なぜ土地の境界線とブロック塀が重要なのか
土地を所有している方や購入を検討している方にとって、「境界線上のブロック塀は誰のものなのか」「修繕費用は誰が負担するのか」といった疑問は少なくありません。境界線とブロック塀の関係は、隣地所有者とのトラブルに直結する重要な問題です。
この記事では、土地の境界線とブロック塀の法的関係、所有権の判断方法、費用負担のルール、トラブル対処法を、民法の規定と専門家の見解を元に解説します。
土地家屋調査士や弁護士の専門知識を参照しながら、初めて土地を購入する方でも境界トラブルを予防できる実践的な知識を提供します。
この記事のポイント
- 境界線上のブロック塀は民法229条により相隣者の共有と推定される
- 共有ブロックの修繕・撤去費用は原則として折半(民法225条・226条)
- 筆界と所有権界は異なる概念で、測量図と現況が一致しないケースもある
- 境界確定測量により境界を明確にすることがトラブル予防の鍵
- 土地購入前には測量図・境界標・隣地所有者との合意状況を確認すべき
境界線とブロック塀の基礎知識
(1) 筆界と所有権界の違い
土地の境界には「筆界」と「所有権界」という2つの概念があります。
筆界とは、不動産登記法上の境界線で、登記された際に定められた土地の範囲を区画する線です。公法上の境界であり、土地所有者同士の合意で変更することはできません。
所有権界とは、実際の所有権の及ぶ範囲を示す境界で、ブロック塀などの構造物で示されることが多い概念です。私法上の境界であり、隣地所有者との合意により変更可能です。
古い分譲地では、測量図と現況のブロック位置が数十cm違うケースもあります。このような場合、筆界と所有権界がずれている可能性があるため、境界確定測量が必要になります。
(2) 民法229条の共有推定規定
民法229条では、「境界線上に設けた障壁は、相隣者の共有に属するものと推定する」と規定されています。
これは、境界線上にあるブロック塀・フェンス・生垣などは、原則として隣地所有者との共有物として扱われることを意味します。
重要な点は、「推定する」であって「みなす」ではないことです。つまり、測量図・契約書・登記簿などにより単独所有が証明できれば、この推定を覆すことができます。
関口法律事務所の弁護士による解説では、この推定規定は実務上重要な役割を果たしており、所有権が不明確な場合の基準となっています。
(3) ブロック塀の設置方法(内積み・芯積み・外積み)
ブロック塀の設置方法には3つのパターンがあります。
| 設置方法 | 説明 | 費用負担 | 所有権 |
|---|---|---|---|
| 内積み | 自分の敷地内に境界線より内側に設置 | 全額自己負担 | 単独所有 |
| 芯積み | ブロックの中心が境界線になるように設置 | 隣家と折半 | 共有 |
| 外積み | 隣地側に寄せて設置 | 要協議 | 要協議 |
三井住友トラスト不動産によると、現在(2024-2025年)は境界線上ではなく、各自の敷地内に内積みでブロックを設置するのが主流です。この方法なら、将来的なトラブルを避けられるためです。
内積みの場合、境界線から2cm程度控えて設置するのが一般的で、費用は全額自己負担となりますが、修繕・撤去時に隣地所有者の同意が不要というメリットがあります。
ブロック塀の所有権を判断する方法
(1) 共有推定の原則と反証
境界線上のブロック塀の所有権を判断する際は、まず民法229条の共有推定が適用されます。
ただし、以下の証拠により単独所有が証明できれば、この推定を覆すことができます。
- 測量図: 境界確定測量の図面にブロック塀の位置が明記されている場合
- 契約書: 売買契約書や境界協定書に所有者が特定されている場合
- 登記簿: 附属建物として登記されている場合(稀)
- 設置経緯: 設置時の領収書や工事記録が残っている場合
三井住友トラスト不動産の事例によると、境界塀の所有権が不明確なまま不動産取引が行われ、購入後にトラブルになるケースが報告されています。
(2) 測量図と現況の確認
古い分譲地では、登記簿に添付された測量図と現況のブロック位置が一致しないケースがあります。
このような場合、以下の手順で確認を進めます。
- 登記簿の確認: 法務局で登記簿謄本と地積測量図を取得
- 境界標の確認: 現地で境界標(コンクリート杭、金属プレート等)の有無を確認
- 測量図との照合: 境界標とブロック塀の位置関係を測量図と照合
- 専門家への依頼: 不一致が発見された場合は土地家屋調査士に境界確定測量を依頼
境界の専門家によると、測量図と現況が数十cm違うケースでは、時効取得により本来の所有者の土地が取られてしまうリスクもあるため、早期の境界確定が推奨されます。
(3) 隣地所有者との協議
ブロック塀の所有権が不明確な場合、隣地所有者との協議が必要です。
協議では以下の点を確認します。
- ブロック塀の設置時期と設置者
- 設置費用の負担者
- これまでの修繕費用の負担実績
- 隣地所有者の認識(共有か単独所有か)
協議の結果を書面(境界協定書)にまとめ、双方で署名・押印することで、将来のトラブルを予防できます。
修繕・撤去・新設時の費用負担ルール
(1) 共有の場合の費用負担(民法225条・226条)
ブロック塀が共有物と判断された場合、以下の民法の規定が適用されます。
民法225条(共有物の保存行為):
- 共有物の保存(修繕・補強等)は各共有者が単独で実施可能
- 費用は持分比率に応じて負担(原則は折半)
民法226条(共有物の変更行為):
- 共有物の撤去・建て替え等の変更行為は共有者全員の同意が必要
- 費用は持分比率に応じて負担(原則は折半)
関口法律事務所の弁護士による解説では、保存行為(老朽化による修繕)は単独で実施可能ですが、費用は後日隣地所有者に請求できます。一方、変更行為(撤去・建て替え)は必ず事前に隣地所有者の同意を得る必要があります。
(2) 単独所有の場合の注意点
ブロック塀が単独所有と判断された場合、以下の点に注意が必要です。
- 修繕・撤去の自由: 所有者は自由に修繕・撤去できますが、隣地への配慮は必要
- 費用負担: 全額自己負担
- 隣地への影響: 撤去により隣地の土砂が流入する等の影響がある場合は事前協議を推奨
庭ファンの事例では、単独所有のブロック塀を撤去した結果、隣地の土砂が流入してトラブルになったケースが報告されています。
(3) 建築基準法による高さ・厚さ制限
ブロック塀を新設・建て替えする際は、建築基準法の制限に注意が必要です。
建築基準法の主な規定(2025年時点):
- 高さ制限: 2.2m以下(11段以内)
- 厚さ制限: 10cm以上
- 控え壁: 高さ1.2m超の場合は控え壁(補強壁)が必要
- 基礎: 地盤面下35cm以上の基礎が必要
これらの基準は地震による倒壊を防ぐために定められており、違反すると行政指導や撤去命令の対象となる可能性があります。
境界トラブルの対処法と予防策
(1) 境界確定測量の重要性
境界トラブルを予防する最も効果的な方法は、境界確定測量を実施することです。
境界確定測量とは:
- 土地家屋調査士が隣地所有者立会いのもとで境界を確定
- 確定した境界を測量図にまとめ、境界標を設置
- 隣地所有者全員の同意を得て境界確認書を作成
三井住友トラスト不動産によると、境界確定測量の費用は30万円〜100万円程度で、土地の形状・隣接地の数により変動します。
境界確定測量が特に必要な場面:
- 土地購入時(売買契約前の実施を推奨)
- ブロック塀の新設・撤去時
- 隣地とのトラブル発生時
- 相続・贈与時
(2) よくあるトラブル事例と対処法
境界ブロックに関する代表的なトラブル事例と対処法を紹介します。
| トラブル事例 | 対処法 |
|---|---|
| 隣人が勝手にブロック塀を撤去 | 共有物の無断変更として損害賠償請求が可能。民法226条違反として弁護士に相談 |
| 修繕費用の負担割合で揉める | 共有の場合は民法225条により持分比率(原則折半)で負担。協議不調なら調停・訴訟 |
| 測量図とブロック位置が違う | 土地家屋調査士に境界確定測量を依頼。筆界と所有権界のずれを明確化 |
| 購入後に境界塀の所有権が不明と判明 | 売主に瑕疵担保責任を追及。契約不適合責任として代金減額・損害賠償請求が可能 |
弁護士ドットコムの法律相談事例では、境界ブロックに関する相談が多数寄せられており、早期の専門家相談がトラブル解決の鍵となっています。
(3) 土地購入前のチェックポイント
土地購入前に以下の点を確認することで、境界トラブルを予防できます。
必須チェック項目:
- 測量図の有無: 境界確定測量済みか確認(法務局で地積測量図を取得)
- 境界標の確認: 現地で境界標(杭・プレート等)が設置されているか確認
- 境界協定書: 隣地所有者との境界確認書が存在するか確認
- ブロック塀の所有者: 売買契約書にブロック塀の所有者が明記されているか確認
- 隣地所有者の認識: 可能であれば売主から隣地所有者との関係を聴取
三井住友トラスト不動産の事例では、購入後に境界塀の所有者が不明と判明し、売主と買主の間で訴訟に発展したケースもあります。
不動産会社の説明だけに頼らず、自ら法務局で登記簿・測量図を取得し、現地で境界標を確認することが重要です。
まとめ:専門家への相談と次のアクション
土地の境界線とブロック塀の問題は、民法229条により共有と推定されるため、修繕・撤去時には隣地所有者の同意が必要です。費用負担は原則として折半ですが、単独所有が証明できれば全額自己負担となります。
境界トラブルを予防する最も効果的な方法は、境界確定測量により境界を明確にすることです。測量図と現況が一致しない場合、筆界と所有権界がずれている可能性があるため、土地家屋調査士への早期相談が推奨されます。
土地購入前には、測量図・境界標・境界協定書の有無を必ず確認し、ブロック塀の所有者が売買契約書に明記されているかチェックしましょう。
判断に迷う場合は、土地家屋調査士・弁護士等の専門家に相談することで、将来的なトラブルを回避できます。
