不動産保証協会とは?制度の基本を理解する
不動産会社から「保証協会加盟」と説明を受けたものの、その意味や自分への影響が分からないという方は少なくありません。また、不動産業界への開業を検討し、保証協会制度を理解したい方もいるでしょう。
この記事では、不動産保証協会の制度と役割、2つの保証協会の違い、利用者への影響を、宅地建物取引業法と公益社団法人 全国宅地建物取引業保証協会の公式情報を元に解説します。
初めて不動産取引をする方でも、保証協会制度の仕組みと安全性を理解できるようになります。
この記事のポイント
- 不動産保証協会は宅建業法に基づく指定団体で、弁済業務と苦情解決業務を行う
- 保証協会加入により、営業保証金1,000万円が弁済業務保証金分担金60万円で済み、開業資金を大幅に抑えられる
- 2つの保証協会(全宅連と全日本不動産協会)があり、どちらか1つにしか加入できない
- トラブル時の苦情解決窓口や弁済業務により、消費者保護が強化される
- 保証協会非加盟でも宅建業免許があれば合法的に営業可能
(1) 宅建業法に基づく指定団体
宅地建物取引業保証協会(以下、保証協会)は、宅地建物取引業法第64条の2に基づき、国土交通大臣が指定した団体です。不動産取引の安全性を確保するため、宅建業者の自主規制団体として機能しています。
(2) 弁済業務と苦情解決業務の2つの役割
保証協会の主な業務は以下の2つです。
- 弁済業務: 保証協会加入業者との取引で損害を受けた消費者に、弁済業務保証金から弁済を行う
- 苦情解決業務: 不動産取引に関する苦情や相談を受け付け、助言や解決のサポートを行う
(3) 不動産取引の安全性を確保する仕組み
保証協会制度は、宅建業者が営業保証金を供託する代わりに、保証協会に弁済業務保証金分担金を納付することで、消費者保護を実現する仕組みです。これにより、少額の資金で開業できるため、多くの宅建業者が加入しています。
営業保証金と弁済業務保証金分担金の違い
宅建業者が開業する際、取引の安全性を確保するために一定の金銭を準備する必要があります。
(1) 営業保証金:本店1,000万円、支店500万円/店の供託
宅建業法では、宅建業者は営業保証金を法務局の供託所に供託する義務があります。金額は以下の通りです。
| 区分 | 営業保証金額 |
|---|---|
| 本店 | 1,000万円 |
| 支店 | 500万円/店 |
(出典: 国土交通省)
(2) 弁済業務保証金分担金:本店60万円、支店30万円/店
保証協会に加入する場合、営業保証金の供託の代わりに、弁済業務保証金分担金を納付します。金額は以下の通りです。
| 区分 | 弁済業務保証金分担金 |
|---|---|
| 本店 | 60万円 |
| 支店 | 30万円/店 |
(出典: 全宅保証)
(3) 保証協会加入で開業資金を大幅に抑えられる理由
営業保証金1,000万円の代わりに分担金60万円で済むため、保証協会加入により開業資金を940万円削減できます。これが、全国の不動産会社の約8割が保証協会に加入する主な理由です。
2つの保証協会(全宅連と全日本不動産協会)の比較
日本には2つの保証協会が存在します。
(1) 全宅保証(ハトマーク):会員数約10万社、全国の8割が加盟
公益社団法人 全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証)は、全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)が母体です。ハトマークで知られ、全国の宅建業者の約8割が加盟する最大規模の保証協会です。
(2) 不動産保証協会(ウサギマーク):会員数約3万社、全日本不動産協会が母体
公益社団法人 不動産保証協会は、全日本不動産協会が母体で、昭和48年に設立されました。ウサギマークで知られ、約3万社が加盟しています。
(3) どちらか1つにしか加入できない
宅建業法により、保証協会にはどちらか1つにしか加入できません。重複加入は認められていません。
(4) 機能・サービスは同等、選択は任意
どちらの保証協会も、弁済業務、苦情解決業務、レインズ(不動産流通機構)の利用、契約書ダウンロード等のサービスを提供しています。機能に大きな差はなく、選択は任意です。
保証協会加盟のメリットとデメリット
保証協会への加入には、メリットとデメリットの両方があります。
(1) メリット:開業資金軽減、レインズ利用、契約書ダウンロード等のサービス
保証協会加入の主なメリットは以下の通りです。
- 開業資金を大幅に削減: 営業保証金1,000万円→分担金60万円
- レインズの利用: 不動産流通機構が運営する物件情報ネットワークにアクセス可能
- 契約書ダウンロード: 標準的な契約書式をダウンロードできる
- 法律・税務相談: 2025年4月より全日本不動産協会がZOOMを活用したオンライン法律相談・税務相談を開始(全日本不動産協会の公式発表)
- 苦情解決サポート: トラブル時に協会の苦情解決窓口を利用できる
(2) デメリット:入会金・年会費は返還されない(初年度160〜185万円、2年目以降6〜8万円)
保証協会加入のデメリットは以下の通りです。
- 入会金・年会費は返還されない: 宅建業を廃業しても、入会金・年会費は返還されません(弁済業務保証金分担金は返還される)
- 初年度費用が高額: 初年度は160〜185万円程度、2年目以降は年会費6〜8万円程度が必要
- 短期廃業の場合は不利: 短期で廃業する場合、営業保証金供託の方が有利な場合があります
(3) 審査期間で開業が1〜2ヶ月遅れる
保証協会加入には審査があり、開業までの期間が1〜2ヶ月長くなる可能性があります。急いで開業したい場合は、営業保証金供託を選択する方が早い場合もあります。
利用者(消費者)への影響と確認方法
保証協会加盟は、消費者にとってどのような影響があるのでしょうか。
(1) トラブル時の苦情解決窓口が利用可能
保証協会加盟業者との取引でトラブルが発生した場合、全宅保証の苦情解決窓口や不動産保証協会の苦情解決業務を利用できます。
窓口では、不動産取引に関する苦情や相談を受け付け、助言や解決のサポートを行います(平日9時〜17時受付)。
(2) 弁済業務による損害補償(弁済認証率は約40%)
保証協会加盟業者との取引で損害を受けた場合、弁済業務保証金から弁済を受けることができます。還付上限は、取引1件あたり宅建業者1社につき1,000万円までです。
ただし、全宅保証の公開データによると、令和3年度の全宅保証への苦情相談件数は178件で、弁済認証率は約40%です。全ての苦情が弁済されるわけではない点に注意が必要です。
(3) 加盟の有無は店頭のマーク(ハト・ウサギ)で確認可能
保証協会加盟の有無は、店頭に掲示されているマークで確認できます。
- ハトマーク: 全宅保証加盟
- ウサギマーク: 不動産保証協会加盟
各協会の公式サイトでも、加盟業者を検索できます。
(4) 非加盟でも宅建業免許があれば合法的に営業可能
保証協会に加盟していなくても、宅建業免許があれば合法的に営業できます。非加盟の場合、営業保証金1,000万円を供託しているため、取引の安全性は確保されています。
保証協会加盟は信頼性の一指標ですが、絶対条件ではありません。宅建業免許の有無や行政処分歴も併せて確認することをおすすめします。
まとめ:保証協会制度が取引に与える安心感
不動産保証協会は、宅建業法に基づく指定団体で、弁済業務と苦情解決業務を通じて不動産取引の安全性を確保しています。保証協会加入により、営業保証金1,000万円が分担金60万円で済むため、多くの宅建業者が加入しています。
2つの保証協会(全宅連と全日本不動産協会)は機能・サービスが同等で、選択は任意です。消費者にとっては、トラブル時の苦情解決窓口や弁済業務により保護が強化されるメリットがあります。
ただし、保証協会非加盟でも宅建業免許があれば合法的に営業可能です。不動産会社を選ぶ際は、保証協会加盟の有無だけでなく、宅建業免許や行政処分歴も総合的に確認することをおすすめします。
