住宅ローンの借入額を決める重要性
住宅購入を検討する際、「年収に対してどれくらいの住宅ローンが組めるのか」と不安に感じる方は少なくありません。
この記事では、年収別の借入可能額の目安、返済比率の適正値、審査基準を具体的に解説します。住宅金融支援機構や各金融機関の公式情報を元に、無理のない返済計画を立てる方法を紹介します。
初めて住宅ローンを組む方でも、自分の年収でどれくらい借りられるか、毎月いくら返済すればよいかを正確に把握できるようになります。
この記事のポイント
- 住宅ローンの借入額は年収の5~7倍が目安、無理なく返済するには年収の5倍程度が望ましい
- 返済比率の理想は手取り年収の20~25%以内、審査基準は30~35%だが実際は20%が安心ライン
- 年収600万円なら借入可能額3,000万~4,200万円、月々返済額は10万円前後(返済比率20%)が目安
- 審査では年収だけでなく勤続年数、年齢、健康状態、信用情報も重視される
- 2025年は金利上昇傾向のため、返済シミュレーションで金利変動リスクを把握することが重要
(1) 無理な借入がもたらすリスク(家計圧迫・ローン破綻)
住宅ローンの借入額は、金融機関が「貸せる上限額」と、実際に「無理なく返済できる額」は異なります。
返済比率が35%を超えると、毎月の返済が家計を圧迫し、教育費や介護費用などの将来出費に対応できなくなるリスクがあります。特に、変動金利で借りた場合、金利が上昇すると返済額が増加し、家計が破綻する可能性もあります。
「審査に通った額=安全に返済できる額」ではないため、慎重な借入計画が必要です。
(2) 2025年の住宅ローン金利動向(変動・固定ともに上昇傾向)
2025年11月時点で、住宅ローン金利は変動・固定ともに上昇傾向にあります。SBI新生銀行によると、変動金利は0.6%台、フラット35は1.900%となっています。
日本銀行の金融政策決定会合では、2025年1月に利上げが行われ、12月にも0.25%の追加利上げの可能性が指摘されています。国内の賃金・物価上昇が続く中、今後も金利上昇リスクが高い状況です。
金利が上昇すると、変動金利で借りた場合は返済額が増加します。借入時には金利上昇時のシミュレーションを必ず行い、余裕のある返済計画を立てることが重要です。
(3) 年収と借入額の関係性
住宅ローンの借入可能額は、一般的に年収の5~7倍が目安とされています。ただし、これは「金融機関が貸せる上限額」であり、「無理なく返済できる額」とは異なります。
三井住友銀行によると、無理なく返済するには年収の5~6倍程度が望ましいとされています。また、住宅金融支援機構の調査(2023年度フラット35利用者)では、平均世帯年収は661万円で、年収の4~6倍の融資を利用しているケースが多いことがわかります。
年収だけでなく、返済比率や将来のライフイベント(教育費、車購入、介護費用等)も考慮し、現実的な借入額を設定することが重要です。
年収別の住宅ローン借入可能額の目安
(1) 借入額の基本:年収の5~7倍が目安
住宅ローンの借入可能額は、金融機関の審査基準によって異なりますが、一般的に年収の5~7倍が目安とされています。
以下の表は、年収別の借入可能額の概算です。
| 年収 | 借入可能額(5倍) | 借入可能額(7倍) | 無理のない借入額(5~6倍) |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 1,500万円 | 2,100万円 | 1,500~1,800万円 |
| 500万円 | 2,500万円 | 3,500万円 | 2,500~3,000万円 |
| 600万円 | 3,000万円 | 4,200万円 | 3,000~3,600万円 |
| 800万円 | 4,000万円 | 5,600万円 | 4,000~4,800万円 |
ただし、これはあくまで目安であり、返済比率や他のローンの有無によって実際の借入可能額は変動します。
(2) 年収300万円の場合(1,920~2,880万円)
年収300万円の場合、借入可能額は1,920~2,880万円が目安です。
具体的な返済例:
- 借入額:2,000万円
- 金利:1.0%(変動金利)
- 返済期間:35年
- 月々返済額:約5.6万円
- 年間返済額:約67万円
- 返済比率:約22%
年収300万円は住宅ローン審査の最低ラインとされており、審査に通る可能性はありますが、余裕のある返済計画を立てるには年収500万円以上が望ましいです。
(3) 年収500万円の場合(2,500~3,500万円)
年収500万円の場合、借入可能額は2,500~3,500万円が目安です。
具体的な返済例:
- 借入額:3,000万円
- 金利:1.0%(変動金利)
- 返済期間:35年
- 月々返済額:約8.5万円
- 年間返済額:約102万円
- 返済比率:約20%
返済比率20%は、手取り年収の範囲内で無理なく返済できる水準です。
(4) 年収600万円の場合(3,000~4,200万円)
年収600万円の場合、借入可能額は3,000~4,200万円が目安です。
具体的な返済例:
- 借入額:3,500万円
- 金利:1.0%(変動金利)
- 返済期間:35年
- 月々返済額:約9.9万円
- 年間返済額:約119万円
- 返済比率:約20%
三井住友銀行によると、年収600万円なら月々返済額10万円前後(返済比率20%)が無理なく返済できる目安とされています。
(5) 年収800万円の場合(4,000~5,600万円)
年収800万円の場合、借入可能額は4,000~5,600万円が目安です。
具体的な返済例:
- 借入額:4,500万円
- 金利:1.0%(変動金利)
- 返済期間:35年
- 月々返済額:約12.7万円
- 年間返済額:約152万円
- 返済比率:約19%
年収800万円あれば、比較的高額な物件の購入も視野に入ります。ただし、教育費や車購入など将来の大きな出費も考慮し、余裕のある借入計画を立てることが重要です。
(6) フラット35利用者の平均年収(661万円・2023年度)
住宅金融支援機構の調査(2023年度フラット35利用者)によると、住宅ローン利用者の平均世帯年収は661万円です。
実際の借入額は年収の4~6倍程度で、無理のない返済計画を重視する傾向が見られます。この統計は、住宅ローンを組む際の現実的な目安として参考になります。
返済比率(返済負担率)の考え方と計算方法
(1) 返済比率の定義と計算式(年間返済額÷年収×100)
返済比率(返済負担率)とは、年収に占める年間返済額の割合です。住宅ローン審査で最も重視される指標の一つです。
計算式:
返済比率 = (年間返済額 ÷ 年収) × 100
例:
- 年収600万円
- 月々返済額10万円
- 年間返済額120万円
- 返済比率 = (120万円 ÷ 600万円) × 100 = 20%
返済比率には、住宅ローンだけでなく、マイカーローン、カードローン、奨学金などの返済額も含めて計算します。
(2) 理想的な返済比率は手取り年収の20~25%
三菱UFJ銀行によると、無理なく返済するには手取り年収の20~25%以内が理想とされています。
手取り年収は、額面年収の約75~80%が目安です。例えば、額面年収600万円の場合、手取り年収は約450万円となります。
返済比率20%の例:
- 額面年収600万円
- 手取り年収450万円
- 年間返済額120万円(月10万円)
- 返済比率(額面)= 20%
- 返済比率(手取り)= 約27%
手取り年収の20%を住宅ローン返済に充て、10%を固定資産税・修繕費などの関連費用に充てるのが理想的です。
(3) 審査基準の返済比率(年収400万円未満30%、400万円以上35%)
三井住友銀行によると、金融機関の審査基準は以下の通りです。
| 年収 | 審査基準の返済比率 |
|---|---|
| 400万円未満 | 30%以内 |
| 400万円以上 | 35%以内 |
ただし、この基準は「審査に通る上限」であり、「無理なく返済できる水準」ではありません。実際には返済比率20~25%以内に抑えることが望ましいです。
返済比率が35%を超えると、家計が圧迫され、将来のライフイベント(教育費、介護費用等)に対応できなくなるリスクがあります。
(4) 他のローン(マイカー・カード・奨学金)も含めた計算
返済比率の計算には、住宅ローンだけでなく、以下のローンも含まれます。
- マイカーローン
- カードローン
- リボ払い
- 奨学金
- その他の借入
例:
- 住宅ローン返済額:月10万円(年120万円)
- マイカーローン:月2万円(年24万円)
- 年間返済額合計:144万円
- 年収600万円の場合、返済比率 = (144万円 ÷ 600万円) × 100 = 24%
住宅ローン審査前に、他のローンをできるだけ完済しておくと、審査に通りやすくなります。
住宅ローンのシミュレーション方法と活用術
(1) 金融機関のシミュレーションツールの使い方
多くの金融機関は、公式サイトで住宅ローンのシミュレーションツールを提供しています。
主なシミュレーション項目:
- 借入可能額シミュレーション(年収・返済比率から計算)
- 月々返済額シミュレーション(借入額・金利・返済期間から計算)
- 繰上返済シミュレーション(繰上返済による利息軽減効果を計算)
複数の金融機関のシミュレーションツールを使い、条件を比較検討することが重要です。
(2) 金利上昇時の返済額変動シミュレーション
変動金利で借りる場合、金利が上昇すると返済額が増加します。
金利上昇シミュレーション例:
- 借入額:3,500万円
- 返済期間:35年
- 金利0.6% → 月々返済額 約9.2万円
- 金利1.0% → 月々返済額 約9.9万円(+0.7万円)
- 金利1.5% → 月々返済額 約10.7万円(+1.5万円)
2025年は金利上昇傾向のため、金利が1.5~2.0%になった場合のシミュレーションも行い、余裕のある返済計画を立てることが推奨されます。
(3) 元利均等返済vs元金均等返済の比較
住宅ローンの返済方法には、元利均等返済と元金均等返済の2種類があります。
| 項目 | 元利均等返済 | 元金均等返済 |
|---|---|---|
| 毎月の返済額 | 一定 | 初期は多く、徐々に減少 |
| 総利息 | 多い | 少ない |
| 向いている人 | 返済計画を立てやすくしたい | 総利息を抑えたい |
元利均等返済は毎月の返済額が一定のため、返済計画が立てやすいです。一方、元金均等返済は初期の返済額が多いですが、総利息を抑えられるメリットがあります。
(4) 繰上返済・借り換えのシミュレーション
繰上返済を行うと、元金が減るため、総利息を大幅に軽減できます。
繰上返済の効果例:
- 借入額:3,500万円
- 金利1.0%、返済期間35年
- 5年目に100万円繰上返済
- 総利息軽減効果:約30万円
また、金利が下がった場合は、借り換えによる負担軽減も検討できます。ただし、借り換えには手数料(30~80万円程度)がかかるため、シミュレーションで費用対効果を確認することが重要です。
住宅ローン審査の基準と通りやすくするポイント
(1) 最低年収の目安(300万円以上)
モゲチェックによると、住宅ローン審査の最低年収は300万円以上が目安とされています。
ただし、年収300万円の場合、借入可能額は1,920~2,880万円と限られるため、購入できる物件の選択肢が狭くなります。余裕のある返済計画を立てるには、年収500万円以上が望ましいです。
(2) 審査で見られる項目(年収・勤続年数・年齢・健康状態・信用情報)
住宅ローン審査では、年収以外にも以下の項目が重視されます。
| 項目 | 審査基準 |
|---|---|
| 年収 | 300万円以上が目安 |
| 勤続年数 | 3年以上が望ましい |
| 年齢 | 完済時80歳未満 |
| 健康状態 | 団体信用生命保険(団信)加入が必須 |
| 信用情報 | カードローンの延滞・債務整理の有無 |
勤続年数が短い場合や、転職直後の場合は、審査に通りにくい傾向があります。
(3) 年収が高くても落ちる理由(信用情報・他のローン)
年収が高くても、以下の理由で審査に落ちる場合があります。
- 信用情報に傷がある:クレジットカードの支払い延滞、債務整理の履歴がある
- 他のローンが多い:マイカーローン、カードローン、リボ払いなどで返済比率が高い
- 勤続年数が短い:転職直後、自営業で収入が不安定
住宅ローン審査前に、信用情報を確認し、他のローンをできるだけ完済しておくことが推奨されます。
(4) 審査を通りやすくするポイント(返済比率を下げる・頭金を増やす)
審査を通りやすくするには、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 返済比率を下げる:他のローンを完済し、返済比率を20~25%以内に抑える
- 頭金を増やす:頭金が多いほど借入額が減り、審査に通りやすくなる
- 複数の金融機関で審査:金融機関によって審査基準が異なるため、複数社で審査を受ける
- 信用情報を確認:信用情報機関(CIC、JICC等)で自分の信用情報を確認し、問題があれば事前に対処
まとめ:無理のない返済計画の立て方
住宅ローンの借入額は、年収の5~7倍が目安ですが、無理なく返済するには年収の5倍程度が望ましいです。返済比率は手取り年収の20~25%以内に抑え、将来のライフイベント(教育費、介護費用、車購入等)も考慮した返済計画を立てることが重要です。
2025年は金利上昇傾向のため、金利が上昇した場合のシミュレーションも必ず行い、余裕のある借入計画を立てましょう。また、審査では年収だけでなく、勤続年数、年齢、健康状態、信用情報も重視されるため、事前に準備しておくことが大切です。
信頼できる金融機関やファイナンシャルプランナーに相談しながら、自分に合った住宅ローンを選び、安心して住宅購入を進めてください。
