日銀利上げが住宅ローンに与える影響とは
住宅ローンを変動金利で借りている方、またはこれから借りようと考えている方にとって、「日銀の利上げで金利は上がるのか」「返済額はどれくらい増えるのか」という不安は大きいでしょう。
この記事では、日銀の利上げが住宅ローン金利(特に変動金利)にどう影響するか、返済額の増加シミュレーション、利上げ局面での対策を解説します。情報は日本経済新聞、みずほリサーチ&テクノロジーズ等の信頼できる情報源に基づいています。
この記事のポイント
- 2024年3月に日銀がマイナス金利政策を解除、2025年1月には政策金利を0.5%へ引き上げ(約17年ぶりの利上げ局面)
- 住宅ローン利用者の76.9%が変動金利を選択しており、利上げの影響が広範囲に及ぶ
- 4,500万円を35年ローンで借りた場合、2回の利上げで月約8,000円の返済額増加
- 固定金利への借り換えは手数料と金利差を比較検討し、ファイナンシャルプランナー等への相談が推奨される
2024年からの利上げ局面の経緯
2024年3月、日本銀行はマイナス金利政策を解除しました。これは2016年1月に導入された政策で、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部にマイナス金利を適用していました。
その後、2024年7月に政策金利を0.25%へ引き上げ、2025年1月には0.5%へ追加利上げを実施しました。これは約17年ぶりの利上げ局面であり、長期間にわたる低金利環境からの転換点となっています。
2025年中にさらに1-2回の追加利上げが実施され、年末には政策金利が1%に達する可能性も指摘されています(モゲチェック 2025年3月アップデート)。
住宅ローン利用者の76.9%が変動金利を選択している現状
住宅金融支援機構の調査(2024年4月)によると、住宅ローン利用者の76.9%が変動金利を選択しています。これは2023年10月の74.5%から増加傾向が続いており、市場の主流となっています。
変動金利が選ばれる理由は、固定金利と比較して金利が低いためです。しかし、金利上昇リスクがあるため、利上げ局面では慎重な検討が必要です。
日銀の金融政策と住宅ローン金利の基礎知識
政策金利と短期プライムレートの関係
政策金利とは、日本銀行が金融政策の手段として誘導目標とする短期金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)です。日銀が政策金利を引き上げると、金融市場全体の金利水準が上昇します。
短期プライムレートは、銀行が優良企業に短期(1年未満)で貸し出す際の最優遇金利で、変動金利住宅ローンの基準金利の参考指標となります。政策金利が上昇すると、短期プライムレートも通常は上昇します。
マイナス金利政策の解除と利上げのメカニズム
2024年3月のマイナス金利政策解除により、金融機関が日銀に預ける当座預金にマイナス金利が適用されなくなりました。これにより、金融機関は資金調達コストが上昇し、住宅ローン金利にも影響が及びます。
日銀の利上げは、金融機関の資金調達コストを引き上げ、結果として住宅ローン金利の上昇につながります。
変動金利に影響する金利指標
変動金利型住宅ローンは、短期プライムレートに連動しています。2024年9月、三菱UFJ銀行が短期プライムレートを1.475%から1.625%へ引き上げました(約17年ぶりの引き上げ)。
変動金利の新規借入金利(優遇後)は、2025年1月の追加利上げにより0.35%から0.6%へ上昇する見込みです(0.25ポイント増)。
変動金利と固定金利の違いと選択のポイント
変動金利のメリットとリスク
変動金利のメリットは、固定金利と比較して金利が低いことです。低金利環境では、返済額を抑えられます。
一方で、リスクは金利上昇時に返済額が増加することです。利上げ局面では、返済計画に影響が出る可能性があります。
固定金利期間選択型と全期間固定金利の特徴
固定金利には、「固定金利期間選択型」と「全期間固定金利」の2種類があります。
- 固定金利期間選択型: 当初一定期間(3年・5年・10年等)を固定金利とし、期間終了後に変動金利または再度固定金利を選択できるタイプ
- 全期間固定金利: 借入時から完済まで金利が変わらないタイプ(フラット35が代表例)
全期間固定金利は、金利上昇リスクを回避できる一方、当初の金利が変動金利より高めに設定されています。
5年ルールと125%ルールの仕組み
変動金利型住宅ローンには「5年ルール」と「125%ルール」があります。
- 5年ルール: 金利が変動しても5年間は毎月の返済額を変更しないルール(多くの金融機関で採用)
- 125%ルール: 5年ごとの返済額見直し時に、新返済額が従来の125%を超えないようにするルール(急激な返済額増加を抑制)
これらのルールにより、返済額の急激な増加を一定程度抑制できます。
ただし、ネット銀行等では5年ルール・125%ルールが適用されない場合もあるため、契約前に確認が必要です。
未払い利息のリスク
5年ルール適用時、金利上昇で利息が増えても返済額が据え置かれるため、返済額で利息を払いきれず元本返済に充てられない利息(未払い利息)が発生するリスクがあります。
未払い利息が発生すると、元本返済が進まず、将来的に返済額が大幅に増加する可能性があります。
利上げによる返済額への影響と試算例
2025年1月の追加利上げによる金利上昇幅
2025年1月の追加利上げにより、変動金利の新規借入金利(優遇後)は0.35%から0.6%へ上昇する見込みです(0.25ポイント増)。
これは、既存の住宅ローン利用者にも影響し、返済額の増加につながります。
借入額別の返済額増加シミュレーション
日本経済新聞の試算によると、4,500万円を35年ローンで約1年前に借りた場合、2回の利上げ(2024年7月と2025年1月)で月約8,000円の返済額増加となります。
以下は、借入額・金利上昇幅別の返済額増加シミュレーションです(概算)。
| 借入額 | 残期間 | 金利上昇幅 | 月間返済額増加 | 年間返済額増加 |
|---|---|---|---|---|
| 3,000万円 | 25年 | 0.5% | 約6,700円 | 約80,400円 |
| 4,000万円 | 30年 | 0.5% | 約8,500円 | 約102,000円 |
| 4,500万円 | 35年 | 0.5% | 約8,000円 | 約96,000円 |
(試算条件: 元利均等返済、5年ルール適用なし)
※ 個別の借入条件により異なるため、金融機関やファイナンシャルプランナーへの相談を推奨します。
世帯属性別の家計への影響額
みずほリサーチ&テクノロジーズの試算(2025年1月)によると、利上げによる家計への影響は世帯属性により異なります。
- 29歳以下の世帯: 住宅ローン残債が大きく、年間約4.3万円のマイナス影響
- 30代の世帯: 年間約3.8万円のマイナス影響
若年層ほど住宅ローン残債が大きいため、利上げによる家計負担が大きくなります。
利上げ局面での住宅ローン対策
変動金利から固定金利への借り換え判断基準
変動金利から固定金利への借り換えを検討する際は、以下の基準で判断しましょう。
- 現在の金利水準: 変動金利と固定金利の金利差はどれくらいか
- 残債額: 借り換えにより得られるメリットが手数料を上回るか
- 残期間: 残期間が長いほど、固定金利のメリットが大きい
- 今後の金利見通し: さらなる利上げが見込まれるか
- 手数料: 借り換えにかかる事務手数料・保証料等のコスト
これらを総合的に判断し、ファイナンシャルプランナー等の専門家への相談を推奨します。
借り換えの手数料とコスト試算
借り換えには、以下の手数料・コストが発生します。
- 事務手数料: 借入額の2.2%(税込)程度が一般的
- 保証料: 金融機関により異なる(不要の場合もあり)
- 登記費用: 抵当権設定・抹消の登記費用(10-20万円程度)
- 印紙税: 金銭消費貸借契約書の印紙代(2万円程度)
例えば、3,000万円の借り換えでは、事務手数料だけで約66万円が必要です。これらのコストと、金利差によるメリットを比較検討しましょう。
繰上返済による利息軽減効果
繰上返済は、元本を早期に減らすことで将来の利息負担を軽減できます。利上げ局面では、繰上返済により金利上昇リスクを抑えることができます。
繰上返済には、「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。
- 期間短縮型: 返済期間を短縮し、総利息額を大幅に削減
- 返済額軽減型: 毎月の返済額を減らし、家計負担を軽減
手元資金に余裕がある場合は、繰上返済の活用を検討しましょう。
今後の金利動向の見通しと対応方針
2025年中にさらに1-2回の追加利上げが実施され、年末には政策金利が1%に達する可能性が指摘されています。ただし、金利動向は経済情勢・日銀の金融政策により変動するため、将来の予測は不確実です。
対応方針としては、以下のアクションが推奨されます。
- 定期的な金利動向のチェック: 日銀の金融政策決定会合の結果を確認
- 返済シミュレーションの実施: 金利上昇時の返済額を試算し、家計への影響を把握
- 専門家への相談: ファイナンシャルプランナー等に相談し、最適な対策を検討
まとめ:状況別の対応策と今後の行動
日銀の利上げにより、住宅ローン金利(特に変動金利)は上昇傾向にあります。2024年3月のマイナス金利政策解除以降、2025年1月には政策金利が0.5%へ引き上げられ、約17年ぶりの利上げ局面となっています。
住宅ローン利用者の76.9%が変動金利を選択しており、利上げの影響が広範囲に及びます。4,500万円を35年ローンで借りた場合、2回の利上げで月約8,000円の返済額増加となります。
状況別の対応策は以下の通りです。
変動金利で借りている方
- 返済シミュレーションを実施し、金利上昇時の家計への影響を把握
- 固定金利への借り換えは、手数料と金利差を比較検討
- 繰上返済により金利上昇リスクを抑える
- ファイナンシャルプランナー等への相談を推奨
これから住宅ローンを借りる方
- 変動金利と固定金利のメリット・デメリットを理解
- 今後の金利動向の見通しを確認
- 将来的な金利上昇を想定した返済計画を立てる
- 5年ルール・125%ルールが適用される金融機関か確認
固定金利で借りている方
- 金利上昇の影響を受けないため、安心して返済継続
- ただし、当初の金利が変動金利より高めのため、総返済額は多くなる可能性がある
住宅ローンは長期的な契約であり、金利動向により家計への影響が大きく変わります。信頼できる金融機関やファイナンシャルプランナーに相談しながら、自分の状況に合った対策を講じましょう。
執筆時点(2025年)の情報であるため、最新情報は金融機関や日本銀行の公式サイトで確認することをお勧めします。
