不動産仲介業を利用する前に知っておくべきこと
不動産の売却や購入を検討している方にとって、「仲介業者の役割とは何か」「仲介手数料はいくらか」「信頼できる業者の見分け方は?」といった疑問は重要です。大手と地域密着型のどちらを選ぶべきか、迷っている方も多いかもしれません。
この記事では、不動産仲介業の仕組み、仲介手数料の計算方法、業者選びのポイント、媒介契約の種類を、国土交通省の統計データや宅地建物取引業法を元に解説します。
初めて不動産仲介業者を利用する方でも、自分に合った業者選びができるようになります。
この記事のポイント
- 不動産仲介業は売買や賃貸の際に買主・売主、借主・貸主の間に立つ仕事で、宅地建物取引業の免許が必要
- 仲介手数料は法的に上限が定められており、売買は400万円超の物件で「売買価格×3%+6万円+消費税」、賃貸は「家賃1ヶ月分+消費税」
- 大手は全国ネットワークと豊富な情報量、地域密着型は地元の詳細知識と柔軟な対応が強み
- 媒介契約には専属専任、専任、一般の3種類があり、売却戦略により選択が異なる
- 国土交通省のネガティブ情報検索サービスで行政処分歴のある業者を確認できる
不動産仲介業の仕組みと役割
(1) 不動産仲介業とは?売買と賃貸の違い
不動産仲介業は、不動産の売買や賃貸の際に、買主・売主、借主・貸主の間に立って手続きや契約をサポートする事業です。
売買仲介:
- 売主と買主の間に立ち、物件の紹介、契約書作成、重要事項説明等を行う
- 取引成立時に売主・買主それぞれが依頼した仲介業者に仲介手数料を支払う
賃貸仲介:
- 貸主と借主の間に立ち、物件の紹介、契約手続き等を行う
- 契約成立時に借主が仲介業者に仲介手数料を支払う(原則)
不動産仲介業を営むには、宅地建物取引業の免許が必須です。
(出典: SUUMO「不動産仲介とは?」、長谷工の仲介「不動産仲介業とは?」)
(2) 宅建業法の基本と宅地建物取引士の役割
不動産仲介業は、宅地建物取引業法(宅建業法)によって規制されています。
宅建業法の主な規定:
- 仲介手数料の上限規定(第46条)
- 誇大広告の禁止(第32条)
- 重要事項説明の義務(第35条)
不動産仲介業者には、従業員5名に1名以上の宅地建物取引士(宅建士)の設置が義務付けられています。宅建士は、重要事項説明や契約書への記名・押印等の重要な業務を担う国家資格者です。
(出典: 国土交通省「宅地建物取引業法」)
(3) 不動産仲介業界の規模と構造
不動産仲介業界の規模は、宅建業者数で見ると127,215業者(2020年末時点)で、全国のコンビニの2倍以上に達します。このうち80%超が従業員3名以内の小規模事業者です。
業界の構造:
- 大手不動産会社(三井不動産リアルティ、住友不動産販売等)
- 地域密着型の中小仲介業者
- フランチャイズ型の仲介業者(センチュリー21等)
2025年は、団塊世代の高齢化に伴う相続増加、空き家問題の深刻化、AIやIoTを活用した不動産テック分野の成長という複合的な環境変化に直面しています。
(出典: 国土交通省「宅地建物取引業者数の推移」、経営承継支援「不動産仲介業界の動向【2025年版】」)
仲介手数料の計算方法と支払いタイミング
(1) 売買の仲介手数料(400万円超の物件)
売買の仲介手数料は、宅建業法で上限額が定められています。400万円超の物件の場合、以下の計算式が適用されます。
計算式:
売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税
計算例(5,000万円の物件):
5,000万円 × 3% + 6万円 = 156万円
156万円 × 1.1(消費税) = 171.6万円
売買価格が200万円以下、200万円超~400万円以下の場合は、別の計算式が適用されます。詳細は三井のリハウス「仲介手数料とは?」を参照してください。
(2) 賃貸の仲介手数料(家賃1ヶ月分+消費税)
賃貸の仲介手数料は、原則として「家賃1ヶ月分+消費税」が上限です。
計算例(家賃10万円の物件):
10万円 × 1.1(消費税) = 11万円
ただし、借主と貸主の双方から受け取る合計額が「家賃1ヶ月分+消費税」を超えてはならないと定められています。
(出典: CHINTAI JOURNAL「不動産会社の仲介手数料と宅建業法の関係とは?」)
(3) 支払いタイミングと注意点
仲介手数料の支払いは、一般的に以下のタイミングで行われます。
売買の場合:
- 売買契約成立時: 50%
- 引渡し完了時: 50%
賃貸の場合:
- 賃貸借契約成立時: 100%
注意点:
- 上限を超える請求は違法です。複数の仲介業者が関わる場合でも、合計額が上限を超えてはなりません
- 仲介手数料は成功報酬であり、取引が成立しなければ支払う必要はありません
信頼できる不動産仲介業者の選び方
(1) 大手と地域密着型の違い(特徴比較)
大手不動産会社と地域密着型の中小業者は、それぞれ異なる強みを持っています。
| タイプ | 強み | 弱み |
|---|---|---|
| 大手不動産会社 | 全国ネットワーク、豊富な情報量、広告力が高い | 担当者の対応が画一的な場合がある |
| 地域密着型 | 地元の詳細知識、柔軟な対応、地主とのネットワーク | 広告力・情報量が限定的な場合がある |
どちらが最適かは、物件の特性や売却戦略により異なります。
(出典: スマイティ「大手と地域密着どっちがいいの?」)
(2) 複数業者からの査定取得と比較検討
不動産仲介を依頼する際は、複数の業者から査定を取得し、それぞれの特徴を比較検討することをおすすめします。
比較検討のポイント:
- 査定価格の根拠が明確か
- 担当者の対応が丁寧か、専門知識があるか
- 売却戦略が具体的か(広告計画、販売方法等)
- 仲介手数料の見積もりが適正か
賃貸物件の場合、どこの不動産会社でも同じ物件を紹介できる(REINS等の共有データベースを利用)ため、担当者の対応や専門性で判断することが重要です。
(3) 悪質業者の見分け方(ネガティブ情報検索)
悪質な業者を避けるため、以下のポイントをチェックしてください。
悪質業者の特徴:
- 看板広告やWebサイトに過激な表現を使用している(誇大広告の禁止違反の可能性)
- 仲介手数料の上限を超える請求をしている
- 宅建業免許番号を明示していない
国土交通省のネガティブ情報検索サービスで、行政処分歴のある業者を確認することができます。
(4) 担当者の対応と専門性の判断基準
不動産仲介では、担当者の対応と専門性が重要です。
良い担当者の特徴:
- 質問に対して明確に回答できる
- 宅建士の資格を持っている
- 地域の市場動向に詳しい
- 売却・購入のリスクも正直に説明してくれる
担当者との相性も重要なポイントです。複数の業者と面談し、自分に合った担当者を見つけることをおすすめします。
媒介契約の種類と選び方のポイント
不動産の売却を依頼する際、仲介業者と媒介契約を締結します。媒介契約には3種類があります。
(1) 専属専任媒介契約の特徴
特徴:
- 1社のみに仲介を依頼する
- 自己発見取引(自分で買主を見つける)も禁止される
- 業者に最も強い義務が課される(1週間に1回以上の報告義務、5営業日以内のREINS登録等)
向いている人:
- 業者に全面的に任せたい
- 早期売却を目指したい
(2) 専任媒介契約の特徴
特徴:
- 1社のみに仲介を依頼する
- 自己発見取引は可能
- 業者に一定の義務が課される(2週間に1回以上の報告義務、7営業日以内のREINS登録等)
向いている人:
- 業者に任せつつ、自分でも買主を探したい
- 一定の拘束を受けても早期売却を目指したい
(3) 一般媒介契約の特徴
特徴:
- 複数の業者に同時に仲介を依頼できる
- 自己発見取引も可能
- 業者への報告義務やREINS登録義務がない
向いている人:
- 複数の業者を競争させたい
- 人気エリアで高値売却を狙いたい
(4) どの媒介契約を選ぶべきか
媒介契約の選択は、売却戦略により異なります。
| 状況 | おすすめの媒介契約 |
|---|---|
| 早期売却を目指す | 専属専任または専任 |
| 高値売却を目指す | 一般 |
| 業者に全面的に任せたい | 専属専任 |
| 自分でも買主を探したい | 専任または一般 |
媒介契約の期間は最長3ヶ月で、更新も可能です。状況に応じて柔軟に見直すことをおすすめします。
まとめ:自分に合った不動産仲介業者を見つけるために
不動産仲介業は、宅地建物取引業の免許が必要な専門職です。仲介手数料は法的に上限が定められており、売買は400万円超の物件で「売買価格×3%+6万円+消費税」、賃貸は「家賃1ヶ月分+消費税」が上限です。
大手不動産会社は全国ネットワークと豊富な情報量、地域密着型は地元の詳細知識と柔軟な対応が強みです。複数の業者から査定を取得し、特徴を比較検討することをおすすめします。
媒介契約は専属専任、専任、一般の3種類があり、売却戦略により選択が異なります。
不動産取引は大きな決断です。信頼できる業者や宅建士に相談しながら、自分に合った仲介業者を選びましょう。
