マンションに地震保険は必要か?
マンション購入時や所有中に、「耐震性が高いマンションだから地震保険は不要では?」と考える方は少なくありません。火災保険は加入しているものの、地震保険の必要性や保険料の負担を考えて加入を迷うケースが多く見られます。
この記事では、マンションの地震保険の必要性、補償内容、保険料の相場、選び方を、財務省の公式資料を元に解説します。
加入判断に必要な知識を身につけ、ご自身の状況に合った判断ができるようになります。
この記事のポイント
- マンション専有部分の地震保険加入率は69.0%だが、共用部分の加入率は約40%にとどまる
- 地震保険は火災保険とセットで加入が必須で、火災保険金額の30~50%の範囲内で設定できる
- 損害区分(全損・大半損・小半損・一部損)により保険金額の100%・60%・30%・5%が支払われる
- マンションはイ構造(鉄筋コンクリート・鉄骨造)に該当し、木造住宅より保険料率が低い
- 耐震性能が優れた建物は最大50%の割引が適用される
(1) マンションの耐震性と被災事例
一般的に、マンションは鉄筋コンクリート造または鉄骨造で建てられており、木造の戸建て住宅に比べて耐震性が高いと言われています。
しかし、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)では、耐震性の高いマンションでも被災している事例があります(チューリッヒ保険「地震保険はマンションでも必要か」)。
地震によるマンションの被害には、建物の損壊だけでなく、専有部分の内装や設備の損傷、家財の破損等も含まれます。耐震性が高くても、こうした損害が発生する可能性があります。
(2) 専有部分の修繕費用と家財の補償
マンションの地震保険は、以下を補償します。
- 専有部分: 各住戸内の床・壁・天井・設備等の損傷
- 家財: 家具・家電・衣類等の損壊・流失
専有部分の修繕費用や家財の買い替え費用は、数十万円から数百万円に及ぶ場合があります。地震保険は、こうした費用を補償し、生活再建を支援する役割を持ちます。
(3) マンション専有部分の加入率(69.0%)
日本損害保険協会によると、マンション専有部分の地震保険加入率は69.0%です(2024年時点)。阪神・淡路大震災以降、加入率は上昇傾向にあります。
一方、共用部分の加入率は約40%にとどまっており、管理組合が地震保険に加入していないマンションも多く見られます。
地震保険の基礎知識と補償内容
(1) 地震保険とは(火災保険とセット加入必須)
地震保険は、地震・噴火・津波により建物や家財が火災・損壊・埋没・流失した際の損害を補償する保険です(財務省「地震保険制度の概要」)。
地震保険は、火災保険とセットで加入することが必須です。火災保険単独では、地震による火災や損壊は補償されません。
(2) 補償範囲と限度額(建物5,000万円、家財1,000万円)
地震保険の補償範囲と限度額は以下の通りです。
| 対象 | 限度額 | 設定範囲 |
|---|---|---|
| 建物 | 5,000万円 | 火災保険金額の30~50% |
| 家財 | 1,000万円 | 火災保険金額の30~50% |
例えば、火災保険の建物保険金額が2,000万円の場合、地震保険は600万円~1,000万円の範囲内で設定できます。
(3) 損害認定の4区分(全損・大半損・小半損・一部損)
地震保険の保険金支払いのために、建物の損害状況を以下の4区分に判定します。
| 損害区分 | 建物の損害の目安 | 保険金の支払割合 |
|---|---|---|
| 全損 | 主要構造部の損害が50%以上 | 100% |
| 大半損 | 主要構造部の損害が40%以上50%未満 | 60% |
| 小半損 | 主要構造部の損害が20%以上40%未満 | 30% |
| 一部損 | 主要構造部の損害が3%以上20%未満 | 5% |
(4) 保険金の支払割合(100%・60%・30%・5%)
損害区分に応じて、設定した保険金額の100%・60%・30%・5%が支払われます。
例えば、地震保険の建物保険金額が500万円の場合、全損で500万円、大半損で300万円、小半損で150万円、一部損で25万円が支払われます。
重要な注意点: 地震保険は生活再建を目的とした保険であり、建物の修復費用全額を補償するものではありません。
マンション特有の地震保険の仕組み
(1) 専有部分と共用部分の違い
マンションは、「専有部分」と「共用部分」に分かれます。
| 部分 | 内容 | 所有者 |
|---|---|---|
| 専有部分 | 各住戸内の床・壁・天井・設備等 | 個人 |
| 共用部分 | 廊下・階段・エレベーター・エントランス・躯体等 | 管理組合 |
(2) 専有部分は個人で加入、共用部分は管理組合で加入
地震保険の加入は、以下のように分かれます。
- 専有部分: 個人が火災保険とセットで加入
- 共用部分: 管理組合が火災保険とセットで加入
専有部分の地震保険は、個人の判断で加入を決められます。一方、共用部分の地震保険は、管理組合の総会決議により加入の有無が決まります。
(3) マンション1棟全体の損害状況で認定
マンションの地震保険の損害認定は、1棟全体の損害状況で判定されます(HOME4U「マンションでも地震保険は必要?」)。
例えば、自分の住戸は無傷でも、マンション全体の損害が「一部損」と認定された場合、保険金額の5%が支払われます。
(4) 管理組合の地震保険加入状況の確認方法
マンション購入時には、管理組合の地震保険加入状況を確認しましょう。
確認方法:
- 重要事項説明書の確認
- 管理組合の議事録の確認
- 管理会社への問い合わせ
共用部分の地震保険に加入していない場合、共用部分の修繕費用は修繕積立金や追加の修繕費用負担で賄う必要があります。
マンションの地震保険料と割引制度
(1) 保険料の決まり方(所在地・構造・保険金額)
地震保険料は、以下の要素で決まります。
- 所在地: 都道府県別の地震リスクにより料金が異なる
- 構造: イ構造(鉄筋コンクリート・鉄骨造)とロ構造(木造)で料金が異なる
- 保険金額: 設定した保険金額に応じて保険料が変わる
(2) イ構造(鉄筋コンクリート・鉄骨造)の保険料率
マンションはイ構造(鉄筋コンクリート造・鉄骨造等の耐火構造)に該当します。イ構造は地震保険料率が低く、木造住宅(ロ構造)より保険料が安くなります。
例えば、東京都のマンションの場合、保険金額100万円あたり年間2,750円です(ソニー損保「地震保険料の相場」)。
(3) 割引制度(免震建築物・耐震等級・耐震診断・建築年)
地震保険には、建物の耐震性能に応じて以下の割引制度があります。
| 割引名 | 割引率 | 条件 |
|---|---|---|
| 免震建築物割引 | 50% | 免震装置を設置した建物 |
| 耐震等級割引 | 10-50% | 耐震等級1~3に応じて割引 |
| 耐震診断割引 | 10% | 耐震診断または耐震改修済み |
| 建築年割引 | 10% | 1981年6月以降の建築 |
耐震性能が優れた建物は、最大50%の割引が適用されます。
(4) 保険料の具体例とシミュレーション
例: 東京都の耐震マンションで、建物500万円・家財150万円の地震保険に加入する場合
| 項目 | 保険金額 | 年間保険料(割引前) |
|---|---|---|
| 建物 | 500万円 | 13,750円 |
| 家財 | 150万円 | 4,130円 |
| 合計 | 650万円 | 17,880円 |
建築年割引(10%)を適用した場合、年間保険料は約16,090円になります。
(5) 地震保険料控除(所得税最大5万円、住民税最大2.5万円)
地震保険料は、国税庁の「地震保険料控除」の対象となります。
| 税金 | 控除額の上限 |
|---|---|
| 所得税 | 最大5万円 |
| 住民税 | 最大2.5万円 |
年末調整または確定申告で控除を受けることで、税負担を軽減できます。
地震保険の加入判断と注意点
(1) 加入のメリット(生活再建資金・家財補償)
地震保険に加入するメリットは以下の通りです。
- 生活再建資金の確保: 地震による損害で生活再建に必要な資金を得られる
- 家財の補償: 家具・家電・衣類等の買い替え費用を補償
- 税負担の軽減: 地震保険料控除により所得税・住民税が軽減される
(2) デメリット(修復費用全額補償ではない)
地震保険のデメリット・注意点は以下の通りです。
- 修復費用全額は補償されない: 損害区分により保険金額の5~100%が支払われるため、修復費用全額が補償されるわけではない
- 保険料の負担: 年間数万円の保険料負担が発生する
- 共用部分は管理組合次第: 個人で共用部分の地震保険に加入することはできない
(3) 加入判断のポイント(立地リスク・資産価値・貯蓄状況)
地震保険の加入判断は、以下のポイントを考慮しましょう。
| ポイント | 考え方 |
|---|---|
| 立地リスク | 地震リスクが高い地域(太平洋側、活断層近く等)は加入を推奨 |
| 資産価値 | 高額なマンションや家財を保有している場合は加入を推奨 |
| 貯蓄状況 | 地震被害時の修繕費用を自己資金で賄えない場合は加入を推奨 |
| 管理組合の状況 | 共用部分の地震保険に未加入の場合、専有部分の加入を検討 |
重要: 地震保険の必要性は個々の経済状況・リスク許容度により異なります。ファイナンシャルプランナーや保険代理店への相談を推奨します。
(4) 2024年能登半島地震後の保険料改定の可能性
2024年1月の能登半島地震を受けて、今後保険料が改定(値上げ)される可能性が報じられています(iyomemo「5年契約の地震保険料の相場」)。
保険料率や補償内容は執筆時点(2025年)の情報であるため、最新情報を保険会社の公式サイトで確認することを推奨します。
まとめ:状況別の判断基準と次のアクション
マンションの地震保険は、専有部分の修繕費用や家財の補償のために加入が推奨されます。マンション専有部分の加入率は69.0%で、多くの所有者が加入しています。
地震保険は火災保険とセットで加入が必須で、火災保険金額の30~50%の範囲内で設定できます。損害区分により保険金額の100%・60%・30%・5%が支払われますが、修復費用全額が補償されるわけではありません。
マンションはイ構造(鉄筋コンクリート・鉄骨造)に該当し、木造住宅より保険料率が低く設定されています。耐震性能が優れた建物は最大50%の割引が適用されます。
加入判断は、立地リスク・資産価値・貯蓄状況・管理組合の状況を考慮し、ファイナンシャルプランナーや保険代理店に相談しながら、ご自身の状況に合った判断をしましょう。
