不動産取引で起こりがちなトラブルとは
不動産の購入・売却・賃貸を検討する際、「どんなトラブルが起こりやすいのか」「失敗を防ぐにはどうすればいいのか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、不動産取引でよくある失敗談・トラブル事例と対策を、不動産適正取引推進機構の公式トラブル事例集を元に解説します。
初めての不動産取引でも、よくあるトラブルを事前に知り、適切な対策を取ることで安全に取引を進められるようになります。
この記事のポイント
- 2021年度に国土交通省及び都道府県に1,374件の苦情や紛争相談があった
- 不動産トラブルは「仲介会社とのトラブル」と「契約相手とのトラブル」の2つに分類される
- 契約解除時や売買契約終了後にトラブルが起こりやすい
- 事前に知識を身につけることでトラブルを最小限に抑えられる
- 囲い込み、契約不適合責任、仲介手数料など専門用語の理解が重要
不動産購入時のあるある失敗談と対策
ネットで見た物件がもうない(おとり広告の可能性)
note「【業界あるある】不動産営業マンあるある②」によると、ネットに載っていた物件を問い合わせても大体ないことが不動産業界のあるあるです。
これは、おとり広告(実際には取引できない物件を掲載して顧客を集める手法)の可能性があります。
対策:
- 複数の不動産会社に問い合わせて、物件の実在性を確認する
- 問い合わせ時に「現在も販売中か」「いつ掲載されたか」を明確に質問する
- 不自然に条件が良い物件は疑う
契約後に説明のなかった水漏れ・雨漏り・シロアリ被害が発覚
不動産適正取引推進機構によると、中古物件購入後に説明のなかった天井からの水漏れや雨漏り、シロアリ被害などの不具合が発覚するケースが多くあります。
これは、契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)に関わる重要な問題です。
対策:
- 契約前に「契約不適合責任条項」を確認する
- 中古物件の場合は、インスペクション(建物状況調査)を依頼する
- 売主または仲介業者に「過去の修繕履歴」「設備の不具合」を書面で確認する
境界が不明確な土地を購入してしまった
不動産適正取引推進機構によると、境界標が工事や災害で埋まったり移動したりして境界が不明確になっているケースが多くあります。
境界が不明確な土地は、将来売却する際にトラブルになる可能性が高いです。
対策:
- 土地購入前に「確定測量図」の有無を確認する
- 確定測量が未済の場合は、測量士による確定測量を売主負担で実施してもらう
- 隣地所有者との境界確認書を取得する
契約関連の知識不足で曖昧なまま契約を進めてしまう
RE-Guide「不動産売却時のトラブル」によると、契約解除に関するトラブルが特に多く、契約関連の知識が複雑なため曖昧なまま進めてしまう売主・買主が多いです。
対策:
- 契約前に宅建士による「重要事項説明」を受け、不明点は必ず質問する
- 手付金・違約金の違いを理解する
- 契約書の文言を1つ1つ確認し、納得できるまでサインしない
不動産売却時のあるあるトラブルと回避法
囲い込みで他社に情報が流れず売却が長期化
RE-Guide「不動産売却時のトラブル」によると、囲い込み(両手仲介を目的に物件情報をレインズに登録しない、または他社からの問い合わせを後回しにする行為)により、売主が不利益を被る可能性があります。
囲い込みが起こると、本来は早く売れる物件なのに、売却が長期化し、価格を下げざるを得なくなることがあります。
対策:
- 専任媒介契約後は「レインズ登録証明書」の発行を求める
- レインズに正しく登録されているか、自分でもチェックする
- 売却活動の報告を定期的に求め、問い合わせ状況を確認する
契約解除時のトラブル(手付金・違約金)
不動産適正取引推進機構によると、契約解除に関するトラブルが特に多く報告されています。
手付金と違約金の違いを理解せず、契約解除時に想定外の金銭的負担が発生するケースがあります。
対策:
- 手付金: 買主が契約時に支払う金銭で、買主は手付金を放棄すれば契約解除できる(手付解除)
- 違約金: 契約違反により契約を解除する場合に支払う金銭(通常、売買代金の10-20%)
- 契約前に手付解除の期限を確認する
境界確定が未済で売却がスムーズに進まない
土地の境界が未確定の場合、買主が融資を受けられない、または契約を拒否されることがあります。
対策:
- 売却前に確定測量を実施し、隣地所有者と境界を確定する
- 確定測量費用(30-80万円程度)は売主負担が一般的
- 境界確認書を取得し、買主に提供する
買主の住宅ローン審査が通らず白紙解約
RE-Guide「不動産売却時のトラブル」によると、買主の住宅ローン審査が通らず契約解除されるケースがあります。
対策:
- 契約時に買主の「事前審査承認済み」を確認する
- 住宅ローン特約(ローンが通らない場合は白紙解約できる条項)の期限を確認する
- 手付金を受け取ることで、契約解除時のリスクを軽減する
不動産仲介会社とのトラブルあるある
仲介手数料の上限を超える請求
不動産適正取引推進機構によると、仲介手数料に関するトラブルが報告されています。
仲介手数料の上限(宅建業法で定められている):
| 物件価格 | 仲介手数料の上限 |
|---|---|
| 400万円超 | 物件価格の3%+6万円+消費税 |
| 200万円超~400万円以下 | 物件価格の4%+2万円+消費税 |
| 200万円以下 | 物件価格の5%+消費税 |
この上限を超える請求は宅建業法違反です。
対策:
- 複数の不動産会社に査定を依頼し、仲介手数料の内訳を確認する
- 仲介手数料以外の費用(広告費等)を別途請求されないか確認する
レインズ(REINS)への物件登録をしない(囲い込み)
専任媒介契約または専属専任媒介契約を結んだ場合、不動産会社は7日以内(専属専任は5日以内)にレインズへ物件を登録する義務があります。
この義務を怠ると、他社が物件を紹介できず、囲い込みが発生します。
対策:
- 契約後7日以内に「レインズ登録証明書」の発行を求める
- レインズに登録されているか、自分でもチェックする
専任媒介契約後の報告義務違反
専任媒介契約では、不動産会社は2週間に1回以上(専属専任は1週間に1回以上)、売却活動の状況を報告する義務があります。
この義務を怠る業者は、適切な売却活動を行っていない可能性があります。
対策:
- 報告頻度を契約書で確認する
- 報告がない場合は、電話やメールで状況を問い合わせる
- 3ヶ月後の契約更新時に業者を変更することも検討する
重要事項説明の不十分さ・説明不足
宅建業法では、宅建士が買主に「重要事項説明書」を交付し、内容を説明する義務があります。
説明が不十分だと、契約後にトラブルになる可能性が高いです。
対策:
- 重要事項説明は必ず宅建士から受ける
- 説明書を事前に受け取り、不明点をリストアップしておく
- 説明時に録音(業者の許可を得る)またはメモを取る
契約と手続きでよくある失敗と対処法
契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の理解不足
契約不適合責任とは、引き渡された目的物が契約内容に適合しない場合に、売主が買主に対して負う責任です(旧民法の「瑕疵担保責任」に相当)。
中古物件購入後に水漏れ・雨漏り・シロアリ被害などが発覚した場合、契約内容次第で売主に修繕費を請求できます。
対策:
- 契約書の「契約不適合責任条項」を確認する
- 免責期間(引渡しから3ヶ月等)を確認する
- 中古物件の場合は、インスペクション(建物状況調査)を依頼する
手付金と違約金の違いを理解せず契約
| 項目 | 手付金 | 違約金 |
|---|---|---|
| 目的 | 契約成立の証拠 | 契約違反の賠償 |
| 契約解除 | 手付金を放棄すれば解除できる | 契約違反がある場合に支払う |
| 金額 | 売買代金の5-10%程度 | 売買代金の10-20%程度 |
手付解除は、契約で定めた期限までなら、買主は手付金を放棄することで契約を解除できます。
契約書の細かい文言を確認せずサイン
契約書には、手付金、違約金、契約不適合責任、引渡し時期など、重要な条件が記載されています。
細かい文言を確認せずサインすると、後からトラブルになる可能性が高いです。
対策:
- 契約書を事前に受け取り、時間をかけて確認する
- 不明点は宅建士または弁護士に相談する
- 納得できるまでサインしない
クーリングオフの適用条件を誤解
不動産取引でもクーリングオフ(無条件解約)ができる場合がありますが、適用条件は限定的です。
クーリングオフが適用される条件:
- 売主が不動産会社(宅建業者)である
- 買主が事務所等以外の場所(喫茶店、自宅等)で契約した
- クーリングオフの告知を受けてから8日以内
クーリングオフが適用されない条件:
- 買主が不動産会社の事務所で契約した
- 買主が自ら指定した場所(自宅等)で契約した
- 売主が個人である
まとめ:不動産トラブルを回避するための心構え
不動産取引でよくあるトラブルは、契約解除時や契約終了後に起こりやすく、契約関連の知識不足が原因となることが多いです。2021年度に国土交通省及び都道府県に1,374件の苦情や紛争相談がありました。
事前に知識を身につけることで、トラブルを最小限に抑えられます。特に、契約不適合責任、手付金と違約金の違い、仲介手数料の上限、囲い込みなどの専門用語を理解することが重要です。
契約前には、重要事項説明を受け、不明点は必ず質問してください。契約書の文言を1つ1つ確認し、納得できるまでサインしないことが最大の防御策です。複数の不動産会社に査定を依頼し、報告義務を果たす業者を選ぶことも重要です。
詳細は宅地建物取引士や弁護士にご相談ください。不動産適正取引推進機構でも公式トラブル事例集を公開しています。
