アパート経営における固定資産税の重要性
アパート経営を始める際、「固定資産税はどれくらいかかるのか」「軽減措置は使えるのか」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。
この記事では、アパート経営における固定資産税の計算方法、軽減措置(小規模住宅用地の特例、新築住宅の減額制度)、経費計上の方法、節税対策を解説します。
初めてアパート経営を検討する方でも、固定資産税の負担額を正確に把握し、収支計画を立てられるようになります。
この記事のポイント
- 固定資産税は「課税標準額×税率(1.4%)」で計算され、都市計画税(0.3%)も加わる場合がある
- 小規模住宅用地の特例により、200㎡×住戸数の土地面積まで固定資産税が1/6、都市計画税が1/3に軽減される
- 新築アパート(床面積40㎡以上280㎡以下)は、120㎡までの部分の税額が3年間1/2に軽減(耐火構造なら5年間)
- 賃貸用アパートの固定資産税は不動産所得の必要経費として計上でき、確定申告時に控除可能
- 2023年12月の空き家対策特別措置法改正により、管理不全空き家は軽減措置の対象外となり、税額が最大6倍になる可能性がある
固定資産税の基礎知識と計算方法
アパート経営における固定資産税を理解するには、基本的な仕組みと計算方法を知っておくことが重要です。
(1) 固定資産税と都市計画税の違い
固定資産税と都市計画税は、不動産所有者に課される地方税です。
| 項目 | 固定資産税 | 都市計画税 |
|---|---|---|
| 課税対象 | 全ての土地・建物 | 市街化区域内の土地・建物 |
| 標準税率 | 1.4% | 上限0.3% |
| 納税時期 | 年4回(4月、7月、12月、2月) | 固定資産税と同時 |
| 課税主体 | 市区町村 | 市区町村 |
(参考: 総務省「固定資産税制度」、2025年時点)
計算式:
固定資産税 = 課税標準額 × 1.4%
都市計画税 = 課税標準額 × 0.3%(市街化区域内のみ)
課税のタイミング:
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課税されます。年の途中で売却しても、当該年度分は全額負担する必要があります(売買契約で日割り精算するのが一般的)。
(2) 土地・建物の評価額の算出方法
固定資産税は、市区町村が決定する「固定資産税評価額」をもとに計算されます。
土地の評価額:
地価公示価格の約70%が目安
- 例:地価公示価格1億円の土地 → 固定資産税評価額約7,000万円
建物の評価額:
新築時の工事金額の50-60%が目安
- 例:工事金額1億円の新築アパート → 固定資産税評価額約5,000-6,000万円
評価替え:
固定資産税評価額は3年ごとに見直されます(次回は2027年度)。土地の価格上昇により税額が増加する可能性があります。
具体例(10戸のアパート):
- 土地面積: 1,000㎡
- 地価公示価格: 20万円/㎡(合計2億円)
- 土地評価額: 20万円/㎡ × 70% = 14万円/㎡(合計1億4,000万円)
- 建物工事金額: 1億円
- 建物評価額: 1億円 × 55% = 5,500万円
軽減措置と特例制度の活用
アパート経営では、小規模住宅用地の特例と新築住宅の減額制度により、固定資産税を大幅に軽減できます。
(1) 小規模住宅用地の特例(200㎡×住戸数)
小規模住宅用地の特例は、住宅用地の固定資産税を軽減する制度です。
適用条件:
- 住宅用地(賃貸アパート含む)
- 200㎡以下の部分(アパートの場合は200㎡×住戸数)
軽減率:
- 固定資産税: 1/6
- 都市計画税: 1/3
200㎡を超える部分(一般住宅用地):
- 固定資産税: 1/3
- 都市計画税: 2/3
(参考: 地方税法、2025年時点)
具体例(10戸のアパート、土地面積1,000㎡):
- 小規模住宅用地: 200㎡ × 10戸 = 2,000㎡
- 実際の土地面積(1,000㎡)は全て小規模住宅用地として扱われる
- 土地評価額1億4,000万円 → 課税標準額1億4,000万円 × 1/6 = 約2,333万円
- 固定資産税: 2,333万円 × 1.4% = 約32.7万円
軽減措置なしの場合:
1億4,000万円 × 1.4% = 196万円
差額: 約163万円の軽減
注意点:
空き家対策特別措置法(2023年12月改正)により、管理不全空き家と認定されると、この特例が適用されなくなります。空室が多い場合や建物が老朽化している場合は注意が必要です。
(2) 新築住宅の減額制度(3年間・5年間)
新築アパートの建物部分は、一定期間、固定資産税が1/2に軽減されます。
適用条件:
- 床面積40㎡以上280㎡以下(1戸あたり)
- 120㎡までの部分が対象
軽減期間:
- 木造・軽量鉄骨造: 3年間
- 耐火構造(RC造、重量鉄骨造): 5年間
軽減率:
固定資産税の1/2
(参考: 地方税法、2025年時点)
具体例(RC造10戸のアパート、建物評価額5,500万円):
- 通常の固定資産税: 5,500万円 × 1.4% = 77万円
- 軽減後の固定資産税: 77万円 × 1/2 = 38.5万円(5年間)
- 5年間の軽減額: 77万円 − 38.5万円 = 38.5万円/年
注意点:
- 120㎡を超える部分は軽減対象外
- 土地の固定資産税は軽減されません(小規模住宅用地の特例は別途適用)
固定資産税の経費計上と確定申告
アパート経営における固定資産税は、不動産所得の必要経費として計上できます。
(1) 不動産所得の必要経費としての処理
賃貸用アパートの固定資産税は、全額が必要経費として認められます。
経費として計上できる税金:
- 固定資産税
- 都市計画税
- 不動産取得税(取得年度のみ)
経費として計上できない税金:
- 所得税
- 住民税
- 延滞税・加算税(納付遅延のペナルティ)
(参考: 国税庁「不動産所得の必要経費」、2025年時点)
具体例(年間家賃収入800万円、固定資産税70万円):
- 家賃収入: 800万円
- 必要経費合計: 500万円(固定資産税70万円、減価償却費200万円、修繕費100万円、その他130万円)
- 不動産所得: 800万円 − 500万円 = 300万円
- 固定資産税70万円を経費計上することで、課税所得が70万円減少
(2) 確定申告時の注意点
固定資産税を経費計上する際の注意点です。
計上時期:
- 納税通知書が届いた年度に計上(発生主義)
- または実際に納付した年度に計上(現金主義)
自宅兼用の場合:
自宅とアパートを同じ敷地内に持つ場合、固定資産税は按分して計上します。
- 例:土地面積500㎡(自宅200㎡、アパート300㎡)
- アパート部分の割合: 300㎡ ÷ 500㎡ = 60%
- 固定資産税60万円 × 60% = 36万円を経費計上
課税明細書の保管:
固定資産税の課税明細書は、税務署から求められた際に提出できるよう保管しておきましょう。
節税対策と注意点
アパート経営における固定資産税の節税対策と、注意すべきポイントを解説します。
(1) 空き家対策特別措置法と軽減措置の関係
2023年12月の空き家対策特別措置法改正により、管理不全空き家は小規模住宅用地の特例が適用されなくなりました。
管理不全空き家の定義:
- 外壁や屋根の著しい劣化
- 雑草や樹木の繁茂
- ゴミの放置
- 防災・防犯上の問題
(参考: 空き家対策特別措置法、2023年12月改正)
影響:
管理不全空き家と認定されると、土地の固定資産税が最大6倍になります。
- 例:通常32.7万円(小規模住宅用地の特例適用)
- 特例適用外: 196万円(約6倍)
対策:
- 定期的な清掃・点検
- 空室対策(入居者募集、リフォーム)
- 老朽化した建物の修繕・建て替え
(2) 評価替え(3年ごと)への対応
固定資産税評価額は3年ごとに見直されます(評価替え)。
評価替えのタイミング:
- 2024年度、2027年度、2030年度…
土地の評価額上昇への対応:
- 地価が上昇すると、固定資産税も増加
- 収支計画に余裕を持たせる(固定資産税の増加を見込む)
建物の評価額減少:
建物は経年劣化により評価額が下がるため、固定資産税も減少します。
- 新築時: 評価額5,500万円 → 固定資産税77万円
- 10年後: 評価額約4,400万円 → 固定資産税約62万円
- 20年後: 評価額約3,300万円 → 固定資産税約46万円
節税対策の注意点:
過度な租税回避行為(不正な評価減、虚偽申告等)は違法です。合法的な範囲内で、専門家(税理士、不動産鑑定士等)に相談しながら対策を進めましょう。
まとめ:アパート経営の固定資産税を正しく理解するポイント
アパート経営の固定資産税は「課税標準額×税率(1.4%)」で計算され、都市計画税(0.3%)も加わる場合があります。土地の評価額は地価公示価格の約70%、建物は新築時の工事金額の50-60%が目安です。
小規模住宅用地の特例により、200㎡×住戸数の土地面積まで固定資産税が1/6に軽減され、新築アパートは3年間(耐火構造なら5年間)、建物の固定資産税が1/2に軽減されます。
賃貸用アパートの固定資産税は不動産所得の必要経費として計上でき、確定申告時に控除可能です。空き家対策特別措置法により、管理不全空き家は軽減措置の対象外となるため、定期的な管理が重要です。
具体的な税額計算や節税対策については、税理士等の専門家に相談し、最新の税制を確認しながら進めることを推奨します。
