土地改良事業団体連合会とは|役割と不動産との関係
農地の売買や転用を検討する際、「土地改良事業団体連合会とは何か」「農地転用時に手続きが必要なのか」「除外決済金はいくらかかるのか」といった疑問を持つ方は少なくありません。
この記事では、土地改良事業団体連合会の役割、農地転用時の除外手続きと費用、各都道府県の連合会一覧を解説します。農林水産省の土地改良事業情報や国税庁の通達等の公的データを元に、農地取引・転用時の注意点を提供します。
農地を所有または購入検討中の方でも、土地改良区の除外手続きや税務処理を理解し、スムーズに農地転用を進められるようになります。
この記事のポイント
- 土地改良事業団体連合会は各都道府県に1団体ずつ存在し、農業基盤整備を支援する公的法人
- 農地転用時は土地改良区からの除外が必要で、除外決済金(100-500円/㎡)を支払う
- 除外決済金は税務上の譲渡費用として計上でき、確定申告時に活用できる
- 2024年現在、土地改良施設の53%が標準耐用年数を超過し、老朽化が進行中
- 農地転用には農業委員会の許可が必要で、通常6週間程度の期間がかかる
土地改良事業団体連合会の主な業務内容
土地改良事業団体連合会は、土地改良区や市町村等の協同組織で、農業基盤整備を支援する公的法人です。農林水産省によると、1957年に制度化され、各都道府県に1団体ずつ存在します。
(1) 技術支援・指導
土地改良事業団体連合会は、土地改良区や市町村が実施する土地改良事業に対して、技術支援・指導を行います。
技術支援の内容
- 用排水路の設計・施工に関する技術指導
- 農道整備の計画策定支援
- 土地改良施設の維持管理に関する助言
- 防災・減災対策の技術的支援
これらの支援により、効率的な農業基盤整備が実現されています。
(2) 情報提供・調査研究
土地改良事業に関する情報提供や調査研究も主要な業務です。
情報提供の例
- 土地改良事業の法制度に関する情報提供
- 補助金・助成金の申請支援
- 先進事例の紹介
- 農地転用時の手続きに関する相談対応
全国水土里ネット(全国土地改良事業団体連合会)では、全国の事例やノウハウを集約し、各都道府県の連合会と情報共有を行っています。
(3) 土地改良事業の実施支援
土地改良事業の実施には、受益地区の3分の2以上の同意が必要です。連合会は、同意取得の支援や事業計画の策定支援を行います。
実施支援の流れ
- 事業計画の策定支援
- 地権者への説明会開催支援
- 同意取得の手続き支援
- 国や都道府県知事への申請支援
これらの支援により、スムーズな事業実施が可能になります。
農地転用時の土地改良区除外手続きと費用
(1) 土地改良区からの除外が必要な理由
土地改良区内の農地を宅地等に転用する際は、土地改良区からの除外手続きが必要です。
除外が必要な理由
- 土地改良施設の恩恵を受けなくなるため: 農業用水路やため池等の恩恵を受けなくなる土地は、除外決済金を支払って除外する必要がある
- 農地転用許可の要件: 除外手続きを怠ると、農業委員会の農地転用許可が下りない
- 公平性の確保: 土地改良施設の整備費用を負担した他の組合員との公平性を保つ
(2) 除外決済金の相場(100-500円/㎡)
国税庁の通達によると、除外決済金の相場は100-500円/㎡が一般的です。
除外決済金の計算例
| 土地面積 | 単価 | 除外決済金 |
|---|---|---|
| 300㎡ | 100円/㎡ | 3万円 |
| 300㎡ | 300円/㎡ | 9万円 |
| 300㎡ | 500円/㎡ | 15万円 |
除外決済金の金額は土地改良区ごとに異なるため、事前に管轄の土地改良区に確認してください。
(3) 意見書発行手数料と手続き期間
農地転用時には、土地改良区から意見書を発行してもらう必要があります。
意見書発行の手続き
- 発行手数料: 数千円程度(土地改良区により異なる)
- 発行期間: 通常2-4週間
- 必要書類: 農地転用許可申請書、位置図、公図等
意見書は農業委員会への農地転用許可申請時に必要です。発行期間を考慮し、早めに手続きを進めることを推奨します。
(4) 除外決済金の税務処理(譲渡費用として計上可能)
国税庁の通達によると、除外決済金は税務上の譲渡費用として計上できます。
税務処理の方法
譲渡所得 = 譲渡収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)
譲渡費用に除外決済金を含めることで、譲渡所得税を軽減できる
確定申告時に除外決済金の領収書を添付し、譲渡費用として計上してください。詳細は税理士等の専門家に相談することを推奨します。
各都道府県の土地改良事業団体連合会一覧
(1) 主要都道府県の連合会(栃木・新潟・愛知・福岡等)
各都道府県に1団体ずつ土地改良事業団体連合会が存在します。
主要都道府県の連合会例
| 都道府県 | 連合会名 | 愛称(水土里ネット) |
|---|---|---|
| 栃木県 | 栃木県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットとちぎ |
| 新潟県 | 新潟県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットにいがた |
| 愛知県 | 愛知県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットあいち |
| 福岡県 | 福岡県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットふくおか |
| 大分県 | 大分県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットおおいた |
| 千葉県 | 千葉県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットちば |
| 長野県 | 長野県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットながの |
| 岩手県 | 岩手県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットいわて |
| 宮崎県 | 宮崎県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットみやざき |
| 兵庫県 | 兵庫県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットひょうご |
| 鹿児島県 | 鹿児島県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットかごしま |
| 石川県 | 石川県土地改良事業団体連合会 | 水土里ネットいしかわ |
この他、全47都道府県に連合会が存在します。
(2) 問い合わせ先の確認方法
各都道府県の土地改良事業団体連合会の問い合わせ先は、以下の方法で確認できます。
確認方法
- 全国水土里ネットの公式サイトで都道府県組織一覧を確認
- 「水土里ネット + 都道府県名」で検索し、公式サイトにアクセス
- 各都道府県の農林水産部局に問い合わせ
農地転用や土地改良区の除外手続きに関する相談は、管轄の連合会または土地改良区に直接問い合わせてください。
(3) 水土里ネットの全国組織
水土里ネットは、土地改良事業団体連合会の愛称で、「水」「土」「里」を守り育てる活動を行っています。
水土里ネットの活動
- 土地改良施設の維持管理
- 防災・減災対策
- 環境保全活動
- 地域住民との連携(農業体験イベント等)
全国水土里ネットでは、全国の活動事例や技術情報を発信しています。
2024年の動向|土地改良法の見直しと施設老朽化
(1) 土地改良施設の53%が耐用年数超過
JAcomによると、2024年現在、土地改良施設の53%(12,413箇所)が標準耐用年数を超過しています。
施設老朽化の現状
| 施設種類 | 標準耐用年数 | 耐用年数超過率 |
|---|---|---|
| 用排水路 | 約40年 | 53%超過 |
| 農道 | 約20年 | 53%超過 |
| ため池 | 約50年 | 53%超過 |
10年後には、土地改良施設の69%(16,248箇所)が耐用年数を超過する見込みです。これにより、維持管理費用が今後増加する可能性があります。
(2) 土地改良法の見直し方向性
2024年12月に土地改良法の見直しが進行中です。
見直しのポイント
- 国や都道府県の発意で事業実施: 地権者の同意要件を緩和し、国や都道府県が主導して事業を実施できるようにする
- 防災・減災対策の強化: 水害や土砂崩れ対策を迅速に実施できる仕組みを整備
- スマート農業への対応: ICT・AI・ロボット等の先端技術を活用した農業基盤整備を推進
- 水田の畑地化: 需要に応じた作物転換を促進するため、水田を畑地化する事業を支援
これらの見直しにより、効率的な農業基盤整備と災害対策が期待されています。
(3) 防災・減災・スマート農業への対応
土地改良法の見直しでは、防災・減災・スマート農業への対応が重点項目です。
具体的な対応策
- 防災・減災: ため池や排水機場の耐震化、浸水対策
- スマート農業: 自動給水システム、ドローン活用のための農道整備
- 環境配慮: 生態系保全、地下水涵養機能の維持
これらの対応により、持続可能な農業と安全な地域社会の実現を目指しています。
まとめ|農地取引・転用時の注意点と相談先
土地改良事業団体連合会は各都道府県に1団体ずつ存在し、農業基盤整備を支援する公的法人です。農地転用時は土地改良区からの除外が必要で、除外決済金(100-500円/㎡)を支払います。除外決済金は税務上の譲渡費用として計上でき、確定申告時に活用できます。
除外手続きを怠ると農地転用許可が下りないため、事前に管轄の土地改良区に相談してください。農地転用には農業委員会の許可が必要で、通常6週間程度の期間がかかります。除外手続きと並行して進めることを推奨します。
2024年現在、土地改良施設の53%が標準耐用年数を超過し、老朽化が進行中です。土地改良法の見直しも進行中で、防災・減災・スマート農業への対応が進められています。農地取引・転用を検討する際は、全国水土里ネットや各都道府県の連合会に相談し、適切な手続きを進めてください。
