不動産を早期に売却したい人のための選択肢:買取と仲介
不動産の売却を検討する際、「早く現金化したい」「手間をかけずに売りたい」という方にとって、不動産買取は有力な選択肢です。
この記事では、不動産買取と仲介の違い、買取のメリット・デメリット、買取価格の相場、買取業者の選び方を、国土交通省の不動産取引価格情報や不動産業界の専門情報を元に解説します。
初めて不動産を売却する方でも、自分の状況に最適な売却方法を選べるようになります。
この記事のポイント
- 不動産買取は不動産会社が直接買主になる方法で、最短数日~1ヶ月で現金化できる(仲介は3~6ヶ月)
- 買取価格は市場価格の60~80%が相場で、仲介手数料不要・リフォーム不要が特徴
- 買取は相続・離婚・築古物件・訳あり物件など早期現金化が必要なケースに向いている
- 買取保証サービスを使えば、仲介で売却を試みて売れない場合に買取に切り替えられる
- 買取業者は複数社(最低3~4社)から査定を取り、実績・査定の透明性・契約条件を比較すべき
不動産買取とは:仕組みと仲介との違い
不動産買取と仲介の仕組みの違いを理解しましょう。
(1) 不動産買取の仕組み(不動産会社が買主)
不動産買取とは、不動産会社が売主から直接物件を買い取る売却方法です。
一般的な不動産売却(仲介)では、不動産会社が売主と買主の間に立って売買契約を仲介しますが、買取では不動産会社自身が買主となります。
買取業者は物件を買い取った後、リフォーム・リノベーションを施して再販売する「買取再販」ビジネスモデルで利益を得ています。
(2) 仲介との違い(期間・手数料・手続き)
買取と仲介の主な違いは以下の通りです。
| 項目 | 買取 | 仲介 |
|---|---|---|
| 買主 | 不動産会社 | 一般の個人・法人 |
| 売却期間 | 最短数日~1ヶ月 | 3~6ヶ月(平均) |
| 売却価格 | 市場価格の60~80% | 市場価格に近い金額 |
| 仲介手数料 | 不要 | 物件価格の3%+6万円+消費税(上限) |
| 内見対応 | 不要 | 複数回必要 |
| リフォーム | 不要 | 必要な場合がある |
| 契約不適合責任 | 免除されるケースが多い | 売主が負う |
買取は売却期間が短く手間が少ないですが、売却価格が低くなる点がトレードオフです。
(3) 買取の流れ(相場調査~決済までの8ステップ)
不動産買取の流れは以下の通りです。
ステップ1:相場調査
国土交通省の不動産取引価格情報などで、売却予定物件の周辺相場を調べます。これにより、適正な買取価格の目安が把握できます。
ステップ2:買取業者に査定依頼
複数の買取業者(最低3~4社)に査定を依頼します。オンライン査定や電話査定で簡易的な見積もりを取得できます。
ステップ3:訪問査定
業者が実際に物件を訪問し、建物の状態・立地・周辺環境を確認して正式な買取価格を提示します。
ステップ4:買取業者の選定
査定額だけでなく、業者の実績・信頼性・契約条件を総合的に比較して業者を選びます。
ステップ5:買取契約の締結
買取価格・引き渡し時期・契約条件を確認し、買取契約を締結します。
ステップ6:決済・引き渡し
契約時に合意した日程で決済を行い、物件を引き渡します。最短で契約から数日で完了する場合もあります。
ステップ7:確定申告
不動産売却で利益が出た場合、国税庁の譲渡所得の計算方法に従って確定申告が必要です。
ステップ8:完了
全ての手続きが完了し、現金化されます。
不動産買取のメリット・デメリット(早期売却と価格のトレードオフ)
買取のメリットとデメリットを確認しましょう。
(1) 買取のメリット(最短数日~1ヶ月で現金化、仲介手数料不要、リフォーム不要)
買取には以下のメリットがあります。
早期現金化:
最短数日~1ヶ月で売却が完了し、現金化できます。相続税の納税期限が迫っている場合や、離婚で財産分与を急ぐ場合に有効です。
仲介手数料が不要:
仲介では物件価格の3%+6万円+消費税(上限)の仲介手数料がかかりますが、買取では不要です。例えば物件価格3,000万円の場合、仲介手数料約105.6万円が節約できます。
リフォーム・清掃が不要:
買取業者は買取後にリフォーム・リノベーションを行うため、売却前のリフォームや清掃は不要です。築古物件や状態の悪い物件でもそのまま売却できます。
内見対応が不要:
仲介では複数の内見希望者に対応する必要がありますが、買取では業者の訪問査定1回のみで済みます。
プライバシー保護:
仲介では広告やインターネット掲載で周囲に売却が知られる可能性がありますが、買取では広告不要のため、周囲に知られずに売却できます。
契約不適合責任が免除されるケースが多い:
売却後に物件の欠陥が見つかった場合の売主責任(契約不適合責任)が免除される契約が多いため、売却後のトラブルリスクが低減されます。ただし、契約内容を必ず確認しましょう。
(2) 買取のデメリット(価格が市場価格の60~80%に下がる理由)
買取の最大のデメリットは、売却価格が市場価格の60~80%程度に下がることです。
なぜ買取価格は安くなるのか:
買取業者は物件を買い取った後、リフォーム・リノベーションを施して再販売します。その際、以下のコストと利益を確保する必要があります。
- リフォーム費用:数百万円~1,000万円超(物件の状態による)
- 保有期間中の固定資産税・管理費
- 再販時の広告費・仲介手数料
- 業者の利益
これらを合計すると、市場価格の20~40%程度のコストと利益が必要となるため、買取価格は市場価格の60~80%が相場となります。
買取価格の相場の幅(60~80%)の理由:
- 60~70%:地方・郊外、築古物件、訳あり物件(再建築不可、事故物件等)
- 70~80%:都市部、築浅物件、人気エリア、リフォーム不要の物件
物件の状態・立地・市場動向により買取価格は大きく異なります。
(3) 買取保証サービス(仲介と買取のハイブリッド)
買取保証サービスとは、一定期間(通常3~6ヶ月)仲介で販売し、売れない場合に不動産会社が買い取るサービスです。
メリット:
- 仲介で市場価格に近い金額での売却を試みられる
- 売れなくても最終的に買取で確実に売却できる
- 売却スケジュールが立てやすい
注意点:
- 買取保証価格は仲介価格より低く設定される(市場価格の70~80%程度)
- 買取保証期間中は専任媒介契約が必要な場合が多い
急ぎでない場合は、買取保証サービスで仲介から試す方法も有効です。
買取価格の相場と査定のポイント(市場価格の60~80%の理由)
買取価格の相場と査定のポイントを確認しましょう。
(1) 買取価格相場の目安(物件種別・地域別)
買取価格の相場は、物件種別と地域により異なります。
物件種別:
| 物件種別 | 買取価格相場 | 理由 |
|---|---|---|
| マンション | 市場価格の70~80% | リフォーム費用が戸建てより低い |
| 戸建て | 市場価格の60~75% | リフォーム費用・解体費用が高い |
| 土地 | 市場価格の70~85% | リフォーム不要だが、造成費用が必要な場合がある |
地域別:
| 地域 | 買取価格相場 | 理由 |
|---|---|---|
| 都市部(東京23区、大阪市中心部等) | 市場価格の70~80% | 再販しやすく、買取業者の競争が活発 |
| 地方都市(県庁所在地等) | 市場価格の65~75% | 再販に時間がかかる可能性がある |
| 郊外・地方 | 市場価格の60~70% | 再販が困難で、買取業者が少ない |
(2) なぜ買取価格は安くなるのか(リフォーム費用・利益確保)
買取価格が市場価格より低い理由を具体例で確認しましょう。
例:市場価格3,000万円のマンションの買取価格
- 市場価格:3,000万円
- リフォーム費用:500万円(キッチン・バス・トイレ・クロス張替え等)
- 保有期間中の費用:50万円(固定資産税・管理費・修繕積立金等、6ヶ月分)
- 再販時の仲介手数料:約105万円(3,000万円×3%+6万円+消費税)
- 広告費:50万円
- 業者の利益:300万円(再販価格の10%)
合計コスト:1,005万円
買取価格 = 市場価格3,000万円 - 1,005万円 = 1,995万円
買取価格は市場価格の約66.5%となります。
このように、買取業者は再販までの様々なコストと利益を確保する必要があるため、買取価格は市場価格より低くなります。
(3) 複数社査定の重要性(最低3~4社から見積もり)
買取価格は業者により大きく異なるため、複数社(最低3~4社)から査定を取ることが重要です。
査定額の差の例:
同じ物件でも、業者により査定額が数百万円異なる場合があります。
- A社:1,800万円
- B社:2,100万円
- C社:2,300万円
- D社:2,000万円
この例では、C社とA社で500万円の差があります。複数社比較することで、適正価格を判断し、最も高値で買い取る業者を選べます。
注意点:相場より高すぎる査定は要警戒
相場より著しく高い査定額を提示する業者は、契約直前に「物件の状態が予想より悪かった」などの理由で価格を引き下げるトラブルがあります。極端に高い査定には注意しましょう。
買取に向いているケースと買取業者の選び方
買取に向いているケースと、買取業者の選び方を確認しましょう。
(1) 買取に向いているケース(相続、離婚、築古物件、訳あり物件)
以下のケースでは買取が向いています。
相続で早期現金化が必要:
相続税の納税期限(相続開始から10ヶ月)が迫っている場合、最短数日~1ヶ月で現金化できる買取が有効です。
離婚で財産分与を急ぐ:
離婚協議で早期に財産分与を完了させたい場合、買取により迅速に売却できます。
築古物件・訳あり物件で仲介では売りにくい:
以下のような物件は仲介では買主が見つかりにくく、買取が向いています。
- 築30年以上の古い物件
- 再建築不可の物件
- 事故物件(孤独死、自殺等)
- 違法建築・未登記建物
- 立地が悪い物件(駅から遠い、周辺環境が悪い等)
周囲に知られず売却したい:
仲介では広告・インターネット掲載で周囲に売却が知られる可能性がありますが、買取では広告不要のため、プライバシーを保護できます。
住宅ローン残債がある場合:
買取価格が住宅ローン残債を上回れば、買取で売却可能です。ただし、買取価格が残債を下回る場合、差額を自己資金で用意する必要があります。
(2) 買取業者の選び方(実績、査定の透明性、契約条件の確認)
買取業者を選ぶ際は、以下のポイントを確認しましょう。
1. 実績と信頼性:
- 年間の買取件数、買取実績
- 宅地建物取引業の免許番号、更新回数(数字が大きいほど長く営業)
- 口コミ・評判(Google口コミ、不動産ポータルサイトのレビュー等)
2024年の買取再販業界ランキングでは、カチタス(売上876億円、5,000件以上)が1位、大京穴吹不動産(売上561億円、1,428戸)が2位となっています。
2. 査定の透明性:
- 査定根拠を明確に説明してくれるか
- 買取価格の内訳(リフォーム費用の見積もり等)を開示してくれるか
3. 契約条件の確認:
- 契約不適合責任の免除範囲
- 引き渡し時期の柔軟性
- 契約解除の条件
4. 対応エリア:
地方や郊外では買取対応業者が少ないため、対応エリアを確認しましょう。
(3) よくあるトラブルと対策(契約直前の価格引き下げに注意)
買取でよくあるトラブルと対策を確認しましょう。
トラブル1:契約直前の価格引き下げ
訪問査定で高額な査定額を提示し、契約直前に「物件の状態が予想より悪かった」などの理由で価格を引き下げるケースがあります。
対策:
- 複数社から査定を取り、相場を把握する
- 相場より極端に高い査定は要警戒
- 査定根拠を明確に説明してもらう
- 契約書に「査定額から減額しない」旨を記載できるか確認する
トラブル2:買取不可の通告
査定後に「再販が困難」として買取を断られるケースがあります。
対策:
- 事前に物件の状態(再建築不可、違法建築等)を正直に伝える
- 複数社に査定を依頼し、買取可能な業者を探す
トラブル3:契約内容の確認不足
契約不適合責任の範囲、引き渡し時期、契約解除の条件などを確認せずに契約し、トラブルになるケースがあります。
対策:
- 契約書を隅々まで確認し、不明点は質問する
- 宅地建物取引士や不動産鑑定士に相談する
まとめ:買取と仲介を状況に応じて使い分ける
不動産買取は、不動産会社が直接物件を買い取る方法で、最短数日~1ヶ月で現金化できます。仲介手数料不要、リフォーム不要、内見対応不要が特徴ですが、売却価格は市場価格の60~80%程度に下がります。
買取は、相続・離婚で早期現金化が必要なケース、築古物件・訳あり物件で仲介では売りにくいケース、周囲に知られず売却したいケースに向いています。買取保証サービスを使えば、仲介で売却を試みて売れない場合に買取に切り替えられます。
買取業者は複数社(最低3~4社)から査定を取り、実績・査定の透明性・契約条件を総合的に比較しましょう。相場より極端に高い査定は契約直前の価格引き下げリスクがあるため注意が必要です。個別の不動産取引については、宅地建物取引士や不動産鑑定士への相談を推奨します。
