全期間固定金利住宅ローンとは?基本の仕組みを理解する
住宅ローンを検討する際、「金利タイプをどう選べばいいのか」と悩まれる方は多いでしょう。特に、全期間固定金利は「金利が高い」というイメージから敬遠されがちですが、実はメリット・デメリットを正しく理解すれば、適切な選択肢となる場合もあります。
この記事では、全期間固定金利住宅ローンの仕組み、メリット・デメリット、変動金利との違い、代表的な商品(フラット35等)、選ぶべき人の特徴を詳しく解説します。
この記事を読むことで、全期間固定金利が自分に合っているかどうかを判断できるようになります。
この記事のポイント
- 全期間固定金利は、借入時の金利が返済終了まで変わらない
- 金利上昇リスクを避けられるが、変動金利より金利が高い(2024年現在、変動0.3~0.5%に対し、固定1.5~2.0%程度)
- フラット35は代表的な全期間固定金利商品で、保証料なし・繰上返済手数料なしが特徴
- 将来の金利上昇が不安な方、返済計画を確実に立てたい方に適している
(1) 全期間固定金利の定義と仕組み(借入時の金利が返済終了まで変わらない)
全期間固定金利とは、住宅ローンを借りた時点で決まった金利が、返済終了まで一切変わらない金利タイプです。
全期間固定金利の仕組み
- 借入時に金利が確定
- 返済期間中、金利は一切変動しない
- 毎月の返済額も一定(元利均等返済の場合)
例えば、3,000万円を金利1.5%で35年間借りた場合、総返済額は約3,855万円(利息約855万円)と計算できます。この金利と返済額は、35年間変わりません。
(2) 変動金利・固定金利期間選択型との違い
住宅ローンの金利タイプは、大きく分けて3種類あります。
| 金利タイプ | 特徴 | 金利水準(2024年現在) |
|---|---|---|
| 全期間固定金利 | 借入時の金利が返済終了まで変わらない | 1.5~2.0%程度 |
| 変動金利 | 市場金利に応じて半年ごとに見直される | 0.3~0.5%程度 |
| 固定金利期間選択型 | 一定期間は固定金利、期間終了後は変動金利または再度固定金利を選択 | 0.5~1.5%程度 |
変動金利との主な違い
- 全期間固定金利: 金利上昇リスクなし、金利は高め
- 変動金利: 金利上昇リスクあり、金利は低め
固定金利期間選択型との主な違い
- 全期間固定金利: 返済終了まで金利が変わらない
- 固定金利期間選択型: 一定期間のみ固定、期間終了後は金利が変わる可能性
(3) 全期間固定金利の代表的な商品(フラット35、財形住宅融資等)
全期間固定金利の代表的な商品は以下の通りです。
フラット35
- 住宅金融支援機構と民間金融機関が提携した住宅ローン
- 全期間固定金利で、最長35年間借入可能
- 保証料なし、繰上返済手数料なし
- 購入価格の最大100%まで融資可能(条件による)
フラット50
- フラット35の長期版で、最長50年間借入可能
- 耐久性の高い住宅(長期優良住宅等)が対象
財形住宅融資
- 勤務先で財形貯蓄をしている方が利用可能
- 全期間固定金利で、最長35年間借入可能
- 財形貯蓄残高の10倍まで融資可能(上限4,000万円)
民間金融機関の全期間固定金利ローン
- 一部の銀行が提供
- 金利水準や条件は金融機関により異なる
この記事では、最も利用されているフラット35を中心に解説します。
全期間固定金利のメリット|金利上昇リスクを避けられる安心感
(1) 返済額が一定で将来の家計管理がしやすい
全期間固定金利の最大のメリットは、返済額が一定であることです。
返済額が一定のメリット
- 毎月の返済額が変わらないため、家計管理がしやすい
- 将来の収支計画を立てやすい
- 教育費・老後資金等の長期的な資金計画が立てやすい
例えば、3,000万円を金利1.5%で35年間借りた場合、毎月の返済額は約91,855円(元利均等返済)です。この返済額は35年間変わりません。
(2) 金利上昇リスクがないため、金利動向を気にする必要がない
全期間固定金利では、金利上昇リスクがありません。
金利上昇リスクがないメリット
- 市場金利が上昇しても、返済額は変わらない
- 金利動向を常に気にする必要がない
- 精神的な安心感がある
変動金利の場合、市場金利が上昇すると返済額も増加します。全期間固定金利なら、このリスクを避けられます。
(3) 将来の金利上昇局面でも安心して返済できる
将来、金利が大幅に上昇した場合、全期間固定金利の優位性が高まります。
金利上昇局面でのメリット
- 借入時の低金利を返済終了まで享受できる
- 変動金利で借りた場合、金利上昇により返済額が増加するリスクがある
- 全期間固定金利なら、金利上昇の影響を受けない
例えば、変動金利0.5%で借りた場合、金利が2.0%に上昇すると、返済額は大幅に増加します。全期間固定金利1.5%で借りていれば、このリスクを避けられます。
全期間固定金利のデメリット|変動金利より金利が高い
(1) 変動金利に比べて金利が高い(2024年現在、変動0.3~0.5%に対し、固定1.5~2.0%程度)
全期間固定金利の最大のデメリットは、変動金利に比べて金利が高いことです。
金利差の影響
- 2024年現在、変動金利が0.3~0.5%程度に対し、全期間固定金利(フラット35)は1.5~2.0%程度です
- 金利差により、総返済額が大きく異なります
例えば、3,000万円を35年間借りた場合の総返済額は以下の通りです。
| 金利タイプ | 金利 | 総返済額 | 利息 |
|---|---|---|---|
| 変動金利 | 0.5% | 約3,243万円 | 約243万円 |
| 全期間固定金利 | 1.5% | 約3,855万円 | 約855万円 |
| 差額 | - | 約612万円 | 約612万円 |
金利が1.0%高いと、総返済額が約612万円増加します。
(2) 総返済額が多くなる可能性がある(金利差1.0%で総返済額約612万円増)
全期間固定金利は、変動金利に比べて総返済額が多くなる可能性があります。
総返済額が多くなる理由
- 金利が高いため、利息の支払いが多くなる
- 変動金利の場合、金利が低い状態が続けば、総返済額を抑えられる
上記の例の通り、金利差1.0%で総返済額が約612万円増加します。これは、全期間固定金利の大きなデメリットです。
(3) 金利が下がった場合でも恩恵を受けられない
全期間固定金利の場合、借入後に市場金利が下がっても、返済額は変わりません。
金利低下時のデメリット
- 市場金利が下がっても、返済額は変わらない
- 変動金利で借りた場合、金利低下により返済額が減少する可能性がある
- 全期間固定金利では、金利低下の恩恵を受けられない
例えば、全期間固定金利1.5%で借りた後、市場金利が0.5%まで下がった場合、変動金利で借りた方が総返済額を抑えられます。
全期間固定金利(フラット35)の特徴と利用条件
(1) フラット35の仕組み(住宅金融支援機構と民間金融機関の提携ローン)
フラット35は、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携した住宅ローンです。
フラット35の仕組み
- 民間金融機関が融資を実行
- 住宅金融支援機構が住宅ローン債権を買い取る
- これにより、民間金融機関は長期固定金利のリスクを負わずに融資できる
(2) 保証料なし、繰上返済手数料なしのメリット
フラット35は、保証料なし、繰上返済手数料なしが特徴です。
フラット35の費用面でのメリット
- 保証料なし: 通常の住宅ローンでは、保証会社に保証料(借入額の1~2%程度)を支払う必要がありますが、フラット35は不要です
- 繰上返済手数料なし: 繰上返済をしても手数料がかかりません(インターネット経由の場合)
例えば、3,000万円の住宅ローンで保証料が1.5%の場合、保証料は45万円です。フラット35なら、この費用を節約できます。
(3) 融資率・借入期間・金利の関係(融資率9割以下で金利優遇)
フラット35では、融資率(購入価格に対する借入額の割合)により金利が異なります。
融資率と金利の関係
- 融資率9割以下: 金利が低い
- 融資率9割超: 金利が高い(約0.4%高くなる)
例えば、購入価格3,000万円の住宅で、借入額2,700万円(融資率90%)の場合、融資率9割以下の金利が適用されます。借入額3,000万円(融資率100%)の場合、融資率9割超の金利が適用されます。
頭金を多めに用意することで、金利を下げることができます。
(4) フラット35Sによる金利引き下げ(省エネ・耐震等の条件を満たす住宅)
フラット35Sは、省エネ性・耐震性等の条件を満たす住宅を購入する場合、一定期間金利が引き下げられる制度です。
フラット35Sの金利引き下げ
- 金利Aプラン: 当初10年間、金利を0.25%引き下げ
- 金利Bプラン: 当初5年間、金利を0.25%引き下げ
条件を満たす住宅
- 省エネルギー性が高い住宅
- 耐震性が高い住宅
- バリアフリー性が高い住宅
- 耐久性・可変性が高い住宅
例えば、フラット35の金利が1.5%の場合、フラット35S(金利Aプラン)を利用すると、当初10年間は1.25%の金利で借入できます。
全期間固定金利を選ぶべき人・避けるべき人
(1) 将来の金利上昇が不安な方(金利動向を気にしたくない)
全期間固定金利は、将来の金利上昇が不安な方に適しています。
全期間固定金利が適している方
- 金利が上昇した場合の返済額増加に耐えられない
- 金利動向を常に気にするストレスを避けたい
- 家計管理を確実に行いたい
全期間固定金利なら、金利上昇リスクを避けられるため、安心して返済できます。
(2) 返済計画を確実に立てたい方(毎月の返済額が一定)
全期間固定金利は、返済計画を確実に立てたい方に適しています。
全期間固定金利が適している方
- 将来の収入・支出を予測しやすくしたい
- 教育費・老後資金等の長期的な資金計画を立てたい
- 返済額の変動により家計が圧迫されるリスクを避けたい
毎月の返済額が一定であることで、長期的な資金計画を立てやすくなります。
(3) 少しでも総返済額を抑えたい方は変動金利が適している
全期間固定金利は、総返済額が多くなる可能性があります。少しでも総返済額を抑えたい方は、変動金利が適しています。
変動金利が適している方
- 金利上昇リスクを許容できる
- 将来の収入増加が見込める
- 繰上返済を積極的に行える
- 金利動向を定期的にチェックできる
変動金利の場合、金利が低い状態が続けば、総返済額を大幅に抑えられます。ただし、金利上昇リスクを考慮する必要があります。
全期間固定金利と変動金利のシミュレーション比較
(1) 借入額3,000万円、返済期間35年の場合の総返済額比較
借入額3,000万円、返済期間35年の場合の総返済額を比較します。
| 金利タイプ | 金利 | 毎月返済額 | 総返済額 | 利息 |
|---|---|---|---|---|
| 変動金利 | 0.5% | 約77,875円 | 約3,243万円 | 約243万円 |
| 全期間固定金利 | 1.5% | 約91,855円 | 約3,855万円 | 約855万円 |
| 差額 | - | 約13,980円 | 約612万円 | 約612万円 |
金利が1.0%高いと、毎月の返済額が約13,980円、総返済額が約612万円増加します。
(2) 金利が1%上昇した場合の返済額への影響
変動金利の場合、金利が1%上昇すると、返済額がどのくらい増加するか見てみましょう。
変動金利0.5%の場合
- 借入額3,000万円、返済期間35年
- 毎月返済額: 約77,875円
金利が1.5%に上昇した場合
- 毎月返済額: 約91,855円
- 増加額: 約13,980円/月(約167,760円/年)
金利が1%上昇すると、毎月の返済額が約13,980円増加します。年間では約167,760円の負担増です。
(3) 繰上返済を行った場合の効果(全期間固定金利vs変動金利)
繰上返済を行った場合、どちらの金利タイプが有利かを見てみましょう。
全期間固定金利の場合
- 金利1.5%で借入
- 繰上返済により利息を削減できる
- ただし、金利が高いため、削減効果は限定的
変動金利の場合
- 金利0.5%で借入
- 繰上返済により利息を削減できる
- 金利が低いため、元本を早く減らせる
繰上返済を積極的に行える場合、変動金利の方が総返済額を抑えやすい傾向があります。
まとめ|全期間固定金利が自分に合っているか判断するポイント
全期間固定金利住宅ローンは、借入時の金利が返済終了まで変わらないため、金利上昇リスクを避けられます。毎月の返済額が一定で、将来の家計管理がしやすいのが最大のメリットです。
一方、変動金利に比べて金利が高く(2024年現在、変動0.3~0.5%に対し、固定1.5~2.0%程度)、総返済額が多くなる可能性があります。金利差1.0%で総返済額が約612万円増加することを考慮する必要があります。
フラット35は代表的な全期間固定金利商品で、保証料なし・繰上返済手数料なしが特徴です。融資率9割以下で金利優遇があり、フラット35Sを利用すれば、当初5~10年間金利が0.25%引き下げられます。
全期間固定金利は、将来の金利上昇が不安な方、返済計画を確実に立てたい方に適しています。少しでも総返済額を抑えたい方は、変動金利が適しています。
判断のポイント
- 金利上昇リスクを避けたい → 全期間固定金利
- 総返済額を抑えたい → 変動金利
- 返済額の安定を重視 → 全期間固定金利
- 繰上返済を積極的に行える → 変動金利
ファイナンシャルプランナーや住宅ローンアドバイザーに相談し、自分に合った金利タイプを選びましょう。


