外国人による日本の土地購入の現状
外国人(特に中国人)による日本の土地購入について、「自由に買えるのか」「規制はあるのか」と疑問に感じる方は少なくありません。安全保障上の懸念や法規制の動向に関心を持つ方も多いでしょう。
この記事では、日本における外国人土地購入の現状、現行法の規制内容、重要土地等調査規制法の概要、諸外国の規制との比較、今後の法改正動向を、内閣府等の公式情報を元に解説します。
外国人土地購入規制の現状と今後の展望を客観的に把握できるようになります。
この記事のポイント
- 日本は永住権・国籍に関係なく土地購入が可能で、世界196か国中、ほぼ無制限に外国人が土地を売買できるのは日本だけとされる
- 2022年9月施行の重要土地等調査規制法により、防衛施設・国境離島の約1km以内は「注視区域」に指定、特に重要な区域は「特別注視区域」として土地売買に届出が義務化
- 2024年4月に583カ所の指定が完了したが、水源地・農地などは対象外で規制が不十分との指摘がある
- 諸外国では厳しい規制があり、中国では土地所有権は国家・農民集団に属し外国人は買えない、シンガポールは不動産価格の60%を課税、カナダは外国人の住宅購入を禁止
- 2024年3月に岸田首相が規制検討を表明し、今後の法改正が注目される
(1) 日本は永住権・国籍に関係なく土地購入が可能
日本は、永住権や国籍に関係なく、外国人が土地・不動産を購入・所有することができます。
下村博文政策ブログによると、世界196か国の中で、ほとんど制限なく外国人が土地を売買できたのは日本だけとされています(2025年時点)。
この背景には、以下の要因があります。
- 国際協定: WTO(世界貿易機関)のGATS(サービスの貿易に関する一般協定)に基づく自由化
- 財産権保護: 憲法で保障される財産権の尊重
- 外資導入政策: 戦後の経済復興・成長のための外資導入政策
ただし、後述する重要土地等調査規制法により、一部地域では規制が導入されています。
(2) 2024年の外国人不動産購入増加の背景(円安・中国経済低迷)
健美家によると、2024年7月現在、米ドル/円は161円にまで変化しており(2020年頃は100〜110円台)、円安により外国人による日本不動産購入が増加傾向にあります。
その背景には、以下があります。
- 円安: 日本の不動産が外国人にとって割安に
- 中国経済の低迷: 中国国内の不動産市場が低迷し、日本への投資が増加
- 地政学リスク: 台湾では地政学リスクを意識して海外に資産を移す傾向
これらの要因により、外国人による日本不動産購入が増加し、安全保障上の懸念が高まっています。
(3) 世論調査(77.2%が外国人の不動産取得規制を支持)
ウチコミ!タイムズによると、産経新聞・FNN調査で77.2%が外国人の不動産取得を規制すべきと回答しています。
この背景には、以下の懸念があります。
- 安全保障上の懸念: 防衛施設・国境離島周辺の土地取得
- 相互主義の不均衡: 中国では外国人は土地を買えないが、日本では中国人が自由に土地を買える
- 水源地・農地の取得: 安全保障上重要な水源地・農地が外国資本に買われる懸念
世論の多くが規制強化を求めている状況です。
日本の外国人土地購入規制の現状と法律
(1) 外国人土地法(大正14年制定)の有名無実化
日本には「外国人土地法」(大正14年・1925年制定)という法律があります。この法律は、外国人の土地取得を規制する目的で制定されましたが、実際には発動されたことがなく、有名無実化しています。
下村博文政策ブログによると、大正14年制定の外国人土地法は現状に合った法改正が必要との声があります。
外国人土地法が発動されない理由には、以下があります。
- 国際協定との整合性: WTO等の国際協定との整合性が問題
- 相互主義の適用困難: 特定国のみを対象とした規制が困難
- 財産権保護: 憲法で保障される財産権との整合性
現行法では、外国人の土地購入を効果的に規制することが困難な状況です。
(2) WTO加盟時の留保条項なし(規制が困難な背景)
不動産投資TOKYOリスタイルによると、日本はWTO加盟時(1994年)に外国人の土地取得を規制する留保条項を盛り込みませんでした。
このため、後から規制を強化することが国際協定上困難になっています。
諸外国の多くは、WTO加盟時に留保条項を設け、外国人の土地取得を規制する権利を確保しています。日本は当時、外資導入を重視し、規制を設けなかったことが、現在の規制強化の障壁となっています。
(3) 2024年4月1日以降の登記要件変更(海外在住者は国内連絡先必須)
不動産投資TOKYOリスタイルによると、2024年4月1日以降、海外在住者が日本の不動産を購入する場合は、国内連絡先が登記に必須となりました。
これにより、以下のメリットがあります。
- 所有者の追跡: 海外在住者でも国内連絡先を通じて連絡が可能
- 法的手続きの円滑化: 訴訟・行政処分等の法的手続きが円滑に
ただし、これは規制というより手続き要件の変更であり、購入自体を制限するものではありません。
(4) 日本の規制が緩い理由(国際協定・財産権保護)
日本の外国人土地購入規制が緩い理由には、以下があります。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 国際協定 | WTO・GATS等の国際協定による自由化義務 |
| 財産権保護 | 憲法第29条で保障される財産権の尊重 |
| 外資導入政策 | 戦後の経済復興・成長のための外資導入政策 |
| 相互主義の適用困難 | 特定国のみを対象とした規制が国際法上困難 |
これらの要因により、外国人の土地購入を一律に規制することが困難な状況です。
重要土地等調査規制法の概要と指定区域
(1) 重要土地等調査規制法の成立と施行(2021年6月成立・2022年9月施行)
内閣府によると、重要土地等調査規制法(正式名称:重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律)は、2021年6月23日に公布され、2022年9月20日に施行されました。
この法律の目的は、以下の通りです。
- 安全保障上の懸念への対応: 防衛施設・国境離島周辺の土地利用を調査・規制
- 土地利用の透明性確保: 土地所有者・利用者の情報を把握
- 不適切な利用の抑止: 安全保障上脅威となる土地利用を抑止
(2) 注視区域と特別注視区域の違い
重要土地等調査規制法では、以下の2種類の区域が指定されます。
| 区域 | 範囲 | 規制内容 |
|---|---|---|
| 注視区域 | 重要施設・国境離島の約1km以内 | 土地利用の調査対象となる |
| 特別注視区域 | 注視区域の中でも特に重要な区域 | 土地売買や権利設定に届出が義務化される |
(出典: 内閣府)
特別注視区域では、土地売買や権利設定の際に内閣府への届出が必要となり、安全保障上脅威となる土地利用が確認された場合、勧告・命令が可能です。
(3) 指定区域の実態(2024年4月に583カ所指定完了)
しんぶん赤旗によると、2024年4月12日、第4回目の指定で583カ所が指定され、一時完成しました。
指定された施設には、以下があります。
- 防衛施設: 自衛隊基地、米軍基地等
- 国境離島: 国境に近い離島
- 原子力発電所: 柏崎刈羽原発等
2024年4月の第4回指定では、初めて米軍沖縄施設が注視区域・特別注視区域に指定されました。
(4) 違反時の罰則(2年以下の懲役または200万円以下の罰金)
内閣府によると、重要土地等調査規制法に違反した場合、以下の罰則が科されます。
- 虚偽報告・報告拒否: 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 命令違反: 2年以下の懲役または200万円以下の罰金
(5) 規制対象外の土地(水源地・農地等)
重要土地等調査規制法の指定区域は583カ所ですが、以下の土地は規制対象外です。
- 水源地: 安全保障上重要な水源地
- 農地: 食料安全保障上重要な農地
- その他の重要インフラ: 通信施設、送電網等
これらの土地は規制が不十分との指摘があり、今後の規制強化が検討されています。
諸外国の外国人土地購入規制との比較
(1) 中国の土地制度(土地所有権は国家・農民集団、外国人は買えない)
S.LEGA不動産によると、中国では土地所有権は国家と農民集団に属し、外国人は土地を買うことができません。
中国の土地制度は以下の通りです。
- 土地所有権: 国家または農民集団が所有
- 土地使用権: 個人・企業が一定期間(住宅用地は70年、商業用地は40年等)の使用権を取得
- 外国人の土地取得: 土地使用権の取得は可能だが、所有権は取得できない
中国人は日本で土地を自由に買えるが、日本人は中国で土地を買えないという相互主義の不均衡が問題視されています。
(2) シンガポール(不動産価格の60%を課税)
日本経済新聞によると、シンガポールは外国人に不動産価格の60%の税金を課しています(2025年時点)。
この高額な税金により、外国人の不動産購入を実質的に抑制しています。
(3) カナダ(外国人の住宅購入を禁止)
日本経済新聞によると、カナダは外国人の住宅購入を禁止しています。
カナダでは、自国民の住宅価格高騰を抑えるため、外国人投資家による住宅購入を禁止しました。
(4) アメリカ(大統領の安全保障上の取引停止権限)
日本経済新聞によると、アメリカには大統領の安全保障上の取引停止・禁止権限があります。
アメリカでは、CFIUS(対米外国投資委員会)が外国人による不動産取得を審査し、安全保障上の懸念がある場合、大統領が取引を停止・禁止できます。
(5) 相互主義の観点からの日本の課題
諸外国の規制状況と比較すると、日本の規制は極めて緩いことがわかります。
| 国 | 外国人土地購入規制 |
|---|---|
| 日本 | 原則自由(重要土地規制法で一部制限) |
| 中国 | 土地所有権は不可、土地使用権のみ |
| シンガポール | 不動産価格の60%を課税 |
| カナダ | 住宅購入を禁止 |
| アメリカ | 安全保障上の審査あり |
相互主義の観点から、中国人は日本で土地を自由に買えるが、日本人は中国で土地を買えないという不均衡が問題視されています。
外国人土地購入に関する今後の動向と課題
(1) 2024年3月25日の岸田首相発言(規制検討を表明)
不動産投資TOKYOリスタイルによると、2024年3月25日、岸田首相が「外国人の土地取得規制の検討を進めたい」と発言しました。
この発言により、今後の法改正が注目されています。
(2) 規制強化の検討課題(水源地・農地等の追加指定)
規制強化の検討課題には、以下があります。
- 水源地の規制: 安全保障上重要な水源地を重要土地規制法の対象に追加
- 農地の規制: 食料安全保障上重要な農地を規制対象に追加
- 通信施設・送電網: 重要インフラを規制対象に追加
これらの土地は現在規制対象外で、外国人が自由に購入できる状況です。
(3) 相互主義の不均衡問題(中国では買えないが日本では買える)
相互主義の観点から、以下の問題があります。
- 中国人は日本で土地を自由に買える: 永住権・国籍不要
- 日本人は中国で土地を買えない: 土地所有権は国家・農民集団のみ
この不均衡を解消するため、相互主義に基づく規制強化が検討されています。
(4) 安全保障と財産権保護のバランス
外国人土地購入規制には、以下のバランスが求められます。
- 安全保障: 防衛施設・国境離島・水源地等の安全保障上重要な土地の保護
- 財産権保護: 憲法で保障される財産権の尊重
- 国際協定: WTO・GATS等の国際協定との整合性
一律の規制は国際協定・財産権保護の観点から困難であり、重要土地規制法のような個別の規制が現実的とされています。
まとめ:外国人土地購入規制の現状と展望
日本は永住権・国籍に関係なく外国人が土地を購入できる国であり、世界196か国中、ほぼ無制限に外国人が土地を売買できるのは日本だけとされています。
2022年9月施行の重要土地等調査規制法により、防衛施設・国境離島の約1km以内は「注視区域」に指定され、特に重要な区域は「特別注視区域」として土地売買に届出が義務化されました。2024年4月に583カ所の指定が完了しましたが、水源地・農地などは対象外で規制が不十分との指摘があります。
諸外国では厳しい規制があり、中国では土地所有権は国家・農民集団に属し外国人は買えず、シンガポールは不動産価格の60%を課税、カナダは外国人の住宅購入を禁止しています。相互主義の観点から、日本の規制が緩すぎるとの指摘があります。
2024年3月に岸田首相が規制検討を表明し、今後の法改正が注目されます。安全保障と財産権保護のバランスを取りながら、適切な規制を整備することが求められています。
最新の法改正動向は、内閣府の公式サイトでご確認ください。
