住宅ローンの返済比率とは何か
住宅購入を検討する際、「年収に対してどの程度のローン返済額が適正か」と悩む方は少なくありません。返済比率(返済負担率)は、年収に占める年間返済額の割合を示す重要な指標で、無理のない借入計画を立てるための基準となります。
この記事では、住宅ローンの無理のない返済比率について、三井住友銀行やみずほ銀行の情報を元に解説します。
初めて住宅ローンを組む方でも、年収別の適正な返済額を正確に把握し、無理のない借入計画を立てられるようになります。
この記事のポイント
- 金融機関の審査基準は返済比率30~35%だが、理想的な返済比率は手取り収入の20~25%
- フラット35の基準は年収400万円未満で30%以下、400万円以上で35%以下
- 返済比率には住宅ローンだけでなく、自動車ローンやクレジットカードのリボ払いなども含まれる
- 審査金利と適用金利の違いにより、実際の返済比率が想定より高くなる場合がある
金融機関の審査基準と理想的な返済比率
(1) 金融機関の審査基準(30~35%)
多くの金融機関では、返済比率30~35%を審査基準としています。これは、「借入可能な上限」を示す基準であり、実際に無理なく返済できる額とは別です。
金融機関の審査基準
| 金融機関 | 返済比率の基準 |
|---|---|
| メガバンク | 30~35% |
| 地方銀行 | 30~35% |
| フラット35 | 年収400万円未満で30%以下、400万円以上で35%以下 |
ただし、審査基準を満たしているからといって、無理なく返済できるわけではありません。
(2) 理想的な返済比率(手取り収入の20~25%)
実際に無理なく返済できる返済比率は、手取り収入の20~25%が目安です。金融機関の審査基準(30~35%)は額面年収ベースですが、理想比率は手取り収入ベースで考える必要があります。
理想的な返済比率
- 審査基準: 額面年収の30~35%(借入可能な上限)
- 理想的な返済比率: 手取り収入の20~25%(無理なく返済できる目安)
(出典: 三井住友銀行)
計算例
年収500万円の場合:
- 手取り収入: 約400万円(額面の約8割)
- 理想的な年間返済額: 80万~100万円(手取りの20~25%)
- 月額返済額: 約6.7万~8.3万円
金融機関の審査基準(30%)では年間150万円(月額12.5万円)まで借入可能ですが、無理のない返済のためには手取りの20~25%に抑えることを推奨します。
(3) フラット35の返済比率基準
住宅金融支援機構のフラット35は、返済比率の基準を明確に公表しています。
フラット35の返済比率基準
| 年収 | 返済比率の基準 |
|---|---|
| 400万円未満 | 30%以下 |
| 400万円以上 | 35%以下 |
(出典: みずほ銀行)
フラット35の基準は審査の上限を示すものであり、実際の家計状況に応じた余裕のある設定が重要です。
返済比率の計算方法と注意点
(1) 基本的な計算方法
返済比率は以下の式で計算します。
返済比率の計算式
返済比率(%)= 年間返済額 ÷ 年収 × 100
計算例
年収500万円、年間返済額100万円の場合:
返済比率 = 100万円 ÷ 500万円 × 100 = 20%
(出典: SUUMO)
(2) 住宅ローン以外の借入の扱い
返済比率を計算する際は、住宅ローンだけでなく、すべての借入の返済額を合計する必要があります。
含めるべき借入
- 自動車ローン
- カードローン
- クレジットカードのリボ払い・分割払い
- 奨学金
- 携帯電話の分割払い
(出典: 三井住友銀行)
計算例
年収500万円、住宅ローン年間返済額90万円、自動車ローン年間返済額30万円の場合:
年間返済額合計 = 90万円 + 30万円 = 120万円
返済比率 = 120万円 ÷ 500万円 × 100 = 24%
既存借入がある場合、返済比率が高くなるため、申込前に完済または減額することを推奨します。
(3) 審査金利と適用金利の違い
金融機関が返済比率を計算する際に使用する「審査金利」は、実際の「適用金利」より高く設定されています。
審査金利と適用金利の違い
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 審査金利 | 返済比率を計算する際に使用する金利(実際より高め) |
| 適用金利 | 実際にローンを組む際に適用される金利(審査金利より低い) |
(出典: 三菱UFJ銀行)
例
- 適用金利: 年0.5%(実際の金利)
- 審査金利: 年3.0%(審査時の計算に使用)
審査金利で計算すると、実際の返済額より高い金額で審査されるため、金利上昇リスクを考慮した審査が行われます。このため、実際の返済比率は想定より低くなる場合がありますが、将来的な金利上昇に備えて余裕を持った設定が重要です。
年収別の無理のない返済額シミュレーション
(1) 年収300万~500万円の場合
年収300万~500万円の場合、手取り収入の20~25%で計算すると、以下の返済額が目安となります。
年収別の無理のない返済額(手取りの20~25%)
| 年収 | 手取り収入(約8割) | 理想的な年間返済額 | 月額返済額 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 240万円 | 48万~60万円 | 4万~5万円 |
| 400万円 | 320万円 | 64万~80万円 | 5.3万~6.7万円 |
| 500万円 | 400万円 | 80万~100万円 | 6.7万~8.3万円 |
(出典: SUUMO)
年収400万円の具体例
- 手取り収入: 約320万円
- 理想的な月額返済額: 5.3万~6.7万円
- 35年ローン、金利0.5%の場合の借入可能額: 約1,900万~2,400万円
(2) 年収600万~700万円の場合
年収600万~700万円の場合、手取り収入の20~25%で計算すると、以下の返済額が目安となります。
年収別の無理のない返済額(手取りの20~25%)
| 年収 | 手取り収入(約8割) | 理想的な年間返済額 | 月額返済額 |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 480万円 | 96万~120万円 | 8万~10万円 |
| 700万円 | 560万円 | 112万~140万円 | 9.3万~11.7万円 |
年収600万円の具体例
- 手取り収入: 約480万円
- 理想的な月額返済額: 8万~10万円
- 35年ローン、金利0.5%の場合の借入可能額: 約2,900万~3,600万円
(3) 家族構成・生活費による調整
理想的な返済比率は、家族構成や生活費により調整が必要です。
家族構成別の調整
- 単身・夫婦のみ: 手取りの25%まで可能
- 子ども1~2人: 手取りの20~22%が目安
- 子ども3人以上: 手取りの18~20%が目安
将来の支出増加を考慮
- 子どもの教育費(大学進学で年間100万円以上)
- 病気・介護費用
- 収入減少(転職・退職等)
(出典: 三菱UFJ銀行)
返済期間中(数十年)には想定外の支出が生じる可能性があるため、余裕を持った設定が重要です。
返済比率を適正に保つための対策
(1) 頭金を増やす
頭金を増やすことで、借入額を減らし、返済比率を下げることができます。
頭金の目安
- 理想的な頭金: 物件価格の20%以上
- 最低限の頭金: 物件価格の10%
例
物件価格3,000万円の場合:
- 頭金20%(600万円)→ 借入額2,400万円
- 頭金10%(300万円)→ 借入額2,700万円
頭金を増やすことで、月々の返済額が減り、返済比率を適正に保ちやすくなります。
(2) 返済期間を延長する
返済期間を延長することで、月々の返済額を減らし、返済比率を下げることができます。
返済期間別の月額返済額の違い
借入額3,000万円、金利0.5%の場合:
| 返済期間 | 月額返済額 | 総利息額 |
|---|---|---|
| 25年 | 約10.6万円 | 約192万円 |
| 30年 | 約9.0万円 | 約231万円 |
| 35年 | 約7.8万円 | 約270万円 |
ただし、返済期間を延ばすと総利息額が増えるため、無理のない範囲で短めに設定することを推奨します。
(3) 既存借入を削減する
自動車ローンやクレジットカードのリボ払いなどの既存借入を削減することで、返済比率を下げることができます。
削減の優先順位
- カードローン(金利が高く、返済比率への影響が大きい)
- 自動車ローン
- クレジットカードのリボ払い
- 携帯電話の分割払い
既存借入を完済または減額することで、住宅ローンの借入可能額が増え、返済比率を適正に保ちやすくなります。
まとめ:無理のない住宅ローン計画の立て方
住宅ローンの理想的な返済比率は、手取り収入の20~25%が目安です。金融機関の審査基準(30~35%)は借入可能な上限であり、実際に無理なく返済できる額とは別です。
返済比率には、住宅ローンだけでなく、自動車ローンやクレジットカードのリボ払いなどの既存借入も含まれます。審査金利と適用金利の違いにより、実際の返済比率が想定より高くなる場合があるため、余裕を持った設定が重要です。
年収別の無理のない返済額を参考に、家族構成や生活費、将来の支出増加を考慮した借入計画を立てましょう。返済比率を適正に保つためには、頭金を増やす、返済期間を調整する、既存借入を削減するなどの対策が有効です。
返済計画に不安がある場合は、ファイナンシャルプランナーや住宅ローンアドバイザーに相談しながら、無理のない住宅ローン計画を立てましょう。
