頭金なしで住宅ローンを組むことは可能か
「自己資金が少ないけれど、住宅ローンは組めるのか」「頭金なしで借りると、月々の返済負担はどれくらい増えるのか」と不安に感じている方は少なくありません。頭金なしで住宅ローンを組むことは可能ですが、借入額が増えるため、月々の返済負担や総返済額が増加する点に注意が必要です。
この記事では、頭金なし住宅ローン(フルローン)の仕組み、メリット・デメリット、頭金ありとの返済額比較、審査通過のポイントを、住宅金融支援機構や主要銀行の公式情報を元に解説します。
初めて住宅ローンを組む方でも、頭金なしで借りるべきか、頭金を用意すべきかを判断できるようになります。
この記事のポイント
- 頭金なし(フルローン)でも住宅ローンは組めるが、融資率9割超の場合は金利が高くなる傾向がある
- 2021年以降、約36.9%が頭金なしで購入しており、30代では約43%に達している
- 頭金なしの場合、月々返済額は約2万円増加し、総返済額は約300~400万円増える(物件価格4,000万円の場合)
- 手元資金を残す戦略として有効だが、諸費用(物件価格の5~10%)は現金で必要
- 審査では返済負担率(年収の25~35%以内)、勤続年数、信用情報が重視される
頭金なし住宅ローンの仕組みとフルローンの基礎知識
(1) フルローンとは:物件価格全額を借り入れる方式
フルローンとは、頭金なしで物件価格全額を借り入れる住宅ローンです。
例えば、物件価格4,000万円の場合、頭金なしで4,000万円全額を借り入れます。この場合、融資率(物件価格に対する借入額の割合)は100%となります。
(2) 頭金の一般的な目安:新築15~25%、既存10~40%
頭金の一般的な目安は以下の通りです。
| 物件種別 | 頭金の目安 |
|---|---|
| 新築住宅 | 物件価格の15~25% |
| 既存住宅(中古) | 物件価格の10~40% |
(出典: 三井住友銀行)
頭金を用意することで、借入額を減らし、月々の返済負担と総返済額を軽減できます。
(3) 2021年以降、約36.9%が頭金なしで購入(30代では約43%)
住宅金融支援機構の調査によると、2021年以降、約36.9%が頭金なしで住宅を購入しています。特に30代では約43%に達しており、若い世代ほど頭金なしで購入する傾向があります。
自己資金が少ない若い世代でも、住宅ローンを組んで早期に住宅を取得できることがわかります。
(4) 融資率9割超の場合の金利への影響
融資率(物件価格に対する借入額の割合)が9割を超える場合、金利が高くなる傾向があります。
特にフラット35では、融資率9割超の場合、金利が約0.2~0.4%高く設定されることがあります。2025年時点で長期金利が1%台後半に差し掛かっており、金利上昇への警戒が必要です。
頭金なし住宅ローンのメリット・デメリット
(1) メリット:手元資金を残せる、早期購入が可能、住宅ローン控除を最大限活用
頭金なし住宅ローンの主なメリットは以下の通りです。
- 手元資金を残せる: 諸費用、引越し費用、家具・家電購入費等に充てられる
- 早期購入が可能: 自己資金が貯まるのを待たずに住宅を取得できる
- 住宅ローン控除を最大限活用: 年末ローン残高の0.7%を所得税から控除できる(2025年入居の場合、最高5,000万円)
住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用して住宅を取得した場合、年末ローン残高の0.7%を所得税から控除できる制度です(国税庁)。
(2) デメリット:借入額が増えて月々返済額が増加、総返済額が増える、オーバーローン(担保割れ)リスク
頭金なし住宅ローンの主なデメリットは以下の通りです。
- 借入額が増えて月々返済額が増加: 頭金ありと比べて約2万円増加(物件価格4,000万円の場合)
- 総返済額が増える: 頭金ありと比べて約300~400万円増加
- オーバーローン(担保割れ)リスク: 住宅売却価格よりもローン残高が多い状態になる可能性
オーバーローン(担保割れ)とは、住宅売却価格よりもローン残高が多い状態です。売却や借り換えを検討する際に不利になる可能性があります。
(3) 諸費用(登記費用、手数料等)は現金で必要
諸費用(登記費用、手数料、印紙税、保証料等)は原則現金で必要です。諸費用の目安は物件価格の5~10%程度です。
| 物件価格 | 諸費用の目安 |
|---|---|
| 3,000万円 | 150~300万円 |
| 4,000万円 | 200~400万円 |
| 5,000万円 | 250~500万円 |
頭金なしで組む場合でも、諸費用分の最低限の手元資金は確保が必要です。
(4) 金利上昇リスクへの対処法
2025年は金利上昇への警戒感が高まっており、長期金利が1%台後半に差し掛かっています。
金利上昇リスクへの対処法としては、以下があります。
- 固定金利を選択: 借入から完済まで金利が変わらない全期間固定金利(フラット35等)
- 繰上返済の活用: 手元資金を残して計画的に繰上返済
- 返済期間の短縮: 35年ではなく25~30年で設定
頭金ありとの徹底比較:返済額シミュレーション
(1) 物件価格4,000万円のケース:頭金なし vs 頭金2割(800万円)
物件価格4,000万円の場合の返済額を比較します(返済期間35年、金利1.5%、元利均等返済)。
| 項目 | 頭金なし | 頭金2割(800万円) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 借入額 | 4,000万円 | 3,200万円 | 800万円 |
| 月々返済額 | 122,444円 | 97,955円 | 24,489円 |
| 総返済額 | 約5,142万円 | 約4,114万円 | 約1,028万円 |
頭金なしの場合、月々約2.4万円、総返済額で約1,000万円増加します。
(2) 月々返済額の差:頭金なしは約2万円増加
頭金なしの場合、月々の返済額は頭金2割の場合と比べて約2~2.5万円増加します。
手取り年収の25%以内に月々の返済額を抑えることが無理のない返済の目安です。例えば、手取り年収500万円の場合、月々の返済額は約10.4万円以内が目安となります。
(3) 総返済額の差:頭金なしは約300~400万円増加
頭金なしの場合、総返済額は頭金2割の場合と比べて約300~1,000万円増加します(物件価格・金利により異なる)。
金利が高いほど、総返済額の差が大きくなります。
(4) 手元資金を残す戦略:繰上返済の活用
頭金なしで組んで手元資金を残し、計画的に繰上返済すれば総返済額を軽減できます。
繰上返済とは、毎月の返済とは別に、元金の一部または全部を前倒しで返済することです。利息軽減や返済期間短縮が可能です。
例えば、頭金なしで4,000万円借りて、5年後に800万円を繰上返済すれば、総返済額を大幅に軽減できます。
月々の返済負担を抑えつつ、ライフイベント(子育て、教育費等)に対応できる戦略として有効です。
審査通過のポイントと成功事例・注意点
(1) 審査で重視されるポイント:返済負担率・勤続年数・信用情報
頭金なし住宅ローンの審査では、以下のポイントが重視されます。
| 審査項目 | 内容 |
|---|---|
| 返済負担率 | 年収に占める年間返済額の割合、一般的に25~35%以内 |
| 勤続年数 | 安定した収入があるかを判断、一般的に3年以上が目安 |
| 信用情報 | 過去の借入・返済履歴、延滞がないか |
頭金なしでも審査は可能ですが、融資率が9割超となり審査が厳しくなる傾向があります。
(2) 手取り年収の25%以内に月々返済額を抑える目安
手取り年収の25%以内に月々の返済額を抑えることが無理のない返済の目安です。
| 手取り年収 | 月々返済額の目安(25%以内) |
|---|---|
| 400万円 | 約8.3万円 |
| 500万円 | 約10.4万円 |
| 600万円 | 約12.5万円 |
| 700万円 | 約14.6万円 |
減収や金利上昇など、悪条件でシミュレーションして返済計画を立てることが重要です。
(3) 妻名義で住宅ローンを組む場合の注意点:団信は妻のみ、産休・育休中のリスク
妻名義で住宅ローンを組む場合、以下の点に注意が必要です。
- 団信は妻だけが対象: 夫の死亡時も返済が継続する
- 産休・育休中のリスク: 妊娠・出産で働き方を変える可能性があり、収入減少リスクに注意
団体信用生命保険(団信)とは、住宅ローン契約者が死亡または高度障害状態になった場合に、保険金でローンが完済される保険です。
妻名義の場合、夫が亡くなっても返済が継続する点に注意が必要です。ペアローン(夫婦それぞれが債務者として別々に住宅ローンを組む方式)や連帯債務も選択肢として検討しましょう。
(4) 年齢別の注意点:35歳以上は65歳完済、50歳以上は75歳完済を目標
年齢別の注意点は以下の通りです。
| 年齢 | 完済目標 | 注意点 |
|---|---|---|
| 35歳未満 | 65歳までの完済 | 余裕のある返済計画 |
| 35歳以上 | 65歳までの完済 | 返済期間を短くする必要がある |
| 50歳以上 | 75歳までの完済 | 定年後の収入源を確保 |
65歳までの完済を目標に借入期間を設定すると、老後の資金負担を減らせます。
まとめ:頭金なし住宅ローンを選ぶ際の判断基準と次のアクション
頭金なし(フルローン)でも住宅ローンは組めますが、融資率9割超の場合は金利が高くなる傾向があります。2021年以降、約36.9%が頭金なしで購入しており、若い世代ほど頭金なしで購入する傾向があります。
頭金なしの場合、月々返済額は約2万円増加し、総返済額は約300~400万円増えますが、手元資金を残す戦略として有効です。ただし、諸費用(物件価格の5~10%)は現金で必要なため、最低限の手元資金は確保が必要です。
審査では返済負担率(年収の25~35%以内)、勤続年数、信用情報が重視されます。手取り年収の25%以内に月々返済額を抑えることが無理のない返済の目安です。
信頼できる金融機関やファイナンシャルプランナーに相談しながら、無理のない返済計画を立てましょう。
