住宅ローン借り入れ可能額とは:「借りられる額」と「返済できる額」の違い
「自分はいくらまで住宅ローンを借りられるのか」「年収に対して適正な借入額はどのくらいか」と悩んでいる方は多いでしょう。
この記事では、住宅ローンの借り入れ可能額の計算方法、年収別の目安、返済負担率の基準、無理のない返済計画の立て方を、金融機関の公式情報をもとに解説します。
住宅購入を検討している方が、自分に合った借入額を判断できるようになります。
この記事のポイント
- 借入可能額は年収の6〜7倍が目安だが、無理なく返済できる適正額は年収の5倍程度
- 返済負担率は手取り年収の20〜25%以内に抑えると生活に余裕が生まれる
- 金融機関の返済負担率基準(30〜35%)は「貸せる上限」であり、「無理なく返せる金額」ではない
- 返済負担率の計算には住宅ローン以外の借入(カーローン、リボ払い等)も含まれる
- 将来の支出変化(教育費、老後資金)や金利上昇リスクを考慮した計画が重要
(1) 借入可能額の定義
借入可能額とは、金融機関が貸し出せる上限金額のことです。
年収、返済負担率、返済期間、担保価値などを基準に算出されます。一般的に年収の6〜7倍が借入可能額の目安とされています。
ただし、借入可能額はあくまで「借りられる上限」であり、「無理なく返済できる金額」とは異なります。
(出典: SBI新生銀行)
(2) 適正借入額との違い
適正借入額とは、無理なく返済できる金額のことです。
| 項目 | 借入可能額 | 適正借入額 |
|---|---|---|
| 定義 | 金融機関が貸せる上限 | 無理なく返済できる金額 |
| 年収比率 | 年収の6〜7倍 | 年収の5倍程度 |
| 返済負担率 | 30〜35%(金融機関基準) | 手取り年収の20〜25% |
| リスク | 教育費・老後資金に余裕がない | 生活に余裕が生まれる |
借入可能額の上限まで借りると、教育費・老後資金・突発的な支出に対応できず、生活が苦しくなるリスクが高まります。
(出典: 三井住友銀行)
借り入れ可能額の計算方法と年収別の目安
(1) 基本的な計算式(年収×返済負担率×返済期間)
借入可能額は、以下の要素で決まります。
計算の基本:
- 年収(税込み総額)
- 返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)
- 返済期間(最長35年)
- 借入金利
簡易計算式:
年間返済可能額 = 年収 × 返済負担率 借入可能額 = 年間返済可能額 ÷ 返済比率(金利・返済期間から算出)
具体的な金額は、各金融機関が提供するシミュレーションツールで計算できます。
(出典: 三菱UFJ銀行)
(2) 年収別の借入可能額シミュレーション
年収別の借入可能額の目安は以下の通りです(返済負担率35%、金利1.5%、返済期間35年の場合)。
| 年収 | 借入可能額(上限) | 適正借入額(年収の5倍) |
|---|---|---|
| 400万円 | 約2,800万円 | 2,000万円 |
| 500万円 | 約3,500万円 | 2,500万円 |
| 600万円 | 約4,200万円 | 3,000万円 |
| 700万円 | 約4,900万円 | 3,500万円 |
| 800万円 | 約5,600万円 | 4,000万円 |
※金利・返済期間により変動します。詳細は各金融機関のシミュレーションツールで確認してください。
(出典: 住信SBIネット銀行、イオン銀行)
(3) フラット35と民間銀行の借入上限の違い
フラット35と民間銀行では、借入上限と返済負担率の基準が異なります。
| 項目 | フラット35 | 民間銀行 |
|---|---|---|
| 借入上限 | 8,000万円 | 1億円(金融機関により異なる) |
| 返済負担率基準 | 年収400万円未満:30%以下 年収400万円以上:35%以下 |
25〜35%(金融機関により異なる) |
| 金利タイプ | 固定金利のみ | 変動金利・固定金利を選択可能 |
フラット35は長期固定金利で安心感がある一方、借入上限は民間銀行より低く設定されています。
(出典: フラット35公式サイト)
返済負担率の基準と理想値
(1) 返済負担率の計算方法
返済負担率は、年収に占める年間返済額の割合です。
計算式:
返済負担率(%)= 年間返済額 ÷ 年収 × 100
例:
- 年収500万円
- 住宅ローン年間返済額120万円(月額10万円)
- カーローン年間返済額30万円(月額2.5万円)
返済負担率 = (120万円 + 30万円) ÷ 500万円 × 100 = 30%
(出典: SUUMO)
(2) 金融機関の審査基準(30〜35%)
金融機関の返済負担率基準は、一般的に30〜35%です。
年収別の基準:
- 年収400万円未満:30%以下(フラット35基準)
- 年収400万円以上:35%以下(フラット35基準)
この基準は「貸せる上限」であり、実際に無理なく返済できる金額ではありません。
(出典: 住信SBIネット銀行)
(3) 理想的な返済負担率(手取り年収の20〜25%)
理想的な返済負担率は、手取り年収の20〜25%以内です。
理由:
- 金融機関の基準(30〜35%)は税込み年収ベース
- 実際の手取りは税込み年収の75〜80%程度
- 手取り年収の25%を超えると、生活費・教育費・老後資金に余裕がなくなる
例:
- 税込み年収500万円
- 手取り年収400万円(80%として計算)
- 理想の年間返済額:80〜100万円(月額6.7〜8.3万円)
2023年度フラット35利用者の実態では、返済負担率15〜20%の層が最も多く、25%以内に抑える人が増加傾向にあります。
(出典: イオン銀行)
(4) 返済負担率に含まれるもの(住宅ローン以外の借入も含む)
返済負担率の計算では、住宅ローン以外の借入も含める必要があります。
含まれる借入:
- カーローン
- 教育ローン
- クレジットカードのリボ払い
- 携帯端末の分割払い
- その他の消費者ローン
これらの借入が多いと、住宅ローンの借入可能額が減少します。
(出典: SUUMO)
無理のない適正借入額の考え方
(1) 年収の5倍が安全ライン
無理なく返済できる適正借入額は、年収の5倍程度が目安です。
理由:
- 年収の6〜7倍まで借りると、返済負担率が30〜35%となり生活が苦しくなる
- 教育費、老後資金、突発的な支出に対応する余裕がなくなる
- 変動金利の場合、金利上昇リスクに対応できない
年収の5倍に抑えることで、返済負担率が手取り年収の20〜25%以内に収まり、生活に余裕が生まれます。
(出典: 三井住友銀行)
(2) 将来の支出変化を考慮する(教育費・老後資金)
住宅ローンの返済は最長35年と長期にわたるため、将来の支出変化を考慮する必要があります。
考慮すべき支出:
| 時期 | 主な支出 | 目安金額 |
|---|---|---|
| 子育て期 | 教育費(幼稚園〜大学) | 子ども1人あたり1,000〜3,000万円 |
| 老後期 | 老後生活費 | 月額25〜30万円×20〜30年 |
| 突発的 | 住宅修繕・介護費用 | 数百万円 |
これらの支出に対応するため、住宅ローンの返済額を抑え、貯蓄の余裕を確保することが重要です。
(3) 変動金利の場合の金利上昇リスク
変動金利で住宅ローンを借りる場合、将来の金利上昇リスクを考慮する必要があります。
例:
- 借入額4,000万円、返済期間35年
- 金利0.5% → 月額返済額10.3万円
- 金利2.0% → 月額返済額13.2万円(約3万円増)
金利が上昇すると返済負担率も上昇するため、余裕を持った借入額にすることが推奨されます。
(4) 共働き世帯の収入合算リスク
共働き世帯は夫婦の年収を合算できますが、将来の収入減を考慮する必要があります。
リスク:
- 育児・介護で片方が退職・時短勤務になる
- 収入が減っても住宅ローンの返済額は変わらない
- 返済負担率が急上昇する
収入合算する場合でも、主たる収入のみで返済できる計画を立てることが推奨されます。
借り入れ可能額を増やす方法と注意点
(1) 収入合算・ペアローン
夫婦や親子で収入を合算することで、借入可能額を増やせます。
方法:
- 収入合算:1人が主たる債務者、もう1人が連帯保証人
- ペアローン:夫婦それぞれが主たる債務者として借入
注意点:
- 将来の育児・介護での収入減リスク
- 連帯保証人・連帯債務者になると、離婚時も返済義務が残る
(2) 返済期間を延ばす
返済期間を延ばすことで、月々の返済額を減らし、借入可能額を増やせます。
例:
- 借入額3,000万円、金利1.5%
- 返済期間25年 → 月額返済額12.0万円
- 返済期間35年 → 月額返済額9.2万円
注意点:
- 返済期間が長いと、総返済額が増える
- 完済時の年齢が高くなり、老後資金に影響
(3) 頭金を増やして融資率を下げる
頭金を増やすことで、融資率(物件価格に対する借入額の割合)を下げ、審査で有利になります。
メリット:
- 借入額が減り、総返済額が減少
- 融資率が80%以下だと金利優遇がある金融機関も
- 審査通過の可能性が上がる
目安:
- 物件価格の10〜20%の頭金を用意すると安心
(4) 他の借入を完済する
住宅ローン以外の借入(カーローン、リボ払い等)を完済することで、返済負担率が下がり、借入可能額が増えます。
例:
- 年収500万円
- カーローン年間返済額30万円を完済
- 住宅ローンの借入可能額が約600万円増加
住宅ローン申込前に、他の借入を完済しておくことが推奨されます。
まとめ:自分に合った借入額の決め方
住宅ローンの借入可能額は年収の6〜7倍が目安ですが、無理なく返済できる適正額は年収の5倍程度です。
返済負担率は手取り年収の20〜25%以内に抑えることで、教育費・老後資金・突発的な支出に対応する余裕が生まれます。
金融機関の返済負担率基準(30〜35%)は「貸せる上限」であり、「無理なく返せる金額」ではありません。将来の支出変化や金利上昇リスクを考慮した計画が重要です。
具体的な借入可能額は、各金融機関が提供する公式シミュレーションツールで計算し、不安がある場合はファイナンシャルプランナーや住宅ローンアドバイザーに相談しながら決めてください。
