固定資産税がない国が存在する背景と理由
海外移住や海外不動産投資を検討する際、「固定資産税がない国はあるのか」と気になる方は少なくありません。
この記事では、固定資産税がない国・低い国の具体例、その理由、日本との違いを、公的機関のデータを元に解説します。
海外移住や不動産投資を検討する方が、税制面での選択肢を正しく理解できるようになります。
この記事のポイント
- 固定資産税がない国は主に中東産油国(UAE・カタール・クウェート)とタックスヘイブン(モナコ・ケイマン諸島)
- 固定資産税がない理由は、石油収入またはタックスヘイブンとしての金融・法人登記収入で国家財政を賄えるため
- 固定資産税が低い国(タイ0.02~0.1%、シンガポール累進課税)も存在する
- 日本の固定資産税(1.4%)は国際的に中程度の水準で、住宅用地の1/6軽減措置がある
- 海外不動産投資では、固定資産税だけでなく、総合的な税負担(所得税・消費税・譲渡税等)を確認する必要がある
(1) 石油収入で国家財政を賄える中東産油国の仕組み
中東の産油国(UAE・カタール・クウェート等)は、石油収入により国家財政を賄えるため、固定資産税を課す必要がありません。
石油の輸出による外貨収入が国家予算の大半を占めるため、国民や不動産所有者から税金を徴収しなくても、公共サービスを提供できます。
ただし、石油価格の変動や埋蔵量の減少により、将来的に不動産保有税を導入する可能性がある点に注意が必要です。
(2) タックスヘイブンのビジネスモデル(金融・法人登記で収入確保)
モナコやケイマン諸島などのタックスヘイブンは、所得税・法人税・相続税・固定資産税等の税金が無い、または極めて低い国・地域です。
これらの国は、税金を低く抑えることで、世界中の富裕層や企業を誘致し、金融サービスや法人登記の手数料で国家収入を確保するビジネスモデルを採用しています。
不動産保有税は課されませんが、売却時の譲渡税や登記手数料等、他の税金・費用がかかる場合があります。
(3) 世界的に見て固定資産税制度は一般的(ほとんどの国で存在)
総務省の資料によると、固定資産税(不動産保有税)は、ほとんどの国で存在する一般的な税制です。
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア等の主要国では、固定資産税が課されています。
固定資産税がない国は、中東産油国とタックスヘイブンに限られ、世界的には例外的な存在です。
固定資産税がない主要国:中東産油国とタックスヘイブン
固定資産税が完全にゼロの国は、以下の通りです。
| 国・地域 | 固定資産税 | 代替財源 | 売却時の税金 |
|---|---|---|---|
| UAE(アラブ首長国連邦) | なし | 石油収入 | 譲渡税15% |
| カタール | なし | 石油収入 | ケースにより課税 |
| クウェート | なし | 石油収入 | ケースにより課税 |
| モナコ | なし | 法人登記・金融 | 譲渡税あり |
| ケイマン諸島 | なし | 法人登記・金融 | 譲渡税あり |
(1) UAE(アラブ首長国連邦):不動産保有税なし、売却時の譲渡税15%
UAE(ドバイ・アブダビ等)では、不動産を所有している間の固定資産税は課されません。
ただし、不動産を売却する際には、譲渡税(Capital Gains Tax)として売却益の15%が課税される場合があります。
また、購入時には登録手数料(4%程度)がかかるため、固定資産税がゼロでも、他の費用が発生する点に注意が必要です。
(2) カタール・クウェート:石油収入により無税
カタールとクウェートは、石油・天然ガスの収入により国家財政を賄っており、固定資産税は課されません。
所得税や法人税もゼロまたは極めて低く、税負担が非常に軽い国として知られています。
ただし、石油収入が減少した場合、将来的に税制が導入される可能性がある点を考慮する必要があります。
(3) モナコ・ケイマン諸島:タックスヘイブンとして固定資産税なし
モナコとケイマン諸島は、タックスヘイブンとして、所得税・法人税・相続税・固定資産税がゼロです。
モナコは富裕層の移住先として、ケイマン諸島は法人登記地として人気があります。
ただし、モナコの不動産価格は世界最高水準(1㎡あたり数十万ユーロ)であり、固定資産税がなくても、初期投資額が極めて高い点に注意が必要です。
(4) 将来的なリスク:石油収入減少による税制導入の可能性
中東産油国は、石油収入が減少すると、将来的に不動産保有税を導入する可能性があります。
実際、タイは2020年に土地建物税を新たに導入した例があります(後述)。
長期的な海外不動産投資を検討する場合は、税制変更リスクを考慮し、最新情報を各国の税務当局で確認することが重要です。
固定資産税が低い国:アジア・欧州の事例
固定資産税がゼロではないものの、日本より大幅に低い国も存在します。
| 国 | 税率 | 日本との比較 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| タイ | 0.02~0.1% | 日本(1.4%)の1/14~1/70 | 2020年に新規導入 |
| シンガポール | 累進課税 | ケースによる | 自己居住用と投資用で区別 |
| アメリカ | 0.5~3% | 州により日本より高い | 州により大きく異なる |
(1) タイ:2020年に土地建物税導入、税率0.02~0.1%(日本の1.4%より大幅に低い)
タイは2020年に土地建物税(Land and Building Tax)を新たに導入しましたが、税率は0.02~0.1%と、日本の1.4%より大幅に低い水準です。
評価額5,000万バーツ以下の自己居住用不動産は非課税となるため、多くの自己居住用不動産は税負担がゼロです。
また、COVID-19対策として2022年・2023年に90%減税が実施された経緯があり、実質的な税負担はさらに低くなっています。
(2) シンガポール:累進課税、自己居住用と投資用で税率を区別
シンガポールの不動産税(Property Tax)は累進課税を採用しており、不動産の評価額が高いほど税率が上がります。
2024年時点で、自己居住用と投資用で税率を区別しており、投資用不動産の税率は10~36%と高く設定されています。
自己居住用不動産の場合、年間評価額(Annual Value)8,000シンガポールドル以下の部分は0%、それ以上の部分は累進的に課税されます。
(3) アメリカ:州により0.5~3%と幅があり、日本より高い場合が多い
アメリカの固定資産税(Property Tax)は、州により0.5~3%と幅があります。
ニュージャージー州(2.49%)やイリノイ州(2.27%)は日本(1.4%)より高く、ハワイ州(0.28%)やアラバマ州(0.41%)は日本より低い水準です。
アメリカの固定資産税は評価替えが毎年行われるため、不動産価格の上昇に応じて税額が上がる点に注意が必要です。
(4) 欧州主要国(英国・ベルギー・イタリア・スウェーデン)の税制
国立国会図書館の調査報告によると、欧州主要国(英国・ベルギー・イタリア・スウェーデン)でも固定資産税が課されています。
英国のCouncil Taxは、不動産の評価額に応じて年間1,000~3,000ポンド程度、イタリアのIMUは評価額の0.4~1.06%が課税されます。
欧州各国は、固定資産税を地方自治体の重要な財源として位置づけています。
税制の代替財源と総合的な税負担の考え方
固定資産税がない国でも、他の税金で財源を確保しています。
(1) 固定資産税がない国の代替財源(消費税・所得税・法人税・売却時譲渡税)
UAEでは、2018年に消費税(VAT)5%を導入し、固定資産税の代わりに消費税で財源を確保しています。
また、不動産売却時には譲渡税15%が課されるため、固定資産税がゼロでも、総合的な税負担は決して低くない場合があります。
タックスヘイブンの国でも、法人登記手数料や金融取引手数料を高く設定することで、国家収入を確保しています。
(2) 総合的な税負担を比較する重要性(固定資産税だけで判断しない)
海外移住や不動産投資を検討する際は、固定資産税だけでなく、所得税・消費税・譲渡税・相続税等、総合的な税負担を比較することが重要です。
固定資産税がゼロでも、所得税や消費税が高い場合、総合的な税負担は日本より高くなる可能性があります。
東京都の資料によると、海外進出時には、現地の税制を総合的に確認することが推奨されています。
(3) 社会保障・医療・教育等の公共サービスとの関係
税負担が低い国は、社会保障・医療・教育等の公共サービスが不十分な場合があります。
UAEやシンガポールでは、医療費が高額であり、民間保険への加入が必須です。
税負担だけでなく、生活コスト・医療費・教育費等を含めた総合的なコストを比較することが重要です。
日本の固定資産税(1.4%)との国際比較
日本の固定資産税は、国際的に見て中程度の水準です。
(1) 日本は国際的に中程度の税率(アメリカより低い)
総務省の資料によると、日本の固定資産税の標準税率1.4%は、アメリカの多くの州(1.5~2.5%)より低い水準です。
タイ(0.02~0.1%)やシンガポール(自己居住用は低率)より高いものの、欧州主要国と比較しても極端に高いわけではありません。
(2) 住宅用地の1/6軽減措置(200㎡以下)
日本の固定資産税には、住宅用地の特例があります。
200㎡以下の部分は課税標準額が1/6に軽減され、200㎡超の部分は1/3に軽減されます。
この軽減措置により、実質的な税負担は標準税率1.4%より低くなります。
(3) 3年ごとの評価替えと評価方法の特徴
日本の固定資産税は、3年ごとに評価替えが行われます(アメリカは毎年、英国は定期的)。
評価方法は、固定資産税評価額(時価の約70%)を基準とするため、実際の市場価格より低い金額で課税されます。
この点も、日本の固定資産税が国際的に見て中程度の負担である理由の一つです。
まとめ:海外移住・不動産投資時の税制確認ポイント
固定資産税がない国は、中東産油国(UAE・カタール・クウェート)とタックスヘイブン(モナコ・ケイマン諸島)に限られます。これらの国は、石油収入または法人登記・金融収入で国家財政を賄えるため、不動産保有税を課す必要がありません。
ただし、固定資産税がゼロでも、消費税・所得税・譲渡税等、他の税金がかかる場合があり、総合的な税負担を確認することが重要です。
日本の固定資産税(1.4%)は国際的に中程度の水準であり、住宅用地の1/6軽減措置もあります。
海外移住や不動産投資を検討する際は、国際税理士や移住コンサルタントに相談し、税制だけでなく、ビザ要件・医療・教育・生活コスト等を総合的に考慮することを推奨します。


