日銀の利上げで住宅ローンはどう変わる?影響と対策を解説
日銀が2024年3月にマイナス金利を解除し、2024年7月と2025年1月に追加利上げを実施したことで、住宅ローン借入者の多くが「自分の返済額はどれくらい上がるのか」「変動金利から固定金利に借り換えるべきか」と不安を感じています。
この記事では、日銀の政策金利引き上げが住宅ローンに与える影響、変動金利と固定金利それぞれへの波及メカニズム、具体的な返済額増加のシミュレーション、借入者がとるべき対策を、日本銀行・住宅金融支援機構・金融機関の公式情報を元に解説します。
これから借りる方にとっても、変動金利と固定金利のどちらを選ぶべきか判断する材料になります。
この記事のポイント
- 日銀は2024年3月にマイナス金利解除、2024年7月・2025年1月に追加利上げで政策金利は0.5%に到達
- 変動金利は短期金利、固定金利は長期金利の影響を受けるため、固定金利が先に上昇し変動金利が後から追いかける傾向
- 変動金利には5年ルール・125%ルールがあり、急激な返済額増加から保護される
- 借り換えを検討する目安は、金利差1%以上、残高1,000万円以上、残り返済期間10年以上
日銀の政策金利引き上げとは
2024年3月のマイナス金利解除
日本銀行は、2016年から実施していたマイナス金利政策を2024年3月に解除しました(日本銀行)。マイナス金利政策とは、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部にマイナス金利を適用し、金融機関に融資を促す政策です。
この解除により、政策金利は-0.1%から0%〜0.1%の範囲へ引き上げられました。
2024年7月・2025年1月の追加利上げ
日銀は2024年7月と2025年1月にも追加利上げを実施し、政策金利は0.5%に到達しました(日本経済新聞)。これは2008年以来17年ぶりの水準です。
利上げの背景には、物価上昇(インフレ)の持続と、経済の正常化が挙げられます。
政策金利0.5%への引き上げと今後の見通し
日銀の中立金利(景気を刺激も抑制もしない中立的な水準の金利)は1〜2.5%との試算があり、今後さらなる利上げが続く可能性があります(SBI新生銀行)。
2025年12月または2026年1月に追加利上げの可能性が高まっており、変動金利の住宅ローンを借りている方は引き続き注意が必要です。
政策金利と住宅ローン金利の関係
政策金利が住宅ローン金利に波及する仕組み
政策金利の引き上げは、以下のプロセスで住宅ローン金利に波及します。
- 日銀が政策金利を引き上げ
- 金融機関の調達コストが上昇
- 金融機関が住宅ローン金利を引き上げ
- 借入者の返済額が増加
ただし、変動金利と固定金利では影響を受けるタイミングと経路が異なります。
短期金利と長期金利の違い
- 短期金利: 1年未満の金利。政策金利の影響を直接受ける
- 長期金利: 10年以上の金利。国債市場の需給や経済見通しの影響を受ける
変動金利は短期金利、固定金利は長期金利の影響を受けるため、両者の動きは異なります。
変動金利と固定金利それぞれの連動メカニズム
| 項目 | 変動金利 | 固定金利 |
|---|---|---|
| 連動する金利 | 短期プライムレート | 長期金利(10年国債利回り等) |
| 見直し頻度 | 半年ごと | 借入時に固定 |
| 政策金利の影響 | 直接的 | 間接的(市場予測を通じて) |
| 影響タイミング | 後から追いかける | 先行して上昇 |
固定金利は長期金利の影響を受けるため、市場が将来の利上げを織り込むことで、変動金利より先に上昇する傾向があります(イオン銀行)。
変動金利・固定金利への影響の違い
固定金利は先行して上昇
固定金利は、長期金利(10年国債利回り等)に連動します。長期金利は、市場が将来の利上げを予測して先に動くため、固定金利は政策金利引き上げの「前」に上昇します。
実際、2024年3月のマイナス金利解除の前から、固定金利は上昇傾向にありました。
変動金利は後から追いかける傾向
変動金利は、短期プライムレート(金融機関が優良企業向けに短期で貸し出す際の最優遇金利)に連動します。短期プライムレートは政策金利の影響を直接受けるため、変動金利は政策金利引き上げの「後」に上昇します。
変動金利が固定金利に追いつくには、数回の利上げが必要とされています。
5年ルール・125%ルールによる保護
変動金利型住宅ローンには、急激な返済額増加から借入者を保護する仕組みがあります(日本経済新聞)。
- 5年ルール: 金利が変動しても、返済額は5年間変わらない
- 125%ルール: 返済額が見直される際も、前回の125%を上限とする
これにより、急激な返済額増加は避けられます。
未払い利息のリスク
5年ルール・125%ルールにより返済額が抑えられる一方で、金利上昇分が返済額に反映されないと、利息の一部が未払いとなります。
未払い利息は、次回の返済額見直し時や最終返済時に上乗せされるため、最終的な返済総額が増えるリスクがあります。
具体的な返済額への影響とシミュレーション
4,500万円35年返済の場合(月8,000円増)
日本経済新聞によると、4,500万円を35年返済で借りた場合、2024年3月・7月・2025年1月の3回の利上げにより、月8,000円程度の返済額増加が見込まれます。
| 項目 | 利上げ前 | 利上げ後 |
|---|---|---|
| 月返済額 | 約13万円 | 約13.8万円 |
| 増加額 | - | +8,000円 |
| 年間増加額 | - | +9.6万円 |
この試算は、変動金利が短期プライムレートに連動し、政策金利の上昇が反映された場合のものです。
3,000万円借入で金利1%上昇時の影響
三菱UFJ銀行によると、3,000万円を35年返済で借りた場合、金利が1%上昇すると以下の影響があります。
| 項目 | 金利1%上昇前 | 金利1%上昇後 |
|---|---|---|
| 月返済額 | 約8万円 | 約9.4万円 |
| 増加額 | - | +1.4万円 |
| 総返済額の増加 | - | +587万円 |
金利1%の上昇は、総返済額で約600万円の増加につながります。
世代別の影響(20代・30代・40代)
三菱UFJ銀行の調査によると、20代・30代・40代は貯蓄よりも負債が大きく、金利上昇の影響を受けやすい世代です。
特に30代は住宅ローン借入額が大きい傾向にあり、金利上昇の影響が最も大きくなります。
借入者がとるべき対策
固定金利への借り換えを検討する目安
変動金利から固定金利への借り換えを検討する目安は以下の通りです(三井住友銀行)。
- 金利差: 1%以上
- 残高: 1,000万円以上
- 残り返済期間: 10年以上
この3つの条件を満たす場合、借り換えによるメリットが大きくなる可能性があります。
ただし、借り換えには事務手数料(借入額の2.2%程度)、保証料、登記費用などの諸費用がかかるため、シミュレーションで損益を確認してください。
繰上返済による返済期間短縮
繰上返済により、元本を減らすことで利息負担を軽減できます。
- 期間短縮型: 返済期間を短縮(利息軽減効果が高い)
- 返済額軽減型: 月々の返済額を減らす(家計の負担軽減)
金利上昇が予想される環境では、期間短縮型の繰上返済が有効です。
ミックスローンでのリスク分散
ミックスローンとは、変動金利と固定金利を組み合わせた住宅ローンです(全国銀行協会)。
メリット:
- 変動金利のメリット(低金利)と固定金利のメリット(安心感)を両立
- リスク分散により、金利上昇時の影響を抑えられる
デメリット:
- 管理が複雑
- 2つのローン契約が必要
金利上昇リスクを抑えながら、低金利のメリットも享受したい方に適しています。
家計の見直しと返済計画の再検討
金利上昇に備え、家計の見直しを行うことも重要です。
- 固定費の削減: 通信費、保険料、サブスクリプションの見直し
- 返済計画の再検討: 月々の返済額増加に備えた家計シミュレーション
- 専門家への相談: ファイナンシャルプランナーや金融機関への相談
不安な場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
まとめ:状況別の選択肢と次のアクション
日銀の政策金利引き上げは、住宅ローンの返済額に直接影響します。変動金利は短期金利、固定金利は長期金利の影響を受けるため、固定金利が先に上昇し、変動金利が後から追いかける傾向があります。
変動金利型住宅ローンには5年ルール・125%ルールがあり、急激な返済額増加から保護されますが、未払い利息が発生するリスクもあります。4,500万円を35年返済で借りた場合、3回の利上げで月8,000円程度の返済額増加が見込まれます。
借り換えを検討する場合は、金利差1%以上、残高1,000万円以上、残り返済期間10年以上が目安です。ただし、諸費用がかかるため、シミュレーションで損益を確認してください。
金利上昇リスクを抑えるには、繰上返済、ミックスローン、家計の見直しなども有効です。不安な場合は、ファイナンシャルプランナーや金融機関に相談し、自分の状況に合った対策を検討しましょう。
