外国人の土地購入問題が注目される背景
近年、外国人による日本の土地購入が大きな話題となっています。ニュースで「防衛施設周辺の土地が外国資本に買収された」「水源地が外国人の手に渡った」といった報道を目にし、「外国人の土地購入は禁止されているのでは?」と疑問に感じる方も少なくありません。
この記事では、日本における外国人の土地購入の現状、問題視されている背景、今後の規制動向について、衆議院の質問主意書や日本経済新聞の報道を元に解説します。
外国人として日本で土地購入を検討している方、または日本の土地制度に関心をお持ちの方にとって、正確な情報を得られる内容となっています。
この記事のポイント
- 現在、日本では外国人の土地購入は禁止されておらず、日本人と同じ条件で購入可能
- 安全保障上の懸念、税徴収の困難、所有権追跡の困難、地域経済への影響の4つの問題点がある
- 2022年に重要土地等調査規制法が施行され、防衛施設周辺等では事前届出が必要に
- 2024年に規制法案が再提出され、2025年には大規模土地取引の国籍届出義務化が開始
- 諸外国では外国人の土地取得に課税や購入禁止等の規制があるが、日本はGATS加盟時の経緯により規制が少ない
安全保障上の懸念:防衛施設周辺や水源地等の土地買収
外国人の土地購入問題が注目される最大の理由は、安全保障上の懸念です。防衛施設周辺や国境離島、水源地等の重要施設近くでも、現在の法制度では外国人が自由に土地を購入できます。
福岡県議会の意見書では、「ドローン監視や有事の際の妨害のリスク」が指摘されています。地方自治体から国への法整備要請が相次いでいる状況です。
円安による外国人の日本不動産購入の増加(2023年371件取得)
2023年、外国人が371件の不動産を取得しました(174件が土地、197件が建物)。国籍別では中国が203件、韓国が49件、台湾が46件と、アジア圏からの購入が多数を占めています。
円安の進行により、外国人にとって日本の不動産は割安感があり、購入が増加している傾向にあります。都心の新築マンションでは、購入者の20〜40%が外国人とする調査もあります。
日本の現状:外国人土地購入は禁止されていない
外国人でも日本人と同じ条件で土地・建物を購入可能
現在、日本では外国人の土地購入を禁止する法律はありません。外国人でも日本人と同じ条件で土地・建物を購入できます。
購入後の登記手続き、固定資産税・都市計画税の納税義務、譲渡所得税の申告等も、日本の民法・不動産登記法・税法等が適用されます。日本人と同様の手続きが必要です。
永住権やビザがなくても購入できる理由
永住権やビザがなくても、外国人は日本で土地を購入できます。これは日本が不動産取引において、外国人に対する制限を設けていないためです。
ただし、購入後の固定資産税未納時の対応や、非居住者が土地を売却する際の源泉徴収(譲渡対価の10.21%)等、税務上の扱いには注意が必要です。詳細は税理士への相談を推奨します。
GATS加盟時の経緯:「無条件で土地取引可能」という条件
日本が外国人の土地購入を規制しない背景には、1994年のGATS(サービスの貿易に関する一般協定)加盟時の経緯があります。
GATSはWTO(世界貿易機関)設立と共に発効したサービス貿易の自由化を目指す国際協定です。日本は「外国人が無条件で土地取引可能」という条件で加盟しました。これにより、外国人の土地取得に制限を設けにくい状況となっています。
外国人土地購入の4つの問題点と懸念
安全保障上の懸念:ドローン監視や有事の際の妨害リスク
防衛施設周辺や国境離島等の重要施設近くで外国人が土地を所有する場合、以下のリスクが指摘されています。
- ドローン監視: 施設内の情報が撮影される可能性
- 有事の際の妨害: 施設の運用を妨害される可能性
- 情報漏洩: 施設の動向が外国に伝わる可能性
これらの懸念に対応するため、2022年に重要土地等調査規制法が施行されました(詳細は後述)。
税徴収の困難:外国人所有者の固定資産税未納時の対応
外国人が土地を所有する場合、固定資産税の徴収に困難が伴う場合があります。
| 問題点 | 内容 |
|---|---|
| 言語の壁 | 日本語での納税通知書が理解されない可能性 |
| 連絡手段の限界 | 海外在住の所有者への連絡が困難 |
| 徴収コストの増加 | 未納時の対応に多大なコストがかかる |
地方自治体にとって、外国人所有者の税徴収は負担となる可能性があります。
所有権の追跡困難:海外での転売による追跡の限界
外国人同士で土地が海外で転売された場合、所有権の追跡が困難になる可能性があります。
日本の不動産登記制度では、所有者の変更は登記が必要ですが、海外での転売契約や所有権移転の実態把握には限界があります。
地域経済への影響:インバウンド収益の国外流出
外国資本による観光産業の買収により、インバウンド収益が国外に流出する懸念があります。
ホテルや旅館等の観光施設が外国資本に買収された場合、収益が国外に送金されるため、地域経済への貢献が限定的になる可能性があります。
日本の法制度と今後の規制動向
外国人土地法(1925年制定):戦後一度も発動されず
外国人土地法は1925年に制定された法律で、日本に住所を有しない外国人または外国法人が国防上重要な地域で土地の権利を取得する場合、政令で制限できると規定しています。
しかし、戦後、現憲法下では一度も発動されていません。Wikipediaによると、相互主義(外国が自国民に対して制限を設けている場合、日本もその国の国民に対して同様の制限を設ける)の規定もありますが、実際には適用されていません。
重要土地等調査規制法(2022年施行):防衛施設周辺等の事前届出義務
2022年9月に重要土地等調査規制法が施行されました。この法律により、防衛施設周辺や国境離島等の重要な土地の利用を調査・規制できるようになりました。
対象地域では、土地利用の事前届出が必要です。届出を怠った場合や、不適切な利用が認められた場合は、勧告や命令の対象となる可能性があります。
2025年の新制度:大規模土地取引の国籍届出義務化
日本経済新聞によると、2025年9月、政府が外国人による土地取得の国籍届出を義務化する新制度を開始しました。
大規模な土地取引の実態把握を急ぐため、外国人が一定規模以上の土地を取得する際は、国籍を届け出ることが義務付けられます。安全保障上の懸念に対応する狙いがあります。
2024年の規制法案再提出と政府の検討状況
2024年12月、国民民主党と日本維新の会が「外国人土地取得規制法案」を衆議院に再提出しました。また、2024年3月には岸田首相(当時)が「国家安全保障に関わる土地売買の規制を検討する」と表明しています。
2025年10月には、政府が11月4日に閣僚会議を開き、外国人土地取得規制等を協議すると発表されています。今後の法整備の動向に注目が集まっています。
各国の規制との比較:なぜ日本だけ自由なのか
中国:外国人は土地所有不可(使用権のみ)
中国では、外国人は土地を所有できません。土地はすべて国有または集団所有であり、外国人が取得できるのは使用権のみです。
使用権の期間は、住宅用地で70年、商業用地で40年等と定められています。
韓国:許可制、相互主義を採用
韓国では、外国人が土地を取得する際は許可制が採用されています。また、相互主義により、韓国人が土地取得に制限を受ける国の国民に対しては、同様の制限が設けられます。
オーストラリア・カナダ・シンガポール:課税や購入禁止等の規制あり
諸外国では、外国人の土地取得に以下のような規制があります。
| 国 | 規制内容 |
|---|---|
| オーストラリア | 外国人の住宅購入には事前承認が必要 |
| カナダ | 一部州で外国人の住宅購入を一時禁止 |
| シンガポール | 外国人の不動産取得には60%の追加課税 |
これらの規制と比較すると、日本は外国人の土地取得が自由な国と言えます。
日本が規制を設けない理由:GATS加盟と私権優先の姿勢
日本が規制を設けない背景には、GATS加盟時の経緯と、安全保障より私権を優先する姿勢があります。
JBpressの分析によると、日本はGATS加盟時に留保条項を付けず、外国人の土地取得規制を放棄しました。安全保障より私権を優先した結果と指摘されています。
まとめ:今後の展望と注意点
現在、日本では外国人の土地購入は禁止されておらず、日本人と同じ条件で購入可能です。しかし、安全保障上の懸念、税徴収の困難、所有権追跡の困難、地域経済への影響といった問題点が指摘されています。
2022年の重要土地等調査規制法施行、2025年の大規模土地取引の国籍届出義務化、2024年の規制法案再提出等、規制強化の動きが進んでいます。今後の法整備の動向に注目が必要です。
外国人として日本で土地購入を検討する場合は、重要土地等調査規制法の対象地域かどうか、税務上の扱い等を事前に確認し、必要に応じて弁護士や不動産業者、税理士への相談を推奨します。最新の法制度は衆議院や日本経済新聞等の公式情報で確認しましょう。
