住宅ローンの返済比率が重要な理由
住宅ローンを検討する際、「自分の年収でいくらまで借りられるのか」「返済比率はどのくらいが適正なのか」と不安を感じる方は少なくありません。
この記事では、住宅ローンの返済比率の計算方法、金融機関の審査基準、適正水準の考え方を、公的機関・金融機関の公式情報を元に解説します。
返済比率は、住宅ローン審査で金融機関が重視する指標です。審査基準を満たしても、実際の返済が家計を圧迫する可能性があるため、適正水準を理解しておくことが重要です。
この記事のポイント
- 返済比率の計算式は「年間返済額÷額面年収×100」で、他のローンも含める
- 金融機関の審査基準は年収400万円未満で30%以内、400万円以上で35%以内が目安
- 理想的な返済比率は手取り収入の20~25%以内(審査基準とは異なる)
- 2024年の実態調査では、返済比率の平均は19.2%で、最多は15~20%
返済比率の基礎知識と計算方法
(1) 返済比率(総返済負担率)とは
返済比率(返済負担率、総返済負担率)は、年収に占める年間返済額の割合を示す指標です。
金融機関は、この比率を基準に借入可能額を判断します。
(2) 計算式(年間返済額÷額面年収×100)
返済比率の計算式は以下の通りです(フラット35相談センター)。
返済比率(%)= 年間返済額 ÷ 額面年収 × 100
(3) 年収の考え方(額面年収と手取り収入の違い)
返済比率の計算に使用する年収は、**額面年収(課税所得)**です(フラット35相談センター)。
- 額面年収: 税金が引かれる前の所得(源泉徴収票の「支払金額」欄)
- 手取り収入: 税金・社会保険料を差し引いた実際の収入
金融機関の審査基準は「額面年収」ですが、理想的な返済比率は「手取り収入」を基準にすることが推奨されます(みずほ銀行)。
(4) 年間返済額の算出方法
年間返済額は、住宅ローンだけでなく、他の借入金も含めた合計額です(フラット35相談センター)。
毎月の返済額が分かる場合は、以下の式で計算します。
年間返済額 = 毎月の返済額 × 12ヶ月 + ボーナス払い額(年間)
(5) 他のローンの扱い(自動車ローン・カードローン・リボ払い・奨学金)
返済比率の計算には、以下の借入金も含める必要があります(フラット35相談センター)。
- 自動車ローン
- カードローン
- クレジットカードのリボ払い
- 奨学金
これらの返済額を含めると、借入可能額が減少します。住宅ローン申込前に、完済できる借入金は完済することを推奨します。
(6) 具体的な計算例(年収別)
例1: 年収500万円、住宅ローンのみ
- 年間返済額: 120万円(毎月10万円)
- 返済比率: 120万円 ÷ 500万円 × 100 = 24%
例2: 年収500万円、住宅ローン+自動車ローン
- 住宅ローン年間返済額: 120万円(毎月10万円)
- 自動車ローン年間返済額: 36万円(毎月3万円)
- 合計年間返済額: 156万円
- 返済比率: 156万円 ÷ 500万円 × 100 = 31.2%
自動車ローンがある場合、返済比率が7.2%上昇します。
金融機関の審査基準と借入可能額
(1) フラット35の基準(年収400万円未満30%・400万円以上35%)
フラット35の審査基準は以下の通りです(SUUMO)。
| 年収 | 返済比率の上限 |
|---|---|
| 400万円未満 | 30%以内 |
| 400万円以上 | 35%以内 |
(2) 民間銀行の基準(概ね30~40%)
民間銀行の審査基準は金融機関により異なりますが、概ね30~40%以内が目安です(みずほ銀行)。
一部の銀行では40%まで認める場合もありますが、35%を超えると審査が厳しくなる傾向があります(三井住友銀行)。
(3) 審査金利とは(3%前後の高めの金利設定)
金融機関は審査時に、**実際の金利ではなく、3%前後の「審査金利」**を使用します(三井住友銀行)。
これは、将来の金利上昇リスクを考慮し、余裕を持って審査するためです。
例: 実際の金利が1.0%でも、審査では3.0%で計算される
このため、実際に借入可能な金額は、審査基準よりも低くなることがあります。
(4) 審査に通りやすい返済比率の目安
審査に通りやすい返済比率の目安は以下の通りです。
- 年収400万円未満: 25~30%以内
- 年収400万円以上: 30~35%以内
35%を超えると、減額回答や否決の可能性が高まります(三井住友銀行)。
適正水準の考え方と家計への影響
(1) 理想的な返済比率(手取り収入の20~25%)
一般的に、手取り収入の20~25%以内が理想的とされています(みずほ銀行)。
審査基準(30~35%)と理想的な返済比率には差があり、審査に通っても返済が苦しくなる可能性があるため、注意が必要です。
例: 年収500万円(手取り約400万円)の場合
- 理想的な年間返済額: 80万円~100万円(月6.7万円~8.3万円)
- 審査基準の上限: 175万円(月14.6万円)
審査に通っても、実際の返済額が家計を圧迫する可能性があります。
(2) 2024年の実態調査(平均19.2%、最多は15~20%)
2024年4月の住宅金融支援機構の調査では、実際の返済比率の平均は**19.2%**で、最も多い層は「15%超~20%以内」の26.6%となっています(ファミリーライフサービス2024年版)。
多くの人は、審査基準(30~35%)よりも低い水準で借入していることが分かります。
(3) 審査基準と理想的な返済比率の差
審査基準と理想的な返済比率には、以下のような差があります。
| 項目 | 審査基準 | 理想的な返済比率 |
|---|---|---|
| 基準 | 額面年収の30~35% | 手取り収入の20~25% |
| 年収500万円の場合 | 150万円~175万円 | 80万円~100万円 |
| 月額返済額 | 12.5万円~14.6万円 | 6.7万円~8.3万円 |
審査に通っても、理想的な返済比率を超えると、教育費・老後資金・緊急時の備えが不足する可能性があります。
(4) 家計への影響シミュレーション
例: 年収500万円(手取り約400万円、月33.3万円)の場合
| 返済比率 | 月額返済額 | 残り生活費 | 家計への影響 |
|---|---|---|---|
| 20% | 6.7万円 | 26.6万円 | 余裕あり |
| 25% | 8.3万円 | 25.0万円 | やや余裕あり |
| 30% | 10.0万円 | 23.3万円 | やや厳しい |
| 35% | 11.7万円 | 21.6万円 | 厳しい |
返済比率が高いほど、生活費・教育費・貯蓄に回せる金額が減少します。
返済比率を改善する方法と注意点
(1) 返済比率が高い場合の改善方法(頭金増額・他のローン完済・収入合算)
返済比率が高い場合、以下の方法で改善できます。
- 頭金を増やす: 借入額が減り、返済比率が下がる
- 他のローンを完済する: 自動車ローン・カードローンを返済して年間返済額を減らす
- 収入合算: 夫婦の収入を合算して年収を増やす(三菱UFJ銀行)
- 借入額を減らす: 予算を見直して借入額を抑える
(2) 金利上昇リスク(審査金利と実際の金利の違い)
審査金利は3%前後ですが、実際の返済額は実際の金利で計算されます。
将来金利が上昇した場合、返済額が増加するリスクがあります。変動金利を選ぶ場合は、金利上昇リスクを考慮した返済計画を立てることが重要です。
(3) ボーナス返済の注意点(ボーナス減少リスク)
ボーナス返済を利用する場合、ボーナスが減少した場合のリスクを考慮しましょう(みずほ銀行)。
ボーナスに依存しすぎると、業績悪化や転職時に返済が困難になる可能性があります。
(4) 35%を超えると審査が厳しくなる理由
返済比率が35%を超えると、家計への圧迫が懸念され、審査が厳しくなります(三井住友銀行)。
金融機関は、返済が滞るリスクを回避するため、35%を目安に審査基準を設定しています。
まとめ:無理のない返済計画の立て方
住宅ローンの返済比率は、審査基準(年収400万円未満で30%、400万円以上で35%)と、理想的な返済比率(手取り収入の20~25%)を区別して理解することが重要です。
審査に通っても、返済比率が高すぎると、教育費・老後資金・緊急時の備えが不足する可能性があります。
無理のない返済計画を立てるポイント
- 手取り収入の20~25%以内を目安にする
- 他のローンは完済してから住宅ローンを申し込む
- 頭金を多めに用意して借入額を抑える
- 変動金利の場合は金利上昇リスクを考慮する
- ボーナス返済に依存しすぎない
信頼できるファイナンシャルプランナーや住宅ローンアドバイザーに相談しながら、家計に無理のない返済計画を立てましょう。
