産会社に査定依頼して相場を確認
資金計画の立案
購入費用・諸費用・借入返済計画を立案し、家計収支バランスを確認します。
資金計画の項目:
- 購入費用(隣地の価格)
- 諸費用(登記費用・不動産取得税・仲介手数料)
- 借入額・金利・返済期間
- 月々の返済額
- 家計収支バランス(返済額が家計の25-30%以内か)
隣地所有者との交渉
タイミング良い交渉が重要です。HOME4Uによると、売り出し時・相続時等が交渉のチャンスです。
交渉のポイント:
- 強引に推し進めると隣人トラブルに発展する可能性があることを認識
- 周辺相場と比較して妥当性を判断
- 高額すぎる場合は無理に購入せず見送る
- 複数の不動産会社に相談して交渉のアドバイスを受ける
まとめ:冷静に資金計画・活用計画を立てて判断しよう
「隣の土地は借金してでも買え」という格言には、敷地拡張・境界トラブル回避等のメリットから生まれた背景がありますが、全てのケースで当てはまるわけではありません。
隣地購入のメリットは、敷地の有効活用(建ぺい率・容積率の余裕)、境界トラブルの解消、袋地の解消、資産価値の向上等です。デメリットは、資金負担、固定資産税の増加、不要な土地を買うリスク、借入返済不能リスク等があります。
買うべきケースは袋地解消・建築制限緩和・トラブル解消、見送るべきケースは資金不足・活用困難・返済困難です。資金計画・活用計画を立ててから慎重に判断し、複数の金融機関・不動産会社に相談して比較検討することをおすすめします。
