不動産収入とは|賃貸経営による収入源の基礎知識
不動産投資による副収入を検討する際、「実際にどれくらいの収入が得られるのか」「税金はいくらかかるのか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、国税庁の公式ガイドを元に、不動産収入の仕組み、収益計算の方法、税金の扱い、確定申告の手続きを詳しく解説します。
マンションやアパート経営に興味がある方が、実際の収入額や経費、税金の仕組みを正確に理解できるようになります。
この記事のポイント
- 不動産収入は家賃・礼金・更新料などの総売上で、不動産所得は収入から必要経費を差し引いた額
- 不動産所得の平均は約547万円程度だが、物件規模により大きく異なる
- 必要経費として固定資産税、修繕費、減価償却費、ローン金利などが計上可能
- 所得税(累進課税5%〜45%)と住民税(約10%)が課税される
(1) 不動産収入の定義(総売上)
不動産収入とは、不動産経営によって得られる売上の総合計です。家賃、礼金、更新料、共益費、駐車場収入などが含まれます。
不動産収入は総売上を指すため、ここから経費やローン返済を差し引く必要があります。
(2) 不動産収入と不動産所得の違い
不動産所得とは、不動産収入から必要経費を差し引いた額です(課税対象)。
不動産収入と不動産所得の違い
| 項目 | 定義 | 用途 |
|---|---|---|
| 不動産収入 | 家賃・礼金・更新料などの総売上 | 収入の全体像を把握 |
| 不動産所得 | 収入から必要経費を差し引いた額 | 課税対象(税金計算の基準) |
(出典: 国税庁)
必要経費とは、不動産所得の計算で差し引くことができる費用です(固定資産税、修繕費、減価償却費、ローン金利など)。
(3) 不動産収入の平均額(約547万円)と物件規模別の目安
国税庁のデータによると、不動産所得を得ている人の平均所得は約547万円です。ただし、物件規模により大きく異なります。
物件規模別の収入目安
| 物件価格 | 利回り | 年間家賃収入 | 年間手取り目安 |
|---|---|---|---|
| 3,000万円 | 6% | 180万円 | 40万円程度 |
| 5,000万円 | 6% | 300万円 | 65万円程度 |
| 1億円 | 6% | 600万円 | 130万円程度 |
家賃収入の全額が手取りになるわけではなく、経費・ローン返済を差し引いた実質手取りは大幅に減少します。
不動産収入の種類と構成要素
(1) 家賃収入(メイン収入源)
家賃収入は、不動産収入のメイン収入源です。入居者から毎月支払われる家賃が該当します。
家賃収入は安定した収入源ですが、空室が発生すると収入が途絶えるため、空室リスクへの備えが重要です。
(2) 礼金・更新料
礼金は、入居時に入居者から受け取る一時金です。契約更新時に受け取る更新料も不動産収入に含まれます。
礼金・更新料は一時的な収入であり、毎月継続的に得られるわけではありません。地域や物件により、礼金・更新料の有無が異なります。
(3) 共益費・管理費
共益費・管理費は、入居者が共用部分の維持管理費用として支払う費用です。家賃と別に徴収される場合があります。
共益費・管理費は不動産収入に含まれますが、実際には共用部分の清掃費用や設備維持費用に充てられます。
(4) 駐車場・駐輪場収入
駐車場・駐輪場収入は、敷地内の駐車場・駐輪場を入居者や外部の人に貸し出すことで得られる収入です。
駐車場・駐輪場収入は家賃以外の副収入として活用できます。立地により需要が大きく異なります。
(5) その他の収入(看板設置料等)
その他の収入として、建物の外壁や屋上に看板を設置することで得られる看板設置料、自動販売機の設置料などがあります。
これらは副次的な収入であり、物件の立地や条件により発生する場合があります。
不動産所得の計算方法|収入から経費を引いた手取り額
(1) 不動産所得の計算式(収入-必要経費)
不動産所得は以下の式で計算されます。
計算式: 不動産収入 - 必要経費 = 不動産所得
(出典: 国税庁)
(2) 必要経費として認められるもの(固定資産税・修繕費・減価償却費・ローン金利等)
必要経費として認められる主な費用は以下の通りです。
必要経費の具体例
| 経費項目 | 内容 |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 不動産の保有に対して課される税金 |
| 修繕費 | 設備の修理・交換費用 |
| 減価償却費 | 建物や設備の取得費用を耐用年数に応じて毎年経費計上 |
| ローン金利 | 住宅ローンの金利部分(元本返済は経費にならない) |
| 管理委託手数料 | 不動産管理会社への委託費用 |
| 火災保険料・地震保険料 | 建物に対する保険料 |
| 広告宣伝費 | 入居者募集のための広告費用 |
減価償却費とは、建物や設備の取得費用を耐用年数に応じて毎年経費計上する費用です。
(3) 表面利回りと実質利回りの違い
不動産投資の収益性を測る指標として、表面利回りと実質利回りがあります。
表面利回りと実質利回りの違い
| 指標 | 計算式 | 特徴 |
|---|---|---|
| 表面利回り | 年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100 | 経費を考慮しない単純な利回り |
| 実質利回り | (年間家賃収入 - 経費)÷ 物件価格 × 100 | 経費を考慮した実際の利回り |
表面利回りは経費を考慮しないため、実際の収益性は実質利回りで判断する必要があります。
(4) 具体的な収支シミュレーション(5,000万円物件で年間手取り65万円の例)
5,000万円物件の収支シミュレーション(利回り6%の場合)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年間家賃収入(利回り6%) | 300万円 |
| ローン返済(金利2%、返済期間30年) | -200万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | -15万円 |
| 管理委託手数料(家賃の5%) | -15万円 |
| 修繕費・保険料 | -5万円 |
| 年間手取り | 65万円 |
5,000万円の物件(利回り6%、年間家賃300万円)でも、ローン返済・経費を差し引くと年間手取りは65万円程度です。
空室リスクや修繕費の発生により想定通りの収入が得られない可能性があるため、余裕を持った資金計画が必要です。
不動産収入にかかる税金の種類と税率
(1) 所得税(累進課税5%〜45%)
所得税は不動産所得に対して課される税金で、累進課税方式です(所得が増えるほど税率が高くなります)。
所得税の税率(2025年時点)
| 課税所得 | 税率 |
|---|---|
| 195万円以下 | 5% |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% |
| 4,000万円超 | 45% |
(出典: 国税庁)
(2) 住民税(約10%)
住民税は不動産所得に対して課される地方税で、税率は約10%です(都道府県税4% + 市区町村税6%)。
住民税は所得税と異なり、累進課税ではなく一律10%程度です。
(3) 固定資産税・都市計画税
固定資産税は不動産の保有に対して課される税金です。都市計画税は都市計画区域内の不動産に対して課される税金です。
固定資産税・都市計画税は不動産所得の計算時に必要経費として計上できます。
(4) 消費税(課税売上1,000万円超の場合)
消費税は、課税売上が1,000万円を超える場合に納税義務が発生します。住宅の家賃収入は消費税非課税ですが、事業用物件の家賃収入や駐車場収入は課税対象です。
(5) 給与所得との合算による税率の変化
サラリーマンの場合、不動産所得は給与所得と合算されます。所得税は累進課税のため、給与所得と合算すると税率が上がる可能性があります。
給与所得との合算例(年収500万円のサラリーマンの場合)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 給与所得 | 500万円 |
| 不動産所得 | 100万円 |
| 合計課税所得 | 600万円 |
| 適用税率 | 20%(330万円超〜695万円以下) |
給与所得のみの場合の税率が10%でも、不動産所得と合算することで税率が20%に上がる可能性があります。事前のシミュレーションが重要です。
確定申告の手続きと青色申告・白色申告の違い
(1) 確定申告が必要なケース(サラリーマンは年間所得20万円超)
サラリーマンの場合、不動産所得が年間20万円を超える場合は確定申告が必要です。専業の場合は不動産所得がある場合に申告が必要です。
確定申告とは、1年間の所得を税務署に申告し、所得税を納税する手続きです(翌年2月16日〜3月15日)。
確定申告を怠ると加算税や延滞税が課される可能性があるため、期限内の申告が必須です。
(2) 青色申告のメリット(最大65万円の特別控除)
青色申告は、複式簿記による記帳を条件に、最大65万円の特別控除が受けられる申告方法です(事前に税務署へ届出が必要)。
青色申告のメリット
- 最大65万円の青色申告特別控除
- 赤字の繰越(3年間)
- 家族への給与を経費計上可能(青色事業専従者給与)
青色申告は節税効果が大きいですが、複式簿記による記帳が必要で手続きが複雑です。
(3) 白色申告のメリット(簡易な記帳で済む)
白色申告は、簡易な記帳で申告できるが、特別控除がない申告方法です(事前届出不要、自動適用)。
白色申告は手続きが簡単ですが、特別控除がないため節税効果は青色申告より低くなります。
(4) 損益通算による節税(赤字の場合、給与所得と相殺可能)
不動産所得がマイナス(赤字)の場合、給与所得と損益通算して節税が可能です。
損益通算とは、不動産所得が赤字の場合、給与所得など他の所得と相殺して節税する仕組みです。
損益通算の例
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 給与所得 | 500万円 |
| 不動産所得(赤字) | -100万円 |
| 課税所得 | 400万円(500万円 - 100万円) |
赤字の不動産所得を給与所得と相殺することで、課税所得が減り、所得税と住民税が軽減されます。
(5) 確定申告の期限と提出書類
確定申告の期限は翌年2月16日〜3月15日です。期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。
提出書類
- 確定申告書
- 青色申告決算書または収支内訳書(白色申告)
- 不動産収入・経費の明細
- 源泉徴収票(給与所得がある場合)
会計ソフトを活用すると、記帳や申告書の作成が簡単になります。
まとめ:不動産収入を得る前に知っておくべきポイント
(1) 家賃収入の全額が手取りになるわけではない
家賃収入の全額が利益になるわけではありません。ローン返済、経費、税金を差し引いた実質手取りは大幅に減少します。
5,000万円の物件(利回り6%、年間家賃300万円)でも、ローン返済・経費を差し引くと年間手取りは65万円程度です。収支シミュレーションが必須です。
(2) 空室リスク・修繕リスクへの備え
空室が発生すると家賃収入が途絶えます。また、設備の故障や老朽化により修繕費が発生します。
リスクへの備え
- 空室リスク: 立地の良い物件を選ぶ、入居者募集を強化する
- 修繕リスク: 修繕費用を事前に積み立てる、定期的なメンテナンスを行う
- 金利上昇リスク: 固定金利を選択する、余裕を持った返済計画を立てる
余裕を持った資金計画が必要です。
(3) 専門家(税理士・FP)への相談推奨
不動産投資の収支計算や税務処理は複雑です。専門家(税理士、ファイナンシャルプランナー等)への相談を推奨します。
税制や控除制度は改正される可能性があるため、最新情報は国税庁や税理士への確認を推奨します(2025年時点の情報)。
(4) 兼業オーナーと専業オーナーの実態(約80%が兼業)
2019年国土交通省調査によると、賃貸物件オーナーの約80%は兼業、約20%が専業大家です。
多くのオーナーは会社員や自営業と兼業で不動産経営を行っています。副収入として不動産投資を始める方が多い実態です。
不動産投資を始める前に、収支シミュレーション、税金計算、リスク対策を十分に検討し、専門家に相談することが重要です。
