賃貸の仲介手数料に上限はあるの?法律と実務の基礎知識
賃貸物件を探す際、「仲介手数料がいくらかかるのか」「上限はあるのか」と不安に感じる方は少なくありません。特に初めての引っ越しや一人暮らしでは、初期費用の総額が分からず戸惑うことも多いでしょう。
この記事では、賃貸の仲介手数料の上限、法的根拠、計算方法、値引き交渉のポイントを、宅地建物取引業法や国土交通省の報酬告示を元に解説します。
契約前に正しい知識を身につけることで、不当な請求を避け、初期費用を適正に抑えられるようになります。
この記事のポイント
- 賃貸の仲介手数料は宅建業法46条により賃料1ヶ月分+消費税が上限
- 原則は貸主・借主それぞれから0.5ヶ月分+消費税、承諾があれば一方から1ヶ月分まで受け取り可能
- 承諾は媒介契約成立前に書面で取得する必要があり、契約後の承諾は無効(東京地裁・高裁判例)
- 仲介手数料無料・半額物件は貸主が費用を負担しているケースが多い
- 別名目(事務手数料、書類作成費等)での二重請求に注意が必要
仲介手数料の基礎知識|宅建業法46条と報酬告示
(1) 仲介手数料とは(成功報酬型の報酬)
仲介手数料は、賃貸契約が成立した際に不動産会社に支払う報酬です。成功報酬型のため、契約が成立しなければ発生しません。
物件探しや内見の案内、契約書類の作成、重要事項説明などの業務に対する対価として支払われます。
(2) 宅建業法46条の規定(強行法規)
宅地建物取引業法第46条により、不動産会社が受け取れる報酬の上限は国土交通大臣が定めることになっています。
この規定は強行法規のため、当事者同士の合意があっても変更できず、上限を超える契約部分は無効となります。
(3) 報酬告示による上限額の規定
国土交通大臣が定める報酬告示により、賃貸の仲介手数料は具体的に「賃料1ヶ月分+消費税」が上限と定められています(2025年時点)。
この上限を超えた請求は違法で、100万円以下の罰金または1年以下の懲役が科される可能性があります。
上限の仕組みと計算方法|賃料1ヶ月分+消費税の詳細
(1) 上限額の基本ルール(賃料1ヶ月分+消費税)
仲介手数料の上限は、賃料のみを基準として計算されます。共益費や管理費は含まれません。
例えば、賃料5万円・共益費5千円の物件の場合、上限は「5万円×1.1=5.5万円(税込)」となります。共益費を含めた5.5万円で計算すると違法です。
(2) 貸主・借主からの受け取り配分(原則0.5ヶ月分ずつ)
原則として、不動産会社は貸主・借主それぞれから0.5ヶ月分+消費税を受け取ることができます。
ただし、どちらか一方から承諾を得た場合に限り、その一方から1ヶ月分+消費税まで受け取ることが可能です。
(3) 計算方法と具体例(共益費・管理費は含まない)
| 賃料 | 上限額(税込) | 備考 |
|---|---|---|
| 5万円 | 5.5万円 | 一般的な単身向け |
| 8万円 | 8.8万円 | ファミリー向け |
| 10万円 | 11万円 | 都心部の2LDK等 |
(出典: 国土交通省)
上限を超えるケースと違法性|承諾のタイミング・東京地裁判例
(1) 承諾があれば1ヶ月分を受け取れる仕組み
借主から承諾を得た場合、不動産会社は借主から1ヶ月分+消費税の仲介手数料を受け取ることができます。
多くの物件では、この仕組みにより借主が1ヶ月分を負担しているケースが一般的です。
(2) 承諾のタイミングと方法(媒介契約成立前に書面で)
重要なのは、承諾を得るタイミングです。承諾は媒介契約成立前に書面で取得する必要があります。
契約書にサインした後に「承諾書」を求められた場合、その承諾は無効となる可能性があります。
(3) 2019年東京地裁・2020年東京高裁判例(契約後の承諾は無効)
2019年の東京地裁判決では、大手不動産会社が契約後に承諾を得たケースについて、「承諾は媒介契約成立前に得る必要がある」と判断し、不動産会社に返金命令が出されました。
この判決は2020年の東京高裁でも確定し、業界に大きな影響を与えました。承諾のタイミングは法的に重要な要件です。
交渉のポイントと無料物件の仕組み|初期費用を抑える方法
(1) 仲介手数料の値引き交渉のコツ
仲介手数料の値引き交渉は可能です。以下のようなケースでは交渉がしやすい傾向にあります。
- 空室期間が長い物件: 貸主が早期に入居者を確保したいケース
- 繁忙期以外(6-8月、11-12月): 不動産会社の閑散期
- 複数の物件を同時に検討: 成約確率が高い見込み客として優遇される可能性
値引き交渉は、内見後や申込前のタイミングで行うのが効果的です。
(2) 仲介手数料無料・半額物件の仕組み(貸主負担、自社物件等)
2025年時点では、仲介手数料無料や半額の物件が増加傾向にあります。主な仕組みは以下の通りです。
- 貸主が手数料を全額負担: 空室リスクを避けるため貸主が費用を負担
- 自社物件: 不動産会社が所有する物件で仲介手数料が不要
- 広告料収入: 貸主からの広告料で収益を確保
仲介手数料無料だからといって物件の質が劣るわけではありませんが、契約条件を十分に確認することが重要です。
(3) 別名目費用(事務手数料、書類作成費)に注意
仲介手数料が無料や半額の場合、別名目で「事務手数料」「書類作成費」「消毒費」等を請求されるケースがあります。
これらの費用は、事前に説明・承諾がなければ違法の可能性があります。契約前に内訳を確認し、不明な費用があれば説明を求めましょう。
まとめ|契約前の確認事項とトラブル回避策
賃貸の仲介手数料は、宅建業法46条により賃料1ヶ月分+消費税が上限です。共益費・管理費は含まれず、賃料のみで計算されます。
承諾があれば借主が1ヶ月分を負担することも可能ですが、承諾は媒介契約成立前に書面で取得する必要があります。契約後の承諾は無効となる可能性があるため、契約書にサインする前に確認しましょう。
仲介手数料の値引き交渉や無料物件の活用により、初期費用を抑えることも可能です。ただし、別名目での二重請求には注意が必要です。契約前に費用の内訳を確認し、不明な点は不動産会社や宅地建物取引士に相談することをおすすめします。
