田んぼ(水田)の固定資産税は宅地より安い?その理由とは
田んぼ(水田)を所有している方や、相続で農地を取得した方の中には、「固定資産税がどのくらいかかるのか」「宅地と比べてどう違うのか」と疑問を持つ方は少なくありません。
この記事では、田んぼの固定資産税の計算方法、農地評価の仕組み、軽減措置、耕作放棄地や宅地転用した場合の税額変化を、総務省や農林水産省の公式情報を元に解説します。
相続後の選択肢や節税のポイントを理解し、適切な土地活用の判断ができるようになります。
この記事のポイント
- 田んぼの固定資産税は評価額×1.4%で計算され、一般農地で年間数千円程度が目安
- 農地評価の特例により、宅地より大幅に安い税額が適用される
- 課税標準額の合計が30万円未満の場合、固定資産税は免除される
- 市街化区域内の農地は宅地並評価となり、一般農地より税額が高い(年間10万円以上のケースも)
- 農地バンクに15年以上貸し出すと、5年間固定資産税が1/2に軽減される
固定資産税とは(税率1.4%、市町村税)
固定資産税は、毎年1月1日時点で土地や家屋等の不動産を所有している方が支払う税金です。市町村が課税する地方税で、標準税率は**1.4%**です。
税額の計算式は以下の通りです。
固定資産税 = 課税標準額 × 1.4%
課税標準額は、固定資産税評価額に負担調整措置等を適用した額です。
農地は宅地より大幅に安い理由(農地評価の特例)
田んぼを含む農地は、農地評価の特例により、宅地より大幅に安い税額が適用されます。
農地評価では、農地の収益性や売買実例を基に評価されるため、宅地の価格を基に評価される宅地並評価と比較して、評価額が大幅に低くなります。
例えば、同じ面積の土地でも、宅地評価で評価額1,000万円の土地が、農地評価では数十万円程度になることがあります。
課税標準額30万円未満で免税
課税標準額の合計が30万円未満の場合、固定資産税は免除されます。小規模な農地を所有している場合、免税になるケースもあります。
免税に該当するかは、毎年5月頃に市区町村から届く納付書で確認できます。
田んぼの固定資産税の仕組み|農地評価と宅地並評価
農地評価とは(農地の収益性に基づく評価、税額が安い)
農地評価は、農地の収益性や売買実例、近隣の農地価格等を基に評価する方法です。総務省固定資産税課が定める固定資産評価基準に基づき、市町村が評価額を決定します。
農地評価により評価された農地は、宅地と比較して評価額が大幅に低く、税額も安くなります。
宅地並評価とは(宅地価格から造成費を控除、税額が高い)
宅地並評価は、近隣の宅地の価格を基に、農地転用のための造成費等を控除して評価する方法です。市街化区域内の農地など、宅地転用の可能性が高い農地に適用されます。
宅地並評価により評価された農地は、農地評価と比較して評価額が高く、税額も高くなります。
農地区分の4種類(一般農地、生産緑地、一般市街化区域農地、特定市街化区域農地)
農地は、以下の4種類に区分されます。
| 農地区分 | 内容 | 評価方法 | 税額 |
|---|---|---|---|
| 一般農地 | 市街化区域外の農地 | 農地評価 | 安い |
| 生産緑地 | 市街化区域内で生産緑地地区に指定 | 農地評価 | 安い |
| 一般市街化区域農地 | 市街化区域内(三大都市圏の特定市以外) | 宅地並評価 | 高い |
| 特定市街化区域農地 | 三大都市圏の特定市の市街化区域内 | 宅地並評価 | 非常に高い |
一般農地と生産緑地は農地評価、市街化区域農地は宅地並評価が適用されます。
固定資産税評価額の見直し(3年ごと)
固定資産税評価額は、3年ごとに見直しが行われます。直近では2024年(令和6年)に評価替えが実施されました。
地価の変動や制度改正により、評価額が変わる可能性があるため、最新情報は市区町村の税務課で確認してください。
田んぼの固定資産税の計算方法|具体的なシミュレーション
計算式(固定資産税評価額×1.4%)
固定資産税の計算式は以下の通りです。
固定資産税 = 固定資産税評価額 × 1.4%
実際の税額は、課税標準額(負担調整措置を適用した額)に税率を乗じて計算されますが、基本的には評価額の1.4%が目安です。
一般農地の場合(年間約2,258円の例)
一般農地(市街化区域外)の場合、評価額が低いため税額も安くなります。
シミュレーション例:
- 固定資産税評価額: 100万円
- 税率: 1.4%
- 固定資産税: 100万円 × 1.4% = 14,000円/年
実際の評価額が低ければ、さらに税額は安くなります。アスグリの調査によると、一般農地の固定資産税は年間約2,258円というデータもあります。
市街化区域農地の場合(年間約14万円の例)
市街化区域農地(宅地並評価)の場合、評価額が高いため税額も高くなります。
シミュレーション例:
- 固定資産税評価額: 1,000万円(宅地並評価)
- 税率: 1.4%
- 固定資産税: 1,000万円 × 1.4% = 140,000円/年
市街化区域内の農地は、農地評価の数十倍の税額になるケースがあります。
固定資産税評価額の調べ方
固定資産税評価額を調べるには、以下の方法があります。
調べ方:
- 毎年5月頃に市区町村から届く納付書を確認
- 市区町村の税務課で固定資産課税台帳の閲覧を申請
- 固定資産評価証明書を取得(手数料300円程度)
納付書には、固定資産税評価額と課税標準額が記載されています。
納付書の時期と支払い方法(5月頃、4期分納または一括)
固定資産税の納付書は、毎年5月頃に市区町村から届きます。支払い方法は、4期分納または一括納付が選択できます。
支払い時期:
- 第1期: 5月頃
- 第2期: 7月頃
- 第3期: 12月頃
- 第4期: 翌年2月頃
一括納付を選ぶと、自治体によっては割引が適用される場合があります。
農地区分と軽減措置|農地バンク・生産緑地の特例
一般農地(市街化区域外、農地評価で安価)
一般農地は、市街化区域外の農地で、農地評価により課税されます。評価額が低く、税額も安いのが特徴です。
一般農地は、農地法により転用が制限されているため、農地としての利用が前提となります。
生産緑地(市街化区域内でも農地評価)
生産緑地は、市街化区域内の農地のうち、生産緑地地区に指定された農地です。農地評価により課税されるため、市街化区域内でも税額が安くなります。
生産緑地は、30年間(または指定から30年経過後も継続)農地として保全することが義務付けられます。
農地バンクの税制優遇(15年以上貸出で5年間1/2軽減)
農林水産省が推進する農地バンク(農地中間管理機構)に農地を貸し出すと、固定資産税の軽減措置が適用されます。
軽減措置:
- 15年以上貸出: 5年間、固定資産税が1/2に軽減
- 10年以上15年未満貸出: 3年間、固定資産税が1/2に軽減
この制度は、耕作を続けたいが自分で耕作できない方に適しています。詳細は農地バンクや市区町村に確認してください。
その他の軽減措置
自治体により、独自の軽減措置を設けている場合があります。例えば、中山間地域や過疎地域の農地に対する軽減措置などです。
詳しくは、市区町村の税務課に問い合わせてください。
耕作放棄地・宅地転用した場合の固定資産税
耕作放棄地の扱い(課税強化の可能性、自治体により異なる)
耕作放棄地(耕作の事実がない農地)は、農地課税の特例が適用されず、宅地並み課税となる可能性があります。
耕作放棄地の認定基準や課税方法は自治体により異なるため、市区町村の税務課に確認が必要です。耕作を継続するか、農地バンクに貸し出すなどの対応を検討してください。
宅地転用許可を受けた場合(宅地並評価で大幅増税)
農地を宅地に転用する場合、農地法の転用許可を受ける必要があります。転用許可を受けると、翌年から宅地並評価となり、固定資産税が大幅に増税されます。
増税例:
- 農地評価(評価額100万円): 固定資産税14,000円/年
- 宅地並評価(評価額1,000万円): 固定資産税140,000円/年
- 増税額: 126,000円/年(約10倍)
宅地転用は、税額が大幅に上がるため、転用前に税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
宅地転用のタイミングと税額変化
宅地転用許可を受けた翌年の1月1日時点で、宅地として課税されます。転用のタイミングにより、税額が変わる可能性があるため、計画的に進めてください。
転用後の税額をシミュレーションし、転用が経済的に合理的かどうかを判断することが重要です。
転用前に税理士への相談を推奨
宅地転用は、固定資産税だけでなく、相続税や譲渡所得税にも影響します。転用前に税理士に相談し、総合的な税負担を把握してから判断することをおすすめします。
まとめ|相続後の選択肢と節税のポイント
田んぼの固定資産税は、農地区分により税額が大きく異なります。以下の表で整理します。
| 農地区分 | 評価方法 | 税額の目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 一般農地 | 農地評価 | 年間数千円程度 | 市街化区域外、税額が安い |
| 生産緑地 | 農地評価 | 年間数千円程度 | 市街化区域内でも農地評価 |
| 市街化区域農地 | 宅地並評価 | 年間10万円以上 | 宅地並評価、税額が高い |
相続で田んぼを取得した場合の選択肢は以下の通りです。
選択肢:
- 耕作を継続: 農地評価が適用され、税額が安い
- 農地バンクに貸出: 固定資産税が1/2に軽減(15年以上貸出で5年間)
- 宅地転用: 税額が大幅に増加、転用後の活用計画が必要
- 売却: 農地のまま売却するか、転用後に売却するか検討
節税のポイント:
- 耕作を継続または農地バンクに貸し出すことで、農地評価を維持
- 宅地転用は税額が大幅に増加するため、転用前に税理士に相談
- 課税標準額30万円未満の場合、免税措置を活用
- 固定資産税評価額は3年ごとに見直されるため、最新情報を市区町村で確認
田んぼの固定資産税は、農地評価の特例により宅地より大幅に安い税額が適用されます。しかし、耕作放棄地や宅地転用した場合は税額が大幅に増加するため、慎重な判断が必要です。
最新の税制情報は総務省や農林水産省、市区町村の税務課で確認し、税理士等の専門家に相談しながら、最適な土地活用を選択してください。
